曲線での速度制限

カントと超過横G

公称曲線速度制限値は乗り心地限界速度

 国鉄JRの曲線速度制限は、「乗り心地限界横G制限」としてカントのある曲線で0.08G、カントのない分岐付帯曲線で0.05Gを目安としているが、具体的制限数値は条件により「安全比率」3.0〜5.5を基準として採用している。
 曲線速度制限には、大別して2通りの決め方があり、水平面基準(安全比率3.0〜3.5)の「本則」と、高速化のための特別基準として傾いたカント面基準(安全比率4.0前後)の「許容不足カント」(=本則+α方式)であり、更にそれぞれ車種別に制限が決められている。
 車種別は「本則」では普通車と高速車の2種、特別規定の「許容不足カント別」では4種規定され、カント別に算出される。
 具体的数値決定は元算式をまとめた軌間別の計算式に拠り5km/h単位切り捨てで算出され、さらに一覧表として定義し、規定の考え方から算式、一覧表と多段階に決められて、それぞれに微妙な差もあるが、それらを直截な明文では説明していないことで門外漢に判りにくくしている。(参照→日記#288:速度制限考

 安全比率とは、静的な転倒限界Gを、実用限界のGで割った値だが、列車が停止した場合にカントにより内側に転倒するまでの余裕を示すものと、高速走行に拠る遠心力で外側に転倒するまでの余裕も同律に示している。
 静止時のカント限界では、軌間の1/2を、重心からの垂線が基準面と交わる点と軌間中心中心との距離で割った値をいう。(軌間の1/2=軌間中心から軌道までの距離だから、重心からの垂線との交点までの距離比の逆数が安全比率となる)
 遠心力による転倒限界では、静的なバランスで考慮すれば、重力と遠心力の合力がレールの外側になると必ず転倒するので、丁度線路上を通る状態を基準に、その安全比率分の1を乗り心地限界Gとして制限速度を逆算する。
 不足カント/平衡カント:平衡カントというのは遠心力と丁度釣り合うカント。重力と遠心力の合力がカント面に垂直になるカントを「平衡カント」と呼ぶ。「不足カント」とは実際のカントと平衡カントの差、カント不足分を云い、高速運行を許容する基準である。

カント限界
曲線制限速度rmax[km/h]
曲線半径[m]
軌間[mm]
カント[mm]
スラック[mm]
傾斜角sinθ=C/W
超過横Ge[G]
遠心加速α[G]
重力加速1[G]
転覆安全比率
(最大値)m 

 本則の規定法としては、安全比率を、高速車で3.0、低速車で3.5に取り、分岐器付帯曲線で5.5に取ることを基準にして3種類の算出式を制定し、更に具体的制限値を表で定めている。
 本則でのカントは、通過列車速度の2乗平均根を平均速度としてその値で均衡カントとなるよう定める。
 またカント限界は停止時の安全比率を3として曲線内側への転覆防止を図っている。

 許容不足カント方式(=本則+nn km/h方式)の場合は、対水平面ではなく、カントの付いた軌道面に対する安全比率を4.0とすることを基準の考え方にして、具体的には均衡カントに対する許容不足カントを車種別に定めて「本則+α」の一覧表の形で高速制限を規定している。
 国鉄JRでの許容不足カントは普通列車60mm、特急列車70mm、振り子式特急列車110mm、無割当て(ATS-Pでは機関車列車)50mmと定めている。
 許容不足カント方式(本則+nn km/h方式)での具体的設定法としては、カントを本則のままとして制限を再計算する簡易な方法と、カントを限界値(105mm:国鉄JR在来線)まで嵩上げして極限追及で再計算する方法が考えられ、後者がJR西日本や北海道などの高速指向の路線で採用されている。(必要長の緩和曲線を取れない場合はカントが上限より少なくなり、制限速度が下がる。尼崎事故現場の曲線300Rはカント97mmで許容不足カント60mm車両で70km/h制限とされているが、カント限界値105mmに設定できれば75km/h制限となる。また許容不足カント70mm車=特急車両であれば共に75km/h制限となるが、現場は両者共通の70km/h制限となっていた。事故後の60km/h制限は普通車の本則である)

 本則の場合の概ねの限界値は線路面に対して曲線で 0.08G、カントや緩和曲線を設定できない分岐器付帯曲線で 0.05Gとされて各種基準式が定められているが、あくまで考え方であり、実規定の数値は定義式に拠って作成された一覧表である。

[「許容不足カント」方式の導入]

 本則の場合、基本が水平基準計算で、実運行列車の平均速度(=2乗平均根)で均衡する様カントを決めるから、遠心力横Gは0近くに小さくなり、乗り心地限界としては更に速度を上げる余地ができる。鉄道の高速化が追求されてそこに着目して導入された基準が、レールのカント面に対する安全比率4を基準として高速化を図り、車両性能毎に「許容不足カント」を定めたものである。高速では軌道破壊が早いのでその軌道保守の点から本則+規定はほぼ特急電車、特急ディーゼルに限定して導入適用されたものであるが、JR西日本はこれを通勤列車にも適用して高速化を図った。

転覆限界からの規定

 尼崎事故を承けて国交省は曲線過速度防止装置設置を義務付ける通達を出し、そこでは転覆限界の0.9倍以下での速度照査を義務付けている。転覆限界速度は國枝の式に依っている。これは安全限界に依る規定である。安全装置の基準としては最低限の基準を満たし妥当なものであるが、転覆寸前の大きなGである。しかし、緩和曲線を経て加わるので突発の非常制動Gと同等程度である。
 一方JR方式は速度制限そのものを基準に+10km/h程度の過速度防止装置を設置するので照査段数が多くなり、基準としては乗り心地限界となる。cf.→日記#191
    (08/06/02総論解説追記)

以下で具体的な算出を試みる。

[参考HP]最近発見した本職による「本則」の解説と一覧表(05/08)
http://www.ne.jp/asahi/train/tips/kaisetu/tenpuku/tenpuku.htm
   本則制定値はリンク先後半部を参照して下さい.

[ 曲線制限速度 ] (横限界の制限=0.08国鉄〜0.12西欧 [G])
rmax=sqrt(127.008*R*(W/sqrt(W2−C2))*(C/W+G))
 ≒sqrt(127*R*(C/W+Ge))……(11)-2
本則=?:在来線 Vmax=3.5*sqrt(R)……(17)-1
 新幹線 Vmax=4.8*sqrt(R)……(17)-2
 の制限速度を云う
 平衡速度 Vb≒sqrt(127*R*C/W)(横G=0の速度)
[ 平衡カント量 ]
bC+Cd =W/sqrt(1+(127.008R/V2)2)
≒(W/127)*V2/R
……(12)
……(12)-1 省令
但し、カント[mm],平衡カントb,カント不足量 d,許容横[G])

【 曲線制限速度算出 】

 曲線の制限速度は、
(1).遠心力転覆値に対する安全比率aから決定される限界
(2).乗り心地限界合成横G=0.08G(=国鉄基準〜西欧0.12G、安全比率4)
(3).許容最大カント:(停止時転覆傾斜限界:安全比率3)
を限界として個々に安全側に決定されている。

(0).[ 転覆限界と安全比率 ]

 重心から大地への合力(重力+遠心力)が、軌間の範囲を超えると転覆する。左右の軌間W/2が転覆限界だが、走行振動や重心の偏り、各種誤差、強風による転覆も考えられ、実用範囲を「軌道面偏位で転覆限界の安全比率a分の1」として定義している。概ね最大カントが最高重心車両に対して安全比率程度に定められている。
 転覆限界である「軌間」は、厳しくみればフランジ外側幅、緩くみれば踏面幅だが、大きな「安全比率」を介して使用限界を定めており、ここではその誤差範囲とみなして軌間で扱う。「安全比率」は日本では3.5〜3.0を基準にして「本則」を定めていて、車種により異なるが西欧では〜2.4程度まで使われている。

(3).[ カントの限界値 ]

 停止時の転覆傾斜限界に対する安全比率を基準に最大カントを規定している。転倒安全率a、許容傾斜角θm、最高許容重心高Hm=1,700mm(直計算1,716mm、別記1,650mm←特例)に対して安全比率3(冒頭図右)、すなわち、軌間W/2の1/3を基準に、更にバネのたわみなどを勘案して、在来線は105mm、新幹線は180mm〜一部線区で200mmと定められている.
a= (W/2)/(Hm・tanθm)=W/(2・Hm・tanθm)……(1)
tanθmW/2/a/Hm=W/(2aHm)……(2)
sinθmW/sqrt{(2a・Hm)2+W2}     だから
m(W+S)sinθm=(W+S)/sqrt{(2・a・Hm/W)2+1}……(3)
 但し、スラックS=6000/R [mm] (≦30mm、R≦170m)……(4)
以上、最大カントm(軌間,スラック,許容重心高,転倒安全比率)[mm]で試算
在来線制定値=105mm新幹線制定値=180mm
m(W,S,Hm,a)=カント m(W,S,Hm,a)=カント
1,067 01,7201111,435 01,720201
1,067301,7201141,435301,720205
1,067 01,6501161,435 01,650210
 以上の結果は最大カントは安全比率より少なめであることを示す。

(2).【 軌道面に沿う加速度:乗り心地限界からの制限 】

 第(2).項は、遠心力と重力による軌道面方向の合成横。これが乗り心地限界0.08G〜0.12G(西欧)を超えない様、カントで打ち消す。
 水平方向の遠心力加速度αと、鉛直方向の重力加速度を、角θ 傾くレール面に沿う分力と、法線方向分力に分解合成すると
α・cosθ−G・sinθ=X ≦Ge ……:横:レール面方向加速度……(5)
α・sinθ−G・cosθ=……:レール面法線方向加速度……(6)
(脱線係数X/Y)……(7)
α=v2/R=(V/3.6)2/(9.8R)=V2/(127.008R)……(8)
cosθ=sqrt(W2−C2)/W……(9)
sinθ=C/W だから……(10)
脱線力方向の遠心力分力+重力分力≦横G制限値(通常は0.08G)、すなわち
(v2/R)・(sqrt(W2−C2)/W)−G・C/We
((V/3.6)2/(9.8R))・(sqrt(W2−C2)/W)−G・C/We
(V2/(127.008R))・(sqrt(W2−C2)/W)≦(Ge+C/W)
2(127.008R)・(Ge+C/W)・(W/sqrt(W2−C2))
∴上限速度は
rmaxsqrt(127*R*(W/sqrt(W2−C2))*(C/W+Ge))
≒sqrt(127*R*(C/W+Ge))
   となる。
……(11)

…(11)-2

但し、許容速度Vrmax[km/h],曲線半径[m],軌間[mm],カント[mm], 許容横[G])


【 平衡カントと不足カント算出 】      <KANTO>

  見かけ上、横Gがゼロになるカント=平衡カントを算出する。これは遠心力と重力双方の斜面に沿う方向の分力が等しい状態である.
  平衡カントより現実のカントが少ない量を「不足カント」と云い曲線の外側への転倒力となる。
  カント面に沿う方向の超過横G:   e=0 として平衡カントbの値を求める。
 (5)式、α・cosθ−G・sinθ=0  を変形して
   sinθ/cosθ=α/G=tanθ=C/sqrt(W2−C2)
 (8)式、α=V2/(127.008R)、G=1 だから
   tanθ=α/G=V2/(127.008R)=K と置いて整理すると
   (1+K2)C2=K2・W2
   C=W/sqrt(1+1/K2)  これに先のKを代入して均衡カントを求める
   b=W/sqrt(1+(127.008R/V2)2)…………(12)
   ≒(W/127.)・V2/R……(12)-1 (運輸省令算式)
(在来線)≒(1,067/127.)・V2/R= 8.40・V2/R……(12)-2 JR算出式
(新幹線)≒(1,435/127.)・V2/R=11.3・V2/R……(12)-3
(JR算出式は11.8)
   b=C+Cd  ……(カントと不足カントの和)……(12)-0

 均衡カントは、各々の列車走行速度の2乗平均値根を平均速度としてこれに均衡する様に定める建前だが、実態はこの30%〜60%くらいのカントが多かった。
 この少なめのカントを均衡カントに増やす改良で全国でスピードアップが図られた。
 各列車毎の均衡カントに対するカント不足を次項「不足カント」Cd(13-0〜13-2式)と呼ぶ。

不足カント限界

  不足カント限界は、軌道面に対する転覆安全率a=4で定めている。すなわちカントで傾斜した軌道面に対して、重力と遠心力の合力が軌間の1/8以内の速度として不足カントdを定めている。
  横Gが体感の乗り心地限界を超えるときは、振り子などの傾斜機構で打ち消す必要がある。
 不足カントにつき、傾斜軌道面に対し、
斜面でtanθd=(W/2a)/H=Cd'/W「'」は斜面法線
 d'=C0・cosθ00はカント
 cosθ0=W/sqrt(W2+C02)
=1/sqrt(1+(C0/W)2)
(傾斜角:θ0)
であるから
 d'=W2/(2aH)(1行目式整理)
 d=Cd'/cosθ0
=(W2/2aH)・sqrt(1+(C0/W)2)
≒W2/2aH=W2/8H
 ……(規定式)
………(13)
……(13)-1
d 60mm
70mm
110mm
 …一般車両
 …非振り子特急
 …振り子特急
……(13)-2(規定値)
 不足カント量が、在来線の一般車両60mm、非振り子特急車両70mm、振り子特急車両110mm、新幹線90mmとして規定式(13)-1より低め(=安全側)に規定している。
 非振り子特急車両70mmという規定は全国的なスピードアップのため1986年に導入された。それは、カント不足量60mm規定が、乗り心地限界0.08G=85mm、安全比率3.45=約100mm許容に較べて余裕があるとして、新たに適用された。

(番外).速度制限地上子設置判別 <T_Limit>

  2005/04/25福知山線尼崎過速度転覆脱線惨事を承けて「新型ATS(=ATS-P)があれば過速度にならない」、「新型ATS(=ATS-P)設置義務付け」論議が大流行である。保安度の高いATS-Pへの換装義務付けは大歓迎なのだが、事故に対応する正しい過速度対策は「旧型」ATS-SWか「新型」ATS-Pかではなく、青信号で働くATS=危険箇所への過速度防止装置=速度制限ATSの設置である。
  これはマスコミこぞっての誤報に加え、優秀な事務方ブレーンを抱えている国土交通大臣までが「新型ATSなら事故にならなかった。事故対策としてATS-Pに換装するまでは福知山線の運行再開を認めない」と言い出して議論は大混乱となっている。
  事務方は大臣放言の訂正・取り消しの文書は出さないまま、5/9付け通達文書の添付図としてATS-SWATS-Pでの速度制限実施例図解を配布し、そこにATS-P速度制限地上子を描いて実質訂正を図った。「過速度防止装置の設置基準については後日通達」ということなのでこの通達の実質的中身は現行ATS-P区間を含んでの過速度防止装置=速度制限地上子設置通達になっている。科学的・専門的な解析の密接に絡む事項を事務方に相談せず言いたい放題の莫迦殿様のお守りもなかなか大変な仕事だろう。前任国交大臣千景小母(現衆院議長)は鹿児島本線宗像海老津追突事故に際して事務方の説明を受けて無閉塞運転継続の中身を解った上で事務方に断固噛み付き、廃止へと方針変更の国会答弁をさせたが、今度の孝明大臣とはかなり人材が違う様である。国土交通委員会議事録で見る限りテキ側質問者の瀬古小母とはなかなか良いコンビだった様だ。

[ 速度制限ATS(速度照査)設置基準(案) ]         <ATS_POS>
  速度制限ATS設置義務基準としては、JR東海が速度差40km/h以上の箇所に設置という基準だが、制定したいのは転倒限界だから速度差ではなく遠心力が問題で、曲線半径やカントに影響されるので、一般適用できる安全基準ではない。
  またJR東海基準の40km/h差で今回の尼崎惨事現場を考えると、直線部制限70km/h+40km/h=110km/hという値なので、事故条件:108km/hでの突入より僅かに厳しいものになるから、危なっかしくて統一基準としては採用できず、JR東海も今後追加対策を命じられるだろう。
  転倒限界は車体の重心から、カントの付いた軌道面に対して重力と遠心力のベクトル合成線が軌間内の何分の1までを安全限界と定めるかで決まるべきものだ。それは現場作業に即して焼き直せば「不足カント○○mmを超える場合には速度制限地上子を設置する」という形が基本にになるはずだ。

[ 尼崎現場にJR東海設置基準で試算 ]
  取り敢えず70km/h+40km/hの均衡カント、不足カントを算出してみよう。
300R、97mmカントの速度制限が70km/hだから、
そのまま突っ込んだ横G=速度2/半径=(110/3.6)2/300=3.112m/s2であり、
重力加速度=9.8m/s2だから、
平衡カント=軌間×sinθ=1067/sqrt{1+(9.8/3.112)2}=323mm
実際のカントが97mmだから不足カントは323mm−97mm=225mmで、
まさに転倒限界である!

[ 最大不足カント量基準案 ]
  振り子式車両の不足カント限界規定が110mmだから、大きくてもその中間の不足カント165mm以上に速度制限ATSを設置というのが現実的な良い線ではないだろうか?
  事故現場に引き直すと、限界均衡カント=165mm+97mm=262mm
従って遠心力=9.8/sqrt{(1067/262)2−1}=2.48m/s2 が限界となるから、
その時の速度は、sqrt(半径×遠心力過速度)=sqrt{300×2.48}m/s=98.24km/hとなる。
従って直線側の最高速度がこの98km/hを超えていたら速度制限ATSを設置することになる。

[ ATS-SW/-ST速照地上子設置例 ]
  ATS-SW/-STでは、最高速度でこの速度制限値の地上子対に突入して強制非常制動を受けて速度制限開始点までに98km/hに減速される位置が先頭地上子対の位置である。すなわち最低の減速定数を25、空走時間を2秒として、1対での速度制限なら初設置位置=(1202−982)/25+空走時間2秒×速度=192m+2×120/3.6=258.7m手前位置に98km/h地上子(設置間隔=14.11m)設置が簡単だが、徐行距離を70.5m(=258.7−(982−702)/25)以上延ばしてしまう。警告なしの突然の非常制動でJR西日本も東海も安全維持にそぐわない処罰対象にされているのでかなり余裕を採って減速せざるを得ない。
  余分な徐行距離を減らすために2対の速度照査地上子対を使って制動速度を2段階にして109km/hの位置=(1092−982)/25+110/3.6×2=152.2m98km/h地上子対を設置、258.7m位置には109km/h制限地上子(設置間隔15.64m=109/3.6×0.5+0.5)を設置する。
  正規の70km/h制限を守って走る場合の地上子位置の速度は、減速定数を25と仮定してもsqrt(702+25×設置距離)だから、106.6km/h(<109km/h)93.3km/h(<98km/h)だから全く邪魔にはならない。乗り心地からの制限速度とは別立てで「安全限界速度」という概念を導入して速度制限設定を2段階にすればATS-SW/-ST時素速度照査でも余分な徐行区間をほとんど増やさずに過速度を防御できることが判る。

  この不足カントにより決める方式は、現場の曲線のカント量を含んで、実際の横転限界を基準に決められるので実態に即している。この場合でもカント低減=ねじれのある緩和曲線が一番脱線しやすい場所なのでその余裕を速度制限(=不足カント制限)で取るのか、緩和曲線部+2車両長へのガードレール設置で取るのかは検討が必要だ。

[ 誤差目立つ運輸省令計算式。原式回帰が必要 ]
#  折角まとめた公式でも計算を試みよう。
(12)-1.式(運輸省令で制定)より、110km/h、300Rでの平衡カントは8.4×1102/300=339mm:先の323mmとの微妙な違いは何か?値としては許容範囲だが解析としては気持ち悪いので検討すると、省略算前の(12)式で計算するとピタリ323mmに一致する。というより、先の計算を一般形に整理して解くと(12)式になる。平衡カントの定義から直の単純な解き方の方が算出が楽なのだ。すなわち誤差原因は、運輸省令算式が微少項として省略した2乗項が大きなカントでは無視出来なくなって生じたものである。転覆脱線限界領域の検討なので省令に定めるからといって近似算出式を安易に使うべきでない。
  通常あり得ない極端に大きなカントだから起きたことだが、計算尺と紙の手計算時代は遙か昔に終えているのだから、√とメモリー付き電卓(売価105円!)利用を前提に運輸省令に定める計算式を見直した方が良いだろう。その結果、安全側への誤差なら許容すればよい。

[ 速度制限ATS(速度照査)設置基準一般解(案) ]
  以上、ATS-ST/-SW、-Sxでの不足カント量を基準にした地上子設置計算例を以下に一般形で記しておく。
  ちなみにATS-Pでは制動距離以上手前に、制限速度、開始点までの距離、制限区間長を設定した無電源地上子を正副2個(=冗長予備)置くだけで、制限開始点丁度で制限速度に減速させる速度限界パターンが車上装置で生成されるので、乗り心地限界を超えることはないし、面倒な机上計算も不要である。
  均衡カントCb=実カントC+許容不足カントCd …………(12)-0 より
許容遠心力加速度=重力加速度G×tanθ=G・Cb/sqrt(W2−Cb2)
       =G/sqrt{(W/Cb)2−1}

この遠心力加速度は、速度2半径なので、
(V/3.6)2/R=G/sqrt{(W/Cb)2−1}
Vs=3.6×sqrt[R・G/sqrt{(W/Cb)2−1}] km/h が速照地上子設置限界速度となる.

  照査速度は乗り心地を考慮して曲線制限速度Vrに採るのは構わないが、実施を強制する「安全限界」ということで、設置限界速度Vsを選び、制動定数をとして、直線側の最高速度をVm、空走時間をToとすると、最も手前の速照地上子設置位置Ls
 Ls=(Vm2−Vr2)/K+Vm/3.6×To の位置に地上子対の後側を設置、

段階の速度照査として速度差を等分すれば、中間照査速度V2は V2=(Vs+Vm)/2
 従って、先頭の速照地上子対の前側は後側より V2/3.6×0.5秒+0.5m 手前に設置する。
 但し、0.5秒は速度照査車上タイマー(標準値)、0.5mATS-Sx小型地上子有効幅、速度照査は地上子のうちのりで動作する。
 中間の速度照査地上子の位置L2
 L2=(V22−Vr2)/K+V2/3.6×To の位置に地上子対の後側を設置
 前側の位置は、Vs/3.6×0.5+0.5m 手前に設置する
段階分割照査も同様の計算でできる。
(この項、2005/05/10追補)―――以上

(1).遠心力による転覆限界 <15>


 第(1).項、遠心力による転覆限界は、各車両の重心高と軌間から決定され、重心点から水平軌道面に遠心力と重力の合成線を降ろして、これが軌道の外側にならない範囲。すなわち水平軌道面で軌間W/2が限界となる。
  (転覆)安全比率aとは、遠心力の安全比率倍が上記転覆限界となる値である。安全比率は車両性能で区分され
  一般車両=3.5
  高性能車=3.0
と規定され、さらに新幹線や、傾斜、振り子機構を持つ高速車は更に小さな値に規定している。
 この水平面を基準の転倒限界から制限速度を定めて、カントで乗り心地限界に収めるのが国鉄JRの規定方法である。カントを付けた場合はカント面に対して同様、安全比率4で最高速度を定めている。
 子細にみるとカント角θに拠る横Gは、sinθ=カントC/(軌間+スラック) に比例するが、定義式ではtanθ=C/W で代用して、その誤差と、スラックとで相殺しているが、比率cosθそのものが1に近くしかも平方根内なので近似値1で算出している。
(8)式と安全比率の定義より
 V2/(127.008・R)=W/2a/H=W/(2a・H) だから、
 Vmax=sqrt((127.008・R)・(W/(2a・H)))=sqrt(127.008W・R/(2a・H))……(14)
 在来線:W=1,067、H=1,650であれば
   Vmax=sqrt(127.008・1067・R/(2a・1650))=6.41*sqrt(R/a)  ………(15)
    a=3.5 :一般列車で
      Vmax=6.41*sqrt(R/3.5)=3.43*sqrt(R) ……(15)-1(規定は3.5)
    a=3.0 :高性能列車で
      Vmax=6.41*sqrt(R/3.0)=3.70*sqrt(R) ……(15)-2
 標準軌:W=1,435、H=1,650であれば
  Vmax=sqrt(127.008・1435・R/(2a・1650))=7.43*sqrt(R/a)  …………(16)
    a=3.0 :私鉄電車で
      Vmax=7.43*sqrt(R/3.0)=4.29*sqrt(R) ……(16)-1(規定は4.3)
 新幹線では、最大カントC=180mm、最大カント不足量Cd=90mmとして
  Vmax=7.43*sqrt(R/a)=4.8*sqrt(R) としている。(a=2.40) ……(16)-2

本則」とは  <17>

 本則の定義は、以下の通り。
# JR運転取扱心得:曲線半径別制限速度(基本の速度)に相当
カント=0、軌間=1,067mm、重心高=1,650mm、一般列車安全比率=3.5とした速度限界式である。
(1).安全比率a=3.5(カント0面)での制限速度
 (15)-1式  Vmax=3.43*sqrt(R)
本則=:(カント0で、)在来線 Vmax=3.5*sqrt(R)……(17)-1
新幹線 Vmax=4.8*sqrt(R)……(17)-2
 の制限速度を云う
  「カント0」とは「安全比率算出条件が水平面」の意であり、乗り心地限界0.08G、代用特性として一般車両不足カント60mmを超えぬ様、カントを付ける
 R=400で、本則=70km/h、一般電車=80km/h、
 381系振り子式電車=90km/h、383系振り子式電車=95km/h
とあるが、均衡カント(12-2式:b=8.40・V2/R)を求めると
制限速度70.80.90.95.km/h
均衡カント103.134.170.189.mm
−105mm−2.29.65.84.不足mm
総て制限内のカントに拠り乗り心地限界0.08G内に収まっている。振り子が不足カント110mm許容ということは、平衡カント189mmに対して、実際のカントが79mm以上あれば95km/h走行が許容されることになる。

(2).カント0で乗り心地限界0.08Gの速度:160R 40km/h制限は、上記定義式では44km/hになるので、5km/h単位の切り捨てなのだろう。

 参考こひつじの家
【 参考文献 】
電気鉄道概論改訂増補版、曲線分岐付帯曲線の制限速度
  安藤信三著kk成山堂書店2003/12/08刊(昭和鉄道高校教諭・東京交通短大講師)
  • 基本定義、適用、現場式の順に流れを解説していて、単に式が並ぶ他書よりも大変分かり易く妥当な解説。さすが教員!……と言い切りたかったのだが理論解析冒頭の遠心力の式が[kgf]単位といいながら実際は[N]単位の式で、それを変形引用した式は正しく[kgf]単位の現場式になっている(P82中段)。日常使わない部分を良く確かめずに書いたものだろうが、実害のない箇所で極端に信用性を落としてしまうのは残念。中味は良い本だ。:(04/08/01追記)

    [ 函数定義 ]

     制限速度rmax(R,W,C,Ge)の函数定義は、汎用の4変数函数として
      Function Vrmax(R,W,C,G)
        Vrmax=Sqr(127.008*R*(w/Sqr(W^2-C^2))*(C/W+G))
      End Function
      (下線部の名称を一致させる.以下同)

     平衡カントbal(R,V,W) の函数定義は、3変数函数として
      Function Cbal(R,V,W)
        Cbal=W/Sqr(1+(127.008*R/V^2)^2)
      End Function


    Excel中での函数の呼出は,セル内で各変数値(アドレス可)を指定し
      Vrmax(X81,Y82,Z83,T84) や  Cbal(X91,Y92,Z93)
    とする。「=」はセルの冒頭のみに置いて式セルを示すことがL123との相違.
    L123中での函数の呼出は,セル内で各変数値(アドレス可)を指定し
      @Vrmax(X81,Y82,Z83,T84) や  @Cbal(X91,Y92,Z93)
    とすれば良い. cf.→VBA(DEF FN)函数定義

    使用例:【 制限速度(半径,カント,横G)一覧表(レール面での計算)

    参考:水平面内での計算【 制限速度(半径,横G)一覧表

    mail to: adrs
    Last update: 2008/06/02   (05/05/10,04/02/07org.04/01/24, 02/09/04
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