朝日新聞11/01夕刊スクープと、それを承けたJR西日本記者会見を中心とする翌11/02朝刊各紙の記事に依れば、JR西日本のATS-P曲線速度照査地上子の実に72.9%(129個所中94個所ミス)もの設定にエラーがあり、そのミスが7年間〜ATS-P導入以来の15年間そのまま放置されたなど、安全追求と懸け離れたJR西日本の体制を重ねて晒すものとなった。定期検査もあり、Pに標準搭載の車上記録装置によるメンテが行われ、モニターでATS-Pの制限速度が表示されていて気付く機会はいくらでもあったのになぜ外部から指摘されるまで長期に誤設定のままだったのか?大きな疑問である
ATS-P速照地上子設定ミス
線区 | 過大 | 過小 | 個所
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琵琶湖 | 0 | 0 | 36
| 京 都 | 2 | 0 | 43
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神 戸 | (2) 9 | 1 | 74
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大阪環状 | 1 | 0 | 19
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ゆめ咲 | 0 | 0 | 3
| 阪 和 | 0 | 0 | 22
| 関西空港 | 1 | 0 | 2
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大和路 | 4 | 12 | 34
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学研都市 | 13 | 18 | 51
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JR東西 | 0 | 13 | 14
| 奈 良 | 0 | 0 | 13
| 宝 塚 | 0 | ※22 | 41
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合 計 | (2) 30 | 66 | 352
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()は分岐制限 ※5月(再開供用前)に気付いた 安全側などで放置
| 分岐速照で223個所中2個所のミスだから、曲線速照のミスは全96ミス中94。曲線速照は129個所∴曲線速照の72.9%がミス
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発端は事故調査委員会の走行状態の解析により東西線でATS-Pの速度制限に当たった異常な減速があり、指摘を受けたJR西が調べたところ制限値が5km/h低く設定されていたことが分かり、改めて全2,387個所を調査した結果、運輸省・国交省が立会検査を行う信号関係にはゼロ、事業者任せで役所が関わらない速度制限につき実に96個所の設定ミスを発見、高速側のエラーが30個所あり5km/h〜35km/h高速に設定されていた。曲線制限129個所中28個所、分岐223個所中2個所のミス。神戸駅近くの45km/h制限のカーブに振り子特急は80km/hで走れ、その近くのカーブでも新快速が+25km/h設定、福知山線の22個所は再開前の5月に設定ミスが判明していたが、5km/h低めで安全に影響ないのでそのまま再開。各担当部局の縦割りで、設定値のミスに気づかず、「デジタル」で値に間違いがないという思いこみで設定値そのもののミスに気付かなかったと安全推進担当部長が釈明。設置後7年から15年間経過していたことが判明した。このうち高速側にミスした分は10月中に改修を終えている。
朝日1日夕刊に抜かれた後のJR西日本の記者会見を承けて翌2日朝の各紙は以下のような新事実を加えて大きく報道している。
- 年2回のP地上子の定期検査では、通信特性はチェックしてたが、設定値は見てなかった。
- 車輌種類別に定めた速度などのデータが誤って入力されていた。振り子車両に対して45km/hのところ+35km/hの80km/hに設定、新快速に対して25km/h過速設定の箇所など。
- 福知山線41箇所中22値の誤設定は総て低速側に間違いだと(運転再開前の)5月に分かったが、問題ないので放置。
- 縦割り毎にそれぞれ制限速度などを出しており、共通はでなくノーチェックに。
- 9年間で電気要員半減、技術の継承も不十分に。
- 尼崎事故運転士が事故当日、東西線でATS-P速照に引っかかり、それが5km/h低かったことを8月に事故調が指摘、西が全2,387カ所を点検し9月にミス発見。
- 停止信号関係と、JR東日本の速照は設置検査時に速度確認していて、誤りはない。
といった新たな情報を提供している。
先ず、JR西発表数値を整理すると、ATS-P曲線速照が129個所中実に94個所72.9%の高率でミスしている。2項目の車種別速度制限機能は、JR西日本独自に付加した機能である。そうだとすると、3項目、福知山線の特急はSWでP非搭載だから無関係で22カ所が放置されたことになる。
また、山陽線神戸付近の本線に45km/h(170R?)のカーブなんてあり得ないから、これは一律制限である分岐制限45km/hに振り子車輌の「本則+35km/h」を適用した間違いではないだろうか。分岐器にはカントがなく車体傾斜を掛けられないから+適用は困難だから。(神戸駅明石方に実在。I.A.氏より11/05連絡)。
そして、ミス判明から2ヶ月間も公表しなかったことについてメディアの非難が集中している。
しかし、エラーが分かる機会は何度もあったのにATS-Pシステム導入以来15年間、事故調の指摘を受けるまで問題にもならなかった体制の方がより深刻で非難に値する。メディア各社は何処も触れてないが、
(0).支社運輸課以下が国鉄末期の曲線制限高速化改正の内容を最初から間違えて理解していて、最低値列車設定のATS-SWではそれで問題なかったが、車種別速度制限のATS-P速照設置で誤設定94点として顕在化した疑いがあり、正しかったのはほとんど本則設定だったのではなかったのか?
(1).JR西日本車両のモニターにはATS-P車上装置から情報が送られ、受信したコマンドが表示される様になっている。
写真の最下行に「45km/h 686m」「75km/h 188m」等とATS-Pからの速度制限指示が表示されるので、これが実際と違えば重要事項なので異常として報告され、7年〜15年も放置されるなど考えがたいことだ。3/4がミスではどれが正しいか判断できなくなったのだろうか?JR西という会社は軍隊式上意下達のみで、それ程までに下からの情報パイプが詰まっている会社なのだろうか?これでは降雪で冒進事故の危険があっても、運転士は速度を落とせないからATS-P下での大惨事は起こりうる大変な会社だ。P換装の意味がない。事故調の指摘までエラーが長期に顕在化しなかった原因の徹底糾明が必要だ。
(注:受信後約3秒表示、運転中は見えない車輌あり、他もよそ見の位置、報告無視の情報も.)
(2).定期検査は年2回行いながら通信機能試験のみで設定値の内容はノーチェックというのも頂けない。P速照地上子の主流である無電源地上子のROMデータ不良程度は誤伝送点検(CRC部)に引っ掛かるにしても、エンコーダ方式の場合は、エラー値を含んだデータに対してCRCを算出・付加しかねない。今回のような人為エラーもあり、何処から誤データが紛れ込むか分からないのに、肝心の主特性値について初回を含めて全くの無点検では確実性を保証できる訳がない呆れた体制だ。
ATS-SF/ST/SW速照地上子対と速照値看板
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副次的特性値なら工程管理で不良の出ない作り方を見つけて無検査にするのは妥当だが、安全装置の主特性の無検査なんてあり得ない。
また、ATS−Pでこれだけ間違いがあると、運輸省・国交省の立会試験のないATS-SW/Sxの速度照査も洗い直しと、JR東日本で見られる様な一目瞭然の速照値看板表示(写真)が必要だ!
[各紙記事鉄ヲタ度比較!]
朝日夕刊に抜かれても新事実を加えてスクープ以上に大きく報道してる(除読売)のは、事の重大性の反映である。見出し段数と、記事行数、写真を含めた換算行数で各紙報道を比較してみると
| 社 | 面
| 記事量 | 特徴記事
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見出 段 | 記事 行
| 換算 行
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1 | 朝日 | 夕3版14面 | 4 | 66 | | 単独スクープ! |
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2 | 13版34面 | 3 | 38 | | 各社にも自主点検要請 |
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3 | 毎日 | 13版26面 | 4 | 79 | | 支社施設課+本社車両部→(不整合DATA) 支社輸送課誤算出→電気課設定(非確認)、本多健
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4 | 読売 | 13S版38面 | 2 | 46 | | |
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5 | 日経 | 14版39面 | 4 | 77 | 34 | 紅綬褒章:非常停止釦主婦と救助工場 |
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6 | 東京 | 11版26面 | 4 | 71 | 62 | 紅綬褒章:同上、写真、定期検査 |
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7 | 赤旗 | B版15面 | 6 | 150 | 67 | 車種別制限に誤、9年で要員半減 (西独自の車種別速度制限値のミスを示唆
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相次ぐ2度の惨事で鉄道に詳しい記者が結構増えたのだろうか?各紙記事で気になったのはATS-P「設計ミス」とか「新型ATSに欠陥」とかいう表現。設定値を間違えたらその通り動作する訳だから、「設定ミス」だし「新型ATSで誤設定」だろう。システムそのものの欠陥やミスではなく、利用する人間の側のエラーとその発見回復体制が問題なのだから適切な表現をして貰いたい。振り子車など高速車輌の+α:35km/hなどを適用してはならない場所に適用したエラーが主の様ではないか。
現場を通りかかった近所の主婦が踏切の停止釦を押して対向の特急を止め三河島・鶴見事故の様な2次災害を防いで紅綬褒章を受けた記事は日経と東京。工場を停止して救助にあたり受章も同じ。特急北近畿に事態確認のための徐行接近の距離があったとしても間一髪のことには違いない。パニックに陥らずとっさに停止手配などなかなか出来るものではない。また「操業停止」で救助を指示できる責任者が居たのもうれしい。救助をほったらかして出勤を命じたJR西日本の上司とはえらい違いだ。速度決定の部局間の流れを報じたのは鉄道の毎日、それにしても赤旗新聞が各紙の倍近くも報じて、唯一具体的なエラー個所が分かる、また無茶な人員削減を指摘した報道をしているのが目立った。
ATS-P設定ミス(JR西発表)
http://www.westjr.co.jp/news/newslist/article/pdf/051101a.pdf
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