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軸距と車体長の関係は?

 日比谷線中目黒事故(2000/03/08)で原因未解明の事故直後(3/16)に「200R以下の曲線出口緩和曲線部への脱線防止ガードレール設置通達」が出され、事故当事者である営団はそれより早く160R以下曲線出口に脱線防止ガードレールを設置し現場通過速度15km/hで運転を再開した。

 在来線の場合、カントは低位側のレールを基準として緩和曲線内で逓増・逓減する(新幹線はレール中心基準でカントを整備)から、この通過面の捩れにより輪重が変わり、静バランスでは曲線進入時には内側前車輪と外側後車輪の輪重が軽くなり、曲線脱出時には外側前車輪と内側後車輪の輪重が軽くなって、車体を傾ける動的バランスを加えると曲線脱出時の外側前車輪の輪重抜けが大きく効くことになる。

高速化検討委員会と鶴見事故
年月日#事項
63/08/16#29分科会(高速化検討委)
63/09/23#30分科会
63/11/0921:51:鶴見事故発生
約60km/h走行、曲線出口付近(=カント逓減部)でワラ1型脱線、2重衝突で死亡161
63:11/10:全2軸貨車車輪を「N型踏面」交換、フランジ角59度21分→65度、高26mm→30mm変更発表(高速化委員長宮地常務理事)
63/11/15#31分科会
64/09/08#32分科会
65年度:2段リンク改造5000両、廃車6000両
〜68年:2段リンク改造合計22,529両/全147,591両
(TDF特集などより)
対策=
  • 2軸貨車車輪踏面形状変更
  • 旧型車2段リンク化、廃車
  • ガードレール塗油器設置
  • 限界支障報知器設置
  • 当該ワラ1型貨車の軸距変更
  • ボギー台車の改良
  • 68/10/43/10ダイヤ改正 最高速度up
  • 分岐器高速化改良
  • 貨物一部線区75km/h←65km
  • 客車110km/h←95km/h
  • 電車120km/h←110km/h
  •  事故当時の報道では曲線全体へのガードレール設置通達と誤報されていて、後に事故調報告原文を読むまではこの誤報に気付かなかったのだが、脱線位置が曲線を抜け丁度30m長の緩和曲線に入ったところでレールに乗り上げて7m走行し脱線していることから事故調としては早い時期に緩和曲線でのカント逓減捩れを重要な脱線条件として認識していたことになる。

     原因不明論に近い「競合脱線」論が一部報道を賑わせていて、その言葉の発信源である東海道線鶴見事故(1963/11/9)を見ると、案の定!ワラ1型貨車が曲線出口付近で脱線したのが鶴見事故の切っ掛けとある。カント逓減部の捻れはこの時から避けられない重要な脱線要因としては分かっていて、中目黒事故ではまさにそこでの脱線だったから事故から8日後、詳細の原因究明前にガードレール設置通達を出せたのだ!

     さらにワラ1型については、その前に造られたワム60000類似車として事前の走行試験を省略して軽荷重時の不安定な走行特性を見逃し、鶴見事故に繋がったことを国鉄小倉工場長などを歴任した鉄道技術者故久保田博氏が2001/3/21刊の著書「日本の鉄道車両史」(p242グランプリ出版刊)で述べている。「新形式車両誕生の場合は、走行安定性などの…試験する。……ワム60000型と比べ軸距も車長も重量も近いワラ1型の走行試験をしていない………性能テストは実施すべきであったことが教訓として残された」という国鉄技術幹部の記述は実に重い。(その後も物損に留まった「競合脱線」はあり原因を詰め切れてはいないが久保田氏の著書「重大事故」での記述のニュアンスは「原因を詰め切れなかった=競合脱線、何か主要明確な原因があったはず」という色彩が感じられる)
     鶴見事故後の大規模な脱線実験で得られたデータに基づき線路にも車両にも様々な改良を行ったが、そのうち全2軸貨車を「2段リンク式」に改造し、改造不能の形式を廃車にした大規模な対策は、元々2段リンクであるワラ1型には当てはまらないのに「走行特性不安定の改良」として軸距延長工事を含んで実施されているのが永らく疑問だったのだが、どうやら2軸貨車一般の2段リンク化改造にワラ1型の欠陥改良を潜ませた疑いが濃い。そう思って、改良前のワラ1型の軸距を探しているが、45年も昔の触れられたくないデータはなかなか見つからない。しかしその走行では線路の不整点で大きくピッチングが起こるのが繰り返し目撃されて印象に残っている。

    貨車慣性能率・等価質量概算図  資料探しとは別に軸距と車体長の比率で「接地点からみた等価的な質量」を試算しておきたい。これがピッチング方向では実際の質量を上回り、ヨーイング方向でも実際の質量前後という、ピッチングでも起こせばP/Q比不安定というのが2軸車の実態なのだ。(右下表&グラフ)
     積み荷によって状態が変わるから、重心を通る密度一様の棒で車体を近似(右図)して片側の接地点である支点廻りの慣性能率を求め、作用点であるもう一方の接地点から見た質量に換算、それを静質量M/2で無次元化(正規化)という手順で概算(左枠)する。

    慣性能率・等価質量概算
     計算結果として興味を引くのは、車体長が軸距の√3倍で方向転換に対する等価質量(ヨーイング方向:旋回方向)と、重量分担に係わる質量とが等しくなり、それ以上長い車体では脱線係数を上げて好ましくないことが判り、現実の2軸貨車の寸法もこの付近に集中していることである。ワム70000などは車体が長めでワラ1の不安定と紙一重であることが推定される。

    各車種の全長・軸距比
    無印:貨車形式図面集ジェイス刊,連結間800mm
    ※日本の鉄道車両史グランプリ出版刊
    車種全長L軸距WL/W(L/W)2
    ワム600007,0503,900 1.80763.2674
    7,100?1.8205※3.3142
    ワム700007,0503,9001.80763.2674
    ワム800008,8505,3001.66982.7882
    ワラ17,240
    改造4,1301.7530※3.0730
    旅客
    ボギー
    207系19,50015,4001.26621.6033
    2000系20,80016,0001.30001.6900

    但しピッチング方向の慣性(=青色)は
    重心高1,700、車体長7,240として計算
    2軸車両は元々ピッチング方向が不安定.
     実際の質量分布は一様ではなく両端妻
    面に質量が集中しているので、等価質量
    は上図の計算値よりその分大きくなる.
    軸距は車体長の1/√3以上は必要なのだろう

     ピッチング方向はさらに[重心高^2×質量]が慣性能率に加わり、振動を激しくしその負側の極で輪重を小さくして緩和曲線でのカント逓減捩れによる輪重減少の影響を大きくしている。(等価質量グラフのピンク線と、青線参照)。ピッチング方向の等価質量が2を超えると反対側の車輪が浮く可能性が強いということだから、軸距が1/√3≒0.5774でも縦方向の等価質量が1.331で輪重減少への影響は0.331と少なくない。
     振動解析が高速旅客車両に留まっていた時代のこととはいえ、明快な根拠なくワラ1型の実車試験を省略しなければ把握できた可能性の高い欠陥だったから残念という他ない。逆に見ればボギー車が走行振動では脱線しにくいのは当然だ。軸距比の大きいワム80000だけが今も新聞用紙ロール運搬列車として残されている理由も只パレット貨車で荷役が楽と云うだけではなかったと納得できる。


    2007/08/26 23:55
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