直流1500V電化は古くから水銀整流器で進められており、封じ切構造としてはガラス封止が長らく存在していたのに、大型水銀整流器が真空ポンプ付で運転していたことをもって「完成の域には達していなかった」とまるで試作品扱いするのは言いすぎだ。その基準だと機関士とは別に投炭係を乗車させその投炭技術で出力が違う蒸気機関車など総て試作実験セットになってしまう。
水銀整流器の電気機関車搭載に当たってその専任操作者が不要で操作にあまり熟練を要しない封止切構造が求められて単極水銀整流器であるイグナイトロンとエキサイトロンを基礎に車載用水銀整流器（封じ切り軽量構造のイグナイトロン＆エキサイトロン）として開発したものである。
当時の水銀整流器は回転型真空ポンプと拡散ポンプで排気して高真空を作って整流器として動作させるものが主だから、維持管理が大変で逆弧も起こりやすく、メンテ要員を常時配置できる変電所では使っていたが、車載用とするには軽量で単極封止切り型水銀整流器の開発が必要だった。イグナイトロンとエキサイトロンである。
拡散ポンプというのは高真空を作るための補助ポンプで、先ず回転型の真空ポンプで引いてその能力一杯の真空にしてから、水と液体窒素で冷却した拡散ポンプを起動して、油や水銀の高温(＝高速)蒸気ジェットで残る空気を引き出す構造であり、鉄道用では液体窒素までは使わずに済んだ様だが、運転には温度管理など手間と準備時間が必要だったから、そのまま車載するのは無理だった。私の体験でも拡散ポンプを使ったチャンバーで真空蒸着実験をするのに最低半日から１日仕事になり徹夜仕事になったものだ。蒸気機関車の立ち上げに似た準備作業を必要とするものを車両用には使いがたい。(07/04/27)
