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[81]. ヲタの戯れ言!ボルスタレス台車転覆原因説

転覆事故原因に論拠の乏しい伝説・風説流布はいかがなもの?

 鉄道本売れっ子ライターの川島令三氏の書いた福知山線転覆脱線事故原因本の要旨を東京新聞8/20付け一面コラム「筆洗」が以下のように採り上げています。

    【筆洗】05/08/20東京新聞1面コラム全文引用。命題番号は追加した)
  • (0). 尼崎のJR福知山線脱線事故からまもなく四ヶ月になるが、事故はダイヤの過密や運転士の無理な回復運転よりも、JRが高速化のために導入してきた軽量台車使用に問題があったと指摘した本が出た。
     鉄道アナリストの川島令三さんが、現場や車両の構造を詳細に検証した『なぜ福知山線脱線事故は起こったのか』(草思社)だ。
  • (1). 事故を起こした207系電車は、台車枠と車体をつなぐ重い「ボルスタ(枕梁:まくらばり)」をなくし、左右の「空気バネ」で車体を(直接)支える「ボルスタレス」と呼ばれる軽量台車だった
  • (2). 事故調査委員会は、事故が半径三百メートルの右カーブで、右の内側車輪が遠心力で浮き上がり、車両が左の外側へ傾く「転倒脱線」によって起きたとする。
  • (3).設計速度に近い高速で進入した結果、遠心力で空気バネの左(外)側が縮み、右(内)側が膨らんで大きく傾いた。左側の空気バネはカーブ進入前にパンクしていた可能性もある。
  • (4). さらに先頭車はモーターのない軽車両で、その分、重心が高くなって浮きやすかった。JRは踏切事故などで高価なモーター系の損傷を防ぐため電動車を先頭車両にしていなかった
  • (5). 営団地下鉄日比谷線の脱線事故もこの「ボルスタレス」台車で起きている。
  • (6).カーブに弱いこの台車は、私鉄の阪急や京阪、京浜急行では採用していない
  • (7). JR西日本は207系の後継として先月、321系導入を決め、
  • (8).事故の反省から先頭車両は電動台車に換えたが、
  • (9).ボルスタレス使用はそのままだ。
  • (10).川島さんは再発防止策が万全かどうか危惧(きぐ)している。

TV発言での誤謬の延長戦か
 著書の原文は近所の本屋数軒を回りましたがまだ見掛けませんから、コラムの要旨についての感想・批評で正確かどうかは分かりませんが、それは後日読んで違いが有れば修正しますが新聞記事の大意は正確なものとして話を進めます。
 紹介された要旨には重要な考え違いが点あり、また各事実の重み付けに難があって一般論としては言えない主張なので、一言で言えば、設計・解析計算に弱いヲタの戯言。物理解析が中心の不得意分野なのに良く理解しないまま「結論」を振りまかない方が良いと思いました。川島氏が事故直後のTV番組で『133km/hまでは脱線しない』との誤解を繰り返し強烈に主張し続けた延長戦がこの出版でしょうか?

川島TV発言での誤謬の延長戦
 重大な誤解は川島論(3)の曲線の「設計速度」「最高速度」です。
川島氏の曲線の最高速度の決め方に基本的な誤解があり、さらにバネの伸縮による車体の傾きと重心移動がボルスタレス台車だけ特に大きいというつの誤解です。

転倒限界遠心力  まず、転倒−復元境界横は実際の速度や線路の曲率半径とは関係なく、列車の重心高と軌間という機械的寸法から求めるもので、重力と遠心力の合成力が外側の線路上を超えると転倒、手前で復元という境界横による力のベクトル計算になります。
重力加速度、重心高、軌間とすると、
 境界横G/g=(W/2)/H
    が転倒−復元境界、すなわち
 境界横G=(W/2)/H×g
    速度、半径は無関係の基準です。
この境界横を安全比率a(3.5〜3.0、西欧ではさらに2.4程度までが選ばれる)で割った値の遠心力を曲線通過制限基準としてここで初めて制限速度を逆算して制定、
さらにカントがある場合には、傾斜のあるカント面に対する転倒限界1/4(a=4)を制限速度制定の基準に定めて、
その基準から不足カント基準を定めていますので、制限速度計算に「300Rで133km/h」などの架空の数値が出る余地がありません。強いていえば、制限速度の√a倍(a:水平面での安全比率)が確定的転倒速度だということです。(カント面での安全比率では√4=2倍になって更に危ない)

 それなのに、転倒−復元境界横と曲率半径から機械的に「転倒−復元境界遠心力速度」を計算してしまい、その速度を「最高速度」あるいは「設計速度」(3)と強弁して論じているに過ぎません。それは仮想計算上のもので、実際にはあり得ないものです。実際には走行振動や、荷重の偏り、風圧、線路の狂いに加え、遠心力により左右のバネが伸縮して外側に傾くのは前述3.5〜2.4の安全比率に折り込み済みということです。

 バネ系による傾斜と重心移動は支点が低いほど顕著でどの台車でも発生
 またバネの屈伸による車体の傾きと重心移動は、ボルスタレスに限らず、ボルスタ有り台車でも同様に起こり、支点の高さで安定度が変わります。殊に揺れ枕釣り方式を使った旧型では支点から重心までの高さが大きく、ボルスタレス台車より安定ということはないでしょう。新型のボルスタ付き台車の枕バネの位置は、車体左右端にほぼ接していて、ボルスタレスとほとんど変わらない高さです。最近デビューした小田急の50000系の枕バネは意図して高い位置に設置されて、遠心力による車体の傾きを抑えている様ですし、どういう論拠でボルスタレス台車が特に車体の重心移動が大きいと考えたのか大変いぶかられる処です。

 以上、転倒限界の計算に「国枝の式」という実験式が用いられますが、以下のページがこの試算をして転倒速度を107km/h〜114km/hと試算して居り、参考までに示します。
(13)式、 下(イ)福知山線の場合(鉄道車両Tips  http://railcartips.taka84a.jp/kaisetu/tenpuku/tenpuku.htm )
( このページの作者は間違いなく鉄道の解析や設計に関係するプロででしょう.理由は、何重もの制限規定を、根本から順に現場の管理数値まで全く迷いなく提示し、常用の実験式の使用法も正確に提示しているが、それら現場式を正確に示したテキストは市販されて居らず、基礎理論記述に留まるからです。鉄道の部外者では様々な試算から定義の流れを推定してテキストに記述のない部分を埋めるしかないので同一結論の解析のアプローチがプロとは全く違ってしまいます)

 この川島評論の最大の主張は、文章上は一見(2)事故調見解に対抗する(3)+(9)の異論を提示しているかの様に思えますが、その内容を良く読むと、事故調のいう過速度の遠心力による「転覆脱線」を否定している訳ではなく、転覆限界横から機械的に算出される限界速度133km/hより低い速度で転覆に至ったことが特段の重要問題であり、その原因として、『ボルスタレス台車にのみ特有の空気バネ変形により車体傾き重心移動した結果』と主張することに尽きます。しかし前述の通りボルスタレス台車のみに特に発生する問題ではありません。

営団地下鉄03系のボルスタレス台車は曲線での復元力が大きめ
 引き合いに出している営団地下鉄日比谷線中目黒脱線事故で事故調査検討会最終報告書が述べているボルスタレス台車特性の絡みは、カーブでの台車の操向による捻れで枕バネに復元力が発生してフランジ横圧を生じて乗り上がり脱線の要因になるが、輪重との比率の問題で、極端な輪重抜けが起こらなければ脱線しないというもので、特に03系に横圧が大きい傾向は見られて脱線要因の一つにはなったものの、事故後は輪重比を90%以内に管理することで問題ないとしていることですから、遠心力とそれによる重心移動とは全く関係ありません。(こちらの横圧問題が営団地下鉄半蔵門線鷺宮車庫内での度の脱線事故の有力な原因として従前から危惧されていたボルスタレス台車の問題で、転覆脱線には関係有りません)

先頭でも中間でも転覆条件は不変
 また、先頭が電動車かどうかもほとんど意味を持ちません。重心が高いため転倒する車両は列車の中間につなぎ換えても転倒します。本来、最悪条件で制限を設定するものです。動力軸の空転や滑走を避けたくて、電動車を中間にして、ATSに直結する速度計軸を附随車から採って滑走関連の誤動作による過走事故発生も防ぐという考え方も有る訳で、KHKの様に急カーブの路線に踏切だらけで電動車先頭主義の会社も確かにありますが、JR東日本では205系以降(205、209、E217、E257等)すべてボルスタレス台車採用で支障なく、日比谷線中目黒事故以降、輪重差管理を輪重比10%以下と定め厳しくしたなどの対応をしましたので、カーブでの横圧増加はそれに吸収され、その決定的な差はないでしょう。走れば横圧は必ず発生する訳で、その総和が安全限界を超えるかどうかの問題ですから対策に吸収できれば問題ない訳です。

課題は速度照査の導入=冒進速度制限、安全第一の貫徹
 今後「発生が危惧される」事態といえば、今回もJR−ATSに速度照査機能が義務付けられず、最高速度で冒進できる可能性が残って土佐くろしお鉄道宿毛特攻型事故を防げないことが一つ。すなわちJR発足前夜に廃止された私鉄ATS通達の復活改訂問題です。
 さらに運転性能を満たせない悪条件でも徐行運転の判断が運転士に許されず、今年2月の降雪中にATS−P動作下での260mもの大冒進事故を起こしたJR西日本など、未だに強権支配体制で安全をないがしろにする会社に何等有効なチェックが働かない問題が焦眉の課題として残っている訳です。山陰本線みやび餘部鉄橋転落事故も現場餘部駅での強風運行停止判断を、遠隔地の司令室に上げてしまって、風速計故障のまま放置していて強風転落事故に至ったのも現場の判断権限を奪う同質の問題です。
 これらの本質問題を放置、誤った理解で全面否定する一方で、極めて根拠の乏しいボルスタレス台車問題の「新説」や、先頭電動車化問題というのはいかがなものでしょうか?好評の「乗客としてどんな列車に乗りたいか」という筆者の得意守備範囲を超えた他分野をよく分からないままに誤解を含めて押しつけ気味に喋りすぎているのではないでしょうか。 尼崎事故での川島氏らの一連の発言でBBSにアンチスレが長期に続く理由が理解できました。

(続編:日記[95])     (補足反論:日記[171])

 BBS上での川島氏の不評については「転換リクライニングシート至上主義」などの極端さが、6扉のワム209仕様が喜ばれるほど酷い東京圏ラッシュの殺人的混雑状況とぶつかって評価の問題で嫌われたと思っていました。それが、この度の尼崎事故での氏の一連の言動を聞いて、評価で嫌われたのではなく、専門外の事項で事実認識そのものに問題があることを「専門家」の名で強引に拡げたことに原因があったのだと認識を変えました。君子は豹変することで権威を保つものですが、この論議はちょっと粗雑に過ぎます.感性的文学的評価なら人それぞれの感性として放置が常道ですが、公共交通機関の安全対策に直接影響する物理現象の解析・評価は公開の批判に晒しても野暮ではないでしょう。

2005/08/22 00:22
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