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[151].「交流車両の制御方式」補足訂正
   鉄道データファイル誌補足2

  鉄道DATA FILE誌#158号に「交流車両の制御方式」(#158-23)として2ページ解説しているが、例によってTDFペースの作文集になっている。先の日記#149で「僅か6ページでこれだけの大きな作文、エラー箇所がある」と書いたが、この項目では「僅か2ページで4〜6項目」もの補足修正だ。項目選択としてはどれも鉄道ファンの興味を引く基本的に良い課題なのに、なぜその解説内容をいい加減なものにしてしまうのだろう?'07/03/06号にどこから述べたらよいか迷うほどエラーだらけで取り上げられるのが分かっていたらこの項目も先日'07/02/27付けの日記#149と一緒の記事にしたものを!
  とはいえ、鉄道趣味誌共通の広範に広まったエラーなどもあり、気付いた限り別項として補足しておきたい。

    (電圧調整用単巻変圧器と降圧変圧器の2変圧器を一体化した鉄道用特殊変圧器構造があり、そのため多くの鉄道趣味誌などが実際には単巻き変圧器2次側のタップ切替なのを、高圧1次側切替と誤認した疑いあり see→日記#153)
  1. 「高圧タップ式」は2トランス方式
     第2段(#158-23C2L1〜)の高圧タップ式の解説は標準的な鉄道ファン雑誌の解説だが、極めて重要な構造解説が抜けている。解説文には「1次側でタップ切替を行った方がよりきめ細かいなめらかな電圧変化を得られる………」とあるが、これは2重の間違いだ。

     解説文にある「1次側のタップ切替」というのは誤りで、主変圧器の前段に単巻変圧器を設置して、この負荷側タップを切り換えて供給電圧を変える2変圧器構成を「高圧タップ切替方式」という。

     同ページ左段の解説に基づき仮に出力段数を20段均等として1次巻線の巻数でこれを実現するには定格時の20倍も巻く必要があるがそれは物理構造上不可能だ。工高電気科の教科書「電気機械1」にはトランス章があり、最大効率条件とか、最大出力と必要な鉄量とか具体的な設計法を教えており、その知識があれば「1次側のタップ切替」で起動から最高速度まで制御するのは極めて困難なことは理解される。1次側のタップ切替が現実に行われたのは、大昔の電力事情が悪かった時代に、ラジオ受信や放送機用に1次側に85V〜115Vで2.5V〜5V間隔の調整スイッチを設けて100Vを得た電圧調整装置とか、モータ制御の変圧器式電圧安定器ぐらいのものだ。誤認されやすい外形構造というのは有り得るが、実際に1次側で制御できることはない。
     以下の資料はミニコミのうえ会話方式という特異な表現形式のため専ら外形判断のWiki中毒者にはなかなか受け入れられないだろうが、実際の構造は右上回路図にスケッチを示す「制御方式入門2」P110回路図10.11高圧タップ切替式(QDAT99/12/26発行E-mail:qdat@qdat.noborito.org)に示されている通りである。同書に見かけの権威はないが、その記述内容全体は一般の鉄道趣味誌とは段違いに実にしっかりしている。鉄道用語事典よりこちらの記述の方が正しい。
    水銀整流器による整流回路

    (共通陰極が特徴)

    (励弧極は表記省略)

     高圧タップ式が別途電圧調整トランスが必要でここに特別高圧の絶縁離隔距離が必要で不利になるのに初期の交流電気機関車に多く採用された理由は解説されていないが、構造を考えると当時採用した水銀整流器と、センタータップ式整流回路採用のためではないかと思われる。
     すなわち、陰極温度の管理など微妙な調整をする陰極電位点を少なくするために、ブリッジ整流ではなくセンタータップ式を採用。これは右図[相間リアクトル付き三相2重星形結線]に示すよう水銀整流器では定番の回路方式である。(先出「制御方式入門2」p108C1L-6交流電気車の基礎、整流回路章でセンタータップ整流回路を示し「図10.6のような整流回路………は水銀整流器の時代に用いられました」としている。)
     だがこの単相センタータップ式巻線で電圧調整するには、タップ切替が2組必要になるので電圧調整部を主変圧器と分ける必要があったからだと思われる。現に、大電力シリコン整流器の出現でブリッジ整流回路を容易に採用できるようになると、低圧タップ切替と位相制御が席巻するが、それはブリッジ回路なら電圧切替部が1組で済むからだ。
     2トランス式(=高圧タップ切替式)採用の主たる理由が整流回路絡みなら、今さら時間を戻す訳にはいかないが、第1段の出力電圧を特別高圧ではなく切替し易い電圧まで思い切り下げた設計にすれば安定したのではないだろうか。単巻変圧器の最大効率である1/2〜1の範囲を敢えて離れて、20kV入力に対し、モータ電圧を国鉄電気機関車で標準的な750Vdc:834Vac(=750/(2/π)/√2)とすると、中間電圧を相乗平均の4,000V程度以下に採って調整すれば安定したのではないだろうか。但し、最大が1:1の単巻変圧器でないと重量オーバーに悩まされる。特高での電圧切替方式とは水銀整流器前提のセンタータップ回路だから採用されたものだろう。

    直流電動機駆動交流電気車の構造分類
    「制御方式入門2」表10.1
    重野誉敬,長谷芳隆,竹井勝嘉共著QDAT刊参照
    制御方式主な形式・系列
    高圧制御タップ切替 高圧タップのみ ED45 21,ED71〜ED73(整流器
    Si換装後) EF70、ED74,  
    +連続位相制御ED45 21,ED71〜ED73(水銀整流器式)
    低圧制御タップ切替のみED70、0系新幹線
    +連続位相制御 ED45-1,11,ED70(水銀整流器)
    ED75-0,300,700,1000
    ED76-0,1000磁気増幅器+Si整流器
    ED76-500,550,ED79サイリスタ
    無接点非回生 ED75-500,ED77,ED76-500,711系
    100系新幹線,JR北海道721系-0
    +回生制動ED78,EF71,ED76-550
    713系,JR九州783系
     また、「きめ細かいなめらかな電圧変化を得られる」かどうかは、2次巻線が太くて中間タップを出しにくいことからそう云われるが、初歩的には過飽和リアクトルにより中間段を構成したり、その重畳直流磁界で磁気飽和を制御し位相制御したり、ゲート電極付き整流器で位相制御するなどで制御できるので、実用上は違いにならないから適切な解説とは云えない。

     Web百科Wikipedia上に以上の様なことを書くと、推測部を削って書いたとしても結論が各鉄道趣味誌の解説と真っ向から衝突して「ソースを示せ!」の大合唱になってしまう。鉄道用語事典を調べても山海堂版では「1次側のタップ切替」、鉄道用語850のイカロス出版では更に「1次側の出力タップ切替」となっているから多勢に無勢で、web百科wikipediaのソース至上主義では到底真実側に勝ち目がないが、真相は多数決や「定説」では決まらない。訴訟回避のための記述法の制限と、第3者の利害に関係しない事項の記述とは基準を分ける必要があるだろう。川島令三氏の荒唐無稽な技術論に逐条的に反論するメディアもライターも専門家も居ないから、Wikipediaは狂信的信者に占拠されてしまい、氏のボルスターレス台車原因論も、様々な保安装置誤解説も公刊物に直の反論がないというだけでアンタッチャブルになってしまう。片や刊行物で、片や各自の技術水準だからその形態だけで刊行物の勝ち!。専門書には原理解説はあるが下らない誤解・勘違いへの逐条反論など載るわけがない。その辺は2チャンネル情報に準じて用心して掛かるべきアブナいメディアである。

  2. 加速トルク均一制御と再粘着性能は別原因
     位相制御の効果について「特に動輪が空転した際に素早く再粘着が可能である特徴をもっていた(#158-24C1L4)」とあるが、これは空転で負荷トルクが減ると比例して負荷電流が減り電圧が上がって高速回転となり再粘着を妨げる抵抗制御ではない、電圧制御方式採用の効果である。かなり拡がった俗説ではあるが妥当ではない。

     進段による衝撃で滑走が始まりやすくその再粘着には大幅な出力低下が必要だが、位相制御や直流でのバーニヤ制御では進段衝撃がないので滑走ギリギリの大きな牽引力を発揮できるのであり、再粘着性能とは別物だ。だからVVVF方式だとそうした直流、交流の差がなくなっている。

  3. ゲート素子、水銀整流器、サイリスタ、GTOサイリスタの動作
     水銀整流器の特徴として「逆方向の電気も完全にカットされないことが、位相制御を行う上で有利だった」(#158-P24C1L-3)って、それは逆弧事故だ!トンでもない話である。更に「………ダイオードは一定方向の電気以外を完全に遮断する特性を持つ×ため位相制御は行えない。(P24C2L3)」とは2重のエラーだ。
     位相制御(流通角制御)に必要な機能は「ゲート」機能。すなわち整流素子に正方向電圧が加わっても、ゲート電極に導通信号が加わらないと導通しないから、ゲート信号のタイミング(位相)を調整して平均電圧を調整するものだ。ゲートがなければ位相制御はできない。(自己保持型であるPNPNダイオードなら急峻なゲートパルスを重畳すると位相制御可能だが、ゲート機能は必須である)。
     水銀整流器と、サイリスタは、オン側はゲートパルスで制御するが、そのまま自己保持されて、逆電圧を印加してオフになる。途中でオフにするためには主電流を超える逆方向電流を流す必要があり回路構成が難しい。
     そこで、オフ側も小電流でゲート電極から制御できるようサイリスタの電極構造を工夫したものを「GTOサイリスタ=ゲート・ターン・オフ・サイリスタ」と呼び、主回路の数分の1の電流で遮断できるようにしている。

     ここで「ダイオード」とは半導体に限らず元々は2極真空管のことであり、ゲート電極のない水銀整流器自体も「ダイオード」と言える。因みに「ダイ・」とか「ジ・」とは2を表す接頭数詞である。3が「トライ」、「トリ」でトライオードは3極管、トライアングルも3角だから。4が「テトラ」、テトラパックにテトロード=4極管、5が「ペンタ」、ペンタックスは1眼レフの直角反射5角形ペンタ・プリズム採用、通称ペンタゴンは建物が5角形だからの命名、5極管がペントードという訳である。
     鉄道車両ではダイオードといえばシリコンが実態だが、だからといって他を否定しては間違いだ。自動信号の遅延リレーには、当初亜酸化銅整流器ブリッジを使っていて、素子の進化によりセレン、シリコンと変わってきたではないか。耐熱性能の良くないゲルマニウム(55〜65度C)の使用は聞いたことがないが、亜酸化銅やセレン整流器で動作可能なら試用などで短期間使われた可能性は否定できない。
    マグアンプ構造
  4. 磁気増幅器は、電圧加算部位相制御( ×時期増幅器)
     「×時期増幅器」というのはサスガに誤変換だろうが、「磁気増幅器」というのは鉄心の磁気飽和現象を巧みに利用して、磁気飽和しなければコイルが高インピーダンスを示して交流電流を遮断し、制御巻線に流す直流で鉄心を磁気飽和させると鉄心の磁束が飽和値のまま変化しなくなってコイルの性質(リアクタンス)がなくなって導通状態になる「無接点スイッチ」を構成する。直流電流値により連続的に制御可能である。この出力電流の一部を帰還させると高感度の増幅器となる。
     前項補足で60Hz専用トランスが50Hzで使えない理由は「磁気飽和」に到る過電圧として、短絡状態に近いことを説明したが、過飽和リアクトルや磁気増幅器では逆に「磁気飽和」を積極利用してその短絡状態をスイッチ・オンとして利用する訳である。60Hz専用トランスを50Hzで使うのは電源を直接短絡し始めた様なもので無効な大電流が励磁のために流れる。それでは50Hzでは使えない。

  5. 「過飽和リアクトル方式低圧タップ切替」も入れて
     低圧タップ式の段数を2倍に増やす工夫として「過飽和リアクトル方式タップ切替」がある。センタータップ式の過飽和リアクトルの中点から負荷を取り出し、その両端は主トランス2次側のタップに尺取り虫式に順次接続してノッチアップする方式なので、選択した隣接2タップの中間電圧が得られる。タップ切替時の片線開放時は過飽和リアクトルとして働き、タップ間電圧の半分余の電圧降下で済むのでサイリスタによる位相制御が定着するまでは多用された。

  6. ED44解説には前項日記#149記載と同じ不適切解説
    2乗特性と折れ線近似

    2乗特性は不感域を持っ
    直線(緑)特性に近似
     交流整流子モータの構造について、どうも極数と溝数を勘違いしたまま前記#148号の記事(#148-P7-12)を要約掲載している様だ。「商用周波数の電動機は整流子の数も格段に多くなり、開発に非常な苦労があったと伝えられている(#158-P24C1L-3〜)」という記述は同誌#148号P11C4L28〜の要旨引用だが、電機子の50溝は標準的値であり、極数が14〜16極=ブラシ数と、直流の電車4極〜せいぜい6極に比較して2倍〜4倍多いのだ。仮にこの電機子が波巻き接続だと重ね巻の極対数(きょくついすう)倍の電機子電圧になってそれが200Vとは、16極なら1/8の25Vが重ね巻での電圧。この低電圧は商用周波数の交流を流すための工夫ということだろう。[参照:日記#149(e)項  重ね巻電機子例4極48溝]
     また、低ノッチで加速せず、いきなり急加速になる「ノッチ扱いが難しいかった」特性は、直流機が界磁飽和領域での起動なので、ほぼ電流比例のトルク特性なのに対し、交流整流子電動機の起動では界磁が不飽和で電流比例領域での起動となって、直巻モータ特有の電流の2乗比例のトルク特性であれば当然の特性と言える。

 鉄道DATA FILE誌は主に立ち読みで、たまに購入するだけなのだが、日記#149の修正項一覧を眺めると結構精読している様だ。定期購読なんかしてたら積ん読間違いなしだった。(w

2007/03/08 23:30
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TDF訂正表
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