変周式ATS 共振型地上子,変周式、  #32

 '変周式ATS’というのは、地上側に地上子として車上結合コイルを置きコンデンサーを接続してそのLC共振周波数に各種コマンドを割り付けておき、車上側でその共振周波数を検出することでATS情報を得る方式を言い、構造的にはLC共振式地上子方式である。
変周式地上子


 [図-1] 原型(大型)

 [図-2] 検測車対応


 [図-3] 小型地上子

 [図-4] 速度照査等(小型)
 国鉄JRではこの地上子をC型車内警報装置に採用後ATS-S、ATS-SN、ATS-ST、ATS-Sx、ATS-Ps、新幹線ATCではP点など位置マーカーに用いられ、私鉄では小田急、京王、名鉄などが採用している。

 「地上子」なので送信は「点伝送」であるが、制御としては国鉄型ATSの主流を占める「点制御」に限らず、私鉄ATSでは受信したコマンドを記憶して速度照査する「連続制御」方式も多く使われる。

変周式か共振式か  (方式名称)          <1>
   FFT式vs変周式

 共振周波数の検知方法として各社で主に用いられる方式は「変周式」でありこれが方式名となっていたが、JR西日本が新設計の車上装置としてATS-Sw2+ATS-P3での検知方式に「スペクトラム拡散方式(FFT方式)」を採用したので再整理が必要になっている。
変周式車上装置
 車上子の1次2次コイル間の減衰度が≒50dBとされている。
 周波数の高い方向にのみ変周される弛張発信動作とすればアンプの増幅度は50dBよりかなり大きいものと考えられる。
 共振回路である地上子コイルが接近して電磁結合することで共振周波数での閉ループ利得が上がり変周される。
車上子コイル
変周式ATS車上子@京王電鉄
平板状のものが車上子コイル
 変周式検知というのは、車上側に発振器を設置、その反結合発振の2つのコイルを車上子としていて、これが地上子と電磁結合してその共振周波数まで発振周波数を引き上げる。この動作を指して「変周式」と呼ぶものである。変周された周波数は濾波器(フィルター)により検出されて、警報、即時停止、速度照査タイミングや信号現示等のコマンドとなる。
 スペクトラム拡散方式:高速フーリエ変換=FFT方式というのは、白色雑音類似の複数の周波数波形を地上子に送ると、その共振周波数付近の振幅が強く残るのを検出する、発振に依らない検出方式である。

 ATS-Sw2車上装置の採用したFFT方式を考慮すれば、方式全体の名称は「共振地上子方式」共振周波数の検出方式として「変周式」と「FFT方式」があるという整理が妥当である。

単変周型-多変周型  (1地上子の共振周波数の数) <2>
   単情報-多情報

 国鉄が変周式を「C型車内警報装置」として採用し、これをトランシスタ化した「S型車内警報装置」に警報応答タイマーを設けて「ATS-S」として、付加機能を加えて基本的に同じものを現在も稼働させている。
 このときの地上子は[図-1]に示す様に、停止現示で共振周波数130kHz、非停止現示ではコイルを短絡して共振点を無くす方式で、共振周波数が1周波であることから複数周波の私鉄型との対比で「単変周」方式と呼んだ。
 一方、私鉄は信号現示毎に共振周波数を割り当ててそれを検出して速度制限を加える「速度照査付きATS」として信号冒進速度を下げて安全性を保障する方式を早くから採用していて、共振周波数が複数あることから「多変周」方式と呼んだ。私鉄ATS機能通達(昭和42年鉄運第11号)で私鉄各社それぞれが独自方式でほぼ一斉に設置したものの有力な1方式である。
 後年、JR等では地上子試験を電気検測車で走行中に行うこととなり、そのため地上子が非動作の場合にも共振周波数を割当てた。その周波数はATSとしての動作に影響させないため車上装置の自由発振周波数(ATS-S系で103kHz)に選び、[図-2]に示す通り地上子の短絡線にコンデンサー(0.01μF)を挿入した(図-2参照)。これにより「単変周地上子が2つの共振周波数を持つ」という分かりにくい事態となり、代わりに機能名称として「単情報-多情報」が一部メーカーなどで使われる様になったが、JRの−SN/Sx改良実施(1989年〜)の解説で呼称に混乱が持ち込まれて定着していない(鉄電協「ATS・ATC」1993年5月初版p4Q&A等)。

   「ATS・ATC」   「電気鉄道ハンドブック」・「鉄道技術ポケットブック」
×鉄電協・鉄道総研 vs 電気学会編集委員会・オーム社編集委員会   <2.1>

  鉄電協「ATS・ATC」p4,Q&Aの分類記載(=OER,KTR,KNT型を多情報とし、−SN以降を多変周)は前述の経過に反しての新分類であり、妥当ではない。同内容の、鉄道総研'04/05刊の「わかりやすい鉄道技術2電気編」p31VII-〜2&「同3、車両運転編」p53II-2の分類も失当である。
 '61年C型車警として共振周波数1波の変周式が採用され−S型車警となり、'66年ATS全国設置でATS-Sとなり、'67年私鉄ATS通達での小田急・京王・近鉄が採用した信号現示数だけ共振周波数を準備した方式との対比で多変周式−単変周式と区別された。
 22年後、東中野、北殿衝突事故対応に'89年末-SN即時停止地上子が導入され複数周波化したが、地上子構造は変わらないので、そこでは単変周-多変周の区分は維持された。分類呼称を「単変周−多変周」から「単情報−多情報」に変えたのはやはり電気検測車対応で単変周地上子に待機時にも共振周波数が割り当てられてからである。
 もっとも、車上装置でみると'89年の-SN以降-Sx系は複数周波数の変周式だから、ハード構造的には私鉄の多変周式と同じで、コマンド割り付けの違いだが、地上子がコマンドとして複数の共振周波数を持つことを「多変周式」として既に広く拡がった呼称を、22年以上も後発のJRが自社方式に使い、私鉄各社から奪って勝手に「多情報変周式」と呼び変えさせようと言う構図にかなりの無茶があり、混乱を持ち込んでいるのだが、20年を経て表だった整理の動きは感じらず、近刊の参照されやすいハンドブック・ポケットブック等で妥当な表記となっている。

 私鉄ATSの変周方式を供用・命名経過に従って、穏当に扱っている鉄道専門書としては、
  1. 電気鉄道ハンドブック(電気学会編コロナ社07/02刊p671右L10〜,p674左L17〜
      -ST速照を「単変周車上時間比較速度照査型ATS」としている。p673右L6\31,500.)
  2. 鉄道技術ポケットブック(同編集委員会編オーム社2012/03/20刊p386図4・2・3記事p388L−2〜393\18,000.)
  3. 鉄道信号・保安システムが分かる本(中村英夫編著、オーム社2013/05/20刊p53図4・10記事p54〜56\2,400.)
  4. 信号保安・鉄道通信入門:鉄道業務セミナーNo.2(菱沼好章著中央書院'88/03/15刊'91/06/25改訂\1,900.)
      ATS-SNについて4行、ATS-Sにつき20行述べているだけで単変周-多変周などの構造記述なし。JR東日本地域本社電気部長著
には正確な解説がされている。更に地上子のLC共振周波数を制御コマンドとする方式であることに触れている、初心・門外漢の理解を助ける丁寧な本もある。

 鉄道業界共通基礎技術テキストとか、鉄道総研監修技術パンフとかで、妥当でない解説があると、内容を熟知しているベテランは読み流して支障はないが、初心者・門外漢ほど不適切な記事に振り回されて混乱して、鉄道総研の絶大な信用性と権威を貶めるのではないかと心配になってしまう。

直線近似、折れ線近似、2乗近似  かって東海道新幹線敷設に際しての保線作業量の見積を依頼された鉄道技研が、200km/hもの高速運行データが存在しないことから、仮指標的に最も単純な「通トン」仮説を返したものが金科玉条化してしまい、現実には1桁多い保線作業量になったのに全くフィードバックされずに路盤損傷を進行させてしまい、延べ50回近くの半日運休で補修せざるを得なくするような失態は、点検・フィードバック体制が無いからなのか、結果を点検しない方が悪いのか・・・・・・?、せめて「折れ線近似」を想定した「速度2乗近似」で返していたら、そして「実績データなしの仮推定で、開通後の運行実績で修正されるべきもの」と注釈付きで現場に返していたら、あそこまで深刻な事態にはしないで対策できたはず。
 後のデータ整理で「軸重の4乗比例」も出てきたが、総て0系車両、軸重15トン一律だったから、軽負荷・高速車両開発には重要項でも、当面の保線作業量積算には影響せず、折れ線近似対応の速度2乗項でバッチリ近似できた。(不感領域がある折れ線特性が想定されるのに、なぜ特性が似通ってデータ扱いの楽な2乗近似を採用せず単純比例近似したのか?という近似技術上の問題もあるのだが・・・・・See.右グラフ→)。
See
→日記#141:現場式とその理論化(2013/12/18改稿)


  共振のQ    <Q>

 とは共振の鋭さを表す指標で、共振時の振動の増倍率をいう。
 [図-2]のLC共振回路で直列抵抗分をR、角周波数をω、回路電流をI、誘起電圧をE、虚数単位を として丁度共振しているとき(=LCの電圧が逆極性で等しいとき)
  E=I{R+jωL−j1/ωC}=IR だから、
  電圧比Q=ωL/R=1/ωCR となる。
共振回路  変周式地上子の70〜110と規定されているので、仮に100としてコイルの等価的な直列抵抗Rを推定すると
  R=1/ωCQ
  =1/(2π*130*103*4.8*10-9*100)
  =104/(2π*4.8*130)
  =2.55Ω
となる。
 L,Cのインピーダンスは倍だから
 Zc=ZL=2.55×100=255Ω である。

ATS-Sx概説  (点制御)
   3機能2種が現存
  <3>

 国鉄の変周式ATS-Sは事故毎に付加機能が加えられ、現在は2種3機能が稼働し、更にSxとは別扱いされているが上位互換変周式のATS-PsがJR東日本にある。
 機能で分類するには変周式の制御コードである周波数で整理すればよい。(右下表参照)。すなわち、-Psを除き-Sxは点制御方式で
 国鉄JR型ATS設定の特徴は、中間現示に対応せず停止信号に対してのみ設定していることである。これは駅間1閉塞区間の主信号での中間現示が存在しない単線区間もあり、停止信号に対する停止距離を基準に設置したものである。中間現示速度制限は山陽線網干駅急行追突事故'41/09後に導入された信号見落としを減らすための冗長部であり、確実に動作する安全装置(保安装置)には必須のものではない。

多変周式ATS (多情報地上子)   <5>

京王線現示速度
−共振周波数
現示速度
km/h
周波数
kHz
free100
YG75108
45116
YY25124
0132
自由発振
周波数
80
 
私鉄型ATSは大手13社については私鉄ATS仕様通達(s42年鉄運11号)により1967年以来3段階以上の速度照査や自動投入が義務付けられており、以降私鉄では故障誤扱いを除いて大事故を起こしていないが、その具体的方式は多種多様で、名鉄M-ATSの様な単変周地上子による車上時素式や、小田急OM-ATS京王線の様な信号現示に合わせて共振周波数を割り当てる多変周方式などが使われていて、停止信号近くで現示制限速度以外の速度照査をも行うものもある。右表は京王線ATSの周波数割当で、車上ではこの制限値を記憶して連続速度照査を行う。この方式は都市輸送などで輸送量が大きく閉塞区間長が短いため信号機毎に地上子1基の最低限で足りるから採用できる。  see>[多情報]

 ATSを現示制限速度に対応させる(小田急、京王など)と、記憶式の点制御では1区間制限が変わらず現示アップしても次の地上子まで更新されず低速現示YYで時間を無駄にし、閉塞区間が長いと特に輸送力を落としてしまう。また過走防止については対応し切れず、別に時素式速度照査を導入したり(小田急、京王など)、減速パターン制御(東武TSP、西武)を導入している。

 こうした限界を越えて、安全に輸送容量を増やすために、国鉄JRのATS-Pの優れた実績をふまえ都市通勤輸送を担う大手私鉄ではデジタル伝送による車上演算パターン式ATS/ATC(一段制動式ATCも地上演算式で実質同じ)への切替が始まっている。

JR適用を避けた私鉄ATS通達     <6>
   JRは国鉄型許容の2重基準

 国鉄型ATS(現在Sx型のみ)の根本的弱点は、最高速度で冒進可能なことである。私鉄ATS通達では停止信号直近の速度照査を20km/h以下と定めているから衝突時の破壊力である運動エネルギー比≒冒進距離比でみれば、36〜42倍=(120/20)2〜(130/20)2もの違いとなっている。しかも現在も閉塞信号では警報のみで強制停止がない。この大差が私鉄での大事故発生を防いでいる。
 労働省が産業界に示す安全基準としては「人為ミスを前提に、致命的事態に至らない措置を講ずる」となっていて、最高速度からの進入が可能な場所に45km/h以上は防げない安全装置では認められない。私鉄ATS通達仕様(昭和42年鉄運第11号)が適用されるべきということだ。それが国鉄JRについてはなぜか現在も適用されず、各鉄道事業者の「自主性」に任されて大事故を繰り返していながら、国交省の国会答弁は「国鉄型も私鉄型も停止信号手前で強制停止させるから安全度は変わらない」(2005/5/16委員会答弁など)という虚構を重ねて欠陥を擁護し必要な指導を回避し続けている。(同じく「変周式」を採用しながら国鉄JR型と私鉄では全く違うものとなった)。2006/3の技術基準改定で鉄道事業者の判断責任としては追及できる色彩は強められた。ATS-P拒否でY現示速度(45km/h)以下の過走防止装置で足りるとしていたJR東海がこの技術基準改定直後に私鉄型より安全度の高く輸送容量も大きいATS-PTへの換装を決定発表06/05/23するきっかけにはなっている。

車上子取付オフセット <+>

 ATSの制御コマンドを受け取る車上子(一種のアンテナ)の取付位置は、関東の国電区間ではB型以来、運転室直下だったが、機関車など取付に困難を来して炭水車の2つの台車の中間に上下線それぞれ用を2基設置とか、踏切衝突事故による破損を嫌って台車の後ろ側にするとかの様々な取付状態があって、当初のS型/B型ATSの高速運行中に先方の停止信号を警告するロング地上子警報・過速度警報だけなら誤差に吸収できていたが、速度の遅い領域の誤出発防止や停車位置制御となると取付位置のオフセット分車体が前にあることが問題になってくる。
 地上での直下地上子取付位置が線路の閉塞絶縁の20m手前(ATS-Sx)〜25m/30m手前(ATS-P)と定められているのは、この車上子取付オフセットを考慮してのものだろう。それが更に即時停止を導入したATS-SN以降では、直下地上子、あるいは誤出発地上子以降に準備すべき制動距離にこのオフセットが加わって衝突事故を防御するから特に重要なパラメターとなった。
 更に、受信したコマンドを記憶して、車上演算で限界速度を算出照査するパターン方式のATS-Pとなると、停止近い低速部で車上子取付オフセット分の速度の違いは大きく、またATSコマンド距離データの1ビット分解能が4mなのに、地上子位置がが1m単位設置で切り上げ切り捨て誤差も生じて、比較対象物たる停止目標、ホーム、信号との相対関係を無視できなくなって、場所毎に応答がバラ付き思わぬ強制制動を受けることで導入当初は運転手から苦情を受けることになった。
 寝台特急電車285系サンライズが就航するときに、そのATS-P車上子取付位置が、JR西日本基準では後ろ側台車の直前の約16m位置にあって、停止定位駅に停車後の発車時に、運転室直下設置が前提で設置されているJR東日本区間で停止制限パターンに当たってしまい、コマンド更新まで数10mを10km/h制限で走らせる訳には行かないので先頭車運転室直下に付け替える改造を行って営業運転を開始している。
 進入時のパターンの凸凹には、地上子位置を4mの倍数に改め、オフセット距離を車上装置の初期設定値にすれば解決するし、出発信号機位置を更新地上子85mより先にすれば全面解決するが、停止定位出発信号のコマンドをクリアするにはいずれかのP地上子を車上子が通過する必要があって、コマンド受信のチンベル音を待って10km/h以上への加速を行う必要があり、操作性を損なうことがあった。先頭から15m前後も後ろというのは無理が大きいので避けたいが、蒸気機関車では他に設置の場所がなかった!JR東日本で唯一ATS-P装備の蒸気機関車があったが、車上装置そのものは炭水車内に取り付けた様だが、車上子を何処に取り付けたものか?先台車先になど取り付ける余地があったかどうか?疑問が残る。


ATS-SW/-P 車上子取付位置@JR西日本207系

ATS-SN車上子取付状況@JR東日本205系P/N併用車(Click↑)

運転席付近のP/SN搭載表示

クハ204のATS-SN車上子

D51炭水車台車間のATS-S車上子×2(上下線用)
福知山線尼崎事故調査報告書 電車と綱引き!@京葉電車区一般公開(2015/11/07) @千葉県船橋市薬園台公園展示(S48.廃車)
2016/01/17追記

[関連リンク] 

ATS-Sx設置基準 (単変周式)
京王線ATS概説: (多変周式)
時素式速度照査実地調査 (単変周式)
ATS-Ps概説 (単情報式の組合せ)
小田急OM-ATS概説: (多変周式)
東武TSP概説: (多変周式)
ATS-P概説 (トランスポンダ伝送パターン式)
車警・ATS・ATC概説 (国鉄)
国鉄ATC周波数割当 (新幹線&在来線)
私鉄ATS概説
ATS概説記事並列2本!


<Last>2008/01/16 23:30

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Last Update=2008/01/16   (2008/01/16)

ATS-S 結線図 (一部推定)    <7>

ATS-S結線図
接点表記