MT54A/711系特性比較 vs 485系

 北海道を走る最初の交流専用電車である711系は、低圧タップ式とサイリスター位相制御を組み合わせて、直流用に開発されたMT54型直巻モーター375V、120kWをベースに、弱界磁制御を廃して500Vを印加、電圧比例では160kWになるところ150kW定格としたMT54A(-100以降MT54E)を採用、若干の試作型を経て1M2T編成が標準となった。直流電化区間では供給電圧が固定だから高速トルクを上げるために弱界磁制御を行うが、その領域ではトルクが速度に反比例(=出力が一定)となり、磁界が小さくなるほど整流が悪化するので速度で1.5倍(=磁束は2/3)程度の減磁が実用上の限界となっていた。とこいろが交流専用ではトランスにより任意の電圧を取れるので磁束減少に比例してトルクが減って整流の悪化する弱界磁制御を行うよりも、供給電圧を上げて高速化を図る方が最大電圧までトルクが減少せず安定して大出力を得られるため新幹線0系〜200系も同様に弱界磁制御を行っていない。
 そのためモーター単体でみると、ほぼ同一モーターながら最大電圧に比例してMT54=120kWに対しMT54A(MT54E)=150kW(=120×500/375−10kW)となっている。特にMT54Eは交直両用417系でも375V120kW定格(=1500V用)として使われている。
 この関係を下記に図示すると対速度グラフ上側の青線が電圧制御仕様MT54A(E)の出力特性とトルク特性、その下の緑色線が弱界磁制御仕様MT54の出力特性とトルク特性となる。
 但し全界磁375V速度V1、弱界磁上限速度V2、電圧制御上限500V速度V1'を表し、弱界磁領域では出力は一定、トルクは速度に反比例、特性領域(自由加速領域)では出力は速度に反比例、トルクは速度の2乗に反比例している。MT54A(E)では500Vに達すると直ちに特性領域となる。


 しかしながら重量当たり出力、あるいはMT比でみると485系が2M2Tに対し、711系が1M2Tだから、711系1M2Tの出力を485系2M2Tに簡易換算すると(1/3)/(2/4)=2/3として比較する必要がある。グラフの上から3本目の青色線特性がその711系換算出力特性であるが、直上の緑色485系を上回る点はどこにもない。換算トルク特性で見ても同様に485系を上回る点はない。

 「鉄道データファイル」誌の711系紹介記事に「711系の高速域の加速特性が大変優れている」とあるが正しくない。実際は起動時の加速が減らない領域が485系の約1.3倍速まであるのは確かだが、上図の通り加速度そのものは485系より常に下回っており物理特性記述としては誤りである。711系はいわばディーゼルカーの電車化で、標準的加速度1.1km/h/sだから、起伏の多くない雄大な北海道の駅間の長い原野を駆け抜ける設計で、この低い加速度が比較的高速度まで一律に伸びているということである。
 また、MT54A型(及び交流車でのMT54E型)は弱界磁制御を行わないことで整流悪化を避けて375Vより高い500Vを定格電圧として使うので、それを更に弱界磁制御することはない。弱界磁制御とは供給電圧の限られる直流電化でより高速回転を得る技術と言って良い。交流電気機関車開発時に弱界磁制御が採用されたことはあるが、それも後の設計では一旦は不採用となって、後継機から復活しており、粘着力の限界を追求すべき機関車としての自由度だろうが、電車である0系には存在しない。電圧を上げて高速回転を得る方が簡単で高性能だから当然の方向だろう。

2006/09/16 01:30

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Last Update=2006/09/16   (2006/09/16)