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青枠内が「インピーダンスボンド」=信号電流分離トランス |
=東千葉駅出発位置
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新幹線はその高速運行ゆえに、地震によるわずかな損傷でもトラブル発生の懸念があり、大きな運動エネルギーで被害を大きくしかねません。新幹線では地震検知と共に運転電源を変電所で即座に停電させることで非常制動を掛けるシステムが東海道新幹線開業(1964/10/01)以来働いています。 東海道新幹線開業直前の新潟地震(1964/06)で、ビル倒壊、橋梁落下、地盤の液状化といった激しい被害を受けたことで、震災対策としてまずは変電所に強震計を設置して、それにより直ちに電力供給を遮断してATC非常制動で停止させ、被害の拡大を抑える方式を先ず開業時から採用しました。 さらに、東海地震発生切迫の可能性が指摘されたことで、予想震源方向など線路から大きく離れた場所にも地震センサーを設置して地震早期検知システムを構成し、大地震の揺れの大きなS波(横揺れ)が線路に到達する前に影響する路線の変電所を停電させて全列車を止めるシステムに改良。遠方の地震センサーで止めることによりS波の伝播速度3.5km/s〜4.0km/s分の減速時間が稼げます。 ところが直下型地震だった中越沖地震では震源の真上を走っていた上越新幹線ときが減速の間もなく強い揺れに見舞われて脱線。 しかし台車と車輪がレールを抱え込んで減速中にも線路から大きく外れずに停止できて、変電所遮断で対向列車は止められて幸運にも乗員乗客の犠牲は出さずに済んだものの、線路逸脱防止ガイドを設けるとともに、大地震検知の改良も求められました。 特別法まで制定して準備した「地震予知」は求める精度での予知成功の見込みはほとんどないことが分かってきましたが、一瞬の避難の時間を作って被災を抑止する強震警報の方法として、約8km/sと伝播速度の早く、振動は小さいP波(粗密波)の立ち上がりを解析して到達震度と震源を予測し、無用停車も抑制する鉄道向けの「5Hz・PGA方式」を1985年に定義・UrEDAS/FREQLとして採用し一刻も早く停止出来る様にしました。 この技術を元に気象庁が一般向けの「緊急地震速報」として実用化したことで、2007年以前に新幹線も地震対策にこれを利用することになりましたが、気象庁方式で定めたフィルター特性は日本の家屋被害中心ですから、鉄道への適合性のズレは予想され、東日本大震災では元の方式の方が速かったという指摘も有ります。 地震波には伝播速度の速い「初期微動」と呼ぶ粗密波:P波(=1次波、約8km/s)と、破壊力の強い横波:S波(=2次波、3.5km/s〜4.0km/s)があり、P波の立ち上がり波形で大地震が検知できると伝播速度の遅いS波到達前に減速開始できる訳です。また3箇所以上で地震を検出するとその時刻差から震源位置が算出され、遮断変電所を指定します。初期微動から大きな揺れまでの秒数に8〜6.2を掛けた値が震源までの距離です。 震源距離L=時間差t/(1/vs−1/vp)≒8t〜6.2t さらに最近では走行電流の停電をATC車上装置より早く非常制動信号と判断する装置を付け加えて従前より約1秒余速く非常制動を掛ける改良をして大震災の被害抑制を図っています。 阪神大震災1995/01/17での橋梁・橋脚崩壊を承けた走行路の全国的な震災対応補強などを含めたそれらの措置の結果、2011/03/11東日本大震災では車両被害としては幸運も重なって新幹線では回送列車1編成の脱線被害に留まりました。 仮に線路と地震計との距離が40km、そこから震源までの距離が40kmあれば、地震計には約5秒早くP波(粗密波:縦波、≒8km/s)が到達して停電させると、線路には更に10秒かかってS波(横波、≒4km/s弱)が到達する訳で、非常停止判断時間分を差し引いて13秒前後早く非常ブレーキが掛かり、約40km/h余は減速できていることになります。300km/h走行として速度のエネルギーが約75%=((300−40)/300)^2に減って地震S波襲来後の減速距離も75%前後となり被災と被害の確率を小さくしています。(JR東日本発表で1200箇所被災し540箇所の架線柱が折れて走行領域にも倒れ長期の運行不能に陥ったのに、たまたまその区間には高速走行中の列車が居ませんでした)。 但し、北伊豆地震のように掘進中の丹那トンネルの断層が2.5mも横に動いて進路に立ちはだかったところに270km/h(=75m/s)の新幹線が突っ込む最悪のタイミングは救いようが無く、トンネルの活断層部を蛇腹接続で繋いで被害軽減を図ることは考えられても、万一は覚悟の上での不運の確率を減らす努力ではあります。 台湾新幹線の震災対策で、地震のない欧州勢提案の「信号現示を使って安全な場所に止める」方式が採用されましたが、本来は大きな揺れで通信回線が壊れる前に非常停止コマンドを伝え、一刻も早く列車自身の莫大な速度エネルギーを放出して地震による脱線などの支障に備えなければいけないわけで、約1.5km間隔の信号区間をシステムが選択して止めるのではシステム自体が震災で故障して働かないリスクもあり、それより、強力地震波到達前に25km〜50km間隔の変電所を停電させた方が単純で障害発生の機会も少なくなり早いというのに、対応が本末転倒というほかありません。より安全な場所への避難は徐行速度まで減速した後の個々の現場対応で、強い揺れで通信線が破壊されても非常制動コマンドは伝達済みなので支障ありません。台湾新幹線ではその脆弱性が危惧される地震停止システムは営業運転開始には間に合わなかったそうです。 そのATC自体は日本製のデジタルATCが動作中なのでP波推定型の早期地震検知システムで変電所を停電させれば、非常停止が掛かりますし、現在では台湾新幹線にも設置されている可能性はあるのですが、欧州勢は地震の怖さをかなり舐めています。台湾新幹線建設中の台湾中部地震の被害で主導権が大きく日本に戻って来ましたが、大地震対応は途中駅の160km/hでの分岐=#38番超高速分岐採用などを含めて戻りきらなかった基本仕様部分です。 |
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