昨日14日の139万戸大停電は図らずも電気漬け都市の脆さを露呈した訳だが、クレーン船が地絡させた送電電圧275kVというのは標準的な新幹線変電所の受電電圧である。開通当初の66kV〜77kVでは他への影響が大きすぎて(開業時のBT饋電を)AT饋電化するなどの機会を捉えて昇圧した様だが、将棋倒し停電で影響範囲が倍加されているにしても、それでも数十万戸単位の電力を使っているということだ。改めて新幹線が大変なシステムだと思った。
[試算:富士川以東で(200kW×4×14両)×(250km/200km/h)×12本毎時×2上下×0.6力行率=336MW×0.6=201.6MW!1戸あたり0.5kWの消費として約40万戸分、これを3つの変電所で引き受けたとして、新幹線変電所1ヶ所で13万戸分に相当。この大まかな試算で桁外れにはならないはず。]
事故地点の旧江戸川は、実は先月初に屋形船での飲み会で浦安からディズニーランド向かいの葛西臨海公園沖まで行き、水面近くに垂れ下がった超高圧送電線をこんな低くて大丈夫だろうかと思いながら往復した場所である。浦安橋の中間に妙見島という島があり、ここにゴミ集めの清掃業者や屋形船の業者があって初夏になるとここから呑み仲間で船出して昼間から大宴会をするのが年中行事化していたのだが、船から見える3相2回線4導体の送電線はちょっと竿でも伸ばせば届きそうに低く感じられ、線間のスペーサもないから揺れ方の位相が狂ったらショートしそうに思えた。鉄塔の碍子をみるとかなりの高圧は間違いない。水面上16mというのは通行量の多い川にしては低すぎだったのではないか?それがまさかクレーンアームで地絡するするとは!
現場航空写真に見えるきっとこの線!旧江戸川左岸(浦安側)東南東方向(右下)に見えるグリーンベルトは特別高圧線のものと思われるから、ここから水面に薄く伸びる2本の線は今回事故の送電線と思われる。
(送電線はこのあたり(江戸川区西葛西−浦安市富士見)の筈だと
思うが地図にはない)
3次変電所以降の末端の(高圧)配電網はループで張り巡らされ順次自動再投入で5分もあれば事故区間を切り離して他区間は復旧するが、1次変電所〜3次変電所間の幹線をやられたら、確かに簡単に自動切り替えとはいかない。今回の事故箇所は2次変電所の新京葉変電所から3次変電所への送電線だったが、負荷分担を見ながら通電させないと過負荷で止まる系統が出て、まさにドミノ倒しで「ニューヨーク大停電」になってしまう。まさか予備回線まで同時に落ちるとは想定してなかったのだろうから、その点では手動操作はやむを得ないのだ。
通常の送電線断線・地絡なら試験波の反射時間やインピーダンスからの概算で故障点までの距離が分かって故障位置の見当が付き直近の営業所から確認に駆けつけるのだが、今回の場合は瞬時地絡・短絡で遮断機が落ちても幸か不幸か断線せず地絡が復旧したから故障点発見に大変手間取った不運な要素もあった。この事故地点確認で1時間以上かかっている様だ。(高圧回線だったら自動再投入で復旧して暫くは原因の掴めなかったケース。クレーン船の作業員が再投入で感電事故に遭っていたかもしれない)。地絡・切断事故をどこに連絡すればいいか普通の人は知らない。電力会社に電話すると「正確な場所を担当者が直接知りたい」とかで何度かたらい回しに遭ったりする。(各電柱や鉄塔には名札が貼ってありこれを望遠鏡などで読み取って通報すれば一発なのだが、近眼では到底読めない。電力保守の人たちは片手に入る超小型の「望遠鏡」を持ち歩いている)
しかしながら、仙台近郊の着雪と強風による鉄塔倒壊や厚木周辺での着雪による断線とか入間川での自衛隊ジェット練習機墜落断線事故とかで長時間の停電を経験していて、迂回送電の想定には入れる必要が出てきていた。この手順がもっと具体的で明確になっていたら、復旧時間は3時間(実質回復作業時間は1時間半)とは云わずもう少し早くなっていたのではないだろうか。経過を見る限り「よく頑張った」というのが私の基本的評価ではあるが。
うまい!と思ったのは東電広報のマスコミ対応だ。
JR西日本との比較でみると、原因の如何を問わずまず需要家に迷惑を掛けたことを謝罪し、事故原因については鋭意調査中とし、報道陣からのクレーン船衝突情報の確認質問にも「その情報は得ているが、それを含めて原因確認中」として責任が逃れられる方向であっても根拠のないあやふやなことは一切言ってない。会社は盆休みで当直しか居ない手薄な体制なのにマスコミに煽られずパニックに陥らず適切な対応をしている。
尼崎事故直後のJR西日本が、白い自家用車との衝突だの置き石だの133km/h以上なら転覆の危険がある(=それまでは転覆しない。JR西日本以外が事故原因の意)だの、6月からATS-Pが稼働予定だった(=ATS-P化済みなら転覆しない)と素人騙しの嘘ばかりを並べて責任回避を図って不信感を極限まで増幅したのと較べると天と地の違いだ。「地」側はJR西だけでなく、三菱自動車、シンドラーエレベータ、パロマと続き、カタログ仕様違反の対応要求に逆ギレした東芝も愚側だったから東電の対応がひときわ目立つのかもしれないが。
東電の具体的な労務政策でみればやはり酷いことをしていて社員に対する尾行を重ねて主観的レッテル張りでクリスチャンまでアカ扱いし昇級昇格停止にして村八分どころか、結婚式披露宴への出席禁止とか、民社党の会社ぐるみ選挙を全社員に強要するとか、民社党富士政治大学校で屁理屈の技術を駆使して形態で相手を言い負かす論争技術の訓練とか証拠を残さない集団リンチの実践訓練を受け、実践活動で地域近隣の「アカ組合」の女性組合員たちを組合費でレクに招待して反執行部活動を煽って逆に総スカンを食って逃げられるとかなどの(JR東日本の∠○派労組でもやらない様な)愚挙を労使で永年続けた会社だが、国鉄JRの横浜人活事件などの様な刑事事件でっち上げや集団リンチと自殺事件までは起こしてないし、地域の「お客様」の意見については少なくとも承り回答する場を設ける理性的対応はあって労働争議としては敗訴後に和解して解決している。和解には実質の反省があったようだ。争議中の新年役員宅訪問要請宣伝行動では「まぁ上がって屠蘇でも飲んで話していけ!」なんて役員も居たりして争議中の酷い扱いの中でも紳士的な扱いがみられたのに対し、国鉄JRでは、駅長や上長たちが「お客様」の言い分にも全く聞く耳持たずにごろつきヤクザ並に喚きやたら実力行使に走るのだ。JR西日本尼崎電車区自殺事件の上長たちを含めて、国鉄JRの上司たちを見てると会社の言いなりになると云うだけで過激派セクト∠○や尻尾の長いだけのイエスマン馬鹿ばかりを主に選んで出世させている様な気がしてならない。
また、こちら側の準備としては停電時にも動作する機器というのも重要だ。TVも、IP電話も、湯沸かし器も、ガスエアコンも、ファンヒーターも、停電時には動作しない。大寒波でも続いたさなかの大停電だと深刻だ。TVニュースも聞けるラジオは必須だし、主PCはノートだから停電後も2時間余は保つからUPSは要らないが、災害時の最小限の電力確保には200W〜500Wくらいの自家発電機が要るのかもしれない。夜店のエンジン発電機のトップメーカーHONDAの株は上がりそう(w
送電・配電、1次変電所〜3次変電所
配電・送電とか、1次〜3次変電所というのは理論上の区分ではなく、電力業現場での慣行的区分であるが、混用すると論旨が伝わらないので整理しておく。
- 配電:3次変電所
まず一般家庭・需要家へ供給する部分を「配電」、そのための高圧を供給する変電所を3次変電所(配電変電所)、その供給線を「配電線」と呼んでおり、高圧配電線の電圧は通常6,600Vだが、一部都市部では22,000V配電が行われていて、工場などには高圧のまま配電するが、ここから低圧(単相100V,単相3線200V,3相200V等)に変圧して一般家庭に配電する。(大昔は3,300Vだったから工場構内にはまだ残っている)。この3次変電所の受電電圧が昔は20,000Vが標準で電鉄の直流化変電所もこの20,000V受電だったが、今は大容量送電の可能な60,000V以上が一般的であり、旧江戸川の地絡事故現場では新幹線供給電圧の10倍の275kVだった。
- 送電
3次変電所に電力を送る系統を「送電」という。配電との実質的な違いは、交流の波長と反射波・定在波や絶縁限界電圧が問題になるような極限の長距離・高電圧を扱うことである。
- 1次変電所
1次変電所は3次とは逆に水力発電所直近の昇圧変電所で、絶縁技術的に可能な限り高電圧にして長距離を低損失で送るための変電所である。しかし、火力発電主流に切り替わってから、消費地近くの最初の変電所を1次変電所と呼んでいる。大昔とは内容が微妙に違ってきている。
高電圧ほど同じ電線で大電力を送ることができるが、碍子の絶縁限界以上には電圧を上げられないし、高圧電線周りのコロナ放電で電力損を生じて高圧化の効果を減殺する。放電損失を減らして高電圧低損失送電を実現するために電線周囲の電位勾配を小さくする多導体方式を採用している。旧江戸川の地絡事故現場は1線4導体の鋼心アルミ導線だった。
昇圧変電所から需要地周辺の中間(2次)変電所までの距離が関西電力黒部水系で400km、東京電力猪苗代や奥只見水系で300kmになる訳である。300kmもの長距離を送電すれば、250Hzの4分の1波長あり、それは片端解放分布定数共振の長さで、50Hzの5倍調波だからトランスなどで発生して抑圧できないもっとも大きな高調波であり影響が予想されて分布定数型解析を求められる場面が多く、実態問題として集中定数で近似できる配電系とは理論解析のアプローチが違ってくる。
- 2次変電所(中間変電所)
2次変電所(中間変電所)は、需要地周辺で1次変電所からの電力を受けて3次変電所(配電変電所)に分配するものだ。多重の電力供給網を構成する様になって「2次」の判別が困難になり、主に「中間変電所」と呼ばれるようになった、
- 鉄道の直流変電所
鉄道の直流変電所は以上の電力網では3次変電所にあたり、昔は2次変電所から送電端22,000V、受電端20,000Vの特別高圧送電を受けて、国鉄JRなら直流1,500Vに整流して架線に供給している。(近年竣工直流変電所の受電電圧は60kV以上。一般の3次変電所も同様。新幹線の275kV受電変電所も3次変電所に相当。ところが古い需要家は20kV受電がまだ多く残っている。車窓から私鉄各社で良く見られるし、直接見えるところでは東京調布市の日活撮影所・大映撮影所も共に20kV受電で両撮影所向け特高線が多摩川を特別大きな鉄塔で渡っているのが見られる:右写真調布市染地2市民プール先多摩川堤防の鉄塔)。
(2018/01/05現在、特別高圧配電線は撤去されて多摩川越えの大鉄塔も解体済みで、その基礎を掘り出す工事が行われていた。
See→日記#400:☆20kV選択理由(1)(2)当否)。
- モータ耐電圧が直流電圧を決める
電車線に供給する直流電圧の上限は主に絶縁耐力からくるモーター電圧の限界で決まり実例では直流3,000V〜4,000Vが上限だ。これで供給できる電力が直流電気機関車の最大電力であり、国鉄での実運用の限界が1,500Vでは変電所に並列給電法という大電力対策を施した上でEF200の6,000kW程度となっている。現在の新幹線列車の最大出力はこれより遙かに大きいから交流電化での開業は妥当だった。
- 交流電化は直流変電所の車上化
日本での交流電化の試みは、この直流変電所への送電電圧20,000Vを直接架線に供給し、車上に変圧・整流設備、すなわち直流変電所を置くものだった。交流なら変圧が容易だから、長距離を架線から特別高圧で供給して車上でモータ電圧に変圧してモータを回すのだから、直流電化と交流電化の実質の違いは「直流変電所」を地上に置くのか車上に置くのかの違いなのだが、交流電化が高電圧を供給できることで電圧降下も電圧降下率も小さくなり列車に大電力を供給でき、変電所設置間隔を大きく広げる(概ね5km→50km)ことができた。
- 当初想定になかった交流−直流直通運転!
そう考えると、在来線の交流電化は機関車を付け替えながら客車列車を運行する前提では妥当だが、無停車で長距離を走るとか、高性能電車列車が主流になる運行体系では交直両区間を通しで走るから、直流変電所への2重投資の愚になってしまった。直通運転に交直混在は適切ではなかった。最近のVVVF方式の台頭で交流車両の優位を直流区間でも発揮できるようになったが、それでも交流直流変換部の2重投資の無駄は交直区間直通交通量が大きい路線ほど顕著になってくる。新幹線のような閉じた系では交流に統一でき、大電力を供給できて2重にならないから問題ない。
常磐線の取手までは直流電化区間だが、その先の藤代までの間に交流−直流セクションがあり、高価な交直両用車しか入線できないことで列車本数も半分以下になって、その交通の不便さから地価も安くなり「貧乏人の戸建て住宅地帯」となった!未だに歴史的403系も走らせて埋めているが、嗚呼!千葉以東ローカルの113系天下並(w、もっとも並ぶ総武線は津田沼以東の千葉市区間が津田沼折返しで2本に1本〜ラッシュ時には3本に1本に激減するが、地価が下がってないのは「政令指定都市、千葉市」のレッテルに拠るものだろうか?
今秋の北陸線直流化はそうした矛盾を解消して新快速の運行を敦賀まで伸ばすものだが、常磐線は残念ながら地磁気観測所への運転電流磁界影響の関係で直流化は無理な様である。3本に2本の津田沼止まりのうちの1本をせめて幕張折返しに延長して幕張本郷とともに幕張新都心の足として整備し、千葉行きの半数を蘇我まで延長運転できないものかとは思うが、接続が不便な直近の京葉線海浜幕張折返し増強で我慢しろということか?千葉−蘇我間の普通列車は内房−外房の時間間隔が接近していて実質半分の列車本数だからこの間に1本各停を入れて京葉線接続を密にしてもらいたいものだ。本千葉−千葉−東千葉(旧千葉駅)に到る本町商店街・栄町商店街が次第にシャッター通り化して元は最も繁華だった東千葉近くは栄町表通りがピンク街化し始めている。
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