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鉄道高校編著の鉄道概論
なかなか読ませる「鉄道のしくみと走らせ方、
より速く安全に走る匠の技」
日記#176で述べた本屋で昭和鉄道高校編著「鉄道のしくみと走らせ方」(07/09かんき出版刊)を購入。文章記述自体は易しいのだが、その内容はかなり深い専門的部分まで解説されていて、流石に経験を積んだ鉄道高校教官達の共同執筆だけのことはある。入学した高校生や親たちが読本として知らず知らずに引き込まれてその多くを読みこなしてしまいそうだ。
また多くの本では「高度の専門」としてあまり詳解されないATS・ATC関係についても各方式の構造・動作原理にわたって5章に概説していて、結果的に川島令三氏が尼崎事故本で誤った解説を重ねた部分の逐条反論に近くなっているので、川島事故本で混乱してしまった方は中和・解毒剤としてその章と、ボルスターレス台車転覆原因説の誤謬批判としてRJ誌に掲載された故久保田博氏の記事は絶対に読んだ方が良い。
特にその間違いだらけの川島本を朝刊一面コラムで持ち上げて混乱を助長して、比較的正確な記事を書いていた第一線取材記者の努力を蹴散らしてしまった05/08/05付け東京新聞コラム筆洗執筆デスクは両方を比較しながら良く読んで改めて総括記事を書く必要があるだろう。尼崎事故担当記者に相談していたら内容の信用性で制止されたのではないだろうか。個々には良い記事を書いている新聞が「ベストセラー著者の主張を紹介しただけ」という責任回避マスコミ型の逃げをしてはいけない。記事内容で勝負のはずの新聞がそんなことをしたら洗剤を求めて条件の良い他紙に乗り換えよっかな〜。たまには洗剤ぐらい持ってこないとねぇ。同紙を配達してるのと同じ販売店が「A紙に乗り換えると洗剤○箱」と自店の足を食う販売戦略で繰り返し迫ってきているから風前の灯火なのだ。店のマージンがかなり違うらしく、朝刊だけだと料金規制が外れてサンケイ、赤旗と同値段で入れると言ってきているが、駅売りの夕刊を買うと実質は同じくらいになる。(see→日記#81)。
執筆担当一覧
章\担
| 樋口 | 大渕 | 谷輪 | 星山
| 川澄 | 中島 | 章内容
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序 | ○ | | ○ | |
| | 鉄道とは
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1 | | | ○ | |
| | 線路のしくみ
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2 | | ○ | ○ | |
| | 電路設備
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3 | ○ | ○ | | | ○
| | 車両のしくみ
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4 | | ○ | | ○ |
| | 駅の構造
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5 | | | | | | ○
| 鉄道信号と安全対策
6 | ○ | | | |
| | 高速鉄道の技術
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7 | ○ | | | ○ |
| | 鉄道を運転する
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基礎の解説がきちんとしているのは専門教員執筆として当然だが、ヲタ好みの詳細にも立ち入って、たとえば電気指令ブレーキ構造をデジタル式もアナログ式も構造図付きで解説しているとか、碓氷峠越えEF63の電磁吸着(レール粘着)ブレーキ構造、205系の運転室機器解説(1〜20)、台車・連結器各種詳解、各種モータ制御の具体的回路図、等々に加えて、7章「鉄道を運転する」では「運転士になるために」の解説まであって、鉄道対象の職業高校の読本だと思った。
読者対象、狙いは?
この本の狙いは序文「まえがき」に「鉄道の素晴らしさを誇りに思って鉄道業界で次代を担っていく人材を、今後も送り出していく一助」、「業界外でも関心ある一般の方でも理解できる”鉄道公開講座”のようなもの」としている。
専門書ではなく一般向けは分かるけれど、ヲタ向けにしては毒が少なく、純一般向けにしてはかなり詳しく、当初は本文から読んでみて対象読者がはっきり浮かばなかったが、鉄道学校の生き残りを掛けた生徒を呼び込むイメージアップ戦略としてはなかなかのものである。一読をお勧めの本だ。
若干の補正、訂正
全分野を網羅して述べようとすると、どうしても詳しくない分野でエラーを生じたり、慣用的表現で一般向きには外したりといった事態は起こる。その辺は誤字・脱字だけで全面否定されてしまうほど極端な文系本とは違い、それだけで直ちに全体の信用性を落とすことはないが、正確な方が好ましいことは変わらない。以下に一読して記述を修正したい個所を挙げておく。
- 「一般的な電気の流れ」p89図2・5で、1次変電所と記載しているのは2次(中間)変電所である。&長距離送電電圧154kVが昔過ぎだ。50年前の'58年初版の「送配電工学」(コロナ社標準電気工学講座7)でも既に275kV(公称250kV)が「超高圧送電線」として紹介されている。
1〜3次の区分けは送配電実務の慣行的なものであり理論区分ではないから送配電講座のテキストには変電所の1〜3次には全く触れて居らず、分布定数伝送線的解析を要する送電と、具体的負荷対応の配電が章分けされているだけが、実務上の基本的な区分は、長距離送電のために絶縁技術能力一杯の超高圧に昇圧する変電所を1次変電所、電鉄変電所など配電負荷に直結する「配電変電所」を3次変電所、需要地周辺で降圧して配電変電所に分配する変電所を2次変電所、あるいは中間変電所と呼んでいる。すなわち一般的には昇圧送電−降圧分配−降圧配電という機能の違いで1〜3次を分けている。だから国鉄JR東日本の自家用発電系統ではそう呼んでいたと言われると返しようがないが、一般的には長距離送電を可能にするため技術的限界まで昇圧する「超高圧昇圧変電所」こそが1次変電所であり、図の「発電所内の超高圧変電所」としているものがそれだ。
但し例外として、水路式水力発電所では流路で川との落差を作って発電を繰り返してその電力をまとめて超高圧にして遠方に送電したのでその場合は必ずしも発電所構内に1次変電所がある訳ではなく何れかの変電所に集約されているものもある。
最近は3次変電所である新幹線変電所も250kV受電(275kV送電)になって、長距離送電線は500kVの時代に移っていて、送電端154kV(受電端公称140kV)は歴史的な値になっている。昨'07年8月にクレーン船が地絡させて東京南西部大停電となった旧江戸川を渡る送電線も公称250kVで2次変電所と3次変電所を結ぶ電力回線だった。
本文で「1次変電所」も「高電圧電気を低電圧化し……」(p88L14〜)と述べ、発電所を含んだ系統図p89図2・5でも超高圧を66kVに降圧送電する中間変電所(2次変電所)を1次変電所と書いているが、実際は前述の通り発電所直近の長距離送電用超高圧変電所(154kV〜現状500kV送出)こそが「1次変電所」である。執筆した鉄道学校教官に電力会社系に明るい電力屋さんがいないのだろう。
参照→日記#129[送配電網・1次〜3次変電所]
何が問題?確認扱い
ATS-Sx系での「確認扱い」が勘違い事故の元として指弾されているが、1号型ATSでは全く問題になっていない。内容をもう少し詳しくみると、
- 確認扱い後が全くのフリーパスで、運転士の注意力のみに頼って失念・勘違い事故発生
- 操作次第で最高速度での(停止信号)冒進可能
- 閉塞信号では冒進しても野放し
- 操作の如何に係わらず同じ操作を求められる。正当な操作をしていても同じ警報が発せられて、確認扱いを求められて、無意識反射的にブレーキハンドルを重なり位置にして確認ボタンを押すだけの操作に陥る。
これは走行速度と組み合わされて、Y現示速度以下ならベルは鳴らずに警報持続チャイムのみとして確認扱いを免除するとか、警報後の持続チャイム37秒(=600m−31m分)を経て25km/h以上なら非常制動とかの警報と人の応答(=確認扱い)が見合ったものにする必要がある。確認扱いの組込方が悪いのだ。B型車内警報装置を改良して確認扱いの残る1号型ATSを開発した京三製作所の分析の方が妥当なのだ。
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- ATS-S改良型の解説:×「機能は総て同じです」P260L−10は不正確だ。JR東海以西とJR貨物では車上時素速照機能108.5kHz対が追加されていて都合3機能2種に分類される。その追加機能分の解説がp261L14〜16だが、この速照機能はJR東日本以北のATS-SN車(区間)には存在せず、ATS-Ps区間での-Sx車-Ps車にのみ働く。
参照→ATS-Sx概説
- 多変周式ATSの解説に「外れ慣用句」か?
京王、小田急、近鉄が採用した信号現示毎に発振周波数を割り当てるATSの解説で、「S形タイプの地上子の周波数を5〜6種類に変調して発振させる」(p265L−2)は正しくない。地上子はあくまでコイルとコンデンサーによるLC共振回路でありその共振周波数で、コイル同士の相互誘導結合で車上装置の発振周波数を変周するから、地上子自ら発振することはない。
参照→変周式地上子
- ATS-Ps/「パターン」解説を
JR東日本が亜幹線用廉価版ATS-Pとして開発したATS-Psについて全く触れないのは如何なものか?単変周地上子の縦続組合せでコマンドを構成していて基本的にATS-Sx上位互換でパターン速度照査を導入したもので技術的にはコロンブスの卵と言って良いが、なぜパターン速照が優れているのか、それが全デジタルATCに採り入れられたのかの理論解説を含めて1節欲しかった。「確認扱い無用」というのはその誤扱い事故に苦しめられた国鉄JR現場感覚としては痛いほど分かる採用理由だが、教員や開発設計者、研究者の本であれば現象面を追うだけでなく原理からみた「位置基準車上演算式速度照査」の解説は欲しい。(ATS-Ps省略については先のコロナ社刊「電気鉄道ハンドブック」でも強く思ったことではあるが。)
(センタータップ式整流↑)
(ブリッジ式整流↑)
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- PSコンクリートの解説は疑問
PSコンクリートについて、本を重ねて緊張力を加えれば落ちないことをもって解説としているが、少し外している。
コンクリートの特性として圧縮力には強いが、引張方向には大変弱く、その補強に鉄骨や鉄筋を入れる構造が「鉄筋コンクリート」だが、コンクリートより鉄筋の方が延び縮みし易いので鉄材に充分な引張力が掛からず、コンクリートが先に破損する。そこで、鉄筋に予め引張力が掛かる状態にして(=プリ・ストレスを与えて)、その分コンクリートには圧縮荷重として引張負荷を減らして全体としての強度を増すものが「PSコンクリート」である。通常は強度の違うものをあてがっても弱い側から変形するか壊れて補強にはならない。それを鉄筋のプリ・ストレス(PS)によってコンクリートが弱い方向(引張方向)の力を減らして補強するものである。
仮にコンクリート橋桁を考えると、重力による撓みで桁の下面に引っ張り力が働くが、その部分の鉄筋に予め強い引張力を与えて逆に圧縮力にしておけば補強となる。コンクリートは圧縮方向には大変丈夫だから採用した構造である。
- 高圧タップ式の解説:多くの解説記事で間違っている交流電気機関車モータ制御の「高圧タップ式」の解説をみると、結線図は正しく2トランス方式で、単巻変圧器の出力タップを切り換えて、降圧(整流)変圧器に供給する図になっているが、説明文が「単巻変圧器」と入るべき処を「1次コイル」と誤記し、本文の説明は「高圧の1次コイル側にタップを設けたもの」p181L11となっていて明らかに誤解を生じさせる表現になっている。正しくは高圧側切替スイッチの直後の巻線が「1次コイル」だ。
これは電気機関車の「運転理論」(交友社88/5改訂版)でも全く同じ表現だし、鉄道総研編纂の「鉄道技術用語事典」では、初版は正しく記述されているのに改訂版とWeb版からは同様の誤記述に直されているから、国鉄JRの標準的解説文として間違ったまま定着してしまったのかもしれない。だが「電気鉄道ハンドブック」(07/02コロナ社刊\31,500.)では2つのトランスの磁路共通構造が図示(右図参照)されて1トランス方式との誤解の原因を暗示し解説文も正確に記載されている。こうなると多勢に無勢の観はあるが多数であっても間違いは間違いだ。
- 別の工夫はできないだろうか?電気抵抗の説明
中学校でオームの法則を教えなくなった反映としてはやむを得ない面もあるのだが、直並列制御抵抗起動法の解説はもう少し何とかならないだろうか。直並列制御では個々のモーターに掛かる電圧を指摘して繋ぎ替えの説明をしているのだから、電気抵抗に掛かる電圧で調整する話を含めた方が一貫した説明になる。前後の関係で物流や水流の抵抗に擬した説明だけではどうもそぐわないのだ。まぁ良いか。
- 「NS-ATC ×今後供用」p278L3〜という記述は刊行時点07/09では既に1年半前の06/03/18から稼働している(日記#109引用記事)から間違い。おそらく八戸区間にDS-ATC供用後に完成して他分野原稿完成待ちの缶詰原稿の補正漏れだろう。
[補足]
「車両を知りつくす」川辺健一編著(07/11/06Gakken刊\1,800)が先の2〜3章を簡略化しグラフ雑誌化した様な内容で、在来線こだまのモックアップ骨組み写真があったりと、興味深い物もあるが、本気で「知りつくす」には「鉄道のしくみと走らせ方」の方が詳しい。この記事を「高圧タップ」、「BT饋電」について調べると、これも共に間違い側だった。すなわち
○「高圧タップ式」については結線図は正しいが、本文解説では2トランス構造に触れず、「1次側で電圧調整」となっていて、国鉄での標準的解説であったことをうかがわせている。それは鉄芯の一部(帰線磁路)を共通にしたことで形状としては1個のトランスに見えること(右上図参照)から生じた誤解がそのまま広がって支配したのではないだろうか。鉄道総研編著の「鉄道技術用語事典」初版(丸善97/12/25刊)の「単巻き変圧器のタップで電圧調整、降圧変圧器を経て整流」という電気的には2変圧器方式であることを明記した表現が正しい。変圧器というのはメカ動作ではなく電気的動作の装置なのだから。改訂版でなぜ2変圧方式という記述を削除したのだろう?逆に「2つの変圧器が帰線磁路を共用したことで外形的には1個の変圧器に見える」と加えれば正しく整理できたものを。
○「BT饋電」結線図は変電所直近の線路に吸い上げ線のない国鉄小倉工場長久保田博氏著書型で、これだと変電所区間の車両はBT変圧器に阻止されて十分な電圧が加わらない障害が発生するはずだ。(故久保田博氏ら国鉄小倉工場系人士の解説図には上図の※印の吸い上げ線が落ちている。講座テキストや設計開発系の本では正しく記載されているが本の一般性で逆に負けている)。
現実は、正常動作ならBTトランスで架線側電流の励磁方向と帰線側電流の励磁方向が打ち消し合い、差のある分だけが吸い上げ電圧になるのだが、変電所直接給電区間で架線のみ変電所直結で帰線は変電所に繋がっていない場合にはBTトランスの帰線側一方だけを励磁して鉄心が飽和するまでの高電圧を発生させてしまう。
参照→[BT饋電法結線図比較]
2008/02/08 20:55