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「まだ受け取っておらず、何が書いてあるか把握していない」 事故調委が「事実関係の調査に関する報告書案」を公表した2006年12月20日、山崎前社長はそうコメントした。 しかし実際は、自ら接触していた山口浩一元委員から数日前に報告書案を得ていた。また、当時の丸尾和明副社長(現・日本旅行社長)とともに「当社に深い理解のある人」として旧国鉄OBら4人を選び、公述人への応募を頼んでいた。 意見聴取会は翌07年2月。同社は「公の場で意見を申し述べる重要な機会」(元幹部)と位置付けていた。聴取会を踏まえて出来上がる最終報告書が捜査資料となる可能性もあった。このため山崎前社長らは、聴取会の日程や報告書案の情報収集に奔走した。 当時、宝塚線が「過密ダイヤ」と批判されており、報告書案もそれを裏付けるようなデータを掲載。山崎前社長は不満を持ったとみられ、旧国鉄OBに「ダイヤに(事故の)原因があるのではないと言ってほしい」と公述を頼んだという。 一連の行為にJR発足後に入社した中堅社員は「水面下の情報収集や根回しを重んじ、身内の論理を優先する官僚体質が出た」と嘆く。鉄道事故に詳しい佐藤健宗弁護士は「かつて国鉄官僚の多くは運輸省の官僚を格下に見ていた。JR西の幹部は今も『官僚や事故調の調査官は何も分かっていない』と思っているのでは」と指摘する。 国交省は情報漏えい問題の発覚を受け、10月中に有識者や遺族による検証チームを設ける。運輸安全委の事務局は「有識者への働きかけも検証チームでテーマになる可能性がある」としている。(足立 聡、磯辺康子、山崎史記子) (2009/10/16 08:31)【神戸新聞】 http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/0002446362.shtml JR西が意見書案作成か 公述人応募のOB証言尼崎JR脱線事故をめぐる国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(現運輸安全委員会)の意見聴取会で、JR西日本が、公述人に応募するよう働きかけた国鉄OBの男性(88)の意見書案を作成していたとみられることが16日、分かった。男性は伊多波美智夫氏で、共同通信の取材に対し、応募に必要な意見書の作成を含め、必要な手続きはJR西が行ったと証言。意見書案には懲罰的だとして批判が強かったJR西の日勤教育について「わたしの考え方と違うことが随分あった」と話している。 これに対し、JR西は「事実関係を確認しておらず、コメントできない」としている。 伊多波氏によると、2007年2月に開催された聴取会の数週間前、山崎正夫社長(当時)から公述人への応募を依頼され、承諾。その後、JR西から聴取会で話す内容をまとめた3枚ほどの文書がファクスで届いた。 伊多波氏は日勤教育について「軍隊のような教育をやっている」と否定的だったが、文書の内容をはっきり記憶していないものの、記述に違和感を覚えたと説明。「こういうふうにしゃべってくれということだろう」と受け止めたという。 JR西が公述人への応募を働き掛けたのは計4人。このうち伊多波氏と、小野純朗日本鉄道運転協会会長(78)の2人は選ばれなかったが、聴取会後にJR西から現金約10万円を受け取ったことが明らかになっている。 2009/10/16 12:23 【共同通信】 http://www.47news.jp/CN/200910/CN2009101601000291.html JR西 事故調査委に圧力
107人が死亡したJR福知山線脱線事故をめぐりJR西日本が、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(当時)の委員や意見聴取会の公述人に接触し、発言内容について働きかけていたことが相次いで明らかになりました。遺族をはじめ関係者からは、同委員会が作成した事故報告書の信頼性を問う声があがっています。 | ||
尼崎事故調査報告書検証チーム就任 ※1.柳田邦男氏: 「新幹線事故」執筆1977年3月25日初版中公新書461。 ATC詳細構造に踏み込んで原因解説 1936生1972年「マッハの恐怖」で第3回大宅壮一ノンフィクション賞受賞 ※2.佐藤建宗氏: 信楽列車事故被害者弁護団(遺族弁護団)員。 事故防止のシステム的対応の必要性を判例化 「信楽列車事故 JR西日本と闘った4400日」執筆者の1人 2005年5月30日第1版現代人文社発行
| ※ 佐野眞一氏: 信楽高原鉄道事故で、信楽駅出発信号の停止現示固着が亀山信号所での 方向優先梃子操作時にのみ起こる異常現象であることを発見して記事に しJR西日本の隠蔽工作を暴いたノンフィクションライター。斯界の重鎮。 「検証 信楽列車事故 鉄路安全への教訓」京都新聞記者鈴木哲法著京都新聞出版センター2004年2月26日刊の巻末解説 |
JR西日本が国鉄一家OBの伝手で事故調委員や関係者から情報を得、また見解を拡げていたことが検察が国交省へJR西による事故調委員接待と情報収集の通知を機に大きく明らかにされて、事故調委員に禁じられた情報漏洩や、公正さを疑われる厳禁された行為として厳しく糾弾されている。この事態に国土交通省も尼崎事故調報告書を第三者委員に検証させることを決め、赤旗新聞の報道によると、ノンフィクション作家の柳田邦男氏※1、TASK事務局長の佐藤健宗弁護士※2の就任が内定したと前原国交相が発表した。その人選は判定結果が信頼される金看板として大変適切なものだ。残るビッグネームは信楽事故で最初に方向優先梃子操作と信楽駅出発信号固着の関連性を記事で指摘したルポライター佐野眞一氏くらいのものだろう。サポートとして生じた疑問に具体的な解析を行える実務的研究者を配すれば申し分ない。
しかしながら、鉄道事故調査委員会からの情報漏洩とJR西日本の各種不当工作についての報道は、若干一面的に過ぎないか?無論、OBを含む国鉄一家の個人的関係が、事故調査委員としての守秘義務をすり抜けて、処断されるべき相手方に筒抜けになる不当さについてはその形態だけで弁明の余地が無いのだが、事故調報告書とJR西日本の主張の争点が何処にあったか、また国鉄JR外に鉄道事故照査機関が確立するまでは、事故当事者調査として結論への介入は今回のJR西日本程度では済まず、やりたい放題だったのではないか、という実質をも追い掛ける必要があるだろう。報告書の詳細な再検証で歪曲された部分の有無が確かめられるだろうが、原文をきちんと読み込んでいれば既に流れは分かっているだろう。
尼崎事故調報告書とJR西日本の相対関係は?
意見聴取会での台詞を記した台本と報酬付きの公述人問題で、JR西日本の主張と、事故調の見解は概ね以下の通り
事故調報告書はこの3大争点で総てJR西日本の主張を否定しており、結論に影響を受けていない。さらに報告書記述の姿勢で見ると、ATS-P速度制限設定をJR西日本より低速になるJR東日本と共通の設定にしたことすら「規則を知らないミス」として厳しく指摘している。
そういう対立的流れを見る限り、鉄道事故調査報告書はJR西日本からの悪い影響を受けてゆがめられた論点は見あたらないと言える。佐藤委員長がJR西日本幹部との接触の意図を「日勤教育の実態を知りたかったから」としているのは額面通り受け取って良いと思う。
ことに事故調委員長が遺族に直接説明する試み(日記#165#m1)は、遺族から厳しく追及されるだけに終わって見返りのない努力に終わることも充分あり得るのに、貧乏クジも承知で貫徹した姿勢は高く買いたい。事故調委員が事故発生当事者と非公式の面会は極めて妥当性を欠くが、その意図は前出の通りに受け取って良いと思う。本来説明責任を負うべきJR西日本はこのとき、遺族・被害者のみに説明するとして説明の当否を判断理解できる専門家の同席を拒んで口先で丸め込む姿勢を露わにしている中で、事故調は規則では義務付けられてはいない遺族・被害者説明会を敢行している。ちょっと引いてみれば事故調委員として許されない国鉄一家意識丸出しの癒着行動ではあるが、その善意の下の行動であったことは私には信じられる。
事故調報告書は裁判の判決文の様な記述構造で、慣れないと読みにくく理解しがたいので、慣れてない方が報告書原文読破に取り組む場合は取り敢えず、記述構造解説ページに目を通して頂ければ幸いである。章立て毎に辞書のように脇を黒く塗り分けるとか、分冊毎に総目次を綴じるなどの工夫をすると記述構造が見えて読みやすくなる。私自身は準備書面や判例集を読んだり、陳述資料を作るのも長らく仕事だったから長文判決でも読み慣れているが、普通の人は読んでいるうちに迷子になり、裁判所や鑑定人の理解か判断なのか、原告の主張なのか、被告の反論なのかすら混乱して分からなくなってくる。
See→日記#165#Report
最終報告書公表までにJR西日本が行った事故調工作内容は、懲罰的日勤教育の擁護と、事故の予見可能性が否定される事実認定誘導だった訳で、そのいずれも失敗し、報告書上では却って強調される逆効果となっていることと、JR西日本側が当初から速度照査ATSの有無が責任追及上の重大争点になると良く認識していたことを示している。刑事罰回避に汲々とした行動に見えるが、適切な争点であることから却ってJR西日本に予見可能性が有ったことを強調するヤブヘビになってしまった。
経営的決定権のほとんど無い技術系幹部だけを立件し、主犯たちを免罪する不公平さは見過ごせないのだが、少なくとも山崎元鉄道本部長前社長に予見可能性があって、様々の裏工作に走ったことは良く見えてきたので、その限りでは罰金や執行猶予程度の微罪処罰は受けて貰いたいものだ。
鉄道技術の中心は、一部突出した先端部分や都市輸送に特化した部分を除けば、やはり国鉄JRにあり、学識経験者として排除することは困難だ。しっかりした中立委員を加えることと、従前の傾向から選別して、事故に際しては常に結論を曖昧にしJRに責任のない可能性をことさら強調して国鉄JR擁護のベースが目立ち、法的権限を持たせた事故調から尼崎事故調委員の排斥を主張するなど、調査の結論に公平感を期待できない金沢工大永瀬和彦客員教授などを外して、実力本位で人選すれば良いだろう。(現在永瀬研の公式ホームページは「サーバー変更」という理由でアクセスできない。代替として暫時日記#188の永瀬評論#26の引用部を参照されたい。公述書URL=http://www2.kanazawa-it.ac.jp/knl/nagase/comments02.html)
しかしながら国鉄JR系の優先判断基準は、法や正義ではなく、一貫して組織の都合であった。不当労働行為であるマル生がそうだったし、横浜人活弾圧事件が公安警察とつるんで集団で刑事事件をでっち上げたように、実力による強権支配を貫くのが常套で、こうした手段を選ばない捏造冤罪処分など悪質と云われた他の争議でもあまり見られない卑劣なものだった。国鉄組織としてマル生の何処が悪かったのか理解できなかったから、国会で国鉄総裁が不法行為を謝罪すると、貫徹すべき仕事上の指揮命令と、取りやめなければならない違法な不当労働行為の区別が付かず職場は大混乱に陥っている。混乱は撥ねたセクトの責任だけではないのだ。
そういう無法な組織風土の染みついた国鉄JR系委員を世論と中立的委員がきちんと監視して、マトモに技術力を発揮させることが必要だ。国鉄JRは地域社会からの要請に対しどこもすぐ喧嘩腰の対応をして、まるで暴力団の事務所に踏み込んだより酷く、罵声飛び交う対応だった。懲罰的日勤教育の雰囲気は国鉄を引き継いで全JRに共通のものである。慇懃無礼とか営業所の調子良さというのもあるが、銀行や電力、自動車など大争議を抱えた会社の、少なくとも「言い分は聞き上部に伝える」という対応とは天地の違いの馬鹿丸出しが国鉄JRの対応である。役職者があれでは乗客に「お客様」という対応は不可能だろう。だから、その制御にに失敗すると実質が事故当事者調査の時代に戻ってしまう危険を抱えているのだが、活用せざるを得ない。事故への世論の関心が薄れたらすぐにその逆流は起こりかねないことを承知で活用する。
山崎前社長らは、事故調最終報告書が出た直後は「事故調はまだひっよこ」などとうそぶいて大顰蹙を買ったりしたが、その後は「事故調報告書の指摘に従って安全基本計画などを制定して安全を追求している」と弁明している。安全基本計画の文面上は、強引な懲罰的日勤教育有用論とは様変わりで、「あり得ることは起こること」として必要な対応を取るとして、懲罰優先主張をさせた丸尾副社長を更迭して安全対策をいるが、信楽高原鐵道事故と隠蔽工作の責任を旧信楽町滋賀県に押しつける訴訟はそのままだし、懲罰的日勤教育の犠牲である尼崎電車区運転士自殺事件も責任を認めず放置のままである。新方針を適用したら、当然解決されるべき事件なのに、新たに裁判を起こすのでは新安全基本計画の本気度が疑われて無理もない。
安全対策指示が職場の末端まで徹底されるリーダーが居た方が、画期的新方針徹底には好都合で、その点、冷遇されてきた「技術系の星」であった山崎前社長が旧悪を反省して安全基本計画という新方針で動いている限りは適任だったが、あそこまで裏工作の旧悪が暴露されて、被害者と遺族の不信感が募っては当面留任は無理だろう。だが指示が無視される人材では意味がない。
問題は、既に何度も触れたが、過去の当事者調査で決着した大事故の再検証である。刑事事件としてはとうに時効を迎えていて処罰の意味は全くないが、安全追求の観点からは伏せられた事実を明らかにして、その対応を定式化することが重要だ。
JR西側と非公式接触したことを報じられた元事故調鉄道部会長佐藤泰生氏が遺族・被害者団体である「4・25ネットワーク」に申し出て説明会を開いたという記事では、遺族の非難の声だけが報じられている。だが、冷静に経過を辿り、事故調報告書を読み込むと、遺族・被害者団体としての集団討議、意思統一がまだ行われていないように思える。一般人があの膨大な事故調報告書の論旨を正確に掴むには困難があり、裁判実務に慣れた人たちの助力が必要だと思うが、遺族・被害者が結集しないよう、個人情報を口実に住所は伏せられて相互連絡を絶たれ、公然・非公然の烈しいアカ攻撃が行われて結集が妨げられて、大きな動きができないままになっている。
しかし尼崎事故報告書と、信楽事故での運輸省報告書をちょっと見比べただけでも、質の違いは見て取れるはず。事故調報告には「事情」の形で被害者・遺族に寄り添った認定がかなり埋め込まれており、遺族から非難されるだけの内容ではないのだ。裁判を起こすことを視野に原告団と原告弁護団を募って、そこで詳細な検討をして、情勢と、特に尼崎事故調報告書がどんなメッセージを込めているのかを抽出するなど、効率的・戦略的な動きをした方が良いと思う。提訴原告団準備会なら、不当なアカ攻撃に近寄りがたい雰囲気にされた「4・25ネットワーク」に近寄れなかった遺族・被害者が寄れる団体になるのではないだろうか。(あの烈しいアカ攻撃にはネットウヨだけでなく、匿名の社員もかなり混じっている。攻撃的記述内容が時折あまりに楽屋話に過ぎるのだ。なりふり構わず裏工作に走った会社自体がそれに噛んでないかと疑われるのは当然だ)。実際に動き出せば「ちゃんと味方してくれてるんだからアカでも白でも関係ない。アカだという人達は遺族敵視のJR応援団だけでないか!」などと劇的に変わるもの。また、事故調報告が被害者と遺族に大変好意的である部分もわかり、JR西内担当者にどこまでの人物を許容でき、鉄道改善の営みに引きずり込めるかも大きく変わるだろうと思う。遺族・被害者を個人で孤立させておくのは適切でない。
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