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「不公正な業界世論扱い」はヒド過ぎ

 川島令三氏による尼崎事故のボルスターレス台車原因説については技術的にはとうに全面否定で決着済みと思っていたのだが、未だに川島氏への信仰は衰えず、当ページの日記#0081を文節の冒頭に挙げて業界関係者によるボルスターレス台車利権擁護の世論操作の代表であるかの様な批判が行われていた。具体的事実に対する個々筆者の意見の相違・評価であれば何と言われようとそれは読者の判断に委ねて評価の定着を待てば良いのだが、事実摘示なしに不公正な宣伝を繰り広げる業界の提灯ページであるかのレッテル貼りで誤った結論を拡げられるのはたまったモンじゃない。しかも記述内容抜きに見てくれだけを比較するとテキさんのページ福知山線事故、反「ポルスタレス台車主犯説」(秦野エイト会)の方が一見の説得力がありそう(w)だから、高名ライターのデマに流されかねない善意の人たちに真相の判断に当たってどこに着眼すべきかを何点か述べておこう。(秦野エイト会は総論的にはこちらindex1の冒頭で述べているが、こちらも主張ばかりで立証のない作文になっている)。強い、多数の………擁護論て、検索しても川島「理論」に具体的に反論しているページは当方くらいなもので極少数ではないか。川島「理論」は何故かマスコミ関係者に強い影響を与えている様だがプロ・レベルとしては反論の必要もないほど外しているのだ。(川島本訂正集はこちらをクリック)

根拠を示さない主張

 誤謬の出発点は以下テーゼの赤字部分の認識と、京浜急行など「台車に一家言持つ会社」が敢えて不採用の事実だろう。
  「ポルスタレス台車は、JRを中心とした大部分の車両のコスト削減のために、安全と乗り心地を犠牲に導入された鉄道業界や車両業界の公認の方式である。」(ママ)
 当該ページの何処を探しても「安全と乗り心地を犠牲に」したという具体的指摘がないのに、これが触れてはならない公理のように判断のベースになっている。営団が検修職場からの輪重計設置要求を拒否したとか、ガードレール設置基準を極端に緩めていたのは営団自身の安全姿勢の問題であり、軽量車体で特に注意すべき項目ではあっても、ボルスターレス台車固有のものではない。
 敢えて言えばボルスターレスで軽くなった2トン弱に比例して輪重狂い許容幅が狭まる(=輪重比維持=脱線係数限界値維持)という範囲で輪重抜けに寄与し横圧による脱線に影響するものである。
 従前の鋼製車体から軽量化された重量は10トン余あり、そのうちの2トン弱はほんの一部である。この軽量化された10トン分は輪重調整をシビアに管理する必要があったが、東横線横浜駅脱線事故以降対策していた東急1社以外の各社は放置していた問題は明らかになり、遅ればせながら中目黒事故を機に事故調・運輸省の改善勧告となった。営団が罪深いのは職場から脱線要因として輪重不均衡が指摘され輪重計設置要求が出されていたのを無視、輪重調整作業をうるさ型揃いの半蔵門線車両のみに留めて惨事を招いたことである。輪重管理を要求した営団検修現場はたしかにボルスターレス台車の特性を疑っていたが、真相は軽量化対応の調整が行われていなかったことが問題の本質だ。更にこれは尼崎事故の様な曲線での過速度による横転脱線とは原因が異なる。

非難基準は川島説にこそ向けられるべきもの

 続く文節「車両の動的な挙動の把握」で
  鉄道事故は、車両の動的挙動の把握の不足から起きている。
 よく静的なモ−メント図を描いて、数字がどうのこうのと説明してある記事があるが、そんな静的な挙動を解析しても意味はなく、実際に車両が動いている場合の動的な挙動を把握しないと意味がない。
 川島令三氏の「ポルスタレス台車主犯説」をいくら非難したって、車両の動的な挙動の把握が出来ていなけりゃ、「ポルスタレス台車主犯説」を切り崩すことは難しい。
としているが、末尾節は全くアベコベで、川島氏こそが「静的なモーメント図を描いて、数字がどうのこうの………(転覆速度は133km/hで、これより大幅に低速で転覆脱線に到ったのはボルスターレス台車が原因)」と述べている。
 これに対する反論として、そうした静的な復元−転倒限界では重心移動や横揺れなど動的な動作解析をすれば転覆速度はもっと低くなり異常な低速度ではない。川島説のボルスターレス台車固有の弱点はない。速度制限規定は簡便に復元−転倒限界横G(遠心力)の1/4〜1/3となる速度(=G比の平方根:1/2〜1/√3≒0.577)を基準に定めている、と説明した。静的モーメント図を誤解して実際の転覆限界速度を勘違いし、その差を根拠なくボルスターレス台車が原因だと断じたのは川島氏の方である。川島御大説を「切り崩すことが難しい」のではなく、切り崩すべき「ボルスターレス台車主犯説」を提示する具体的根拠がない元々立ってないご託宣なのだ。

 この点に限っては元国鉄小倉工場長で退職した故久保田博氏が鉄道ジャーナル誌上で川島氏の誤謬の解説を試み、ボディーマウント式のボルスター式台車と、ボルスターレス台車の構造図を示して双方に差がないことを解説し、またバネが延びきらない様引き留めがあることを述べている。この解説に対して反論しようがないし、現に厳しく訂正指摘を受けた川島氏も沈黙を守っている。(核心部分を否定された本は未だにそのまま売られていて誠意を疑わせているが)。尼崎事故の事故調報告書もこのマスコミお気に入りの謬論に気遣ったのか比較対象としてボルスター付きである103系の転覆速度も試算していて、事故車207系の107km/hとほぼ同じ105km/hとしている。

 同じボルスターレス台車付き車両関連事故といっても、営団中目黒駅と鷺宮車庫の脱線事故については160R以下の急曲線で台車が向きを変えるときその分枕バネが横方向にずれる訳だが、その横剛性の大小が脱線限界に影響したかどうかの話であり、これはボルスター付きレスを問わず輪重調整の義務化で脱線係数の分母側最小値を押さえて解消したもの。
 ボルスターレス台車の枕バネは、テニスボールの上に板を置いてその上に乗っている状態を考えれば分かる。横剛性はゼロで他に位置決めがなければボールが板から外れるまで自由に動いてしまう。台車の牽引装置が位置決めだ。事故報告書には営団車は東急車に比べて横剛性が若干大きかったとあるが主原因である輪重比調整で十分収まる微妙な違いだ。
 尼崎事故は304Rという東京など大都市部では標準的な曲線での過速度による遠心力で転倒する限界速度の問題だから全く原因が違うのだが、川島令三氏はこれを混同させて引用し「アブナイ」とやっている。曲線内側のバネが遠心力でボヨヨ〜〜ンと伸びて転倒するモデルだが、久保田博氏は前述の通り転倒条件はボルスター付き台車と変わらないことを示した。

マスコミ発表と、業界内理解の主たる原因に開きか?

 その前節、東海道・横須賀線「鶴見事故」の貨物車脱線事故の4論点は、当ページがまとめて指摘して一部読者からは「今さら墓を掘り起こす」などと指弾されたもので、他にまとまって指摘しているページを見掛けないのだが、このうち「ワラ1型が配備前の実車試験をワム60000類似車として省略したため軽負荷時の走行特性不良を見逃した」事実は先出故久保田博氏が日比谷線中目黒事故2000/03/08後に出版した「日本の鉄道車両史」(グランプリ出版2001/03/21刊)p241〜242で初めて公表したものである。情報の摘み食いだけして記述の信用性を高め、それに脈絡のない結論を被せるのは勘弁してほしい。

 中目黒事故以前に出版の「鉄道重大事故の歴史」(グランプリ出版1995刊)p〜では、「2軸貨車競合脱線原因の未解明」を強調して言外に鶴見事故には他に原因があることを臭わせてはいたがそこまでに留まっている。それが曲線出口緩和曲線カント逓減部の捻れによる輪重抜けという共通の発生条件でまさかの旅客車両による犠牲発生を受けて車両史本で初めて試験省略の手抜きが公表されている。中目黒事故の事故調査検討会はかなり早いうちから緩和曲線カント逓減捻れ部での輪重比問題に絞っていた様で、事故から僅か6日後の3/14夕刊で毎日新聞が前後の荷重狂いと勘違いした誤報をやって、翌朝3/15のいくつかの報道で示唆され、事故調査検討会としても3/16付けで「曲線出口緩和曲線部へのガードレール設置」を全国の鉄道事業者に勧告している。これをマスコミが「曲線部」と誤報したので分からなくなったが、正確に「緩和曲線=カント逓減部の捻れ」としていたら中目黒での脱線のメカニズムが理解しやすかった。鶴見事故の原因は一般向けには「競合脱線」で片付けられていても、カント逓減部の危険性については業界内の技術者には常識だったということだ。

ひと言欲しい「御料車にボルスターレス採用」

 京浜急行の不採用と営団自身のボルスター台車回帰採用をもって事故原因隠しの現れというのであれば、ではJR東日本の新御料車(=皇室専用車)E655とその編成は総てボルスターレス台車を採用している。御料車運行となると前後の列車は運休にして、対向列車は停止か徐行運行が常識だった(それにしては原宿宮廷ホームの線路はヤワに見えるが、東京駅出発なら問題ないのか)。ボルスターレス台車が欠陥というのならそれを御料車に採用したのは「JR東日本∠○協調会社による共和制推進の陰謀の現れ」くらいは言ってくれないと釣合が取れないのではないか?(w。女帝を認めるかどうかで苦悶するほど世継ぎ問題は煮詰まっているが。

ホントに乗り心地は悪いか?

 ボルスターレス台車が乗り心地が悪いと良く書かれているが、一般乗客が本当にそう思っているだろうか?通勤・通学でE231/E209-500、E217、205、113、201、103、101、79+72は乗ってきたが、正直な話、最悪は79+72系旧国電、次いで101、103、113で高速の113はかなり揺れ、E217は120km/hでも横Gとしてはそんなに大きくない=揺れ幅は大きくても振動周期は長いのではないだろうか。このうちボルスターレス台車使用は、E231/E209-500、E217、205。非難の前提である「乗り心地が悪い」は不同意だ。乗り心地が既に指数化されているはずだから、その実計測値を見てみたいものである。今中央快速線がボルスター付き台車の201からボルスターレス台車のE233へ置き換えられつつあるがどちらが乗り心地が良いだろうか?
 また営団車の最高速度が低いのは際だって低速加速優先設定の車種が多くて高速域が頭打ちになりやすいからで、必ずしもボルスターレス台車の責任とは言い難い。走るんですシリーズのE217はボルスターレス台車で連日120km/hで定速ボタンを押して走っているではないか。

「重心が上がる」は妥当か?

 「ボルスターレスで軽くなった分重心が上がる」というのも全体を見ず後付けした理由だ。重心高限界1700mmを満たせば速度制限など他の制限がそれに対応して定められているので問題ないのだが、車体は鋼製車体より8トン以上も軽くなっており重心は上がらないし、ボルスターは重心点に比較的近いから重心高への効き方は小さいから事故調による比較試算でも転覆速度は悪化していない。車輪の間に人を乗せるミッドシップのスポーツカーを論じているのではない。

なぜKHKに特別の信頼感?

 京浜急行は凋密ダイヤで高速走行ながら急カーブと踏切が非常に多く、全国の踏切事故を整理して先頭が電動車のほうが被害が少なく脱線もないという同社独自の調査結果から先頭電動車を原則としているが、先頭車の質量に反比例で衝突時の影響を受けることは予想されその限りでは一つの見識ではあるが、雨天時の滑走・空転の悪影響など好ましくない現象もあるし、かっては品川駅の拡張木造ホーム部に脱線して突っ込んでホームを大破させた事故を経験してあまりのスポーツ走行型運転を非難された会社(=思い切った走りっぷりに根強いファンの居る会社)でもあり、車体にかなり丈夫なスカートでも取り付けないと衝突の衝撃でボルスターアンカーが棒高跳びの棒に化さないか?とかの懸念はあって、なぜそんなに高い信頼感があるのか不思議である。直通運転をしている京成電鉄の運転と比べたら、東京のタクシーと福岡県飯塚の車くらいの違いがあったではないか。(=嘗ての炭坑の街で暴力団関係者が多く、下手に煽って仁義でも切られたら大変だから運転が慎重なのだ。駐車場毎に設置の「大型外車お断り」の看板は「暴力団お断り」の意なのだと福岡県飯塚市に長期派遣時にレクチャーされた)。

「得するヤツは誰だ?」が鍵

 自然科学の現象に比べ、利害と意思が絡んで巧妙な主張がされ判断の難しい社会現象を判断して真相を把握するときに、よく言われる判断方法は「誰が得するかを考えよ」だ。これをボルスターレス台車の採否論に適用すると、台車メーカーとしてはどちらも製造可能だから、ボルスターレス方式にこだわる動機がない。設計者にとってはボルスターレス台車の方が特性の分かったオイルダンパーを使えるので走行特性設定が楽になるが、開発を完了して製品になってしまえばこれまた関係ないことだ。車両メーカーとしても同じくどちらでも構わない。
 重量の問題が効くのは最終ユーザーである電鉄会社で、運転に消費されるエネルギーとして(1/2)質量×最高速度^2が質量分大きくなり、回生制動を使ってもそれをあまり回収できないことだろう。運動エネルギーを理想的に回生できたところで発電系は負荷急増分の余裕をどこかでプールして置くからその回生電力分は最悪連続運転する原発の冷却塔内に熱として放出されるのかもしれない。各電車の走行電流は起動から速度比例で増えて定電力領域に達して一定値で推移、特性領域では速度反比例で小さくなる形だが、停止時の回生制動電流は、速度比例の大電流か、回路や負荷側の都合で最大電流値を押さえての定電力回生動作の後、速度比例で次第にゼロに近づくから、走行・加速と制動の動作波形が大きく異なり、回生失効として摩擦熱で消えている部分がかなりあるはず。積算電力計の逆回転を許容しても、他で全部消費される保障はなく、その分は電力会社が電気料金を取りはぐれるだけかも知れない。
 E209系/E231系の車内ステッカーにある「この電車は103系電車の約47%の電力で走っています」というのは単純な理想値計算で、実際、確実に節約されるエネルギーは出発から次の駅に停車するまで最高速度90km/hとして1両あたり10トン軽くなった分の1編成10両分=10×(1/2)×10×(90/3.6)^2==31,250[kJ]=8.68 [kWh]程度だろう。これは総重量50tに対して重量減見合分だけで2割減程度は効くということだが、電力蓄積装置もないというのに電力回生が他の負荷への振り替えで更に27%も行われるかどうかには大きな疑問符が浮かんでしまう。変電所のシリコン整流器は逆方向の電力を扱えないのだ。

動機の見えない「ボルスターレス不当擁護」論

 とにかく、台車にまつわる業界の状況からはボルスターレス台車にこだわるべき事情というのは見えてこない。だからその点に関しては世論操作の必要性がないのだ。どちらも現物が存在するから発注主の意思通りに営団がボルスター式が良いと言えばボルスター式を揃え、軽いレス式が良いといえばレス式を揃える、1両2トン弱減少分の省エネ効果は期待され、他に問題がなければ使いたい、それだけのことだ。新幹線用の超高速台車だけは特別に開発されており、方式を変えるには新開発が必要だが、それは可能だろうが意味がない。まさか全数回収交換に値するような重大欠陥があると言ってるのだろうか?そんな事態に繋がる事実は何処からも漏れ伝わってこないが………。

 そうした利害とは無関係の極楽とんぼヲタの私には尚更片側に肩入れすべき事情はなく、純粋技術的に具体的構造を見て脱線転覆の安定性でボルスターの有無は無関係だと判断しているだけだ。記事に少しでも利害関係を疑わせる論理の飛躍はないはずだ。当方が鉄道業界人ではない電気屋・設計屋だというのはページを眺めれば分かるのに。

2007/11/14 23:30
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