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[153].一部共通磁路で一体化構造を誤解!
   高圧タップ切替式の構造

磁路一部共有一体型

 初期の交流電気機関車で用いられた「高圧タップ式制御」の構造が「一次側を切り換える」という誤った解説で席巻されて、単巻変圧器+降圧変圧器の2変圧器構成とする正しい解説をほとんど見掛けないことを日記#151で指摘したが、その誤解の原因が理解できる構造図を発見した。

 高度の専門書(自然科学書、工学書等)の出版を続けるコロナ社が「電気鉄道ハンドブック」を編集委員会編著で'07/02/28初版刊行、内容は鉄道専攻学生とプロ用だ。(参照→内容メモ:鉄道工学ハンドブック)
 同書図3.91(右下略図)には単巻変圧器による電圧調整部と、その後段の降圧変圧器を経ての整流器が記述されて、日記#151で既出の「制御方式入門2」P110回路図10.11高圧タップ切替式回路図、中図は上図を分かり易くするために上図表示に合わせた基本回路形を示しているが中図と下図は同じものである。初段は単巻変圧器で小型化されているとはいえ2変圧器構造ではスペースも重量も最大2倍近く(単巻構造の分減少)に大きくなるので、双方のトランスの磁路の帰線部を共通にして形状的には一体化し、その分小型軽量化を図ったものが図3.92(右上略図)の構成である。励磁方向を相互に逆にすると共用部鉄心には差分の磁束しか通らないので、最大で片側分の磁束を通せれば済むから更にその分は軽量化できる積極的な工夫である(単巻変圧器に必要な容量の算出→日記#158)。但し降圧変圧器巻線を1次2次両巻線を開放にすると過電圧を生ずる危険があり無負荷状態にしないために制御回路の工夫が必要だ。

 「共通磁路を持つトランス」としてみるとスコットT結線トランスが一部磁路を共通にして一体構造で作られているものがあることも同書で述べていてトリビアであったが、考えてみれば3相トランスが独立の単相トランス3個ではなく、「5脚型」で一体化され、更に帰線磁路無用なことから「3脚型3相トランス」となっているから、電力機器設計での鉄心共通部というのはむしろ常識的な発想なのかも知れない。


基本結線図1
基本結線図2(標準的表記)
 トランス2基が一体化されたこの装置を眺めると、「特別高圧側のタップ切替」というのは正しいが、降圧変圧器部の1次側には調整するタップが存在せず、あくまで単巻変圧器部の2次側を抵抗や過飽和リアクトルを介して切り換えて制御している。鉄道趣味誌や山海堂版鉄道用語事典の解説はここを混同して「1次側を切り換える」と述べているのだと思う。これが間違いの原因だ!

 因みに、鉄道総研Web鉄道用語辞典を「高圧タップ制御」で調べると「タップ制御方式の一つ.主変圧器のタップを高圧側に設けたもの.」とあって残念ながら山海堂型解説である。この鉄道総研鉄道用語事典は丸善から\20,000.でそのまま出版されていて、現場では絶滅項目で実害がないとはいえ総研の看板を背負った本だけに残念。「制御方式入門2」や前出「電気鉄道ハンドブック」の記事を知らなければ鉄道総研の名に恐れ入って正確な記事を公開しなかったかもしれないが、鉄道総研は経験浅くまだ暇な新人を集めて用語辞典を編纂させたのだろうか?当時の担当者はもう定年で居ないだろう。(某書店で初版本を発見。その記述には「単巻変圧器で電圧調整後降圧」と正しく記述されている。第2版の書き直しで間違えたらしい'08/01/04追記

 久しぶりに新宿紀伊国屋に寄ったら鉄道書籍売り場が移動縮小していて冒頭紹介の電気鉄道ハンドブックを見付けて立ち読みしてこのネタに気付いたが、\30,000+税というのはヲタが手を出して良い本なのかどうか逡巡して、取りあえずは衝動買いせずに帰ってきたのだった。こんな目立つ超高価な本を山の神に見つかったらどんな目に遭うのやら、週刊誌100冊分ではないか(w。一般には権威ある鉄道用語事典(山海堂)などの記述に異を唱える記事を公開するからには、やはり斯界の権威の裏付けがあった方が気楽である。

電気鉄道ハンドブック
ISBN 978-4-339-00787-9

コロナ社 '07/02/28刊 \31,500.
〒112-0011 東京都文京区千石 4-46-10
●読者対象●
電気鉄道に関連する企業,研究機関の技術者・研究者
電気鉄道技術を学んでいる大学生・大学院生

●刊行のことば●(抜粋)
 本ハンドブックは電気鉄道に携わる,各分野の専門家により委員会を構成し,長期にわたり内容を吟味して,大学,行政機関,鉄道事業者,メーカ,コンサルタントなどの第一線の研究者や技術者,約百ニ十名に執筆をお願いした。
 ……… 技術資料として,鉄道関係の主要な企業各社に,最新の技術動向の紹介をお願いした。
   監修代表 持永芳文

●編集委員会●
監修代表持永芳文 ジェイアール総研電気システム
監  修 曽根 悟 工学院大学
望月 旭 東芝
編集委員
(五十音順)
油谷浩助富士電機システムズ
荻原俊夫 東京急行電鉄
水間 毅 (独)交通安全環境研究所
渡辺郁夫 (財)鉄道総合技術研究所
 以上の内容は、ごく普通の電気的素養があればその電気鉄道ハンドブック「3.4 交流電気車の制御」章と略図3.92(右上略図)の解釈で充分理解できるのだが、運転理論の専門書にもある根深い誤解の模様で、アンチ技系人には外形的信用性として「B5版約5cm厚1,000頁で\30,000+税の専門書」と追記しておこう。同社は従前も電気学会電気鉄道における教育調査専門委員会編「最新電気鉄道工学」\5,000+税を'00/09/11刊行している.それが非常に好評で学会の賞を取ったための続編企画だとか(第2序文)。(その金看板を鉄道総研「鉄道技術用語事典(改訂版)」の金看板が消しているトホホの事態(初版には2トランス方式を明記している)で、結局読者側が記述内容で判断を求められているが、この場合は解説内容の具体性で判断を間違えないだろう)
 電気鉄道ハンドブックのチラシ(右枠内)を眺め、想定「読者対象」に「鉄道関連の企業・研究機関の技術者・研究者・大学生・大学院生」とあり、ヲタが入らないのは当然としても、鉄道本体での敷設・組立やメンテの実務者はどうなんだ?!と一瞬思ってしまった。「企業」には「鉄道」を含んでいるのか、それとも会社ルートで本を置かせるから鉄道員技術者は自腹で買う必要がないのか?。物好きヲタは勝手に買っていくが、下請協力会社社員も自腹でか………3万円はかなりトホホの支出。無謀ヲタたる私は、裏表紙に取引先某社の社判蔵書印を押して貰って山の神対策のカモフラージュとして購入を決めた。時素地上子対配置法など私が様々な仮定の下に試算した内容が種明かしの様にきちんと書かれている。だが内容は圧倒的にプロ用だ。当ページの紹介で買い求めて読めないとかいって後で恨まないで貰いたい(w。かっての新興土地成金は高価な英文百科事典を居間のインテリアとして米英2セットも飾ったのだから鉄道技術書1冊くらい飾っておいても許容範囲だろう。(=かなり強引な売り方をした−ブリタニカと−アメリカーナ)

 本の奥付内容は実質のソース証明には無関係なのだが、残念ながら訴訟などトラブル回避が主目的であるWikipedia執筆の基準が誤って全面的基準として席巻しており、人気鉄道ライターK氏の技術的妄言をプロテクトを掛けて擁護するなどの混乱を生じていて、内容を言うと「独自研究」とか無内容なレッテル反撃で受け入れられないが、反面公知の内容であることを批判者が知らない、あるいはソースの技術的表現を読み解けないという相対的問題だから、軍隊将棋みたいなレッテル補強(=ソース提示)によって広範に信じられている誤謬を打破して、改めて科学的技術的中味を検討して貰える条件を作る他ない。餅は餅屋に任せれば良いものを、K大先生の様に自分の守備範囲を超えて頑張りすぎては著者・読者双方に良くない。

2007/03/11 23:55
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