(#62〜#63など)(冒頭部分[82].項として分離済み:08/28)
[ 速度照査装置設置が先決 ]
尼崎事故当夜,かなりデタラメなマスコミ報道の訂正を,私がスレ建て人として維持してきた技術系のスレに書き込みました.主要点は,ATS-P/-SWに拘わらず制限速度照査が必須で,ATS-Pに換装しただけでは事故を防げないというものです.
cf.
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/train/1063940346/429n
日記62 日記63
この内容について鉄道ジャーナル誌'05/09号(07/21発売?「ATSと鉄道の安全投資」P86右段中央〜)で亜細亜大学の佐藤信之氏が約20余行で批判していることが分かりました.
書き込みのタイムスタンプ(2005/04/25 20:53:45)で見る限り,まとまった誤謬報道批判としてはこの指摘が最も早い時期のものでしたから,私の見解への批判という要素が強い記事です.
しかしながら、掲示板書込みに対する佐藤氏の批判内容は,何重もの事実誤認での主張です.RJ誌編集長自身が直接体験していないことを以て「強制動員や従軍慰安婦は存在しなかった」,「南京大虐殺は幻だ」と主張し「気に入らなければ買わなくていい」と言い切る様な主観主義右翼プロパガンダ雑誌で到底ジャーナリズムとは言い難いところに鉄ヲタの戯れ言が載っただけなら放置して狂信編集長引退まで購入中止を続ければ良いのですが,「大学」名の印籠をかざして原文が特定できる誤った批判をされては反論が必要です.そんな訳で「インターネット書き込みの誤謬」とされてしまった誤報指摘書き込み当事者のトップバッターとして反論します.
[ 佐藤氏の記述は ]
RJ誌9月号での佐藤氏の記述は
- > インターネットの書き込みの中に「ATS-Pがあればこの事故は防げた」という報道に異議を唱えるものがあった.ATS-SWには速度照査機能が付加されており,事故の個所に速度照査用の地上子が設置されていれば防げた,という主張らしい.しかし,ATS-SWと同等の機能を持つATSを設置している土佐くろしお鉄道において,速度超過を原因とする重大事故が発生したばかりであった(P86右L15).
- > (私鉄ATS通達:昭和42年鉄運第11号通達について)現在話題になっているATS-Pの機能が,この段階でほぼ規定されていたことになる.(P83左L18)
- > なお,トランスポンダとは,ATSの地上子と車上子の間で, ……… 双方向通信を行う装置である.
またこの技術は,既に昭和40年代に民鉄が導入していたものと同じものであり,国鉄内部では民鉄型ATSと呼んでいた.(P83右L34〜)
- P整備線区と発表しているにもかかわらずP・SW併用と称しP装置のスイッチを切って運行するなど,JR西日本の安全に対する考え方には理解できない部分が多い.(文末行)
などとなっています.これを読む限り,佐藤氏はどうやら宿毛事故の事実関係把握が不十分でATS-PやATS-Sxの具体的動作や特段の利点・欠点を正確に分析されては居られないようです.
土佐くろしお鉄道宿毛駅特攻事故の直接原因は事故調が調査中ですが,非常制動が動作したことは確認されており,それは停止目標の178m手前に設置されていたATS-SSの25km/h速度照査地上子対によるものと推定されています.
- 先ず,過速度・突入事故を安全装置であるATSが防げなかった理由は,想定される最高速度120km/hに対応する適切な位置に過走防止装置・過速度防止装置が設置されてなかったことが決定的で,加えて停止限界位置と場内信号のロング地上子設置位置も最高速度に対応して居らず,注意Y現示速度基準45km/h+5km/h〜で設置されていたためでした.
更に,速度制限の照査は,赤信号とは独立に青信号でも行われるもので,尼崎事故地点の70km/h制限に対しては,安全装置(ATS-SW/ATS-P/ATCなどの保安装置)の如何を問わず具体的な速度制限設備を設置・設定しなければ全く防御されません.
この2項は今年'05/03/29付けの平成17年国鉄第195号通達として全国の鉄道事業者に点検修正指示が出されています.即ち、尼崎,宿毛両事故とも、ATS-Sxの時素速度照査機能の適切な活用で防げた事故:現場手前に適切な過速度防止装置を設置することで防げた事故だということです.事故後の宿毛では約800m手前から3段の速照対を設置し,一基は制動余裕を取って手前に移設して4対で過速度防止装置を構成する対策を取り,また停止限界30m手前の23km/h速照を38m手前に移設し15km/h設定にして防御しました.すなわち,宿毛事故ではATS-SSで防御できなかったのではなく,必要な設定を行わなかったため防げなかった事故ですし,ATS-PでもJR西日本の設置条件(=最高速度130km/h以上の路線)では設置対象外で防げなかった事故でした.
- 私鉄ATS通達(昭和42年鉄運第11号通達)の仕様はどれもATS-P特有のものではなく,ATS-Sx/ATCなど安全装置一般の具備要件です.すなわち
- 常時自動投入=ATSなしでは走行不能
- 3段階速度照査で,最終照査は20km/h以下≒冒進速度制限
- (動作した場合は)赤信号手前で停止させる
となっており,速度照査規定が冒進速度を落として安全性を非常に高めているのは確かですがATS-P照査方式固有の優れた原理である停止位置基準の照査は全く触れられていません.だから「ATS-Pの機能が,この段階でほぼ規定されていた」というのは妥当な表現ではありません.
- トランスポンダとは端的にいえば「応答装置」です.何らかの信号を送ると,呼応して返信をする装置をいいます.衛星通信分野では「中継器」を指します.当初は軍用機の「敵味方識別装置」(現IFF)として伝わりました.問い合わせコマンドを送ったとき,所定のコードを返せば味方として攻撃を避けるもので,火器管制装置の探知限界が80km程度(F-104J戦闘機の仕様)の場合,双方が2.5マッハ前後で接近すると,その距離は47秒余ですれ違い,3.4kmの距離で発見しても5秒ですれ違ってしまい,肉眼での発見すら困難で敵味方の識別は不可能なので,高速戦闘ではトランスポンダが必須になる訳です.単なる垂れ流しの双方向通信機能はATS-Sxにもあり,それは応答(やりとり)ではないので一般にはトランスポンダとは呼びません(鉄道でだけ特にそう呼ぶのなら双方向通信可能なATS-Sxの地上子もトランスポンダになりますが無理があります).
私鉄ATS通達当時に私鉄各社で採用された方式は,
- 京王,小田急などが共振型地上子を使って車上装置の発振周波数を引き込み現象で変える「変周式」と言われる(ATS-Sx地上子と同じ)もの
- 阪急,阪神などが軌道回路にAF信号を流して現示を伝えるATCの方式に準じたもの
- 京成,京浜急行,都営地下鉄1号線などいわゆる1号型ATSが軌道回路の信号動作電流の断続で現示を伝えるもの
- 営団地下鉄の新設線などが軌道回路式のATCなど
がありましたが,応答装置:トランスポンダを使った方式が私鉄型として主流や標準になったことはありませんし,どの民鉄がトランスポンダによるATSを採用したかを私は知りません.
どんな経緯で「国鉄内部では民鉄型ATSと呼んでいた」のかは知りませんが,どう整理してみても,速度照査機能が標準でついたATSを私鉄型というのなら分かりますが,トランスポンダ型,あるいはATS-P型を「民鉄型」と呼んでいたとは思えません.私鉄ではなく新幹線ATCにはトランスポンダが補助として多用されているそうですが,「民鉄型=トランスポンダ型」は何かの間違いでしょう.
- 「ATS-Pを切る」というのがJR西日本の「拠点P」方式動作によって一般閉塞信号区間ではATS-Pを自動休止させATS-SWのロング地上子の警報だけで運転することへの批判ならそれは同感です.また,JR西日本のATS-P装置が運輸省勧告通りの自動投入,自動切替ではなく,手動投入・切替であるとしてこれを非難しているのならそれも同感ですが,それは佐藤氏がP装置の特徴として挙げるATS-Pの基本機能(6)P/SW自動切替と矛盾しています.ATS-P自体が地上子からの休止コマンドで自動的に制御されているのですから,この制御信号で同時にATS-Sxの有効・無効を制御するだけで自動切替になります.こんな単純な安全対策すらJR西日本はサボっているのでしょうか?鉄道ファンの間では手動投入と堅く信じられていますが,ATS-P導入後の19年間に,ATS車上装置の載せ忘れ運行こそ有りましたがATS切替忘れ事故は伝わって来ませんし,その機構から考えれば,P/SW自動切替←→P/SW併用(拠点P)の安全上必須ではない手動切替操作は残りますが,実際は主要部が自動切替である可能性が強い様に思えるのですが,直接JRに押しかけてもヲタはまともに相手にして貰えませんし,どこでこの辺りの事実を確かめたら良いでしょうか.
- 国鉄JRのATS-Sxと,私鉄ATS通達仕様,更にはATS-P照査方式の根本的・原理的な違いは,
- ATS-Sxがいわば「現示制御」で適切な制動ポイントを決められず,宿毛事故に見られたように最高速度での(赤信号)冒進が可能で,更に一般閉塞信号には強制制動の直下地上子すらないのに対し,
- 私鉄ATS通達仕様は3段の速度照査で最終照査速度が20km/hと規定している「速度基準」であり,絶対停止地上子の設置は義務付けていないため,−Sxとの比較では冒進速度が1/6,冒進エネルギーや冒進距離が1/36に抑えられて大事故には至らないことが決定的な違いになっています.(絶対停止のない社では低速でズルズル抜けてきて小事故は起こりうる.条項の解釈がこの点は緩い)
- これに対しATS-Pでの照査方式は,「停止目標基準」で,自列車の標準減速特性から刻々の速度限界を算出して警報・制動するため,冒進そのものが起こらない優れた方式です.
破損度にほぼ直結する冒進速度の運動エネルギー比で表せば、直下地上子がある絶対信号の場合でもATS-Sx=120〜130km/h:私鉄ATS通達=20km/h:ATS-P=0km/h=36〜42:1:0、(停止信号の)冒進距離でいえば同比率の500〜587m:14m:0m(減速度4km/h/sと仮定) という決定的大差です.更に、一般の閉塞信号には直下地上子はなく無防備です.
- 今年5月の国会で事務当局や北川国交省大臣が「赤信号手前で停止させるから国鉄方式と私鉄方式に安全性の差はない」と答弁したのは国民を愚弄する許しがたい虚偽答弁ですが,2度も同じ虚偽答弁をされてスゴスゴ引き下がる方も不勉強に過ぎます.質問に立った管直人氏は東大より優秀とされる東京工業大学理学部応用物理学科卒だったはずなのに卒業時はハヤ「理学部政治学科卒」に変わっていたのでしょうか.スタッフだって居るでしょうし,ネタ元の赤旗新聞や読売新聞・毎日新聞に説明を求めることも可能なはず.質問前日5/15の赤旗新聞トップ記事:私鉄ATS通達廃止追及の切り口をパクるのならその中味まできちんと分かって役人に誤魔化されず追及して頂きたいものです.科学者,技術者の尻尾を付けたまま政治家になったのは,新幹線とリニアを強力に欲しがった江沢民主席とか,物理計測にも強かった東大物理学科卒の不破哲三氏とか数少ないのでしょうか.(氏の次代の応用物理学科在籍氏の方はどうも政治学科卒の模様ですし、応用物理学科卒の「政治家管」質問の不甲斐なさを叩くのは無理があるのかもしれません。でも委員会審議を聞いていてあまりに歯がゆくて(苦笑)
今後の安全対策として北川国交省大臣(公明)が線区を選んでの「ATS-P義務化」を打ち上げましたが,衆議院での国交省答弁である「ATS-Sxと私鉄ATS通達仕様に安全上の差がない」という虚構に立つのなら,高価なATS-Pへの換装はまるで意味がないことになってしまい,アンチ在来線の権化:JR東海の強力な抵抗も予想されて,近日中の大臣の更迭を待って有耶無耶にされてしまうのは当然の成り行きでしょう.2度目の質問には北川大臣自身が前回役人がしたまんまのコピペ答弁に立って「国鉄と私鉄ATS基準に差がない」と明言して,結果的に「ATS-P義務化」方針の論理的根拠を否定してしまいました.技術的にはよく分からないまま感覚で放言するパフォーマンス大臣が役人に良いようにあしらわれている図ではありますが,他党も国民を愚弄する虚構答弁の放置はいけません.
[ 速度照査機能の義務付け必要 ]
JR発足に当たりその前夜,私鉄ATS通達を廃止して速度照査機能搭載義務付けを廃止して国鉄型欠陥ATSを温存させ,88年東中野駅追突や89年北殿駅,97年大月駅など,防げたはずの衝突事故を繰り返してきた訳ですから,速度照査方式と自動投入の義務付けは是非進めるべきで,それはこのホームページ開設の動機の一つでもあり全く同感ですが,尼崎事故を防げなかった直接の原因は過速度防止装置が設置してなかったことであり,ATS-Pに換装してもJR西日本の速度照査設置基準に該当せず,事故は防げませんでした.更にATS-Pに更新しても貨物など非装備車のために-Sxを残して併用するので,−P換装が速度照査不設置の理由にはなりません.換装予定で放置したというのはJR西日本の嘘です.大学人としてはもう少し正確な理解で改良手順を含めて主張して頂きたいものです.
JR西日本の安全に対する考え方には理解できない部分が多い(文末行).という結論は同感というか,ヒドイと感じていますが.
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