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やはりヲタ仕様「電車の進化大研究」
 意気込みは是だが「本当は…」「正しくは…」の乱用と過度単純化で勇み足

 「「電車の進化」大研究 メカニズムの基本知識と鉄道輸送の未来」、広岡友紀 著中央書院08/09/21刊の紹介urlがBBSに書き込まれていて、メカニズムの基本知識解説がうたわれていた。さらに著者が「民鉄車両『研究者』」とあって、特に「新幹線300系の制御がVVVFではなく正式にはサイクロコンバータである」という文に当たり、それでは通常は変換途中に直流化されず直接他周波の交流化される意になるので通読したのだが、間違いなく一旦直流化(脈流化)しているので、それは「正式には」という点で不適切だ。 技術部の解説については各所に工夫が見られて好感が持て川島怜三氏の尼崎事故本技術解説の酷さ(日記95、81)に比べたらかなりマシなのだが、逐条的にみると訂正修正箇所がかなりの量にのぼる。 記述内容が邪馬台国は我が町○▽にあったはずとかの若干のどかな『研究家』ならその程度でも良いのだが、自ら鉄道車両『研究者』を名乗る著者の理工学的解説としては若干不用意に過ぎて全体像からは離れるものがある。 しかしながら同じく間違いだらけの川島本の様な嫌悪感が沸かないのは安全・公益に反する誤りをごり押し主張するのではなく、間違えたところで何てことない部分で、常識的説明を大仰に否定して自説を述べて転けていたりであまり実害がないからだろう。 数少ない育ったら楽しい女性ヲタというのも追及を甘くする要素なのかもしれないが(苦笑)。 修正項多発の分野と、その必要のない記述とを比較すると著者は私鉄車両内装外装関係の研究者なのかもしれない。 主たる側面は突っ込みどころだらけの鉄ヲタ執筆本という印象を持った。 (おまえさんはどうかって?そりゃヲタ、設計製作スキルのある理工系のヲタであります。 各論で引用リンクした「鉄道車両Tips」の様な深く正確な内容を目指しながらも到底追いつきそうもありません。作者は「中の人」でしょうね。)
[紹介ページ]→http://www.chuoshoin.co.jp/tachiyomi/187-8.html
過走防止装置比較
(P過走vs京王1型15地上子)
ATS-P過走即時停止地上子
(千葉駅#2行き止まり線過走部)
千葉駅#2即時停止地上子
時素型過走防止装置
(京王1号型15地上子)
KO新宿駅#3過走防止装置

 新技術の場合、開発分野、利用分野毎にそれぞれ独自の解説が行われて名称付けされるし、用語法としては誤ったまま定着してしまうことも少なくない。それを学問側が後追いで理論化し再命名したり、相互交流で流れとして自然に統一されたりという変遷を辿るものだから、一分野から他分野を見て正式命名でないなどと言っても無意味なことが多い。業界毎に微妙に命名や解説が違い、また構造の経時変化で定義概念が変化してくる例もある。
 特に極端なのは現物が先に導入されて仮訳や応用が先に広がり定着し理屈が後回しになった例で、「ブスバー」「直線増幅器」「VVVF」「量子化」「交流回路の複素数計算」「演算子法」など数々あり、正解が算出できて実用に供されて居るのに数学者は長らく理論化できずに認めなかったとか、命名の不適切さから初学者の理解を妨げることさえあった。そう言う分野を含んでいるのに軽々に「正式には……」とか「本当は……」と正しい異見を攻撃してはそちらが間違いになるのだが、この本にはそうした配慮が感じられない。現場直結の技術者・研究者ならよく知っていることなのだが。
 そうした不確かな内容での他者に対する攻撃的記述を「研究者」を名乗って行ってなければ放置だが、無邪気にそのまま信じた鉄道ファンたちから「本当は」「正式には」などと解説され「根拠有るソース」などとされるのも鬱陶しいので、補正のたたき台として提示したい。
 その補正の前に、これまで他のライターが触れなかった妥当な着目点は一つ挙げておこう。執筆意図は肯定できるのだから、不具合部分、欠ける部分の指摘だけでは公正さを欠いてしまう。

  • TSP東武方式重視は卓見 (補足08/12/14)

     東武電車ATS:TSPは、変周式だが一部地上子を位置マーカーとして車上演算で列車種別毎の限界速度を算出して速度照査を行うパターン方式を採用していて、ATS-Pの原型とも言うべき優れたものであるが、'67年の私鉄ATS通達に対応した古くからの方式なのに、これまでほとんど着目されていなかった。それを大きく採り上げたのは卓見であり、技術解説作文の川島怜三氏本とは格段に違うのではあるが、なぜ優れているか=大きく採り上げたのかは説明が欲しいものだ。
     素人目での大きな違いが見えるのはTSP方式の東武東上線池袋駅と、時素式の京王線新宿駅渋谷駅、小田急線新宿駅を比べれば一目瞭然だ。時素型が15基〜20基もの地上子を並べて居るのに対し、パターン型は入口の1基が基本で、過走した位置に即時非常停止地上子が1〜予備を含めて2基である。パターン式であるATS-Pでは総武線千葉駅2番線、京葉線南船橋駅2〜3番線などの行き止まり線が典型でホーム入口に折返し出発兼用地上子1基と過走即時停止地上子2基だけが設置されている。(東京駅1〜2は更に、高速進入化のために自動緩解である速度制限地上子が、同京葉1〜4には折返し方向の短編成列車の誤出発防止の地上子が設置されているのでパターン式地上子のみだが若干分かりにくい)


    「……進化大研究」修正・訂正項目

     具体的な修正・訂正項目を挙げておこう。売れっ子ライターと言うだけで間違いに説得力を持ってしまう川島本のような実害が懸念されるものはないから読み流せばそれきりだが、「研究者」にしてはかなり不用意な間違いが多い。以下の記載以外にもまだまだある。ハァ〜。但し、独自の分類法採用は感性の問題も絡むので定説と違っても定義が明確で合理性があれば無問題。


      雑情報   <memo>

    1. [「B級直線増幅器」→B級線形増幅器]
       数学用語のLinior(線形)を通信技術系が「直線」と訳したことで混乱を生じた。B級増幅というのは交流分の正負片側のみを増幅するもの、いわば半波整流の様な増幅動作だから、それが「直線」増幅というのは自己矛盾なのだ。
       正しくは数学概念の「線形」。線形微分方程式の線形である。「線形」という変換操作は、A,B2種類の事象をそれぞれ独立に作用させてから加算したものと、加算してから作用させたものが等しいことと、同時に、作用させてからn倍したものと、n倍してから作用させたものが等しいという2条件を満たすものを言う。微分積分は線形操作だが、1次方程式で線形なものはy=Axのみである。B級線形増幅器では出力共振回路による濾波作用のためB級増幅で発生する高調波は吸収されて、基本波だけが増幅されるので線形性を保つ。また波形の上下を別々に分担するプッシュプル回路を構成することで音声周波数帯の線形増幅器を構成している
          See→B級PP増幅回路

    2. [「VVVF」]
       最近は「VVVFインバータ」と呼ばれるようになったが、元々は3相交流電動機を鉄道で使う場合の制御方式として「可変電圧可変周波数」方式という日本製英語を採用してVVVF方式と呼ぶようになった。同様方式の家電製品としては「インバータ冷蔵庫・エアコン・洗濯機」などがある。
       「インバータ」とは直流を交流に変換する装置。
       「コンバータ」は逆に交流を直流に変える整流装置のうち、電力の逆流を許すものを呼んでいる。
      ということは、インバータとコンバータは原理的には実質同じものの利用法の違いということになる。
       単純な整流器との違いは、ゲート素子を用いることで逆方向の電力供給を可能にしていること、すなわち電鉄で言えば「回生制動」を可能にする方式を指している。
       従前、誘導電動機は一定の周波数(商用周波数50/60Hz等)でのみ用いていたが、鉄道では速度0から最高速度まで連続的に変化させる必要がある。その端子電圧に着目すると、回転数/周波数に比例する逆起電力に巻き線のインピーダンス電圧降下が加わった値となり、励磁磁束が一定値の場合、逆起電力が回転数に比例するから、その比例関係を保って給電すれば任意の回転数で駆動できる。これを鉄道ではVVVF制御と名付けたが、電圧と周波数の比例関係に触れてないなどで汎用的呼称ではないので収まりが悪く、近年は原則的命名の家電系も取り入れて「VVVFインバータ制御」近年「V-F比例制御」などと呼ばれている。
       記事のSIV(静止インバータ)との関係で言えば「VVVFインバータをCVCF(定電圧定周波数)動作で使ってSIVを構成する」のだから「SIVが誤りでCVCFが正しい」と言うことではない。

    3. [「ブスバー」]
       それなりのお姉さんばかりが叔父さん達を待ちかまえるバーではない。今風に言えば「バスライン」のローマ字読み。変電所の「共通母線」だが、大電流のため太いので「バー」とした名称が電力・強電業界に拡がり、鉄道の変電所にも伝わったもの。爆撃機bomber:ボーマーがローマ字読みのボンバーで拡がっているのと同じローマ字由来の日本なまり読みである。

    4. [「交流回路の複素数計算」]
       交流回路の定常状態を計算する方法として、インピーダンスの表記に虚数単位、複素数を導入して、コイル成分:リアクタンスに+虚数単位を乗じ、コンデンサ成分には−虚数単位を乗じて計算すると位相関係まで算出できるので交流回路計算の現場に重用されることになった。直列接続として
        インピーダンスZ=直列抵抗R
                +虚数単位j{角周波数ω・インダクタンスL−1/(角周波数ω・静電容量C)}
        電圧降下V=インピーダンスZ・電流I ………(インピーダンス=比例定数:交流抵抗)
          Z=R+jωL−j1/(ωC)、   V=Z・I
       で現して、交流回路のオームの法則としている。
       電力計算についてのみは共役(きょうやく)複素数を乗じることで、有効電力Pr(実消費)と、無効電力Pi(虚消費)、皮相電力(見かけの電力)を計算できる。すなわち電力P計算は
          P=V・I=Z・I・I =Pr+jPi となる。
        なお虚数単位は数学では「i」で表すが、電気工学では「i」が瞬時電流の略号として広く使われているので代わりに「j」を使っている。2=j2=−1 が虚数単位の定義である。
       しかし当初はなぜ正しい計算方法なのかの厳密な証明ができなかった。それまでは微分方程式を解いて過渡現象解と定常解を求めるのが正統な解法だった。
       この交流回路の計算方法は高校物理や一般教養課程の物理では取り扱っていないが、工業高校以降の理工系で教えていて、実用上ではいちいち微分方程式を解かずに定常解を得られて大変便利である。過渡解については、次項「演算子法」関連の「ラプラス変換」参照。詳細は「電気理論」テキスト、交流回路のオームの法則、複素数計算などを参照。

    5. [「演算子法」]
       微分方程式の簡単な解法で、現在では「ラプラス変換」として整理定式化されているが、その正当性が数学的に証明される前に解析設計現場で使われていた方法。電力関係などの古い専門書には記述がある。

     先出雑情報の交流回路複素数計算、演算子法などの厳密証明未了の算出方法が広く現場計算に先に使われていたのは驚きである。理論が実使用を後追いしたのだ。経験工学たる鉄道についても同様の歴史的蓄積があるだろう。そういう世界に向かって、分かりやすく正確な解説を目指した記事を提起するに留まらず、不確実な後知恵で「正しくは」「本当は」「正式には」などと否定的に斬りつけたら自爆してしまうのは当然ではないか。編集者の売らんかなの煽りが有ったのかも知れないが、掲げる意図に反し本全体の信用性をかなり崩してしまった。

    2008/11/19 23:55
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