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Geo日記
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[130]. かなりマニアック!
   「泥水加圧シールド工法」

 間違い探しの楽しみで売れる「鉄道データファイル」誌#128号の「鉄道用語辞典」に「泥水加圧シールド工法」という実にマニアックな項目が表れてまたも中途半端で微妙な解説をしている。鉄道書なのだからここはオーソドックスに「シールド工法」の解説をして、その中に「加圧シールド工法」や「泥水シールド工法」を説明すべきではなかったか。マシンによる掘進直後からトンネルを支えるリングについて触れずに、それを構成するセグメントだけ触れても門外漢には訳が分からない。

 鉄道トンネルとしては京浜急行羽田線トンネルの天空橋駅先の800R手前〜羽田空港駅手前両渡り付近までがこの泥水シールド工法で掘進されたが、一般に「加圧シールド」というと数気圧に加圧した潜函を設けて湧水を抑える工法を指し、営団地下鉄東西線の下町軟弱地盤地帯や東北新幹線御徒町付近の掘進工事で用いたが、羽田トンネルは潜函を用いず常圧で掘進されており、これを「加圧シールド」とは呼んでなかったから、この記事の「加圧」がたとえ切羽の崩落土圧を泥水圧で抑えることを指していてもひどく抵抗感があった。加圧シールド工法が潜函式を指していた慣行とぶつかり必ず誤解と混乱を生ずるからだ。

 羽田空港の現場はその「沖合い展開」工事関係者が「マヨネーズ層」と名付けたほど水分の多い酷い泥濘地で、地盤改良に様々な技術の粋を尽くし、地中深く砂の柱を多数作る「サンド・ドレン」とか、紙の柱を埋める「ペーパー・ドレン」とか、その上に数m余も土を盛ってその重みで水を押し出して地盤を固めるなど大変な難工事だった。ドレンとは排水パイプである。開腹手術後に体内に溜まった体液を外に出すドレンと呼ぶ管を付けるがそれと同じだ。この軟弱地盤でのトンネル工事で切羽が崩れないために泥水注入の水圧で土圧と釣り合いを取る「泥水シールド工法」が採用された。
 掘進はカッターであり、これにペーパードレン工法の「紙」が絡んで動けなくなってえらい目にあったとか。だからこの現場では本の解説とは違い高圧水の衝撃で掘ったわけではない。泥水シールド工法というのは泥水圧がないと切羽が崩れるような軟弱地盤で用いられるのだから、水中ジェット方式は有り得るが石炭の高圧放水掘削の様な掘り方は元々できないのだ。
 また「セグメント」というのは「シールドマシン」の直後で円筒形の「リング」を構成して掘ったトンネルが崩れないようにするためのもので、いきなりリング丸ごとを嵌められないから分割して「セグメント」で供給しリングに組み立てるものであり、最近は鉄筋コンクリート製だが、営団地下鉄東西線などでは鉄製セグメントだった。総武線東京トンネルも後でコンクリートを巻いたが掘進時は鉄製セグメントではなかったか?リングと地盤の間には土などを詰めて固定している。
 「シールドマシン」はこの「リング」を足場にその全周に多数の油圧ジャッキを配して前面の回転カッターが地盤を削って1リング分ずつ前進し、セグメント1個分のジャッキを縮めてはその手前のリングにセグメントをネジ止めしながら順次全周を組み立てて新たなリングを構成する。

 「加圧シールド工法」は3気圧程度加圧して切羽の湧水を抑える工法だが、減圧を急いだり体調不良だと血管内に気泡を生じて梗塞を起こす潜函病が付き物で現場からは嫌われた。
 加圧シールド工法だった秋葉原駅北側の東北新幹線御徒町トンネル工事では、シールドマシンが地中障害物に当たり、その除去工事で停まった1ヶ月の間に地盤が乾燥してしまい加圧された空気がトンネル上の土砂を吹き飛ばして大穴を開け、運悪くそこに居た車数台を転落させてしまった。あの事故は落盤事故ではなく破裂・吹き飛ばし事故だった。工事が止まった時点ですぐに地盤凝固剤を周囲に注入していれば充分避けられた事故だったが、担当したK組が安上がりを求めて手を抜いたものか、現場担当者のポカかいまだに判然としない。あの事故の原因究明で日本中のシールドトンネル工事が2ヶ月ほど停まった。その間、周囲に地盤凝固剤を注入したのだが過密運行の鉄道下を掘進中の某現場は目一杯注入して固めてしまったので工事を再開したら通常の倍圧の最大圧で掘っているのに凝固剤で固めた場所を抜けるまで数日間にわたりビクともしなくなっていたとか。普通の地盤なら1リング1mを1時間前後で掘る。1日24時間で10〜15リング掘れればかなり順調だ。
 シールドを止めた障害物は当初、在来線ガード橋脚基礎と伝えられたが、地下鉄トンネル掘進準備に埋設されたコンクリート壁という情報もある。

 尚、解説に「設備の製作・搬入に膨大なコスト」とあるが、トンネルが貫通すれば基本的には全部分解して運び出して次の工事に使うので、分散されて1工事だけのコストにはならない。トンネル外に持ち出せないのはシールドマシン本体の大筒だけであり、両方から掘って貫通後の筒部はトンネル脇にそのまま埋設されていることが多い。費用を掛けて掘り出す意味がないからだ。

P.S.
羽田沖軟弱地盤の「マヨネーズ層」という命名はマヨネーズ業界から激しくクレームがつき、公式には言わないようになったとか

P.S.2 震源は営団地下鉄!?泥水「加圧」シールド

 営団地下鉄東西線葛西駅下の「地下鉄博物館」に歴代シールド工法史の展示があったが、この中の写真に「泥水加圧シールド」と表記されたマシンを発見。ここが「加圧」の震源だったのか!?ところがこの展示には東西線隅田川下付近の軟弱地盤を掘った本来の加圧シールド工法の展示は無かった。当時のリング(ゼグメント)は鉄製で鉄筋コンクリートではなく、難工事で潜函加圧だけでなく凍結工法を使っていたはず。同時期に施工の総武快速線東京トンネルも同様の鉄製セグメントだった。「博物館」と言うからにはそういう歴史的なエポックにも力を入れてもらいたい。まして当の東西線駅直下の博物館ではないか。営団の現場事情は分からないが、多数の労災を出した潜函工法は消してしまいたいのだろうか?('07/10/追記)

P.S.3: See→ 岡山海底トンネル事故    <2012/02/17>

2006/08/05 16:30
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