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[95].訂正「なぜ福知山線脱線事故は起こったのか」
   著名鉄道ライター川島令三氏の勘違い集  
(前半=[81])

  先に川島冷蔵氏の「ボルスターレス台車原因論」批判を日記81に記しましたが、その著書「なぜ福知山線脱線事故は起こったのか」に対し元国鉄小倉工場長などを歴任した鉄道技術界の大御所、久保田博氏もRJ誌12月号にかなり厳しい批判文を掲載。
  先日(11/16夜、新宿紀伊国屋で)入手した現物を斜め読みしますと、あまりに不正確な記述や誤りが多くて、誤解を前提に論じてる節は語句や行訂正では済まず原理的総論的解説を加えるなどして丸ごと書き換えないと訂正できないものが多く、久保田氏の先の文面に垣間見える強い怒りが納得できました。
  川島氏の強調する「133km/hまでは不転倒のハズ」説は、70km/h制限箇所で108km/hで転倒している事実と、唯一の拠り所であるボルスターレス台車原因論の撃破で吹き飛びますが、誤解によるもので公益に実害を与える主張は「速照機能を持たせたATS-SWは安全面ではP型と何ら変わらない(P82後L4等)」というデタラメ迎合発言です。特定地点だけに設置する速照ATSと、全閉塞に設置する信号ATSの違いに気付かない暴論で、現実には早急に必要な信号ATSへの速照導入改良を妨害するものとなっています。どんなに注意していても間違いが起こるのはやむを得ないのですが、きちんと理解しないまま書いていてその誤りを無くす努力が全く感じられないどころかベストセラー本の著者のステータスで、誤謬を著書にまでされて、その訂正表が出る見込みは全くなく、今後の報道の基盤にされてはたまらないので、先のボルスタレス台車原因論批判に加え私なりに叩き台として追加訂正をします。非鉄分野の当方がいくつか間違えていて晒されるリスクは承知の上です。ここの記載に間違いがあればすぐ訂正加筆しますので是非ここのリンク先まで連絡下さい。あるいはBBSへの投稿をお願いします。

 0.【ボルスターレス台車原因論】への反論リンクは日記81('05/08/22)

  1. ATS関連の誤り
    • 信号ATSと過速度ATSは役割が別物
      信号ATSは衝突防止に赤信号突入を避けるもの
      過速度ATSは転倒や過走衝突を避けるためのもので、信号現示に直接制御されるものではありません。(過走防止は停止点が現示で決まるから間接影響)
      ATS-SWでもATS-Pでも過速度ATSがないと転覆脱線は起こります.当初、総ての報道がここを間違え、NHKなど番組内の専門家が正しく解説しているのを無視して誤報を続けるなど、未だに訂正されてないものがほとんどです.
      (この認識は「番組で説明したが編集でカットされた」と記述.番組では川島氏が著書でも強調した133km/h以下不転倒説と併せこの「ATS-P換装で転覆が避けられた」という誤謬も氏の主張だと思えた)

      【ATS-Sx関連】 S地上子結線図
    • 変周式の構造と動作
       ATS-Sxの基本構造である変周式というのは、地上子がコイルとコンデンサーの共振回路で、このコイルに車上装置の結合型発振回路の一部を構成する2つの車上子コイルが一種のトランスの様に電磁結合して、車上の発振周波数を地上子の共振周波数まで引き上げる動作をしてこれを検出することから「変周式」といいます。発振は車上のみで地上子が発振するのではありません。
       車上の発振を地上子(LC共振回路)で変化させて何種類かの発振周波数をフィルターで検出して異なった情報を伝えます。車上子の定常発信周波数のフィルターがあり、ここに信号が出て来ず検出リレーが落ちれば警報か即時停止のコマンドを受信した訳で、ATS-Sn区間で即時停止123kHzを受信しても-Sの車上装置がそのまま警報を発します。
       変周できる周波数範囲とフィルターの分解能で最大情報数が決まりますが最高130km/hで通過して拾えるためには分解能はあまり上げられませんから伝える情報量が限られます。

    • ATS-Sxの機能(詳細解説:SW=SS=SK=SF≒ST)  (P79)
       ATS-Sxは3種類の安全装置の集合体で、以下の機能があります。
      • 警報地上子:130kHz/129.3kHz共振:S型のロング地上子。'66/4全国整備の1方式
        約600m手前で赤信号を警報.確認扱いで無条件クリア.
        国鉄時代に列車検知コイル・地上タイマーと組んで「分岐器過速度警報装置」として55km/h制限以下に設置
      • 非常停止地上子:123kHz共振:SN型即停地上子。出発信号、場内信号直下に設置.67kHz高減速車信号を導入し車種別切替.88/12東中野89/4北殿事故で'89〜順次付加.
        列車検知地上子・地上タイマーと「分岐器過速度防止装置」を構成
        動作電源が必要で、尼崎事故までは過速転覆事故を3度も繰り返した函館本線大沼付近を除き曲線速照には使わなかった。
      • 速度照査地上子:速照専用として108.5kHz共振:ST型時素速照地上子対。任意位置に置いてその内法の通過時間が0.5秒(貨物0.55秒)以内で過速度として非常制動。「分岐器過速度防止装置」としてSでは無防備だった60km/h以上の制限速度に対応。すぐ過走防止装置に転用.'90以降順次導入、但しATS-SN/-Sn(北海道、東日本)ではこの機能を増設していません。このSTから列車番号通知機能を除いたものがSW=SK=SS=SFで保安装置としては同一のものです。
      S地上子元結線
      電気検測車対応↓
      S地上子車上検測対応結線
       すなわち、ATS-Sxの改良は従前機器をそのまま残して2機能を付加したもので、一般閉塞信号はATS-S時代のままで、総合試験車対応改良(=不動作時にも共振回路を構成)以外は全く手が加えられていませんからATS-Sx化は(一部受信部を除き)別の装置に換装するのではなく増設です。
       従って総てのATS-Sx系地上子は元々電源は無用ですからATS-S/Sx系にことさらの「『無電源』地上子」というのはありません。地上タイマーを必要とするS/SN速照装置に動作電源が必要なだけです。
      すなわち無電源地上子はP型のものです。「地上子はその電波の周波数を変更して反射させ、それを車上子が感知する(P80L1)」様な訳の分からない動作はしていません。また「注意信号での速照(P80L7)」はなく、「赤信号での速照」は過走防止装置が設置されていればその動作として行われますが、基本的には場内信号と出発信号直下地上子の非常停止があるだけで信号ATSに速照はありません
       ATS-SN には元々分岐過速度防止装置として123kHz非常停止地上子と地上タイマーを使った速照機能があり、JR北海道が尼崎事故を機にそれを曲線速照として設置を決めたもので、今回新たに速照機能を加えたもの(P82L6)ではありません。「SX化が必要(P93L1)」という記述は信号ATSと速照ATSが混同されて意味不明です。


      【ATS-P関連】(参考詳解)
    • ATS-Pの伝送値、観測値、算出値、基本原理
      1. ATS-Pの動作の基本は停止限界点(信号位置)など目標位置を基準として、自車の常用減速力と勾配と現位置から限界速度を算出して強制制動を行うもので、氷結など特殊事情の障害がなければ過走は起こりえないことが最大の特徴で、更に安全度を落とさずに列車間隔を詰められ線路容量を増やすのでJR東日本では一部ATC区間をATS-Pに換装したり、新在ATCにもATS-Pと同じ位置基準速度照査方式を導入したDS-ATC/D-ATCへの換装が始まっています。
      2. ATS-Pでの地上から車上への伝送値信号コマンドでは目標点までの距離と平均勾配が主値、速照コマンドではその種別と速度制限値、開始点までの距離、制限区間長が主値であり、車上の観測値としては速度と走行距離、算出値としては目標点までの距離(=位置情報−走行距離)と制限速度です。等加速度運動とみなしての単純計算では位置毎の制限速度が放物線状となりこれをパターンと呼びます
      3. 信号コマンドは常に3閉塞先(青信号時にあり得る直近の赤信号位置)までの距離を車上に送る動作をしています。この距離から算出される限界速度が設定した最高速度を下回ればパターン発生、次の閉塞位置までの距離に更新されれば、新たな速度制限値に更新されます。
      4. 先の閉塞区間が空いての現示アップは、地上子から停止位置距離の更新として伝えます。地上子は閉塞信号で4基、場内信号で6基が標準で、8基(3ビット識別)まで設置可能です。(表と略図参照)
      5. 尚、JR西日本が採用している「統合型P地上装置」では車上から地上への情報を受信できる地上子は各信号の最内方の1基だけで、他の地上子は送信機能だけです。
         JR東日本のATS-PN地上装置には現在、受信機能が全くありません(車種別速度制限は、JR西日本が許容不足カント毎の+α部をコードに割り付けて拡張しているが、曲線制限規則そのものの理解に齟齬があって、更にコード拡張部が支社には伝わらず尼崎事故後の調査で73%も設定ミスが発見されました。曲線速度照査の義務づけによりJR東日本も採用を決めました。要所に受信・処理装置を設置して条件論理に噛ませることが必要:現在製品はなく新規設計要。(この方式は不使用:07/02訂正)。
         地上子設置位置の受信値から受信後の走行距離を引いて距離情報にすることを「赤信号(停止点)までの距離を算出(P94後L1)」と記している様です。

    • 無電源地上子とは、動作電力車上供給型地上子
       ATS-P地上子の動作には電源が必要ですが、これを車上から電力波(245kHz)として供給して動作するものを「無電源地上子」と呼びます。当初は曲線・勾配速度制限や行き止まり過走非常停止など固定の1コマンドだけでしたが、ATS-PNでは最大5種をリレーで切替る制御方式(ATS-Sxと同じ)にしてATS-Pシステムそのものをコストダウンしました。リレー切替だからといってSN型地上子と同様(P93L7)」ではありませんし、また「停電対策のバックアップ(P96L7)」でもありません。

    • ATS-PNATS-Pそのもの。地上でのコマンド作成法の違いだけ
       車上からみたATS-PNATS-Pそのもので、車上から地上への通信が無いため中間現示アップや踏切制御には対応しませんが、基本型ATS-Pが各地上子の諸定数をROMに持って制御コードをエンコーダー(符号処理機:一種のボード・マイコン。信号機毎に1基)で作成して各地上子に送って車上に渡していたのを、ATS-PNでは各無電源地上子のROMに必要な制御コードを総て(最大5種)準備しておき、リレー条件でコードを選択して送信するよう構成を簡易化したものですから、車上で受け取るコード<TBL-1>自体に違いは全くありません。
       同書のATS-PN解説は、PN地上子がSx地上子と同じリレー制御であることだけに着目して、車上に送るコマンドはATS-Pのものであり、Sxコマンドとは無関係であることを見落として、更に地上子の無電源たる所以を知らず、加えてATS-Sxの完全上位互換のATS-Psの動作も誤解した上、それと混同して書いたものでしょう。進行現示でも停止予定点距離を送信することは変わりません(P93後L2)

    • 取消地上子/パターン発生地上子
       ATS-P(-PN)では、信号地上子が車上に送る有効使用データは停止限界点までの距離と平均勾配だけです。信号現示に対応した赤信号位置があり、地上子は自身の位置からそこまでの距離を送るだけで、あとは車上の演算に委ねられます。だから総ての地上子が機能としては更新地上子であり、実機能としてはパターン発生/取消という区別はありません。但し直下地上子だけは例外コマンドがあり、赤信号時に距離ではなく非常停止コマンドを送ります。開発コンセプトとしての名称をそのまま引きずっていて、総論的説明もそのまま訂正されずに残ったのでしょうが、地上から位置情報を与えて車上演算に委ねる方式に統一した時点でその呼称も改め、更新地上子、最外方地上子、直下地上子とでもした方が理解しやすかったと思います。熟読すれば正しく理解できたとしても、ATSテキスト総論解説部にこうした落ちがある以上それを直に引用した著者に指摘しても酷なのかもしれません。「Pに絶対停止がない(P98L6)」は当然誤りでコード01H(、03H)が絶対停止コマンドです。
       一方、ATS-Psでは文字通り「パターン発生地上子(群)」「取消地上子」ですし、分岐以外の速度制限終点には解除地上子対が必要です(制限区間長を車上に送っているPには解除命令無用です)。パターン取消地上子共振周波数は103kHzですから各信号地上子の待機状態がこの機能を受け持ちます。(P97図の取消108kHzなど動作説明は間違い)

ATS-P地上子設置図
<TBL-1>
ATS-P地上子送出距離DATA[m]例
L1=350、L2=250、L3=300
L1+L2=600、L1+L2+L3=900
現示地上子 備考
T30T85T180 T600(閉塞信号配置)
93098510801500 +L1+L2+L3
YG6306857801200+L1+L2
380435530950+L1
非常85180600基本値
直下先頭 直下で絶対停止cmd


 信号現示に応じて各地上子からはこの表の値を距離分解能の4m単位に丸めた値が送信されるが、その設定値ROM
標準型ではエンコーダに内蔵して各地上子に送信、
ATS-PNでは無電源地上子に内蔵されている.
 車上側で見れば-P/-PNは同一信号である。(P93後L3)


    1. 車種別速照機能
       SN化改良により高減速車信号(車上より67kHz送信)を加えたため、Sx/Psでは速照値を2段に切り替えることが可能になり、またATS-Pの速照を車種別にする機能拡張を高速化追求のJR西日本が行っていて、報道される限り3種類の車種別速度設定が行われている(このJR西型P拡張は末尾の線区駅名コード10ビットを廃してここに許容不足カント別に3bit,3bit,2bit,2bitを割当て+0km/h〜+35km/hを定義,JR東もコードとしては採用)。報道の速照設定ミス(11/02)は、どうやらこの設定拡張部の値を集中的に間違えて設定した(曲線速照129箇所でミス94値)、すなわち制限速度を算出した支社輸送課が適用規則を間違えたものと思われ、これは高速化の特例規則制定以来のものがATS-P速照の車種別設定で顕在化したものと疑われます。JR東日本では車種別のP速度制限機能は採用していませんが、JR西方式でROMを焼き直し,車上のソフトを換装する改造を看板列車には施すでしょう.たとえPNでも車上信号の受信部を設置してROM選択論理部に噛ませれば車種別制限の実施は可能(=不採用,JR西方式採用決定06/05/07加筆)です。従前、曲線制限はほとんど設置していませんし、分岐制限は一律で車種別ではないため車種別の機能は求められなかった様です。
       なおJR西日本の「ATS-P2」というのは、車輌床下のATS-Pケースに明記されていることをみても一部に伝えられる「拠点P」(=地上装置の設置方法の1)ではなく、JR西日本が再設計したATS-P受信装置でしょう。3ビット程度の車種コードを地上に送る程度の変更は最悪ROMデータの更新などで出来ますから別機能のP受信装置ではないと思います。現状でも車輌の減速度により低00、中01、高10、(未11)というコードを送り現示アップなどの制御に使っています.

    2. ATS-Pは非常に信頼性が高く乗務員に頼られる装置ですが、そのことが逆に、動作保証外の特別な運転条件での危険性を高めます。
       一つは無閉塞運転で、Pは赤信号区間進入50mを過ぎると15km/h制限が解除され、先行列車への進行信号を受信しますので鹿児島線宗像海老津事故('02/02/22)や沼津片浜事故('97/08/13)と同様の錯誤(前列車への信号を自車のものと勘違い)を起こしやすく、先ずJR東日本では片浜事故後の'99年2月以降、輸送指令の在線確認と許可のない無閉塞運転を禁止した「閉塞指示運転」に改め、同年と翌年JR北海道と四国が追随し、更に片浜事故対策を放置した九州での宗像海老津追突事故(2002/02)以降残る全JRが同様に指令の許可のない無閉塞運転を禁止しています。(P98L2)。進入50m先から速度制限が青天井になる現状のATS-Pでは無閉塞運転を絶対に認めてはいけません。京成・京急などの1号型ATSの様な信号電流検出車上子を持っていて信号無電流を一律15km/hに制限していれば別ですが、ATS-Pにはその機能はありません(付加しても大した費用にはなりませんが)。この点についてJR東日本は宗像事故前に進んで「閉塞指示運転」採用という大変妥当な措置を採りました。
       もっと積極的防御としては、無閉塞運転を開始した場合(不感ボタン+直下地上子or冒進)、次の区間の直下地上子を過ぎるまで15km/h制限を保持する車上ソフト改修を行えば解決します。JR西日本で拡張した許容不足カント情報を採り入れる際に同時に改修すれば改修費用は要りません。

       もう1点は降雪、結氷などで制動力が落ちてATS-Pが予定する制動パターンをクリアできない場合は過走・冒進事故に至ります。この場合も、人の判断で最高速度を抑えて、早めの制動で運転する必要がありますが、分割民営前後の国鉄JRや、現在のJR西日本の様に遅延で問答無用の処分が行われる様では安全が担保できません。今年冬(05/02/02)の関空特急はるか過走冒進事故は降雪中に120km/h運転をしていて場内(=拠点P)の赤信号で止まりきれず260m冒進してホームに掛かって停止した事故で、先行の出発列車があり、逆方向出発など条件次第では衝突の危険も考えられる状況でした。同日、湖西線でも同様の降雪下の冒進事故を起こしていますから、JR西日本がATS-P下での衝突事故の先鞭を付けかねない状況です。両事故とも氷結を防ぐ「耐雪ブレーキ」は扱っていて起こりました。

    3. ATS-P換装時は貨物などP未搭載車のためにATS-Sxはそのまま残されます。それは拠点Pか全面Pかに依りません。JR西日本が尼崎事故直後、6月からのATS-P切替予定を強調して風当たりを弱めようとしましたが、SWの速照のない現場に新たにPの速照だけが設置されることはありません。「P化で転覆は防げた」と併せ2重のシロート騙しです。JR東日本でもATS-Pだけなのは京葉線の西船橋以西だけで他はATS-Sn併設だと思います。総武中央緩行車輌にはPしか搭載していませんが、線路には所々Sロング地上子を見掛けます。あれは動作してないのでしょうか?

    4. PN設置箇所は「首都圏(P94L3)」ではなく、首都圏「周辺部」です。千葉以南、高尾以西、大宮以北、…………。首都圏の地上設備は1型京葉のほか、東中野事故を承けた2型〜4型が多数。本の地図(P103)では蘇我以南をPNとしていますが千葉以南から地上子形状が明らかに大きめで電力受信機能のある無電源地上子=PNと思われます。

    5. 閉塞区間入口という地上子設定基準(P95後L3)はありません。最外方約600m手前が基準で、下り急勾配で伸びることもあるでしょう.閉塞区間長が設置距離より短いと手前閉塞区間の地上子で代行されて省略されます。

    6. ×宝塚までは完全Pでは?  ○拠点P:訂正追記06/05/10
       尼崎−新三田間を「拠点P」にしたとありますが、報道では事故現場にSW速照とP速照が設置された様ですし、尼崎から宝塚までは完全Pの地上子配置だったが車上操作の煩雑さを避けて東西線のみ尼崎で併用モードから自動切換モードに切替=東海道本線入線車はSW/P併用のまま操作せずという報告も寄せられて居り、拠点PのS区間はSW速照だけで、P速照は設置しないはず。確認が必要ですが宝塚−尼崎間の地上設備は×完全P拠点Pで、非搭載車向けにSW併設でしょう。
       事故後の経緯を思い起こせば、国交相がP換装を福知山線の再開条件にしたため、事故前に予定した拠点Pでは閉塞信号区間としてP休止になる(信号Pのみ休止か)事故現場にはSW時素速照しか設置しないので、事故地点にP速照を設置するためそこを含む区間だけ全面Pにしたのかもしれませんが、車輌側がP/SW併用(=拠点P)モードで運転していてはP速照設置の意味が薄れます。どうも大臣の顔立て全面P区間の臭いがします。東西線乗入車は宝塚でのモード切替にする方が良いと思うのですが、東海道線乗入車が宝塚と尼崎2箇所での切替となるのを嫌っての措置の様です
        訂正:ATS-Pの休止とは,待機状態を指す様で,一般コマンドを受け付けて照査動作を開始,動作終了で自動待機となり,動作終了のない信号ATSのみ休止コマンドで待機になる模様。それならATS-Sx区間に突然ATS-P速度照査地上子があっても並列的に動作します。「休止コマンド」がATS-P全機能(信号と4種の速度制限)に係るものと誤解していました。06/05/10

    7. トランスポンダ=応答装置
       元々の意味は「応答装置」で、問い合わせ信号を送ると呼応して回答を送るものです。航空自衛隊の主力戦闘機をF86FからF104Jに換えるときにトランスポンダ≡「敵味方識別装置」として、味方の識別信号を送って所定の応答がない標的を敵として撃墜する識別装置として一般社会に伝わった言葉です。当時の火器管制装置の動作範囲が約80kmに対して、双方が2.4マッハで接近すると、わずか50秒弱ですれ違ってしまい、肉眼で10km先の航空機を発見しても15秒ですれ違ってしまい空中戦どころか敵味方の識別すらできないための問い合わせ−応答型識別装置です。このトラポンは今は旅客機に搭載され管制塔のレーダー画面に便名などを送り返して安全運行に寄与しています。
       しかしATS-Pの動作を子細にみても、ATS-Pの現示アップ動作はエンコーダ間通信により手前区間のエンコーダを通じて車種別情報を得て動作して居り、「即時応答動作」は使っていませんので、現実にはデータ量の多さを除けばATS-Sx系での双方向通信と変わりはありません。せいぜいエンコーダ(EC)が各地上子の中継器(レピータ:RP)に問い合わせるポーリング動作の順序を列車通過後に後に変える程度です。これは地上子に「トランスポンダ」と呼ばれる製品を使ったということで、ATS-Pシステムにその即応答機能を使っているという意味ではないのでしょう。ATS-Pの通信規格でも80ビットの5フレームをやり取り出来て、そのうち連続する4フレーム中の2フレームが正しく受信できるとなっており、この仕様で地上子を160km/hで通過されては演算処理して応答を返すのはタイミング的に無理があり「即応答」動作は考慮外です。

  1. 冒進速度無防備がATS-Sxの致命的欠陥!
     JR発足前夜'87/03/31付けで廃止された私鉄ATS通達(S42年鉄運第11号通達)のキーは、1.自動投入、2.2〜3段の速度照査、3.最終照査速度20km/h以下など6項目で、このため赤信号冒進速度を約20km/hに抑えることができ、大事故に至りませんでしたが、ATS-Sxでは、確認扱いの操作次第で最高速度で冒進可能で、土佐くろしお鉄道宿毛駅突入事故('05/03/02)ではフルスピードで突入してその欠陥を事実で証明しました。冒進エネルギー比≒停止距離比でいえば、ATS-Sx:私鉄通達:ATS-P=36:1:0 という決定的な差になっています。ATS-Sxの速度照査は信号ではなく過速度に対して設定した箇所についてのみ行われ、唯一停止信号手前に設置する「過走防止装置」のみで、それも45km/h(+5km/h)以上は全く無防備で「想定外の事故」と開発者のJR東海が繰り返し強調している処です(本来は「想定外」ではなく、安全装置が最高値に対応しない「仕様欠陥」です)。
     信号ATS-Sxには何処にも速度照査はありません。一般の閉塞信号には警報のロング地上子だけで、非常停止直下地上子すらありません。これがATS-Pと同等の安全性を確保することはありません。過速度ATS-Sxと混同した川島氏の全くの誤解ですし、国交省の民主党に対する2度の国会答弁(05/05/16〜国鉄方式も私鉄方式も赤信号の手前で停止を命じるから安全性に変わりはない)は新聞ネタ(毎日、読売、赤旗)を拾っただけの民主党質問を舐めた虚偽答弁です。この質問は役人の読み通り答弁の本質を暴露することなく引き下がりました。(P82後L4)

    【その他】
  2. 緩和曲線長不足の影響
    緩和曲線長が不足すると、カントを逓増する距離が減るのだから、カントが少なくなりその分制限速度が下がる。カント最大105mmに対して事故現場が97mmなのは、高速化の観点では確かに緩和曲線長不足を示唆しているが、その結果300Rの制限速度としてはカント105mm時の75km/hではなく、70km/hになっている。すなわちカーブ入り口での緩和曲線長不足は脱線・転覆原因(P12後L5)ではなく、カントが限界値より少なくなって制限速度が低下するだけです。
    <TBL-2>
    現示制限速度km/h
    基本改良
    G緑最高速度
    YG橙緑6575
    Y橙4555
    YY橙橙25
    R赤
  3. 信号現示と制限速度
     川島本に繰り返し記されるYG=70km/h、Y=50km/hはJRの規則ではありません.右の表の通り2種類の規定があります.福知山線は改良線でしょうか?
     著書はベクトル図を描いて説明を加えながら(P136)、何を省略しているのか、あるいは、そのベクトルが何を意味しているのかを充分理解しないで「転倒」の「限界値計算」をしてしまい、誤差として省略した走行振動項や車体傾斜重心移動項と重心高限界などの仕様を無視して「考えられない低速での転覆」、「ボルスターレス台車が原因に違いない」と書いていることがわかります

  4. 曲線出口の緩和曲線はカント逓減部で捻れがあり脱線しやすいので、中目黒事故直後に運輸省事故調査検討会が緊急措置として全国の鉄道事業者に200R以下の曲線出口緩和曲線部にガードレール設置を指示しています。中目黒事故もそこで脱線したものですが曲線出口の危険性はボルスターレス台車に限ったことではありません。(P172L9)

  5. 貨物列車のATSによる制動が非常制動なのは、機関車列車が自動ブレーキを採用していて、自動の常用制動では制動用圧搾空気が不足する「込め不足」現象を起こすことがあり、これを避けるための選択で、旅客用機関車でも同じです。同書解説の様な牽引重量が列車毎に違うため(P92L2)ではありません。例外としてEF79に搭載の青函ATC(=ATS)では自動ブレーキで常用制動ですが、ここにはATC予告表示があり、それでブレーキハンドルを指定位置に置いて事前にブレーキエアーを供給することを求めます。(See ATC-L)
     貨物列車と旅客列車では制動減速度と動作遅れ時間が大きく違うからその設定はPFとPで違うはずです。ATS-Sxの設定では旅客列車の減速定数20、動作時間遅れ計3秒、貨物列車の減速定数15、動作時間遅れ6秒+応答時間5秒、計11秒とあります。
     遅れ時間はほぼそのままに、制動パターンを常用制動で作成する分小さな減速定数を設定しているでしょう。 (問題は、電磁弁付きの高速貨物の空走時間3秒とどう切り替えているのか?誤設定対策として11秒のままなのか?)

  6. P点速度70km/hで150mでは停まれず(新幹線ATC:P195下段図)
     東海道山陽新幹線のATC速度について述べていますが、駅間停止で70km/h走行で1信号(P点停止コマンド)を受けて次閉塞までが150mでは非常制動でも停まり切れません。これは従前通り30km/h以下に下がって確認扱いをして緩解し1信号で停止が正しいでしょう。
     70km/hは駅の18#分岐制限速度です。もし説明通りP点150mに拠り停まると仮定するとその
      減速度=速度2/距離/7.2=4.537km/h/s
    で、非常制動減速度(3.5〜4.5km/h/s)より大きな常用制動になってしまいます。駅到着でのB点70km/hからの停止では減速距離が350m〜470mあり(右下図)、150mという値が極めて無理なものであることが判ります。これは鴨宮実験線での設定などとして見掛けたこともある数値で、ソースに問題があるのをそのまま掲載したのかも知れませんが、閉塞長が一定なら中間現示速度の2乗が均等になるのが基本で、その中間段階を作るには見合って閉塞長を短縮する必要があります。
     駅手前に120km/h区間を入れて列車間隔を詰めるにはそれに見合って短い閉塞にしないと逆効果です。そうではない速度段階は速度制限用ですから、信号現示制限としては物理的に妥当でなく、これらを著書として社会的に影響の大きいものに引用するには特に眉にツバを付けての確認が必要です。(駅接近の究極の改良が位置基準速度制限方式(P方式)速度照査を導入したDS-ATC/D-ATCです)。

  7. 半径など条件次第で一定ではない速度制限差
     曲線制限速度算出式には、平方根や三角比が絡んで、必ずしも条件で一定値が加算される訳ではなく、たまたま一部の範囲で一定値の差(PL)だったり静的転倒均衡速度の半分(P150L2)だったとしても、それらが他の条件でも適用できる一般的法則であるかの記述には解析物としては無理があり避けて貰いたいものです。(使用する制限速度表の丸覚えが求められる現場がどのような覚え方をしようとそれは構いません。5km/h単位で切捨てのため一定範囲で同値差は見られますから。)

  8. 大手私鉄のATS章(P173〜)はどう扱う?
     私鉄ATS/ATCの資料はごく少なくて、少しでも情報が欲しいのですが、大手私鉄ATS1967年の私鉄ATS通達(昭和42年鉄運第11号)をベースに設置されているものなのに、その肝心の基準にまったく触れず、国鉄JR-ATSの解説にも前述のような数々の重大な誤り、事実の創作があって、信頼に値する記事なのかどうか、、、機構、原理に関する川島氏の記述は真偽が疑わしくこの部分に拾える情報がどれほどありますか、あぶなかしくて到底採用できない様に思います。
    [参考資料]鉄道のしくみと走らせ方5章3項p256〜286「保安装置」(昭和鉄道高校編、かんき出版'07/09/21刊)に詳しい。川島氏の作文に良く噛み合って正確な説明をしています。さすが鉄道学校教官グループの著書。
     その「変周式」の動作説明で「車上子の発振周波数は地上子から受けた周波数に引き込まれて103kHzから130kHzに変化」とあるのは微妙に抵抗感がありますが、まぁ目を瞑るとして、一読お勧めの本です。「車上装置の発振周波数は車上子コイルが共振回路である地上子コイルと電磁結合して103kHzから130kHzに変化」でしょうか? ('08/02/11参考資料追記)

 「読書感想文」というものは通常少しはヨイショ項を忍ばせるのですが、この本ばかりはヨイショに大変苦労します。電車の仕様とタイムテーブルは流石ヲタ!しっかりしていた、とでも誉めておきます。事故本なのに肝心の原理的解析的説明は勘違いばかりでまるで駄目ということです.

[参考文献・リンク]:
ボルスターレス台車原因論批判:日記81
過速度転覆が主因:事故原因考察
変周式ATS    ATS-Sx概説    ATS-P概説    ATS-Ps概説
ATS・ATC改訂版、鉄道技術者のための信号概論、電気概論信号シリーズ7
 日本鉄道電気技術協会tel.03-3861-8678 '93/05/10初版'01/07/28改訂版刊(社員教育用)

加筆訂正1  車種別速照コード追記

2006/04/19 00:00
 
2005/11/20 23:30
旧
新