土佐くろしお鉄道宿毛事故(#48)

  2005年3月2日2040分頃、高知県は土佐くろしお鉄道宿毛駅で起こった特急南風17号事故は、行き止まり駅にほぼフルスピードで突入した模様で、運転士死亡、乗客11名中名重傷8名軽傷、車掌軽傷で、2000系振子式特急ディーゼルカー3両編成の先頭車は1/2弱に縮み、2両目は台枠と車体がバラバラ、鉄筋コンクリート製2m高の車止めに激突後、駅舎の壁を突き破って停止という惨状になった。

  運転士がなぜ停まれなかったかは調査を待たねばならないが、安全装置であるATS-SSは動作していた模様で、そもそもどんな場合でも致命的事態を回避するために設置する安全装置がなぜまともに働かなかったかは検討する必要がある。
  まず、宿毛駅の信号とATSの位置関係は報道を総合すると下図の通りだった。
<FIG-1>
宿毛駅信号ATS設備図
  源=高知新聞3/5図 3/9出発信号、場内信号位置、突入速度。
     赤旗新聞4/8(4)過走防止速照位置、算出:速照地上子対間隔
     尚、マル5速度照査位置65m(3/4共同-赤旗)は誤。4/5に38m15km/h移設設定された。12km/h
     〜10km/h
が車止めに当たらない設定だが15km/hでも接触に収まるだろう。30m22km/h
     という値は11km/h〜21km/hの進入が無防備で車止めに衝突する無設置に近い誤設定であった
        (05/04/15付記)
分析に不足する数値は、
  1).ポイント−速照地上子距離:10mか?
  2).勾配、
  3).2000系の実減速度
   :信号計算上の規定は電車20/0.7/7.2=4.0km/h、4.6km/h/s定格?
  4).2000系の実空走実時間(ATS応答時間+ブレーキ動作時間)
   :規定は2秒、実際は1秒前後?

  検討に重要な位置は、停止目標を基準に、25km/h速度照査地上子対後部位置178m、警報地上子位置194m、場内信号ロング地上子位置636m、場内信号位置279m、出発信号位置122m

ATS 地上子位置と許容速度     <TBL-1>
算出基準 2000系実特性備考
ロング 速照 ロング 速照
制動定数20/0.720/0.7 4.6×7.2 4.6×7.2 km/h/s×7.2
空走時間 7 2 6 1
位置 m最大許容速度
636109.9 127.1 120.1 140.6 5秒無操作
357 77.0 93.4 84.6 104.2
194 51.7 66.9 57.2 75.7
178 48.8 63.8 54.0 72.3 強制
非常制動
65 23.5 35.9 26.4 42.0
10 4.7 10.7 5.5 14.1
不可解な
地上子設置位置

  右表に試算を示すが、この配置を一見して気付くのは、ATSの各装置が一応設置されてはいるが、実際の運転状態にマッチしてないことである。2つの警報(ロング)地上子位置は、停止目標に対して194m=進入限界速度51.7km/h、場内信号に対して337m+20m=進入限界速度77.0km/hであり、単線区間のローカル線各駅停車用には妥当だが、最高速度120km/hの高速特急には全く対応できない。また、25km/hの過速度照査も減速のための距離を設定しないと無意味だが、通常50mほどは採るのに、20mも採ってないから、分岐器過速度防止装置としては機能していない。
  仮に、これを進入速照とすると、この点の限界速度は63.8km/hで、奥側にありながら(5秒の空走時間の差で逆転し)先の警報ロング地上子の51.7km/hよりもかなり高速である。また、前身の国鉄線時代にも中村線には優等列車が乗り入れており、ローカル各停だけという設定はできなかったはずである。これは停止目標に対する警報地上子の設置位置ミスまたは設定基準ミスを示唆している。22km/h速照対が30mに設置では進入速度11km/h〜21km/hで車止めに衝突する過走防止装置としては論外の設置だった。4/538m15km/h照査に改められた。
  社員教育用テキスト「ATS・ATC」を子細に読み込むと、その16ページに「その線区の計画運転速度」、「閉塞区間の運転速度の最高値」と規定していて、線区全体(120km/h)なのか、その地点(51.7km/h)なのか解釈の余地のある記述になっている。現場は単線で、行き違いできる駅間が1閉塞ので、信号機前後の短小軌道回路で列車検出を行って状態を記憶する「特殊自動信号」を使っている。これを、場内信号や遠方信号で区切って計画運転速度の低速側を採るのは基本的な間違いのはずだ。
  次の数値をみて戴きたい。

地上子接続ミス?も検討対象
  今回、注意現示のため全く動作しなかった停止目標636m手前の警報地上子(FIG-1〜2の丸数字1)が働いていた場合の停止目標に対する進入限界速度は109.9km/h、2000系の減速度仕様4.6km/h/s、6秒空走時間(5秒はATS-S動作時間)に対してはその最高速度に等しい120.1km/hと算出される。ここで警報−5秒放置−非常制動となっていれば停止目標近くで停まれている。場内信号に連動する警報地上子の位置は、その636m手前の丸数字0の位置が本来である。
  あまりの数値の一致である。もしかすると、これが停止目標の130kHz警報地上子だったのに、誤って場内信号に接続して無警報にしてしまったのではないか?194m点の警報地上子は、正規位置設置の場合に低速進入では警報から30秒前後も後でのブレーキ操作になるので再確認のためのもの。すなわち、この636m警報地上子が働いて制動すれば、あるいは非常制動が掛かった場合、分岐器の過速の問題はあるが、停止目標点付近に停止している。
  以上の計算の系統誤差としては高速域で減速度が落ちることで、実際の制動距離はもっと伸びるが、制度としては45km/h〜55km/hで走行しているはずの地点だから、設置位置の決め方としては問題ない。
  その算式はATS-Sx地上子設置基準式より逆算した。すなわち
地上子位置=最大速度^2/制動定数+最大速度×空走時間/3.6  …………………………(1)
限界速度km/h=−空走時間×制動定数/7.2
       +√{(空走時間×制動定数/7.2)^2+制動距離×制動定数}
但し、減速度km/h/s=制動定数/7.2=減速度m/s^2×3.6 ………………………………(1')
   (社員教育用テキスト「ATS・ATC」より)

<FIG-2>
突入速度推定図
南風17号時刻表と
当日遅延時間
  
<TBL-2>
(事故調報告では遅れ時分=0 )
時刻 実走km備考
岡山 1552 0.0
27.8
御免着発 1819 168.9
高知着
1831
1837

1846
179.39分遅れ
206.9
須崎着
1921
1922
221.4
232.4
窪川着
1947
1949
 
1954
251.4
0.0
5分遅れ
20.8
中村着
2023
2025
43.0
平田 2035 203558.3ほぼ回復
東宿毛 65.2
宿毛 2041 204066.6早着!
事故★
所要時分
高知宿毛
0449
0204
 
0154
318.0
138.7
'05/03
ダイヤ

  <FIG-2>は事故車2000系の場合の停止限界、警報限界の略図である。左端の停止目標から立ち上がる赤放物線4.6km/h/s制動限界線、青放物線が対応するロング地上子設置位置、左上赤線25km/h速度照査での120km/hからの非常制動曲線で、89km/h〜96km/hで車止めに激突したことが容易に推認される。場内信号から立ち上がる青破線 が場内信号の警報限界で、停目から633m=120km/h進入点は、場内から357m=84.6km/h進入の警報限界となることが分かる。間違えやすい位置なのは確かだが、120km/hの防御対応なしでは当然今回の事態になる。元々の設定基準自体に穴があったとしても最初は設計施工の鉄建公団のミスだし、それを事前審査で見逃して認可した運輸省のミスだが刑事責任は時効なので、変な配慮無用の原因追及は可能な条件である。信号ATSに実質責任を持てる担当のいない第3セクター土佐くろしお鉄道を生け贄の血祭りに挙げても意味がないだろう。そんなことをすれば全国の第3セクター鉄道がかなり停まってしまうことになる。


戦慄のシナリオ
ATS警報頼りの回復運転、
終点に地上子設置エラーのワナが!

  当日、南風17号は、高知駅出発時点で分間の遅れ、窪川で分の遅れがあったが、平田駅到着時はほぼ定時運行にまで回復させ、更に終着の宿毛では分早着で走行していた。運転士が変わる窪川を境に整理すると、
 高知−窪川間、72.1km70分走行のダイヤを67分で走行。表定速度61.8km/hを64.6km/h:+2.8km/hで走行。
 土佐くろしお鉄道起点の窪川−宿毛間では、66.6km52分で走行するダイヤを46分で走破、表定速度76.8km/h86.9km/hの回復運転。中村の停車時間のうち1分半を遅れ回復に充てたとしても、換算84.1km/hで運転。
  +7.3km/hもの>速度というのは、余裕時分の少ない高速特急としては驚異の回復運転である。JR区間での回復運転に較べて約2.5倍、格段の回復振りであり、各社腕こきのベテランが担当する特急運転士の微妙な腕の差ではなく、土佐くろしお区間で禁じ手の裏技をも駆使した回復運転が図られたことを推認させる数値である。
  駅進入時には、本来は注意現示に対して45km/h以下に減速して進入する規則だが、ATS-Sロング地上子は規定の減速度であれば停止点の出発信号を基準に最高速度から停まれる位置に設置されている(あるいは相当する制動限界目標)。2000系の制動性能は地上子設定基準の制動定数20/0.7≒4km/h/sより優れた4.6km/h/sが仕様。すなわちATS警報を受けてから減速して充分停まりきれる高性能車だから、注意現示速度制限にこだわらずにギリギリまで高速で走って減速性能一杯に走って時間を稼ぐことができる。最高120km/h制限に対して110km/hで突入すれば、制動距離は2乗で効くので、それでも200m余の余裕があってブレーキを掛けている。これで驚異の回復運転をしてきたはずなのだが、終点の宿毛は行き止まり線なのに、最高速度120km/hでの停止可能位置(停止目標636m)の130kHz警報地上子が(誤配線で)進行になっていた。確認警報地上子では近すぎて効かず、その直後の25km/h速度照査地上子対で非常制動が掛かったが、とき既に遅く今回の大惨事となった。

  というシナリオは事故現場に照らして全く矛盾がない。注意現示速度制限無視の規定違反運転は常態化していて事故の際の責任を運転士個人に負わせるためだけの規定に化している。(後日の情報で、ATSロング地上子は駅毎にはなく、またその設定基準があり得る最高速度ではないことが判明.では運転士個人が定めた制動位置限界か?駅進入時の中間現示無視、過速運転の疑いは不変05/11/06追記。最終報告書07/07/27ではCTC記録を引いて遅れはなかったとしている。遅延はガセ情報。日にちを間違えたのだろうか?07/08/05追記)

車止め衝突速度最大96km/h!120km/h弱で駅突入の公算
  前述の通りATS警報(などの独自の制動限界)を利用した、職人芸の一段制動回復運転を続けていたとすれば、分岐制限など特別の事情が無い限り赤信号636m手前の警報を受けるまで,或いは独自の減速目標までは高速での減速度減少を考慮して最高速度の120km/h近くで走る。注意現示制限速度45km/hの規定違反は明らかだが、そうしないとタイトなダイヤは守れないから暗黙には要求されているし、ATS-S設置規定では停まれ、警報即ブレーキで100m以上の余裕は採れるから物理的には神業運転が可能なのだ。
  そのつもりで宿毛駅に進入して、ATSの警告を受けたのは停止点の194m手前、25km/h速度照査から非常制動コマンドを受けたのは、同178m手前。後者の速度照査非常制動が先に有効になるが、2000系減速度4.6km/h/s、空走時間1秒が120km/hから非常停止するに要する距離は468.12m!=120^2/(4.6×7.2)+120/3.6×1だ。
停止位置から車止めまでを12mとすると、不足する距離は実に278.12m=468.12−178−12となる。従って車止めへの衝突速度は最大96.0km/h=√(278.12×4.6×7.2)にも達する。前出図<FIG-2&1>を眺めれば、停止目標地上子の位置不良(場内信号への誤配線?設定計算条件不適など)が事故の基本原因であることは一目瞭然なのだ。

「進入速度113km/h」は誤差評価が必要
  なお、突入平均速度が113km/hという報道は、各閉塞の状態を記録しているため、場内信号通過時刻と、出発信号逆方通過時刻を比較して時間差が5秒、距離が279m−122m=157mだったことから単純な割り算で平均速度を求めている訳だが、原データの記録単位が1秒とすれば、それだけでタイミング誤差±1秒を生じ、また閉塞状態のスキャン速度でさらに誤差を生ずるから、実際の速度は上下に大きな誤差がある。±1秒では94.2km/h141.3km/h、±2秒では80.7km/h188.4km/hだから、113km/hという数字を一人歩きさせるのは妥当ではなく、ロガー(記録装置)の仕様をきちんと調べて、突入速度の推定範囲を示す必要がある。先の推定突入速度もこの誤差範囲にある。(1/100秒単位記録07/08/04追記)
  しかしながら、若干の危惧として、ロガー全システムの時間分解能から平均速度113km/hでの突入が確かなら、先のない行き止まり終点としてはあまりに早すぎる。怖さを知るベテランが一律の高速で突っ込むだろうか?この場面だけは何等かの原因で意識が飛んでいた可能性を考えざるを得ない。急病なのか、到着直前の安堵感から、インフルエンザ予後の衰えた体力に一瞬の睡魔が襲ったか?!永久の謎ではあるが。

[違反運転≠危険・無謀運転]
  誤解されて困るのは、前項の注意信号制限速度以上の高速突入運転は、規定違反ではあっても、暗に要求されて繰り返さざるを得ない必要悪であることと、物理的には、安全のための無駄を運転規定が大きく採っていて、ATS-S警報の位置では、直ちにブレーキ操作を行えばATS-S動作時間5秒より早い分の距離、例えば110km/h/3.6×4=122mが余裕距離に加わり、最高速度に近い速度から安全に停まれて、無謀・危険運転とまでは言えないことである。加えて事故車2000系特急ディーゼルカーのブレーキ性能4.6km/h/sは、地上子設置計算の想定する減速定数20/0.7≒4.0km/h/sよりもかなり良く、効きも安定している。
  中間現示速度制限45km/h1941年の山陽線網干駅急行列車追突事故以降定められたもので、会社や路線毎に微妙に違い、改良線とされる都市近郊では55km/h、名鉄など中部関西系私鉄では65km/hとなっており安全のための余裕=無駄として定められたものである。
  無論、高速でブレーキの効きが悪くなる分や、降雨など線路状況の悪化を加味して突入速度を下げなければならないが、停止距離は、制動距離が速度の2乗に比例、空走距離が速度と時間比例だから、速度を10%下げれば、制動距離は19%も減って、無理なく停まれる訳で、それでも注意現示45km/hを守るよりかなり時間を稼げてしまう。東京の地下鉄や新規開業の新幹線(九州&八戸区間)では1段制動ATCとして最高速度から連続的に制動する方式をATCで保証している訳で、それを一定の規則で設置されているはずのATS-Sの警報を利用して人力で行う工夫である。終点宿毛駅の地上子設置位置間違いが無ければ、あるいは同駅ATSの開業以来の異常設置を思い出して別の基準で制動していたら安全に停止でき、遅延回復時間記録を更新して周囲からの密かな賞賛を受けていただろう。

[ATS-SSとは]               <ATS-SS>
  事故現場のATS-SS型の概略は以下の通りである。ATS-SS/ATS-Sxとは、停止信号警報、信号直下強制非常停止、地点速度速度照査非常停止、計3種類の安全装置の集合体である。3種とも地上子の情報を共通の車上子が受信して配分・制御する方式である。

1).赤信号警報、5秒間無確認で非常制動となる装置で、国鉄が1966年4月に全線に設置したATSの1形式ATS-S型。地上子は停止現示で共振周波数130kHz(S:旧)/129.3kHzを用いる。図FIG-1〜2の丸数字0、1、3である。

2).強制非常制動地上子の導入。図FIG-1〜2の丸数字2、6である。198812月の中央緩行線東中野駅追突事故を承けてJR東日本が公約した大変安全度の高いATS-Pへの換装は、ATS-Bの全面換装を決定したが、公約したJR東日本以外のJR各社はあまりに高価過ぎるとして、換装計画策定が滞っていた。東京大阪の国電区間に用いられていたATS-Bには1閉塞手前区間での警報に問題があるなど不安定で最混雑区間のためこれだけは直ちに-P換装が決まった。翌年1989年4月発生の飯田線北殿駅正面衝突事故駅正面衝突事故を承けて、全JRATS-Sの緊急改善策として、JR東日本とJR東海が共同して開発を担当し、駅出入口の信号機直下に設置されていた警報だけの130kHz直下地上子を123kHz非常制動型に改める改良を行い、ATS-Sn(JR東日本)、ATS-SN(JR北海道)とした。地上タイマーと組み合わせての速度照査も可能だが地上設備はST型より高価になる。
  この改良があれば、推定突入速度(52km/h)と先行車との位置関係(137m)からみて当時から場内信号直下地上子が設置されていた東中野駅ホームでの追突事故は防げていた。
  というより、問題の場内信号直下地上子というのは1967/08の新宿駅タンク車衝突炎上事件を承けて設置したもので、国鉄はマスコミに対し「非常停止させる地上子」と誤った説明をしてATS-Sの改良を阻んでいた。添付技術資料を子細に読み込めば単なる警報であることは理解されたが、それに気付いたマスコミやライターは何処もなかったのだ。資料のない一般人には全く分かるはずもなかった。マスコミの勘違いではなく国鉄の説明だったことは、東中野事故直後の警報地上子=強制制動の説明が『2度の警報を受けてブレーキを掛けない運転士はいない。お猿の電車じゃない』という無茶なものだったことからも推認出来る。現実は、時に人はお猿の注意力なみになることがあるのだ。その後、技術畑の山之内秀一郎副社長(後にJR東会長を経て宇宙開発事業団理事長、最近退任)が対応する様になり、安全性の極めて高いATS-Pへの換装を公約した。

3).JR東海は更に、地上子2点間の通過時間を車上タイマー(標準0.5秒、貨物0.55秒)と比較して速度照査を行う108.5kHz速度照査地上子対を加えて、これで従前防御法の無かったとされた60km/h制限以上の高速度の速度照査を行い、3対余で分岐器過速度防止装置を構成、ATS-STとして整備した。図FIG-1〜2の丸数字4、5がそれぞれ1対の速照地上子である。尚、地上子1)〜3)共、非動作時は103kHzとして試験車車上からの機能点検を可能にしている。
  これをすぐに流用して行き止まり駅、次いで合流点などの過走防止装置として5対の地上子をセットにした装置を設置し始めた。これは時速45km/h以下の進入速度に対応して、暴走しても支障限界内に非常停止させるものであるが、信号は冒進する設定なので勘違い発車の事故(東海道線富士駅事故2001/04など)が起こっている。

4).JR西日本はATS-ST車上装置から列車番号読み取り機能を外しCPU制御で再設計したATS-SWを採用。JR九州とJR四国は西日本のATS-SWを採り入れてそれぞれATS-SK、ATS-SSとした。

5).JR貨物は当初、ATS-Pへの換装で残った国鉄時代のATS-SそのままをATS-SFとして運行していたが、事故多発を承けて、ATS-Sn機能、ATS-ST機能の制御ボードを増設して新ATS-SFとした。これによりJR各社はATS-P全面換装を回避することとなった。
  従ってATS-ST、-SW、-SK、-SS、-SFは全く同一機能のATSの会社毎の呼称である。
  以上2種類3機能8名称のATSを総称してATS-Sxと呼んでいる。[参照→ATS-Sx]

6).なお、東中野追突事故の抜本対策としてATS-P換装を公約したJR東日本は、大都市周辺までの主要幹線を換装、新潟と仙台にはATS-P同様に停止位置管理(パターン)方式で、それより安価でATS-Sx完全上位互換のATS-Psを設置。山手・京浜東北・埼京などのATC区間もATS-P方式の速度照査を採り入れたD-ATC:デジタルATCに換装中である。D-ATC化は保安度を下げずに列車間隔を詰め運転本数を増やすための措置。山手線で言えば現行ATCで11両編成が毎時24本の線路容量を毎時28本にして増発する。

何が問題なのか H17.03.29国交省国鉄技第195号通達+翌年
再改訂技術基準
参照   <ERR_POINT>
  前述のシナリオで、最大の問題は、安全装置であるATS地上子の設置位置間違い、接続間違いで、常に警報を発すべき地上子を誤って場内信号連動に接続して無警報で通過させてしまった、あるいは設置位置決定法そのものが間違っていることである。ATSのバックアップに頼って回復運転して走行位置に気付くのが遅れたら、今回の特攻事故は避けようがないのだ。この様な設定エラーは保安度の極めて高いATS-Pでも事故になりうるが、設置検査で引っ掛かるはず。ATS-Sxの検査は、台帳上の位置と地上子の良否のはずだから、元々間違ってしまった設置位置エラーは発見できないのかもしれない。設定位置エラーはATS-Sx系の弱点以前の問題だ。

  次いで、最大速度からの過速度防止装置と、それに続く過走防止装置がないこと。これがあれば、その地点は私鉄ATS通達を満たすものになり、前項の警告を無意識にリセットしてブレーキを掛け遅れたとしても今回の事故を完全に防げていた。最低限、行き止まり駅には設置を義務付けるべきだろう。行き違い駅は過走余裕が不足する場所は設置を義務づける。
  ATS-Sx系防御の特徴は、警報のみで最高速度のまま突入できる条件のある閉塞信号の存在と、地点速度照査も発生頻度と経済性などを理由に低速側のみ防御し高速側を放置することである。ところが衝突のエネルギーは速度の2乗に比例するから桁違いの破壊力を示す高速側を放置するのは大きな間違いである。これが最高速度からの速度照査を義務付け、最大冒進速度を押さえている私鉄ATS通達との際だった相違で大事故を無くせない原因になっている。
  分岐器過速度警報装置が55km/h以下しか動作出来ないことから不設置だった西明石駅の60km/h制限の渡り線に100km/hで突入してブルートレインを大破させた事故など、高速側を放置。単なる警報だからと割り切って暫定的に構成可能な55km/hの警報装置を設置しておいて良かったはず。
  また、分岐器過速度防止装置は分岐側のみしか動作させない。しかし(既に改造済みのJRもあるかも知れないが)本線側もその先の停止信号に対しては高速側の防御として動作させるべきである。

  更に、現在、事故調の勧告によりJR北海道、東日本、東海が設置を図っている誤出発防止装置も行き違い・追い越し駅には必要

  そして、強制的な安全装置のない一般の閉塞信号にも、最低限、非常制動の直下地上子は必要だろう。さらにはATS-Psの第2パターン発生地上子に倣った時素速度照査で注意現示速度遵守を図る必要がある。これは390m手前の設置で即非常制動だから空走時間が短く、電車で96.6km/h、貨物で60.6km/hとかなり高速でも防御できる。

  望ましい水準としては、冒進のない防御で、ATS-P、ATS-Psの採用であるが、私鉄ATS通達も更に、信号直下の停止0速度照査の設置を加え、冒進距離を極小に抑えることが望ましい。私鉄ATS通達内容で致命的な事故は抑えられているが、小事故はなかなか絶えないのが実際である.

事故車フラット
(滑走痕)
滑走痕
事故調最終報告書
写真9-2
  なお、地上子位置の決定法自体に問題があった場合、その許認可を行った運輸省/国交省の責任問題にも成りかねず、国交省直下の鉄道事故調査委員会が全く自由な立場の勧告を出し得るかどうか問題が残る。日比谷線中目黒脱線事故のような、文章上は原因並列で一見特定できず、技術的内容を読み込んで初めて主因が見えるという騙し絵の様な勧告がまた出ることはいかがなものか。実務的にはガードレール設置基準が示され、輪重比管理10%以下が勧告されて収まっているが、技系音痴の文系マスコミはケムに巻かれたママである。勧告内容を見ればそれだけで主原因と監督庁の責任は明確ではないか!

[補足] EBで制動か?最終報告DATA  <Report>

制動記録  2007/7/27に公表された最終事故報告書p34〜に記載された軌道回路の在線状態記録は、1/100秒単位で残されておりそれに拠れば
(1).場内信号突入、
(2).折返し出発信号先頭軸突入、
(3).同、末尾軸突入(≡場内信号末尾軸脱出)の
3つの時刻と相互位置関係
(1)−(2)間=157m
(2)−(3)長=59.1m{=21.3m×3−(3.45×2−2.1)}   (2000系)
(2)−(3)長=55.9m{=20m×3−(2.87+0.23−2.1/2)m×2}   (207系寸法流用)
から各区間平均速度が算出され、
それを等減速度として時間→位置変換を行うと場内信号以降の運転曲線(制動線)が求められ、場内信号突入速度も算出される。(右図)
 この推定図を見ると、非常制動はEBに拠るものと考えると減速度3.9301km/h/s、場内信号突入速度122.8km/hとなるが、
 EBではなく、場内信号から101mの25km/h速照による非常制動とすると、101m+動作遅れ0.5秒線(=青線)と、閉塞記録の113km/hを満たす(0s,122.8km/h)〜(5s,113km/h)の単調函数の交点で非常制動がかかり、それまでは定速とすれば、約115km/hで進入し、制動は6.64km/h/sとなるはずだが、2000系の標準的減速度4.6km/h/sよりかなり大きく、線路面乾燥時の非常制動限界値以上と考えられ、滑走により実現が困難になるから、このEB線の方が状況に良く一致する。
 最終報告書の試算では減速度をATS-S計算での最低限界値4.0km/h/sを用いているが、事故時は降雨はなく、資料写真9右の様な多数のフラット痕が残るような制動というのは公認された最低限界値4.0km/h/sではなく、もっと大きい減速度だった気もするが、非常制動だと減速度が落ちるのだろうか?尼崎事故とは違い主原因でないからか、乗客に死者がないためか、確認試験がない。
 事故発生についての主たる問題点は間違いなく最高速度から有効な過走防止装置が不設置だったことであり、Y現示速度で進入の場合でもほとんど効かない設定だったこと、そして最高速度に対応した公的な過走防止装置設置計算基準が無かったことである。信号ATSロング地上子設置基準も最高速度に対応していなかったが、これは元々警報だから勘違いや半居眠りで確認扱いされ無視されると効かなかった。

<shisan>

閉塞在線記録からの推定試算

時刻 相対
距離
平均
速度
中心
V=sqrt(Vo^2-7.2αL) 停止位置
Lmax
[m]
逆出発
先頭軸速

最後軸速
車止
衝突速
不足
制動距離

[m]
相対秒 V(t)=Vo+αt
T1 204122.165.00 157.00 113.042.500 α=Vo= 157m +α (=F) 291m
T2 204127.162.1259.10 100.366.060 -3.5622 121.9456 579.800 104.1 96.6 86.1 288.800
T3 204129.282.1559.10 98.966.075 -3.9390 122.8875 532.474 103.2 94.7 82.8 241.474
●T3は29.28sだが,リレーの遅延補正を行うと29.31sとなる
●先-尾軸列車長は報告書59m,他59.1m
2.15 59.00 98.79 6.075 -3.9858 123.0045 527.220 103.1 94.582.3 236.220
2.12 57.60 97.81 6.060 -4.2777 123.7343 497.090 102.3 93.3 79.7 206.090
2.15 57.60 96.45 6.075 -4.6415 124.6438 464.887 101.4 91.5 76.2 173.887
2.12 55.90 94.92 6.060 -5.0886 125.7615 431.682 100.3 89.5 71.8 140.682
2.15 55.90 93.60 6.075 -5.4378 126.6344 409.59199.4 87.8 68.1 118.591
※相対距離1は、場内信号から折返し出発信号までの距離:157m
※相対距離2は、列車の先頭軸から末尾軸までの距離:約59m〜59.1

mail to: adrs
事故解析小目次
小目次
宿毛ATS計算表
ATS計算表
戻る LIST
主目次
Last update: 2005/04/15       '07/08/04 /04/05、3/21、/15、/12 (’05/03/10作成)