ロータリー車の必要動力 試算  #22

  鉄道除雪のロータリー車は、マックレー車で線路上にかき集めた雪を線路から最大50mも吹き飛ばすとされているが、除雪速度5m/s=18km/h前後くらいまでとして、どの程度の馬力が必要か、またその反動力などを試算してみたい。
DD53除雪車諸元
      DD53型 紹介記事では、
  1. 除雪に2,200馬力、
  2. 最高作業速度20km/h、
  3. 毎時10,000.トン〜14,000.トンを除雪、
  4. 除雪幅最小3.5m、
  5. 過大出力のためか(?) 3両建造で打ち切り。
    • 北海道では補機なし単独除雪で運用、除雪よりも補機や主務機として使われる方が多く、
    • 新潟では上越新幹線開通で出番がほとんどなくなり、
    • 山形でも民営化時に車籍が引き継がれず廃車となり鉄道文化村の展示物となった。
  6. 上越特急全廃後は低速・小出力だがそのまま折返し運用できるDD14除雪車の背中合わせ運用の方が好評だった。

  検討のきっかけはTDF#160号記事で、検算するとこれまで抜粋して批判してきた原理・構造解説記事に比べてライター自身による根拠のない作文がなく、なかなか正確。おそらく担当ライターが違うのではないだろうか。

     試算手順としては
  1. 投棄距離、最適角度と必要速度
  2. 投棄仕事率
  3. 投棄反作用、打撃
といった手順で試算して具体的動作を推定できそうだ。

  1. 投棄距離、最適角度と必要速度
     投棄速度
     投棄角度θ ………(0<θ<π/2
     重力加速度g=9.8 [m/s2]
     時間t  とするとき、
     投棄速度水平成分Vh=Vcosθ …… (1)
     投棄速度鉛直成分Vy=Vsinθ−g・t …(2)
     高度H=ydt =Vsinθ・t−(1/2)g・t2 =t(Vsinθ−(1/2)g・t) ………(3)
    投棄して、高度ゼロの点が、投げだし点と着地点だから(3)式より
    0=0、(投げだし点) or  t0=2Vsinθ/g  (着地点)………………………(4)
    その時の水平距離Lは(1)式×(4)式t0だから
     水平距離L=Vcosθ・2Vsinθ/g=V2sin(2θ)/g  ……………………… (5)
     角度θの値域:(0<θ<π/2)から、2θでは(0<2θ<π)だから、
     sin2θの最大値が、θ=π/4=45度で1、∴Lmax=V2/g となる 。……(6)
     Lmax投棄するために必要な速度V=sqrt(L・g)  ……………………(6)’
    放物線
  2. 投棄仕事率
     除雪幅W
     除雪深度D
     雪比重S
     雪密度ρ=1,000S
     走行速度v  とするとき
     投棄量M=ρWDv ………………… (7)
     投棄仕事率E=(1/2)MV2
              =(1/2)ρWDvV2 ……(8)

  3. 投棄反作用、打撃
     単位時間あたり(7)式の質量Mを(6)'式の速度Vで投棄するのだから、
     平均加速度α=V
     投棄力F=Mα=ρWDvV ……………………………………… (9)
     水平投棄力Fh=Fcosθ ………………………………… (9)’
     垂直投棄力Fy=Fsinθ ………………………………… (9)''
     投棄された雪を受ける側も同等の反作用が予想される。
    除雪
  4. 実値試算
     雪比重S=0.2
     除雪幅W=3.5 [m]
     除雪深度D=1.0 [m]
     投棄距離L=50 [m]
     投棄角度θ=π/4 (45度) と仮定
     走行速度v= 0〜20 [km/h]= 0〜5.5555 [m/s] とするとき
     投棄速度V=sqrt(50×9.8)=22.14 [m/s]=79.69 [km/h]
     投棄量M=0.2×1,000×3.5×1×v=700v [kg/s]
           =2520v [ton/h]=700v' [ton/h]
     試算M(0.2S, 3.5W, 1D, 20km/h)=700×20.0=14,000. [ton/h]
     投棄出力E=(1/2)700vV2=0.5×700×5.5555×22.14^2 =953 [kW]≒1297 [PS]
     投棄力F=700×5.55555×22.14/g=8.7857 [ton]
    限界角  水平投棄力Fcosθ=6.2124 [ton]
     鉛直投棄力Fsinθ=6.2124 [ton]

     以上の試算数値は記事の諸元とオーダーが一致する。妥当。
    【試算例】:ロータリー:4枚羽、直径2000mm、長さ1740mm、回転数202rpm、回転中心高1250mm(p160-6C3〜4)より周速Vを求めると、
    V=2π・202/60・2/2=21.15m/s=76.15km/h
     この値は先の試算値79.7km/hとほぼ一致する。(−4.4%なのは想定の投出点高さと横位置、落下後の静止距離などを加えて算出しているのかも知れない)。

 出力については、投棄分1297PSだけでなく、雪塊送出摩擦や線路両側から羽でかき寄せて飛ばすから、2200PS(1617kW)は適切な値。

 記事にない値として、雪を飛ばすことの作用、反作用で最大 6トン余の横圧を生じ、また、投棄した雪が構造物に当たると5m余の幅にほぼ同値の横圧力を受け、落下方向では9トンにも達する圧力を受けて破損する危険性がある。これはロータリーで投棄する場合には共通に起こる現象であり除雪速度に比例して大きくなったものである。上越新幹線は融雪構造で積雪を防いでいる訳で、在来線も構造物脇は雪を飛ばせないのだから、そこは超低速で構造物の応力を抑えて運行するか、運搬・融雪で凌ぐ必要があることを示している。

 「出力が過大だ」という非難は、頻繁な特急運行に備えて空前の最高速度20km/hで除雪しようと定められた仕様を無視し、トラブル多発の線路脇構造物部分でロータリーとは異なる必要な除雪措置を採るか安全速度まで下げる措置を取らずに漫然と非難したもので、適切な非難ではない。従前なら5km/h以下だから排除した雪がぶつかっても破損しなかっただけの話だ。
 北海道の雪は低温のため溶けて再凍結がなくサラサラで軽いことは最初から予想され、それに対しては最大出力を発揮する機会がなかったのではないか。
 新潟の雪は何度か再凍結を繰り返して湿って重く、質量比例以上にパワーを必要としたはずで、特急運転を確保するには有用だったはずだが、構造物部分の別対応がなかったことで起こる当然のトラブルの責をロータリー車が問われたようだ。
 新幹線開通後のDD14プッシュプル方式との比較では、5km/h以下で運行とスローだから構造物損壊事故も起きにくく、両方向で使えたもので、使用想定が違うものを非難できない。速度を1/4に落とせば横圧も1/4で構造物破壊は大幅に減る。また列車本数も新清水トンネル単線で済みそうなほど減って、除雪作業を急かされなくなった。

 結局、最適運行状態を詳細に検討されないまま、不適切な場所でのフルパワー運転で必然のトラブルを起こしたことで「過剰出力」のレッテルを貼られて捨てられた悲運の高性能除雪車ということになる。


[補足/追記]
 TDF#198号DD14型除雪車記事にこのDD53型を引き合いに出し(=p4トップ)「あまりに高性能すぎて一般住宅を破壊するなど………、列車頻度の少ない支線ではDD14が適切………」などと、まぁ順当な位置付けとなっている。問題の本質は、設計とメンテ、運用は切り離すべきではないということだろう。L特急ときの走行に支障ない除雪能力を求められての超大馬力で直接雪塊をぶつけられたら木造家屋などひとたまりもない。その高性能が上越新幹線開通でもてあまされて廃車というのは悲運の高性能除雪車だ。('07/12/15追記)
2007/03/21 23:30

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Last Update=2007/03/21   (2007/03/21)