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予見可能性なしとは!過速度転覆
作文立証「部下の報告で危険知る」の無茶響く
キャリア組技術幹部の国鉄固有技術水準無視もヒドイ判決

 どんなカーブでも、限界速度を超えて突入すれば曲がり切れずに事故になるもので、鉄道会社の幹部が他社であっても過速度転覆事故が起これば、自社でその対応基準が制定・実施されているかどうかの点検をするのは最低限の義務だと思います。自分で試算できなければ専門セクションに命じて具体的結論を出させて対応する責任があります。そういう普通の感覚にまるきり反する判決が右枠の通り出てしまいました。思い至らなければ注意義務違反を問われるべき内容に、まるきりJR西日本側の言い分を丸飲みした判決でした。

<福知山線脱線転覆事故裁判>

  JR西前社長に無罪判決……神戸地裁

    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120111-00000016-mai-soci
毎日新聞 1月11日(水)10時7分配信

 乗客106人が死亡し多数が負傷した兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故(05年4月)で、業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本前社長、山崎正夫被告(68)に対し、神戸地裁は11日、無罪(求刑・禁錮3年)を言い渡した。鉄道事故を巡り、巨大事業者の経営幹部に刑事罰を科せるかが焦点だったが、岡田信(まこと)裁判長は「JR西に多数存在するカーブの中から、現場カーブの脱線転覆の危険性を認識できたとは認められない」と、事故の予見可能性を認めなかった。

 一方、岡田裁判長は判決で、JR西の組織としての責務について、「カーブでの転覆リスクの解析や自動列車停止装置(ATS)整備のあり方に問題があり、大規模鉄道事業者として期待される水準に及ばないところがあった」と言及した。

 山崎前社長はJR西の安全対策を一任された鉄道本部長在任中の96年6月〜98年6月、(1)事故現場カーブを半径600メートルから304メートルに半減させる工事(96年12月)(2)JR函館線のカーブでの貨物列車脱線事故(同)(3)ダイヤ改正に伴う快速列車の増発(97年3月)−−により、現場カーブで事故が起きる危険性を認識したにもかかわらず、ATSの設置を指示すべき業務上の注意義務を怠り、事故を起こさせたとして起訴された。

 判決はカーブの工事について、「同様のカーブはかなりの数存在している」と指摘。ダイヤ改正も「上り快速のダイヤに大幅な余裕を与えるもので、事故の危険性を高める要因とはならない」と判断した。さらに、函館線脱線事故は「閑散区間の長い下りで貨物列車が加速するに任せて転覆した事故で、本件事故とは様相が異なる」として、危険性認識の根拠とは認められないとした。

 また、ATS設置については「当時、義務づける法令はなく、カーブに整備していたのはJR西を含む一部の鉄道事業者のみだった」と述べ、現場カーブで個別に整備すべきだったとの検察側主張を退けた。証人の供述調書については「被告の過失の有無とは関係がないので、信用性の判断は示さない」と述べた。

 10年12月に始まった公判は、現場カーブの変更当時に事故を予見できたかどうかを最大の争点に、JR西や同業他社の関係者、鉄道専門家ら30人が証人出廷した。山崎前社長の元部下に当たる当時の社員らはカーブの危険認識を認めた捜査段階の供述を法廷で次々に覆し、「カーブの危険を感じたことはない」などと証言していた。【重石岳史】

 ◇JR尼崎脱線事故

 兵庫県尼崎市のJR福知山線塚口−尼崎駅間で05年4月25日午前9時18分、宝塚発同志社前行き快速(7両)が制限速度70キロの右カーブに時速約115キロで進入し、1〜5両目が脱線した。乗客106人と運転士(当時23歳)が死亡。負傷者は県警発表で562人、起訴状では493人とされた。当時の国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は07年6月の最終報告書で、運転士のブレーキのかけ遅れが主因と断定。県警は運転士ら10人を書類送検し、神戸地検が09年7月、山崎前社長だけを起訴した。

 ◇刑事責任追及に限界

 今回の事故で神戸地裁は安全対策の最高責任者だった経営幹部の刑事責任は問えないと判断した。業務上過失致死傷罪の成立要件である予見可能性について、具体的でなければならないと指摘。従来の司法判断をおおむね踏襲し、刑法で大事故の組織責任を事実上追及することに限界があることを示した。

 検察は今回、大勢の乗客を運ぶ鉄道事業者には運転士の速度超過を含めた「あらゆる事態を想定する高度な責務」があり、「いつか起こりうる程度」に事故を予測できれば過失認定できるとの主張を展開した。

 これに対し判決はまず、「予見可能性は無前提にその有無が問題になるのではない」と指摘。「カーブ一般の脱線転覆の抽象的危険性に対する認識にとどまらず、事故現場カーブについての具体的な危険性認識を前提として結果回避義務を考えるべきだ」と判断した。そのうえで「検察側主張の予見可能性は危惧感と大差がない」と述べ、結果の重大さにかかわらずこうした解釈を認めなかった。

 また、組織上の立場と個人の過失責任について、「鉄道事業者の責務が、被告個人の予見可能性の程度を緩和する理由にはならない」とくぎを刺した。

 判決は、個人責任を認定できなかった一方で、JR西の組織としての安全対策に問題があったと指摘した。公判では事故から約8年前の現場カーブ設置時点の危険認識に争点を集約せざるを得ず、運転士がなぜ大幅な速度超過をしたのかという本質的な原因に迫ることもなかった。重大事故の再発防止につながる真相究明のための調査と捜査のあり方について、抜本的な議論が必要だ。

 JR西前社長 無罪判決
 事故は予見できず

     http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012011102000197.html
東京新聞 2012年1月11日 夕刊

 乗客百六人と運転士が死亡した尼崎JR脱線事故で、必要な安全対策を怠ったとして業務上過失致死傷罪に問われた前JR西日本社長山崎正夫被告(68)に神戸地裁は十一日、「事故を予測できる可能性はなかった」として無罪判決を言い渡した。求刑は禁錮三年だった。

 判決理由で岡田信裁判長はJR西の安全対策について「現場の危険性解析や自動列車停止装置(ATS)整備の在り方に問題があり、期待される水準に及んでいなかった」と批判。その上で「企業の責任は、個人の責任についての判断に影響しない」とした。

 山崎前社長は一九九六〜九八年に安全管理部門責任者の鉄道本部長だった。脱線事故では神戸地検が山崎前社長を起訴したのとは別に、井手正敬元相談役(76)らJR西の歴代三社長が検察審査会の議決に基づき強制起訴されており、神戸地裁で始まる公判に今回の判決が影響を及ぼすのは必至だ。

 最大の争点は前社長が事故の危険性を予測し、現場にATSを設置するべきだったかどうか。

判決骨子

  • 当時、鉄道会社はカーブ毎に危険性を算出しておらず、事故の予見は不可能
  • 事故現場にATSを整備していなかったことは回避義務違反に当たらない
  • JR西日本の安全対策には問題があった
  • JR西が負う安全管理責任は、被告人個人の責任についての判断に影響しない
  • 被告は無罪
 岡田裁判長は「列車が転覆するようなスピードでカーブに進むことは予測できる範囲内ではあったが、その具体的な可能性は明らかでなかった」とした上で「現場のような急カーブはかなりの数あり、危険性について周囲からの進言はなかった」と予測の可能性を否定。「当時、鉄道会社は各カーブで危険性を計算した上でのATS整備をしておらず、法令上の設置義務もなかった」と結果回避の義務も否定した。

 公判で検察側は九六年十二月に現場を急カーブに付け替えた直前にJR函館線のカーブで脱線事故があったことや、九七年三月のダイヤ改正で快速電車が大幅増発されたことを根拠に「危険性は十分把握できた」と主張していた。

 しかし岡田裁判長は「函館線の事故は尼崎の事故とは様相が異なる。改正後のダイヤにも大幅な余裕があった」と退けた。

 山崎前社長は閉廷後、「今後とも被害者への対応や安全の推進に努める」とのコメントを発表した。事故は二〇〇五年四月二十五日朝に発生。猛スピードでカーブに進入した快速電車が曲がりきれずに脱線した。


 この裁判でもっとも外れていると思うのは、主たる事故誘発原因が有無を言わさぬ専制支配の懲罰的日勤教育と、稼ぐ最優先の経営方針にあったにも係わらず、そこを放置して、エラー対策としてのバックアップ措置に思い至らなかった技術陣のみを責任追及する不公平な裁判になっていること。

 しかもその技術的エラーは、起訴対象とされた仁山事故直後に600R→304R付け替え工事をしたのに過速度ATSを設置しなかったことだけではなく、福知山線の最高速度を90km/h〜100km/hから120km/hに上げて転覆条件を構成しながらそれに気づかず安全装置設置検討をしなかったことも列挙されるべきであり、元々の経過を辿れば、線路設計基準では最高速度の80%の速度で通れる曲線だったものを、国鉄が航空機やバスに対抗して高速化を図ったときから転覆懸念を生じていたのにずっと過速度転覆対策が抜けてきたもので、1960年〜1972年の「列車速度調査委員会」による高速化、1985年の「本則+α」制限方式による特急列車高速化、JR化に前後して普通列車にも+α方式を適用した高速化、それぞれに対して過速度転覆検討の機会はあったのに、また現実に発生した過速度脱線転覆事故としても問題の函館線仁山事故96/12/04だけでなく、姫川事故88/12/13、鹿児島線583系脱線事故74/04/21、第1姫川事故76/10/02と、どれも福知山線転覆事故現場と同じ300Rで発生していて、客観的には一般基準としての検討・対策が求められる状況が有ったのに放置されていたことの問題で、山崎氏の責任はその長期の不作為のうちの僅かな時期の業務で後に惨事が発生したことで責任を問われたもの。従前の判例では一人にのみ責任を負わせるのは過酷だとして有罪は認めながら大幅減刑したり執行猶予で決着させることが多かったケースです。

 そうした不公平を抱えた裁判でも、電線の雀撃ち理論で起訴対象とされた人の刑事責任追及は行われているわけですが、山崎氏に対する検察の立証が「部下の指摘で危険を知った=指摘されるまで危険を知らなかった」という有り得ない検察調書から始まったことで、元々備えている技術水準であることを検察自ら否定した作文立証の結果ではありますが、国鉄本社採用キャリア組技術者の水準も実に見くびられたものです。おまけに「犯罪要件を全部満たすのは山崎被告ただ一人だった」とまで限定をつけて起訴するなど、最初から無罪決着を狙ったのではないか?と思われるほどのサービス振りで、起訴当初に危惧した通りの判決になりました。

 過速度転覆は貨車だろうと客車だろうと全く変わりなく起こるもので、過速度に至る経過が居眠りと勾配なのか、高速直線なのかは全く関係ないのに、無罪理由とされているのは、裁判官が物理現象としての過速度転覆を全く判ってないで判決を書いたことを示します。
 本来ならこの部分については鑑定証人を立てて、鉄道技術者が普通に理解しているべきことなのを立証すれば、部下が危険性を伝えた、伝えないは元々全く意味のないことです。こんな酷い脚本を書いて、取調室でゴリゴリと「自白」を迫って作文調書を作ったら、それは客観状況とは違いますから、公判での証人尋問で否定されると極めて異例の検面調書不採用となるでしょう。まして郵政村木ねつ造起訴事件の後では、歪曲作文調書がいくつも存在したというだけで無罪の方向になるでしょう。

 山崎氏ら技術陣・経営陣の過失は個々のカーブ毎の検討をしなかったことではなく、函館線仁山事故などを機に転覆懸念の一般適用基準を定めて、それに抵触するものを頻度順に対策する義務があるのに放置したこと。判決にいう個々のカーブの危険性の検討など全く無用で、設置基準さえ決めて徹底していれば個々の危険なカーブは対策されて事故に至りません。300Rカーブが2000箇所以上あるといっても、そこへ120km/hのまま突入する危険性のあるカーブは尼崎事故現場などほんの僅かで2000箇所を個々に検討する必要など有りません。現にJR東海は設置基準を「40km/h以上減速個所と、それに準じる所」として、5箇所+懸念箇所3箇所の計8箇所総てに過速度ATSを設置して転覆防止としていました。懸念箇所3カ所というのは「本則」制限ではなく、カントを加味して高速化を図った「本則+α」方式採用でカント量を制限計算に含めて日常運行の制限速度は上げたものの、物理限界である転覆限界速度は本則と変わらない「本則+α」規定の箇所を含めたものでしょう。具体例で言えば、300R105Cの曲線は「本則」規定なら60km/h制限ですが、「本則+α」方式ですと許容不足カント60mm車で75km/h制限(=本則60km/h+α15km/h制限)ですが、線路は同じものですから転覆限界そのものは変わらない訳で、減速値は+αを除いた本則で計算するということです。両者の相違は高速の場合に急変を避けて緩和曲線長を伸ばしている場合があることですが、75km/h以下では逓減率1/400ですから同じ長さでしょう。
 そこまできちんと転覆限界を検討していたJR東海が「転覆対策ではなく、乗り心地対策だ」とうそを証言したのは同業者かばいでしょうか?

 JR西日本本社が、曲線過速度防止ATSに無関心・無管理だったことを示す事実があります。
 4月25日の事故発生直後に「ATS-P換装済みなら起こらなかった」という弁明を承けて「ATS-P換装要求」の世論が激しく盛り上がると4月30日の記者会見で「(旧型)ATS-Swでも過速度ATSはあり、既に17箇所で稼働中」という発表をしてATS-P化世論の火消しを図り、国交省が全国の鉄道事業者に出した曲線過速度設置義務化通達でもJR西日本の既設箇所を17箇所としていますが、事故調報告などをみますと実際はそのほかにATS-P区間で94箇所の過速度ATSを設置しており、ATS-Swとの重複箇所6箇所で合計105箇所に設置されていたことは把握していませんでした。重要な安全基準を会社としては全く検討せず各現場任せとして、統一的に定めてなかったのです。各現場から本社に対し過速度ATS設置基準の登録申請なり制定要求はなかったのでしょうか?会社中央としては全く掴んで居なかっただなんて酷い怠慢で注意義務違反ではないですか。現実に111箇所も設置していたら、一般的設置基準を解析計算して定めているはずなのですが、「130km/h以上の路線の600R未満の箇所」とか、ATS-P路線では「450R未満箇所」とか、独自に定められたことで責任を持つべき本社は全く知らず、「130km/h以上の路線」という不合理な限定で、もっとも危険とされる現場が設置対象外となって事故に至りました。

 高速化に関連しての列車密度についていえば、それは転覆には直接関係なく、心理的圧迫に留まるもので、余裕時間のない高速化なのに、処罰を以て遅延を禁ずるほうがギリギリの運転を要求するものでしょう。そして、過速度ATSに触れることなく転覆懸念速度を許容したことで転覆事故になった。増発は直接原因ではありません。

 JR西日本は、かっての信楽高原鉄道事故で、会社ぐるみの重大ミス隠しをしたうえ、刑事事件の被告個人の無罪をもって、一切の責任がないと強弁した会社で、3度の裁判で主張が斥けられると今度は、補償金負担割合裁判を起こして、信楽高原鉄道に実質100%を負担させるトリッキーな請求をしていて、福知山線事故を承けて制定した「安全性基本計画」が、世論の指弾をかわす隠れ蓑で本気ではないことを実質白状した会社。この判決を口実に責任逃れをさせないよう、引き続き世論の厳しい監視が欠かせないあぶなかしい会社です。

【参考リンク】

日記#219:不公平な従属的技系幹部だけの起訴
日記#244:JR西歴代3社長起訴決定、検察審査会
日記#262:実情歪曲の無罪主張!JR西前社長
日記#265:型嵌め型検事調書で説得力減殺か!
日記#266:密室調書に頼る論立てに無理
日記#267:組織全体の安全認識の誤りでは?
日記#268:やはり判っていた過速度転覆リスク
日記#278:一億総懺悔方式の責任逃れ不当

2012/01/12 18:30

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