鉄道DATA FILE 補正memo  #27

  「間違い探しでそこそこ売れる」と揶揄される「鉄道データファイル」誌であるが、日記#149#151#153と補正を続けても、次々と解説エラーやライターの作文が現れて訂正が分散されていく。個々の標題としては適切なものを選択していながら、こと電気絡みの構造解説については不正確で無根の推測を並べたりして訳が分からない記事になってしまう。その分野の執筆者とその原稿チェック体制に問題があるようだ。
 今回も通巻#165号の「試作交流・交直流電気機関車:ED45型」で、従前のエラーに加え更に水銀整流器の解説で訳の分からない記述を並べている。これでは今後もエラー解説が続くことは予想されるので、追加の鉄道データファイル(TDF)誌解説エラー集を独立頁とする。エラー解説リストは#149末参照。(各車の製造番号配属の推移も多数の誤記が在るらしいが、そちらは当方の興味の対象外のため、専任訂正ページに譲る)

鉄道DATA FILE誌関連補足記事    <TDF_INDEX>

標題号数web記事 & Link
  • MT54A/711系の走行特性比較
  • #15-7〜1106/09/16FIG/300mtr/mt54e.htm
  • TDF北陸トンネル火災惨事補足
  • #113(日記114)特急日本海炎上事故
  • TDF泥水加圧シールド工法補足
  • #128(日記130)シールド+加圧、+泥水
  • TDFデジタルATC解説補足
  • #134(日記136)
  • 新幹線国鉄型ATC
  • 05/03/30/FIG/atsatc.htm#JNR-ATC
  • ATC周波数割当一覧
  • 04/01/12/FIG/320c/atc1d.htm
  • 車内警報装置、ATS、ATC概説
  • 01/11/06/FIG/atsatc.htm
  • ATS、ATC記事リスト
  • /FIG/30atsatc/atslist.htm
  • 試作型交流、交直流機関車
  • #148(日記149)交流機関車構造
  • AC−VVVF変換方式
  • #49IV−DC−3ΦCV構造
  • 商用電源周波数対応
  • #45-5,#58-550/60Hz共用設計は
  • 磁気増幅器の構造と動作
  • #259 (日記211) 「バーニア制御」は直流機
  • TDF「交流車両の制御方式」補足
  • #158(日記151)
  • TDF「高圧タップ方式」誤報の真相
  • (日記153)2変圧器一体構造
  • 高圧タップ方式単巻変圧器容量
  • (日記158)基本解析計算
  • ロータリー除雪車所要馬力試算
  • #16007/03/21/FIG/901rot/rotarypw.htm
  • 試作型交流機関車ED42開発
  • #165 当ページ 車載水銀整流器開発
  • 高粘着力発揮の理由
  • #165 連続位相制御&電圧制御
  • 電鉄での電蝕
  • #172 他分野の電蝕解説
  • 鶴見事故の真の原因
  • #172 原因曖昧化加担No!
  • 2軸vsボギー走行特性
  • #172 貨物ボギーに軸バネ無し
  • 変周式地上子誤解説
  • #173 分類変更時期を取り違え
  • クランクピン差角度は90度
  • #200 45度は勘違い
  • 千葉&栄町解説の間違い
  • #226 動力近代化モデル地区
  • TDF解説補足修正集積サイト http://www.geocities.jp/datafile_matome/plusalpha.html

  • <TDF165>

    ED45型 国鉄交流機関車の礎となった整流器式試作機 165-3 (参照:整流回路)

    高圧タップ式構造 
       (参照:日記#151/#153既出)  <TDF165_1>

    ×「独創的だったのは,制御方式に変圧器の高圧タップ切換えを採り入れたことである。………大出力機関車の制御には適しているとの判断から採用された。」(#165p6C1L1)。「1次側でタップ切替を行った方がよりきめ細かいなめらかな電圧変化を得られる………」(#158-23C2L1〜)
    正しくは「降圧変圧器の前段に単巻き変圧器のタップ調整による電圧制御を設けたことで電圧切替器を1組で済ませた。すなわち実質2トランス方式を採用したが単巻変圧器のため主変圧器の1/4の重量増に抑えた。水銀整流器のセンタータップ式整流方式で低圧タップ切替を行う場合には切替器が2組必要。」
     更に両トランスの帰線磁路を共通にした一体構造トランスを採用し、その約2/3である1/6前後の重量増に抑えて小型軽量化を図ったことが特徴。この構造から高圧1次側タップを切り換えているという誤解を生じた模様。

     同書の記述を辿っても、数値的には曖昧だが「三菱電機と新三菱重工は、密接な協力体制を取り、鉄道車両用の水銀整流器開発に取り組んだが、最初の設計では重量、寸法ともに規定の倍近い数値になってしまったという。整流器本体の設計を何度もやり直すとともに、ほかの機器や装備、車体などの全面的な軽量化設計を行い、ようやく機関車重量を規定の60t以内に収めることができた」(#165p4C2L6)として、車載用水銀整流器を開発するのに苦心したことが述べられている。この機器軽量化の試みの一つが高圧タップ式での電圧調整用単巻変圧器と降圧変圧器の帰線磁路を共通にした一体構造を採用したものだろう。

    (励弧極は表記省略)

     高圧タップ式採用のメリットは、水銀整流器の定番であるセンタータップ式回路で低圧タップ切替方式を採用すると電圧切替機構が2組必要になるが、これを前置の単巻変圧器に委ねれば1組で済むこと。逆に見れば切替段数を増やせるということだ。ブリッジ回路を採用できるシリコンダイオードでは低圧の電圧切替も1組で済み独立の電圧調整トランスは無用だから大電力用シリコンダイオードが出回って電気機関車に水銀整流器を使わなくなって3機種目からは高圧タップ式は使われなくなった。
    水銀整流器による整流回路

    (共通陰極が特徴)
    (高圧タップ式を採用した機関車は水銀整流器搭載シリコン換装機関車試作ED45 21と量産型ではED71〜73、と直後のED74、EF70まで。ED74、EF70は最初からシリコン整流器搭載だが、それ以降製作のED75〜79、EF71は低圧タップ式と低圧位相制御式のみである。see→交流電気車の構造分類表<TBL1>

     すなわち、陰極温度の管理など微妙な調整をする陰極電位点を少なくするために、ブリッジ整流ではなくセンタータップ式を採用。これは右図[相間リアクトル付き三相2重星形結線]に示すよう水銀整流器では定番の回路方式である。
     2トランス式(=高圧タップ切替式)採用の主たる理由が整流回路絡みなら、今さら時間を戻す訳にはいかないが、第1段の出力電圧を特別高圧ではなく切替し易い電圧まで思い切り下げた設計にすれば安定したのではないだろうか。単巻変圧器の最大効率である1/2〜1の範囲を敢えて離れて、20kV入力に対し、モータ電圧を国鉄電気機関車で標準的な750Vdc:834Vac(=750/(2/π)/√2)とすると、中間電圧を相乗平均の4,000V程度以下に採って調整すれば安定したのではないだろうか。但しトランスの重量増は最大2/3近くに及び高圧タップのメリットを減殺し、4動軸=ED型で収まったかどうか。高圧タップ式というのはセンタータップ式整流回路=水銀整流器利用と一体の構造であろう。シリコン切替後2機種(EF70、ED74)を高圧タップ式で出した(=万一には水銀整流器換装も容易)が、シリコン安定性が確認されて打ち止めとなりED75以降は総て低圧制御式に切り換えられた。

    直流電動機駆動交流電気車の構造分類
    「制御方式入門2」表10.1  <TBL1>
    重野誉敬,長谷芳隆,竹井勝嘉共著QDAT刊参照
    制御方式主な形式・系列
    高圧制御
    ップ切替
    高圧タップのみ
    (Si.ダイオード)
    ED45 21,ED71〜ED73(整流器
    Si換装後) EF70、ED74,  
    +連続位相制御ED45 21,ED71〜ED73(水銀整流器式)
    低圧制御タップ切替のみED70、0系新幹線
    +連続位相制御 ED45-1,11,ED70(水銀整流器)
    ED75-0,300,700,1000
    ED76-0,1000 Si.D+磁気増幅器
    ED76-500,550,ED79サイリスタ

    接点
    非回生 ED75-500,ED77,ED76-500,711系
    100系新幹線,JR北海道721系-0
    +回生制動ED78,EF71,ED76-550
    713系,JR九州783系

    マグアンプ解説
      ×バーニア制御:中枢がマグアンプ→○差電圧の位相制御   <TDF259>

     #259号鉄道用語辞典「マグアンプ」の具体的解説がほとんど外している。
     マグアンプ方式でもそう命名したと云われるとお手上げだが本来バーニア制御というのは直流機関車の起動抵抗器のうち1段分を副抵抗器として細分して進段の衝撃を防ぎ最大限の粘着力を引き出すものだから、抵抗制御方式の直流用動力車両に変圧器と整流器を積んで交直両用とした構造には採用できても、交流専用機の制御構造ではない。
     マグアンプによる位相制御で(水銀整流器やサイリスタ同様の)細かな制御をしているが、その超多段制御を指して「マグアンプでバーニア制御を行う」という表現はあまりにもヲタ的な誤りだ。拡張新定義であればエキサイトロン、イグナイトロンなど水銀整流器での位相制御も含まないと一貫性を欠いてしまう。(現場で「微調整ハンドル」の意味で直流機関車に倣い「バーニアハンドル」と呼んだ可能性はあるが、元々の構造としては抵抗制御の工夫だ)
    参考→「制御方式入門2」(東京乗り物学会QDAT刊)p111C1図10.13〜14:動作解説とED75回路図
    可飽和リアクトル制御
    制御電流による磁気飽和で主コイルのインピーダンスを減少させ制御する  <MgAmp>
    磁気増幅器構造

    ED75磁気増幅器式
       タップ間連続制御  <ED75>

    ED75制御図
     参考→「制御方式入門2」p112C2図10.17:


     国鉄交流機関車でのサイリスタに拠る位相制御では、トランスの2次巻き線を4つ設けてサイリスタブリッジに接続し、1組ずつ流通角を増やしてフル流通になると次のブリッジの流通角を増やす制御にして、半導体素子の必要耐電圧を1/4にし、電力の力率改善を図り、超多段の連続的制御を実現している。
     磁気増幅器による低圧タップ式進段制御では、タップ間の差電圧を2つのマグアンプが負担し、制御電流(直流電流 or 位相差,トリガタイミング)でそれぞれの点弧タイミングを制御して高電圧側に進段させ、遮断された低圧側タップを交互に高位へ2段飛びで切換えて加速する。磁気増幅器の制御感度を良くするために「自己帰還型」接続を選択している。
     従ってタップ1段分が位相制御となっていて、後の4分割サイリスタ制御方式に似ている。
    (無帰還方式だと水銀整流器で用いられた制御巻線の直流電流で制御する「(過飽和)リアクトル制御」と呼ばれるものと基本的に変わらない。水銀整流器ではタップ制御、位相制御、タップ式直列リアクトル・可飽和リアクトル制御の3方式を用いていた)。

     今回の記事で「特に酷い!口から出任せ!」と思ったのは、高圧タップ方式批判だ。かってTDFは 「独創的だったのは,制御方式に変圧器の高圧タップ切換えを採り入れたことである。………より細かく制御するもので、大出力機関車の制御には適しているとの判断から採用された。(#165p6C1L1)」としていたのに、今度は真逆に「……『高圧タップ制御』であったためタップ切換時のショックが大きく、滑らかな連続的制御が難しいという難点があった」(#259p31c1L14)」とは!交流機関車の解説記事と真っ向から対立する「事典」を掲載するのなら、間違いの訂正解説は必須ではないか。間逆の解説を並立させては混乱してしまう。一般的特性とする根拠に乏しく両方削除だ。
    See→日記211[磁気増幅器、飛び杼]

        (この項 09/02/28 追記)

    高粘着力発揮の理由
            <TDF165_2>

    × 格子位相制御の特性により空転時に主電動機電圧が瞬時に×下がり自動的に再粘着するのが実質的な牽引力に直結(#165p5C4L−7)
     空転して電流が下がると抵抗制御では抵抗降下分電圧が上がり空転を助長するが、電圧制御では抵抗降下分の電圧上昇がないから再粘着し易い。
     特に直流車両が直並列制御で電動機6〜8基を直列にするとか、2〜4基を永久直列にする結線で、空転した電動機にさらに大きな電圧が掛かる構造なのに対し、交流整流式の多くは電動機並列接続方式を採用して整流電圧をそのまま加えており、空転電動機はトルクが減って再粘着を容易にするだけで端子電圧上昇がなく空転を助長しない。
     格子制御が空転しにくいのは段階加速ではなく連続だからで、直流電気機関車でも「バーニア制御」により実質粘着力を増している。VVVF制御も同様である。格子位相制御で空転時に電圧が下がることはない。アーク維持電流を割り込んで電流断になるのなら別だが、それは格子位相制御とは関係ない。

    弱界磁制御と抵抗制御の交流車両での評価は?

    ×公共事業体、○公共企業体

     国鉄が「公共事業体」というのを見付けて、若い執筆者が書いたんだろうなぁ、と思った。「3公社5現業」とか「公共企業体等労働委員会」というのは既に考古学の世界なのかもしれない。(#160p30コラムC3L8)。3公社5現業とは日本国有鉄道公社のほか、電信電話公社・専売公社・造幣・印刷・郵便・林野・アルコール専売をいった。GHQ(実質アメリカ占領軍)の指示で公務員労働者の争議権を禁止する権利侵害・憲法違反の公労法(公共企業体等労働法など)が作られ、現業部門も一律にその適用を受けている。

    2007/05/12 23:30

    電鉄の電蝕は     <denshoku>

     鉄道事典の解説なのに「電蝕」の解説がイオン化傾向の差による「電気化学的金属腐食」に付いての解説になっている。(#172p31C3〜)。電鉄で「電蝕」といえば「金属(多くの場合,鉄)の表面から周囲の環境(電解質)へ電流が流出するときに金属が腐食する現象をいう(電気鉄道ハンドブックp560C2L1コロナ社07/2刊)」。と定義している。レールの電蝕については「直流電化区間において,レールと大地の間に電車帰線電流が流れ,レールやレール締結装置が溶損することを電蝕という(同書p74C2中)」というのが鉄道での常識である。
     イオン化傾向の異なる金属同士が接触し両金属に水分(電解質)が接触して一種の電池を形成してイオン化傾向の大きい金属が無くなるまでの激しい腐食を起こし、それは電気化学的腐食と呼ばれるが、それを略して「電蝕」にはならない。
     ところがWebを検索すると「腐食」では妥当な解説内容だが、「電蝕」での検索はまるで逆で「電気化学的腐食」=「電蝕」が主流に逆転している。
     そうなってしまった経過は不詳だが、運転電流漏洩による腐食を指して「電蝕」と言ってきた鉄道業界で、異種材料接合による電気化学的腐食を「電蝕」と略しては混乱してしまうから鉄道業界では使えない略号だ。第一、「腐食」は金属類に起こる現象だが「腐蝕」は微生物によるものも含むものではないか。鉄道事典の記述としては「直流電化での電蝕」が抜けては不適切で落第!

    鶴見事故の扱い    <tsurumi>

     # 172号(#172p18C4L6〜41行)43.10ダイヤ改正(よんさんとう)の高速化準備作業解説で高速化を一時停滞させた鶴見事故(1963/11/09)について触れて、国鉄公式発表通り原因を一つに特定できない「競合脱線」であることを強調する形で述べている。実験線を使った大規模な実車脱線実験で貴重な基礎資料を得て様々な脱線対策を実施したが、当初は貨車の走行特性を改良するための2段リンク構造が先ず疑われたというのは非常に意外だ。それが鶴見事故後の貨車脱線防止の切り札として改造可能車全部を2段リンク化しているからだ。(おそらく原資料(列車速度調査委員会の審議概要)記事31回分科会に貨車改良案として鉄道技研から持ち込まれた2段リンク特性実験資料を引用者が脱線要因資料と誤解)
     また2段リンク化で逆に振動が増える車種が有ったというのは初耳ではあるが振動系だから個々のサスペション定数次第で当然のことではあり、設計製作時に適切な値に調整する性質のものだから欠陥とは違う。
       鶴見事故原因発表での問題は、そこに重要事項が述べられていないことで、
    1. ワラ1型量産採用に際し定められた試験を省略して軽荷重時の走行不安定を見逃した。
      試験を省略した理由はワム60000類似車両だからとその結果を援用。
    2. ワラ1の脱線箇所が曲線を出た(緩和曲線の捩れ部)位置
    3. 事故当事者主導による原因調査
    といった3項目がある。
     脱線位置は「曲線出口付近」と報じられてはいてもそれが捻れのある位置で脱線要因になることは当然触れてないし、国鉄時代の技術系上層部がワラ1型実地試験省略で軽荷重時の走行特性が不安定なままだった事実を著書で明らかにしたのは事故から38年余経ってからである。
     TDF誌はタダの鉄ヲタ書だから取材の不利益扱いを避けて国鉄JRの思惑を斟酌して自主規制は有り得るが、事故から43年余の今になっても公式発表の隠した部分を更に上塗りするような記載=2段リンク攻撃&「すぐには分からなかった」ことの強調は幾ら何でもチトやりすぎだ。事故写真のキャプションは特に酷く「ワラ1型の2段リンクが脱線の原因と疑われた鶴見事故。速度向上への貴重な教訓を残した」とは何事だ!本文ではわずか2行半に「………まず疑われたのはワラ1型の2段リンク装置だが、異常は認められない」として否定し、更に貨車の高速化改造として2段リンク化が進められ、改造できない6000両が廃車、1968(s43)年度までには貨車総数147,591両中都合22,529両を2段リンク化改造したことを述べ、43.10ダイヤ改正(よんさんとう)以降、更に路盤強化済み主要幹線から制限速度65km/hを2段リンク貨車列車について75km/hに向上させたと述べている。このTDF記事自体からも2段リンクが脱線原因の筈がないではないか。改善策として2段リンクの資料を持ち込んだことを、脱線原因確認と勘違いしたTDFライターの資料読み誤りではないだろうか。

     緩和曲線カント逓減部が重要な脱線要因であることは実は日比谷線中目黒事故直後に運輸省事故調査検討会が全国の鉄道事業者に「200R以下曲線出口カント逓減部へのガードレール設置」を緊急指示しており、監督庁と鉄道専門家が線路の捩れ部が脱線に影響することを熟知していたことを示している。(マスコミ報道はカント逓減の捻れのある緩和曲線部ではなく、曲線部全体へのガードレール設置通達と誤報して、鉄道事業者の多くもその誤報に従った)。鶴見事故が単純に「競合脱線」で脱線原因特定できずと信じ込んでいるのはマスコミ報道しか知らない一般国民だけだ。

     現在は航空・鉄道事故調査委員会が発足して当事者が主導で原因調査することはなくなったが、国交省傘下の組織であり監督庁としての監督責任が追及されることはない仕組みは変わっていない。
     公共交通機関の事故の刑事免責が日本では認められていないことと現場オペレータに対する見せしめ人身御供処罰繰り返しの問題があって、あれこれの作為を直には非難しがたいが、これらを事故原因としてオープンにしていれば、曲線のガードレール設置基準は中目黒事故以前に布告されていた可能性もあり、1968年頃多発した過速度脱線対策を国鉄任せにせず通達として出していれば尼崎だけでなく、西明石や姫川などの過速事故は避けられていた。共に大事故後に設置基準通達の出た管理項目だ。
     現在では事故報告をweb上で行っていて、誤出発防止装置などが全国展開されているが、肝心のATS-S型の基本欠陥である冒進速度制限(=私鉄ATS通達復活)については言及がないままだ。

     多数の有用なデータを得た大規模実車実験を、流れとしては「予見可能性不存在」の隠れ蓑にして、事故原因にオブラートを被せてきたのだが、時効を遙かに超えて1972年11月の北陸トンネル急行きたぐに火災惨事の33回忌からも更に2年半を過ぎ、1963年11月の鶴見事故からは43年を経た今、もっと率直に原因を明かした方が良いだろうと思う。あの北陸トンネルきたぐに惨事の3年前、1969年12月の特急日本海北陸トンネル火災事故では乗務員が「トンネル内停車は危険だ」と判断して停車せずに走り抜け、地元消防と協力して被害を出火車両全焼の物損に留めて、沈着妥当な判断をマスコミからも賞賛されているが、この殊勲の判断にまともな評価を与えず「運転規則違反」として処分を強行して、同じトンネル内で出火した急行きたぐにに無理矢理トンネル内停車を強いて死亡30人、負傷714人の大惨事にして、しかも無実の乗務員達を長期の刑事裁判に晒している。大規模な実車火災実験はこの事故に「予見可能性がなかった」というパフォーマンスになっているが、3年前にそれを正当に判断した乗務員たちの存在はどう説明するのだ。冷静な判断で最小被害に留めた特急日本海乗務員達には処分撤回だけではなく大々的な表彰が必要だろう。

     鶴見事故も、当初から事故当事者に依る調査の胡散臭さが指摘されて「競合脱線」(≒原因不明)に埋没させられない項目の存在が示唆されて、事故から5年後の'68年に脱線事故技術調査委員会を設置し狩勝峠実験線で実車脱線実験を重ねて改良策を講じ'75年以降は運行距離あたりの脱線件数を30〜40%以下に抑えてはいたが、事故から38年を経てようやく「新形式車両誕生の場合は、走行安定性などの…試験する。……ワム6000型と比べ軸距も車長も重量も近いワラ1型の走行試験をしていない………性能テストは実施すべきであったことが教訓として残された(日本の鉄道車両史久保田博著2001/3/21グランプリ出版刊p242)と、事故車ワラ1型の軽負荷時の走行特性が悪い事情を著名な国鉄の元技術関係幹部として明らかにした。脱線要因を並べればどの項目も影響はあり、主たる要因とか寄与率、発生条件を指摘せず「競合脱線」というのはやりすぎだ。事故報告に「曲線出口の緩和曲線のカント逓減による捩れ」はきちんと指摘してなかったし、「走行特性試験を省略して軽負荷時走行不安定を見逃していた」とは一般には全く知られてない新事実だろう。ワラ1型が非常にピッチングの大きい車両なのは日常走行状態を見ている職員や鉄道ファンは知っていたし、事故後の貨車改造にあたって軸距を拡げたという記事も当時あった(TMS誌)とされている。
    TDFの不適切解説★印(p18C3L9〜L22):

     2軸車はボギー台車を履く車両と比べると走行性能が著しく低い。速度が上がれば上がるほど蛇行動が発生しやすくなり、横方向振動(日本工業規格JISE4001の番号13082「軌道長手に対する横方向の振動」)が増加するからだ。
    ★ ボギー台車であれば軸ばね装置とまくらばね装置によって軌道から受ける振動と衝撃を吸収することができる。ところが、2軸車ではこれらのばね装置が担う役割を担いばねという重ね板ばねだけが果たす。振動と衝撃の吸収能力が劣るのはやむを得ないのである
     そんな訳で、国鉄JRの言いなりの記事どころか、それを更に膨らまして支持する様な無節操な提灯持ち記事は鉄ヲタ趣味誌とは云えやめにして貰いたい。脱線防止対策として全2軸車の2段リンク式化改造を行い、改造困難な車種は全部廃車にした事実を記しながら「2段リンク原因論」を書く方もおかしい。

     172号43.10ダイヤ改正の記事は、前述国鉄資料「列車速度調査委員会の審議概要」がソースの模様で基本的にはしっかりしているのだが、ボギー車と2軸車の走行特性の違いについてTDFライターが独自解説をした部分が案の定変だ。
     当時の貨物用ボギー台車TR41には「軸バネ」は存在しなかったし、その枕バネは2軸車と同じく重ね板バネであり、これが直ちに2軸車より走行特性が良い原因たり得ない。現に鶴見事故対策としてオイルダンパー付きコイルバネに交換されている。接地点からみた等価質量比較=軸距等支点の外側の質量の影響が車体の支点である台車間距離の長いボギー車よりも、それが短く重心高のモーメントまでが大きく影響する2軸車の方が大きいというのが基本だろう。2軸車であれば重心高が直に等価質量に効いて激しいピッチングで輪重抜けとなればカント逓減部(=曲線出口緩和曲線部)で脱線し易いのは当然だ。('07/09/17追記)
    2007/06/13 00:30

    共振型(変周式)地上子の分類    <resonance>

     いわゆる「変周式地上子」の分類整理を作文。#173号の「用語辞典」で「点制御方式」を取り上げて、変周式地上子とトランスポンダ型地上子の解説を試みているが、「多変周式」をATS-SN開発による分類、「多情報式」を私鉄ATSの多現示対応と逆順にして生じた矛盾を確認せず逆に作文で繋いで内容を酷くしまたも混乱をばらまくこととなっている。
     後半は私鉄ATS諸方式の解説で標題を超え、具体的構造に深くは立ち入らずにエラーを避けているが、それでも地上子写真のキャプションで「多情報式は……記憶し……」とやって、地上子構造と受信機構造を混同させている。点制御の多情報地上子でも点照査はあり
    私鉄ATS通達でも点照査を許容しているではないか。項目範囲を超えた解説で好い加減な作文をして解説全体の信用性を大きく落としている。

     まず、地上子方式が点制御である説明は基本的なものだが、これを膨らましたATS解説がまたも作文という訳だ。分類をすべき歴史的エポックは3点。当初C型車内警報装置として変周式地上子が採用されて、これに5秒タイマーを付けてATSとしトランシスタ化してATS-Sとなったものは停止現示共振周波数130kHzだが、待機非動作時はコイルを短絡して共振点を持たない構造にしており、これは私鉄ATSの多現示に対応した共振周波数を持つ方式との対比で「単変周」−「多変周」という区分けとなった。(この時点で「多情報」「単情報」という区分けはない)

     変周式地上子(=共振型地上子)自体はこの時からずっとLC共振回路であり、その情報検出方法として、発信回路の一部を構成する車上子コイルがL部と電磁結合して発振周波数がLC共振周波数まで引き上げられるのを「変周式」と呼び方式全体の呼称になったのだが、最近はJR西日本のATS-Sw2車上装置で「FFT型」あるいは「スペクトラム拡散方式」、「透過周波数分析方式」と呼ぶべき情報検出法が採用されたことに対応して分類命名法を改め、情報伝達を「共振型地上子方式←(変周型地上子方式)」、その検出方法として「変周式」と「FFT方式」に区分する必要を生じたのが3番目の分類変更要因だが、まだ区分呼称修正提起はない。

     東中野・北殿事故対応のATS-SN開発で、国鉄型ATSの使用周波数は警報130kHz、即時停止123kHzの2種類となり、更にJR東海が開発のATS-ST速照周波数108.5kHzを加えて3種類の周波数となったが、地上子自体ではそれぞれ1周波数なので「単変周」−「多変周」の分類は変える必要がなかった。これを「多変周」の起源とする解説は誤りである。
     ところがその地上子メンテを電気検測車マヤ検に拠る車上検測方式を採用することとなり、待機時にもATS動作に影響しない共振周波数を割り当てることとなり、小型の新型地上子は最初から、旧型は短絡端子にコンデンサーを挿入して待機時の共振周波数を103kHzとした。この改造により「単変周」という命名に不都合が生じて最近は信号伝達内容から「単情報」−「多情報」地上子と分類を改めるメーカー・執筆者が現れたものである。だから未だに「多変周式」という呼称が多数を占め、「多情報」と併記せざるを得ないのが実態だ。「共振式地上子」とか「FFT方式」などの表現は構造と動作を理解できる層にはストレートだが、全体に拡がるには今後10年単位が必要だろう。
    参照→[変周式ATSとは]

     以上の歴史的な開発経過を無視したTDF#173号「点制御」ライターの無根の作文は悪影響の範囲が広く迷惑だ。FFT方式が採用されなければ方式呼称は「変周式」のままで差し支えないが、同じ地上子を使ったFFT検出方式が現れたので厳密に「LC共振式」とせざるを得ないから解説には歴史的経過が重要になるのだ。
     (間違いのソース発見!鉄道総合技術研究所鉄道技術推進センター、鉄道電気技術協会共著「分かりやすい鉄道技術」2004/5刊第2分冊p31分類表、同第3分冊p53表、鉄道総研鉄道技術推進センター、日本鉄道車両機械技術協会、日本鉄道運転協会共著。権威ある鉄道総研名で、先発1967年私鉄ATS通達準拠の私鉄多変周方式の名を卓袱台返しで後発1989年開発のSN/Sxの名称として、多現示対応の私鉄多変周方式を「多情報方式」と呼ばせるというのは全くの国鉄中心記述で、私鉄ATS使用21年の実績を消すというかなりの無理がある。鉄道電気技術協会2001/7刊「ATS・ATC」p4Q&Aでも同じ記述なので大変不思議に思っていた。どうやら鉄電協が不合理記述のソースだった様だ。)

    2007/06/21 01:30

    雑エラー  <TDF_EX>

    【 蒸気機関クランク差は90度(=180度/気筒数)】
     # 200号の蒸気機関車構造解説で、左右のピン位置の差が「45度」は戴けないうっかりミスだ。死点回避に関する解説だが、内燃機関がピストンを押すだけの出力に対し蒸気機関は往復で力を出すが、これをクランクで結ぶと両端で死点となり動けなくなる。そこで両端180度の中間90度の位置にもう一方の蒸気機関をセットして死点が重ならない様にしている訳だが「45度」は勘違い。
     これは単なる勘違いで、他の解説記事のような意図的な作文としか言いようがないものとは違いやむを得ないエラーとして許容範囲ではあるが、TDF編集部にはダブルチェックはないのだろうか? 先出「公共事業体」も同質の思い込みによるうっかりミスではあるが、たとえエンターテイメント書としてもいい加減に過ぎる。

    2008/01/03 16:30
    千葉駅周辺史
    年月日 事  項
    1954 千葉気動車区開設,1975廃止
    国鉄動力車近代化計画で全国初
    58/02/01 本千葉駅移転(寒川→長州500m移転)
    58/02 京成千葉移転地上ホーム(現千葉中央、旧本千葉)
    59/ 京成改軌千葉線幕張−千葉間より開始3050配備
    62/ 101系8連20本新車投入、後に10連化103系化
    63/04 千葉駅移転#1〜8+#0通過線
    65/12/20 東千葉駅開業(旧千葉駅位置)
    66/12 京成に国鉄千葉駅前駅開業、旧千葉駅&路線撤去
    67/06 京成千葉(現千葉中央)高架化
    68/03 千葉-佐倉-成田電化
    69/7〜9 SLラストラン。館山、両国-勝浦、銚子
    72/07/15 東京-津田沼複々線快速線開通
    房総一周電化
    、183系特急さざなみ・わかしお新設
    名称変更:内房線←房総西線、外房線←房総東線、
    72/7/15
    〜75/3
    なぎさ、みさき、165系両国発着房総一周急行
    74/10 佐倉-銚子&成田線鹿島線電化
    183系特急しおさい、あやめ新設
    76/10/01 東京-品川開通
    80/10/01 横須賀線直通
    81/07 津田沼-千葉複々線化、千葉駅#9〜10番線完工
    82/11 急行全廃
    86/03/03 京葉線 西船橋-千葉貨物ターミナル開業、
    千葉みなと開業を経て蘇我接続
    88/12/01 京葉線 南船橋-新木場開業
    90/03/10 京葉線 新木場-東京(=蘇我まで全線)開業
    '91/ NEX新設、さざなみ・わかしお京葉線経由化
    '93/ 255系3編成投入(ビューさざなみ、ビューわかしお)
    94/12 E217快速線に投入
    97/12/18 (東京湾横断道アクアライン開業
    98/10 209-500緩行線に投入、後のE231と併せ国鉄形式一掃
    '04/ E257-500投入

    千葉駅周辺紹介のミス   <TDF_EX2>

      鉄ヲタ情報に間違いがあっても、実損を生ずることは希だが、その感覚で実生活の場を紹介してしまうと生活を掛けて頑張っている人たちの努力に水を掛けて時には激しい非難を浴びてしまう。

      第226号p226-22コラム「駅の歩み」の旧繁華街の栄町の紹介が、表通りの商店街と裏通りの飲屋街・風俗とを全く混同する紹介となってしまっている。旧千葉駅(現市民会館)から県庁を真っ直ぐ結ぶ通りの中央公園(旧京成千葉駅)までの栄町商店街通りがメインで、この通りから西側=現千葉駅側の裏側に回ると飲屋街、歓楽街だったのが千葉駅の移転で表通りの商店街が衰え、裏に風俗が進出したのだ。繁華街再興に必死の人たちを無視して「栄町は風俗街になった」は酷いだろう。旧駅近くの最も繁華だった一部店舗を風俗に押さえられてはいるが、当事者に気付かれれば死活問題だから強烈なクレームが行くかもしれない。無神経な混同でTDF初の訂正記事を出す羽目になりかねない。

      p226-20「千葉駅」紹介記事中の房総、総武の動力近代化の解説でも「近代化が遅れ気動車王国に」と中見出しを建て「おニューの千葉駅に集結するのは、その後もSLや雑多な形式を連結した気動車ばかり。房総各線の電化、近代化が他路線に比較し立ち後れていたからである」としている。
      しかし国鉄で言う「動力近代化」というのは戦後の極端な石炭不足をふまえてエネルギー効率の悪いSLを廃してのディーゼル化、電化を言うものだから、近代化の一環としてのディーゼル化モデル地域として真っ先にディーゼル化された房総半島地域に対して「近代化に遅れた」は間違いであべこべに「動力近代化の最先端地域」だった。エネルギー近代化先進地域だから却って電化は後回しになったのだ。モデル地域としての真っ先のディーゼル化に触れずに、「近代化に遅れた」というのは妥当じゃない。このモデルを経て日本中にディーゼル特急が走るようになったではないか。現在は西千葉駅西側の千葉大キャンパス前の総武線に沿った西千葉公園付近が当時新設の千葉気動車区だった。

      こっちのエラーは被害者が居ないヲタ項だからどうでも良いと言えばそれまでだが、それを言ってしまうとこのTDF訂正項のほとんどが意味を成さなくなる(w。

    2008/07/02 00:30

    mail to: adrs
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