[206]
|
|
BBS
|
mail to:
adrs
|
旧
|
新
|
Geo日記
|
前
|
主目次
|
|
やはりヲタ仕様「電車の進化大研究」
意気込みは是だが「本当は…」「正しくは…」の乱用と過度単純化で勇み足
「「電車の進化」大研究 メカニズムの基本知識と鉄道輸送の未来」、広岡友紀 著中央書院08/09/21刊の紹介urlがBBSに書き込まれていて、メカニズムの基本知識解説がうたわれていた。さらに著者が「民鉄車両『研究者』」とあって、特に「新幹線300系の制御がVVVFではなく正式にはサイクロコンバータである」という文に当たり、それでは通常は変換途中に直流化されず直接他周波の交流化される意になるので通読したのだが、間違いなく一旦直流化(脈流化)しているので、それは「正式には」という点で不適切だ。
技術部の解説については各所に工夫が見られて好感が持て川島怜三氏の尼崎事故本技術解説の酷さ(日記95、81)に比べたらかなりマシなのだが、逐条的にみると訂正修正箇所がかなりの量にのぼる。
記述内容が邪馬台国は我が町○▽にあったはずとかの若干のどかな『研究家』ならその程度でも良いのだが、自ら鉄道車両『研究者』を名乗る著者の理工学的解説としては若干不用意に過ぎて全体像からは離れるものがある。
しかしながら同じく間違いだらけの川島本の様な嫌悪感が沸かないのは安全・公益に反する誤りをごり押し主張するのではなく、間違えたところで何てことない部分で、常識的説明を大仰に否定して自説を述べて転けていたりであまり実害がないからだろう。
数少ない育ったら楽しい女性ヲタというのも追及を甘くする要素なのかもしれないが(苦笑)。
修正項多発の分野と、その必要のない記述とを比較すると著者は私鉄車両内装外装関係の研究者なのかもしれない。
主たる側面は突っ込みどころだらけの鉄ヲタ執筆本という印象を持った。
(おまえさんはどうかって?そりゃヲタ、設計製作スキルのある理工系のヲタであります。
各論で引用リンクした「鉄道車両Tips」の様な深く正確な内容を目指しながらも到底追いつきそうもありません。作者は「中の人」でしょうね。)
[紹介ページ]→http://www.chuoshoin.co.jp/tachiyomi/187-8.html
過走防止装置比較
(P過走vs京王1型15地上子)
ATS-P過走即時停止地上子
(千葉駅#2行き止まり線過走部)
| 時素型過走防止装置 (京王1号型15地上子)
|
新技術の場合、開発分野、利用分野毎にそれぞれ独自の解説が行われて名称付けされるし、用語法としては誤ったまま定着してしまうことも少なくない。それを学問側が後追いで理論化し再命名したり、相互交流で流れとして自然に統一されたりという変遷を辿るものだから、一分野から他分野を見て正式命名でないなどと言っても無意味なことが多い。業界毎に微妙に命名や解説が違い、また構造の経時変化で定義概念が変化してくる例もある。
特に極端なのは現物が先に導入されて仮訳や応用が先に広がり定着し理屈が後回しになった例で、「ブスバー」「直線増幅器」「VVVF」「量子化」「交流回路の複素数計算」「演算子法」など数々あり、正解が算出できて実用に供されて居るのに数学者は長らく理論化できずに認めなかったとか、命名の不適切さから初学者の理解を妨げることさえあった。そう言う分野を含んでいるのに軽々に「正式には……」とか「本当は……」と正しい異見を攻撃してはそちらが間違いになるのだが、この本にはそうした配慮が感じられない。現場直結の技術者・研究者ならよく知っていることなのだが。
そうした不確かな内容での他者に対する攻撃的記述を「研究者」を名乗って行ってなければ放置だが、無邪気にそのまま信じた鉄道ファンたちから「本当は」「正式には」などと解説され「根拠有るソース」などとされるのも鬱陶しいので、補正のたたき台として提示したい。
その補正の前に、これまで他のライターが触れなかった妥当な着目点は一つ挙げておこう。執筆意図は肯定できるのだから、不具合部分、欠ける部分の指摘だけでは公正さを欠いてしまう。
TSP東武方式重視は卓見 (補足08/12/14)
東武電車ATS:TSPは、変周式だが一部地上子を位置マーカーとして車上演算で列車種別毎の限界速度を算出して速度照査を行うパターン方式を採用していて、ATS-Pの原型とも言うべき優れたものであるが、'67年の私鉄ATS通達に対応した古くからの方式なのに、これまでほとんど着目されていなかった。それを大きく採り上げたのは卓見であり、技術解説作文の川島怜三氏本とは格段に違うのではあるが、なぜ優れているか=大きく採り上げたのかは説明が欲しいものだ。
素人目での大きな違いが見えるのはTSP方式の東武東上線池袋駅と、時素式の京王線新宿駅渋谷駅、小田急線新宿駅を比べれば一目瞭然だ。時素型が15基〜20基もの地上子を並べて居るのに対し、パターン型は入口の1基が基本で、過走した位置に即時非常停止地上子が1〜予備を含めて2基である。パターン式であるATS-Pでは総武線千葉駅2番線、京葉線南船橋駅2〜3番線などの行き止まり線が典型でホーム入口に折返し出発兼用地上子1基と過走即時停止地上子2基だけが設置されている。(東京駅1〜2は更に、高速進入化のために自動緩解である速度制限地上子が、同京葉1〜4には折返し方向の短編成列車の誤出発防止の地上子が設置されているのでパターン式地上子のみだが若干分かりにくい)
「……進化大研究」修正・訂正項目
具体的な修正・訂正項目を挙げておこう。売れっ子ライターと言うだけで間違いに説得力を持ってしまう川島本のような実害が懸念されるものはないから読み流せばそれきりだが、「研究者」にしてはかなり不用意な間違いが多い。以下の記載以外にもまだまだある。ハァ〜。但し、独自の分類法採用は感性の問題も絡むので定説と違っても定義が明確で合理性があれば無問題。
- [試験条件設定](p130L12)
公開実験で103系と209系を衝突させてみろ!って、そういう比較法が正しいなら103系をEF66やEF200と衝突させてみろ!って比較も正しいことになる。衝突実験にはY現示速度でのコンクリート車止め衝突とか同車種への追突など、同一条件で比較する必要がある。これはけっして研究者の発想じゃあない!(w。尼崎事故で露わになった横方向剛性や、中目黒事故でのオフセット衝突剛性の改良が急務なのは同感だが、こういう感覚的発言は戴けない。羽越線で発生した鋼鉄製485系転覆事故での破損度も乗客死傷率も尼崎事故での軽合金製207系とほとんど変わらなかったではないか。
- [サイクロコンバータとは](p85)
新幹線300系の制御がVVVF方式ではなく「正式には」サイクロコンバータという前記PRページの引用記載を読んで、AC-AC変換の中間にDCを置かないマトリクスコンバータなどの回路方式を採用したのかと思いその基本回路図を確かめてみると、PWMコンバータで一旦直流化してコンデンサーにも蓄積したものをVVVFインバータでモータ駆動用3相交流に変換する方式である。
また「サイクロコンバータ」とは、元々は巻き線型誘導電動機の構造で同期速度と回転子の電気角的回転速度差の周波数が発生するのを利用した周波数変換器であったものだが、それを大電力半導体ゲート素子を使って静止化した周波数変換器をも指すようになった。電気学会編「電気鉄道ハンドブック」などの記載では、源周波数の1/3程度までは良好な特性の製品が得られるとあり、その構造は途中で一旦直流化しないものを指しているのは明らかである。
この点で300系の回路方式は狭義にはサイクロコンバータではないので広岡氏の「正式にはサイクロコンバータだ」とする記事が誤りである。
もっとも変換装置全体をブラックボックスとして見れば、内部で一旦直流化しているかどうかは全く関係ないので、直流化している300系以降の方式を新たに「サイクロコンバータ」に含めて概念拡張する提案をするのなら全く反対しない。元々「静止型サイクロコンバータ」自体が大幅な概念拡張であり更なる拡張を否定すべき理由がないのだ。本の紹介で強調した「正式には」という修飾部だけが真逆の間違い記述である。
そこで気になったのが間違い探しでそこそこ売れると揶揄される「鉄道DATA FILE」誌の解説で「交流から交流へ直接変換≡途中で一旦直流化せず直接変換している」という広岡氏と実質同趣旨の記述があったことである。もしかして取材者に対応した新幹線車両関係者がそう説明しているのかもしれないと感じたのだ。特別の専門知識のないライターが基本原理について確実な情報源無しに「本当は」などとはなかなか書けないのではないだろうか。TDFなど勘違い説明は繰り返しているが、高度専門技術についてのオリジナル解説は不可能だろう。
- [原因はボルスタレスか軽量化調整不備か](p34) &
[空気バネ:ベローズ型VSパンケーキ型](p44L2)
ボルスタレス台車の評価については、さすがに川島氏の脱線転覆原因説は否定しているが、その結論に到る認識はほぼそのまま踏襲している。
ボルスタレス台車の調整がクリティカルな理由として、その直付け空気バネ構造を「風船をねじる」ことに例えて無用の反力が生じるかの解説をしている。それでは川島氏の空気バネぼよよ〜ん説を台車の回転方向に変えただけではないか!
それは構造のたとえ方が違う。風船は1個ではなく車体幅一杯に置いた2個で支え、牽引装置を軸に方向転換する構造だから、その許容ストロークの範囲ではほとんど抗力を生じない。台車設計に当たってヨーダンパーを設けて回転速度に対する制動力を得るので、摩擦力で制動特性を得るボルスタ式より特性設定が楽と言われているし、低速の旋回には抗力が小さい。やはりこれは軽量車であることで、輪重の狂いが相対的に大きくなって脱線しやすくなったものだろう。中目黒事故を承けての輪重比10%以内の管理を求める通達は軽量車にも一律適用できる妥当なものである。そこを読み取れたらボルスタレス台車に特別の問題があるのでは無いことに気付いたろう。
鉄道車両の空気バネは、導入当初は151系こだまのDT-23型台車の枕バネに見られる小田原提灯型(ベローズ型)で揺れ枕梁構造に乗って圧力だけを受けていたが、その後揺れ枕構造は廃止されて車体と枕梁の間にパンケーキ型の空気バネを置き、左右のボルスタアンカーによって枕梁の前後位置を固定し、ここに中心ピンを置いて台車の操向をする構造になっていた。ボルスタレス台車はこのバネ受けの枕梁を無くして更に軽量化を図り車体と台車を空気バネで直接繋ぐもので、牽引装置を中心軸に車体幅一杯においた2個の風船と見た方が実態に近い。枕梁の有無でバネ位置は全く変わっていない。
台車可動範囲での空気バネによる復元力はほとんど無く、ヨーダンパーにより回転速度比例の抗力を生じさせて振動減衰を図る構造だから、従前の摩擦力で振動減衰を図る方式より設計通り安定した制動力を得られる構造である。従前構造での摩擦力は操向時の横圧を高めてその分脱線しやすくする。ボルスタ付き台車にも新旧2種類の構造があるが、揺れ枕構造の有無で明確に分けて説明が要るのではないだろうか。
- [先頭電動車化は軌道回路誤動作対策か?](p115)
京浜急行の「先頭車電動車必須政策」を、踏切事故での転覆回避策と、軌道回路誤作動対策としていて、先頭電動車化を強く支持している。
京浜急行の行った踏切事故統計の整理はそれなりの見識で、急カーブに継ぐ急カーブを人家の軒をかすめるように高速で通過する京急には必要な条件だろうが、雨天滑走の激しさ、扱いにくさとか、既に車の通る踏切のない総武中央緩行線などでは意味を成さなくなる。
また列車位置把握のための軌道短絡性能については、電動車の位置では変わらない。その重量が問題というのなら、かっての付随車並重量の軽量電動車では当然短絡不確実になってしまう。この対策としては短絡電圧・電流を上げることが提唱されていて、重量増だけではない解決策が提示されている。短絡不安定については半導体様の皮膜生成と考えられていて、高電圧でこの皮膜を破壊して短絡できると考えられている。
京浜急行で両端電動車方式による軌道短絡向上を重視するのは、第1に、進路構成変更に1秒でも早くポイント区間を抜けたことを知りたいため、第2に、6社共通仕様の「1号型ATS」で信号電流断時間により3状態を伝えているから、接触が不安定だとその分検出時素を大きく採って時間を無駄にしたり、現示伝達の遮断時間(遮断0.8秒=45km/h、3秒=一旦非常停止/15km/h、無遮断=free)が不正確になり誤動作する可能性が増えるからでからである。最後尾がポイントを抜けたらすぐにポイントを切り替えたいし、基本現示を正確に伝えたいから、より確実に軌道短絡する電動車を両端に配置したいのだ。しかし、旧型の付随車並の重量しかない近年の軽量電動車を含めての対応は信号電流に重畳する電流を増やすなどの方が妥当ではないか。ATSが遮断時間に拠らない他の方式なら軌道短絡にそんなに神経質にならなくても誤動作支障はないはずだ。
著者の年代と大田区田園調布という住まいからすれば先頭電動車であるクモハ100〜103や営団地下鉄東西線5000系の猛烈な空転を直接体験していると思うのだが。雨天の加速時には速度計が10km/h台からいきなり90km/hに跳ね上がってあわててノッチオフして再投入するような操作は見ていないだろうか。お茶の水から秋葉原への33/1000勾配とか平坦地でも東西線西船橋出発で良く発生していた。先頭電動車の雨天での空転の酷さを考えたら運転側が採用を避けたいのは理解できる。回転子など回転部分が高速回転で分解して床を突き抜けたり制御系を破壊した事故は少なくない。103系のコンミ爆発事故とか、総武線での101系の停止不能事故、営団地下鉄東西線での301系の可撓板飛散乗客重傷事故、新幹線のブレーキディスク破損飛散事故など、無視できないほど高速回転事故のリスクがあるのだ。301系事故で負傷した乗客の一人は両足のかかとを失っている。JRとしては例外的で外房線の211系5連が下り方向に先頭電動車McMTTTc編成で運行しているが、大網から土気に掛けての長い片峠型急勾配−25/1000の登坂(標高図参照)に対しては最後尾がMMの配置になっているから先頭Mの空転・滑走からは逃れている。
- [カルダン軸の原義を知らずにWNギヤカップリング、TD継ぎ手を論ず](p93)
元々の「カルダン軸」というのは可撓継ぎ手(かとうつぎて)のうち、自在継ぎ手UniversalJointを両端に付けたものを云い、自在継ぎ手とは放射方向に十字にピンが出てこれを2本ずつ前後の軸のホルダーを通して推進軸の方向転換を図るものである。当初は方向転換にギヤを組み合わせたWNギヤカプリングや、2つの撓み板を使ったTD継ぎ手とは別扱いだったが、次第にカルダン軸に拡大吸収するようになったものである。いまやJRでもWN継ぎ手やTD継ぎ手を含めてカルダン軸と呼んでいる。カルダンは発明者名に拠る。
もしかするとその経過を知らずに「WNが社名のウエスティングハウス由来だからTDも2円板ではなく東洋電機由来だと思ってる」と言うのだろうか?それは解説としては無理があるように思う。製品名なんて名乗りで決まるものだ。
- [×変圧器→別電源/電圧変換装置(「変圧装置の意か?)](p67L7)
一般に「変圧器」と言えば、2つのコイルの相互誘導で交流電力を伝え、電圧を変換するものだから、直流電車の制御電源の話をしているときに、電動発電機MGなどを使わないことを「変圧器を使わずに」と書いてしまったら、変圧器が身近な電気・機械分野に明るい人たちからは当然「デタラメだ」という批判が起こる。主旨は想像できるがかなり不用意な表現だ。ちょっと注意を払えば分かるのだから別電源/電圧変換装置、せめて「変圧装置」ぐらいにしてもらいたい。
- [SIV&ジェネレータは「正しくない」か?] (p67)
車両で使う低圧電源として、もっとも古くは電動発電機(MG)だが、ブラシや整流子、軸受けなど可動部の保守作業工数低減を目的として先ずは回転機のままブラシレス化され、次いで半導体ゲート素子サイリスタ(SCR)を用いた「静止インバータ=SIV」が使われるようになりさらに走行用VVVFインバータ(と同構造のもの)を定電圧定周波数(=CVCF)で使うことでSIVの予備機とする構成の車両が出現した。だから同書記述の「SIVという呼称が誤りで、正式にはCVCFインバータだ」とか「ジェネレータは不正確でオルターネータが正しい」などということはない。VVVFインバータをCVCFで動作させてSIV(静止インバータ)として使うものだし、高性能のシリコン整流器が普及するまではオルターネータやブラシレスMGではなく整流子式の発電機=ジェネレータだった。構造動作を理解していないための誤りに加え、構造と呼称の歴史に無関心のまま自己流の結論にしたのだろう。
保安装置関係は整理不十分
ATS・ATCについては川島令三氏の解説がATS-Sx擁護の全滅状態で、焦眉の課題のATS-Sx系を十分安全だと迎合的に持ち上げていたのに対し、広岡本ではATS-Sxの最大の穴である最高速度での冒進可能性を指摘して危険の根源は押さえているのだが、多種多様の私鉄型を解説し、優れた方式である東武TSPを詳しく解説しながら、分類としては国鉄型のATS-SxとATS-Pの相違である「点制御点照査」と「連続速度照査式パターン制御方式」という区分けにしてしまい、信号現示毎速度制限方式の京王小田急近鉄方式は蚊帳の外になっている。現物が先に有っての整理だから様々の要素でスッキリ分けきれないのは分かるが、歴史的経過を無視したうえ国鉄JR型だけを基準では説明できないだろう。
- [WS-ATCはATSか?] (p98)
「WS-ATC」というのは1961年に営団地下鉄が日比谷線に日本で初めて採用し東西線にも採用したATCで、信号現示に応じた制限速度で自動的に制動を働かせ、制限速度内に減速されると自動緩解する保安システムである。1964年10月開業の東海道新幹線のATC-1Aは目視による地上信号確認に困難を生じかねない高速走行であることからさらに車上信号方式を採用したが、信号現示速度段階としては6段階で営団に較べて1段階多いだけである。(=(01、02、03)、30、70、110、160、210km/h)。東京近郊に導入された初期の在来線ATCをみても同様で、常磐千代田線ATC-1J、総武横須賀東京トンネルATC-1C、山手・赤羽・京浜東北・埼京線ATC-1Eも速度段階は6段階〜10段階で、決定的な差は無いのだ。最近になって常磐・千代田線改良ATCから5km/h刻みに全速度を設定するようになったが、それならATS-Pも速度制限値は連続的であり5km/h単位で設定するのでATCと同様であり「ATCはATSより細かに制御する」というのは歴史的に見て当たらない。国鉄JR内部のATC定義で「車上信号方式」という条件があってこれに抵触するだけである。それなのに先輩格の「WS-ATCは本当はATSである」という解説は無茶である。
逆に、後追い規定である運輸省令が「車内信号方式はATC」という変な縛りを掛けていたため、青函トンネルの霧発生に備えハード構造は新幹線ATC流用であるが機関車の自動ブレーキ列車対応で当初ATSと呼んでいた青函津軽海峡線の保安装置をATCとさせられた。(制動エアーの)込め不足を起こしうるブレーキ装置でのATCというのは有り得ない横車だ。あのATC-L/ATC-1Fこそ「ホントはATS」だ(w)。後追い定義した省令の区分の方が実態に合わないのだ。
See→在来線ATC & →山手・京浜東北等ATC-1E(概ねD-ATC換装済み)
- [表示装置の僅かな違いだけで別扱いは失当](p105)
多変周地上子を使って信号現示毎の制限速度を設定する小田急・京王・近鉄方式のATSについて、京王だけが速度計の目盛りの廻りにATS現示を配していることをもって別の装置であるかの記載にはかなり抵抗を感じる。表示方法の違いは本質的ではない。表示らしい表示はランプとチンベルだけのATS-PにATS-Psの表示装置を付けて刻々の制限速度を表示させてもATS-Pであることには変わりはないだろう。
- 誤出発防止ATSは補助金で設置完了(p113L-7)
「地方のローカル民鉄では、財政上の理由でATSそのものが未設置のところが目立つ」とあるが、近年そうした零細私鉄で衝突事故が繰り返されたため国が補助金を付けて誤出発防止ATS設置を促進し現在はほぼ目標を達している様である。
その他、雑記エラー、失当評価
- [下限空気圧×5kg/cm2→7kg/cm2](p46L12)
国鉄在来線系の空気圧はブレーキ管が5kg/cm2、主空気ダメが7〜8kg/cm2であり、下限7kg/cm2に落ちるとエアーコンプレッサーが働いて8kg/cm2になるまで補充する。E231系などでは更に1kg/m2高い8〜9kg/cm2圧力で動作しているのが見られる。主空気だめ圧力が5kg/cm2では安定したブレーキ力が得られないではないか。単純ミスか?なお新幹線系は主空気ダメが8〜9kg/cm2だ。
余談だが、通産省によるSI単位強制で現在の圧力計はキロパスカルkPa表示になっているが、圧力そのものは変えていない。すなわちブレーキ管圧力490kPa、主空気ダメ圧力686〜784kPaという訳で、運転しながらそんな細かい数値を見ていられない。圧力値は動作管理の目安で、梃子による増力比やパッド材質などで大きく減速度が変わるものだから表示単位は全く関係ないのに換装を強要する法運用は間違いというか曲尺禁止並の不当行政だ。博物館の古い機関車をみるとAtm気圧目盛りも見かける。ブレーキ操作の目安としてはそれで十分なのだ。
- [× α=mF!→F=mα](p75)
高校生の科学クイズの回答みたいな不用意なミスをやってはいけない。そもそもで言えば、加速度と質量とが加速力が比例することから、力の単位を新たに定義して「質量=慣性の大きさ」と「力」に分離して、MKSA有理単位系(≒SI国際単位)ではニュートンN=kg・m/s2、CGS系ではダインdyne=g・cm/s2と定義したのだから、比例定数1で
F=mα なのだ。 常用単位系(実用単位系)では比例定数1/gを乗じて
F=mα/g [kgf] になる。昔は[kgw、kg重]と呼んでいた。「研究者」が基本定義を間違えてはいけない。
- [「対」磁気シールド](p90)
静電シールド、磁気シールドとは言うが「対」など付けない。それぞれ静電的、磁気的に内外を遮蔽するものだ。大昔から定着している言葉に敢えて「対」を付けてどんな利点があるのだろうか?目立たせるための試みかもしれないが既に永らく定着した言葉であり、よした方が良い。
- [純電気ブレーキは「直流では不可能」か?](p88)
「純電気ブレーキ」というのはVVVFインバータ制御では、回生失効後に逆トルクを加えて制動力を得るのが制御ソフトの工夫だけででき、新たな装置を必要としないことから拡がったものだが、「直流では不可能」とは言い過ぎの余計なひと言で誤解を生むだけだ。どうしても言いたいなら「新たな装置無しに」という限定を付けてもらいたい。末尾のたった1行弱でそれまでの解説を台無しにしている。
- [つり掛け構造は分かってる?](p92)
吊り掛け式の構造説明でモータがギヤの上に「乗る」とは?!何を考えて居るのやら(w)。モータは台車と車軸の両方に吊り掛けられているから「吊り掛け式」と呼び、車軸側は当然軸受けになっている構造をいうのだからひと言多くてそこで間違えている。モーター軸と車軸の距離はこの軸受けで保ち動力をギヤで伝導する。ギヤが軸間隔を保つのではない。ここでも蛇足部で間違えている。
- [浅いDDM方式理解](p96)
直接駆動モータについて、音響機器ではないのだから駆動系無用の単純構造のみを言ってもあまりに上辺だけだ。新性能国電以来、高速軽量モータ指向バネ上荷重化指向だったのが、逆指向の低速大トルク重量バネ下荷重化という試みに「研究者」として独自の解析的コメントはないのか?
低速大トルクが省エネ設計だという103系の設計コンセプトは、回生制動車が主流となった今、実電力回生率によっては結論が逆転しかねないのだから、その辺りの机上計算予測でも触れれば論議が深まったものをと思う。
またDDMも誘導電動機と思っているようだが、これは同期電動機を採用している。スベリ回転数×トルクがほぼ回転子内の電力損失であって低速定格のモータほど比率で大きく影響するので、スベリのない同期電動機を採用し、回転子励磁巻き線とスリップリング構造回避に高性能永久磁石を回転子として実用化試験をしている。この辺りでも筆者は解析屋さんではなさそうだ。
- 過走は運転士の技量だけの問題か? (p55L7)
「100m以上もオーバーラン(というより暴走)するということは、常識ではとても考えられない。………これは技能教育がお粗末で運転士を促成している証拠である」「JR福知山線のダイヤが過密だといわれたが、大都市立地の民鉄ダイヤは、あんな程度の稠密ダイヤではない」と断じているが果たしてそうだろうか?
108km/h=30m/sで走っていてブレーキポイントが3.5秒遅れれば105mも進んでしまう。私鉄90秒間隔ダイヤでの最高速度は45km/h〜85km/h(12.5〜23.6km/s)程度ではないだろうか。制動距離と衝突エネルギーでは2乗比例だから福知山線の0.141〜0.517倍だ。尼崎事故最終報告書に詳述されているが、実績データで補正された運転曲線に対して余裕時間ゼロ、場所によっては不足するギリギリの時間設定でダイヤを作っていて、その採時基準も一定ではなく、一旦遅れたら回復不能の設定だったことが詳細に述べられている。(これへの異論・異議の主旨は「理論値では余裕があるはずで、遅れは尼崎の進入待ちだから事故現場に余裕がないとは当たらない」だからJR西自身の制定した実績基準の数値が優先される)。
制動力には上限があり、緩める側の修正はできるが、滑走限界を超えての制動は却って制動力を失い物理的に不可能だから、上限ギリギリの設定というのはちょっとした条件の違いで止まりきれなくなってしまう。天候やレール、各車両毎の癖などあって、制動に余裕を採れれば加減できるのだが、一杯一杯に設定されると+側補正がすぐ限界を越えて制御できなくなってしまう。徐々に速度を落としながらではなく、最高速度近くから一発で止めるつもりでのブレーキ操作を求められれば、過走の確率は大幅に大きくなるのだ。そういうタイトな条件設定を無視して、運転士の技量だけの問題に絞るのは妥当ではない。
- [「B級直線増幅器」→B級線形増幅器]
数学用語のLinior(線形)を通信技術系が「直線」と訳したことで混乱を生じた。B級増幅というのは交流分の正負片側のみを増幅するもの、いわば半波整流の様な増幅動作だから、それが「直線」増幅というのは自己矛盾なのだ。
正しくは数学概念の「線形」。線形微分方程式の線形である。「線形」という変換操作は、A,B2種類の事象をそれぞれ独立に作用させてから加算したものと、加算してから作用させたものが等しいことと、同時に、作用させてからn倍したものと、n倍してから作用させたものが等しいという2条件を満たすものを言う。微分積分は線形操作だが、1次方程式で線形なものはy=Axのみである。B級線形増幅器では出力共振回路による濾波作用のためB級増幅で発生する高調波は吸収されて、基本波だけが増幅されるので線形性を保つ。また波形の上下を別々に分担するプッシュプル回路を構成することで音声周波数帯の線形増幅器を構成している
See→B級PP増幅回路
- [「VVVF」]
最近は「VVVFインバータ」と呼ばれるようになったが、元々は3相交流電動機を鉄道で使う場合の制御方式として「可変電圧可変周波数」方式という日本製英語を採用してVVVF方式と呼ぶようになった。同様方式の家電製品としては「インバータ冷蔵庫・エアコン・洗濯機」などがある。
「インバータ」とは直流を交流に変換する装置。
「コンバータ」は逆に交流を直流に変える整流装置のうち、電力の逆流を許すものを呼んでいる。
ということは、インバータとコンバータは原理的には実質同じものの利用法の違いということになる。
単純な整流器との違いは、ゲート素子を用いることで逆方向の電力供給を可能にしていること、すなわち電鉄で言えば「回生制動」を可能にする方式を指している。
従前、誘導電動機は一定の周波数(商用周波数50/60Hz等)でのみ用いていたが、鉄道では速度0から最高速度まで連続的に変化させる必要がある。その端子電圧に着目すると、回転数/周波数に比例する逆起電力に巻き線のインピーダンス電圧降下が加わった値となり、励磁磁束が一定値の場合、逆起電力が回転数に比例するから、その比例関係を保って給電すれば任意の回転数で駆動できる。これを鉄道ではVVVF制御と名付けたが、電圧と周波数の比例関係に触れてないなどで汎用的呼称ではないので収まりが悪く、近年は原則的命名の家電系も取り入れて「VVVFインバータ制御」近年「V-F比例制御」などと呼ばれている。
記事のSIV(静止インバータ)との関係で言えば「VVVFインバータをCVCF(定電圧定周波数)動作で使ってSIVを構成する」のだから「SIVが誤りでCVCFが正しい」と言うことではない。
- [「ブスバー」]
それなりのお姉さんばかりが叔父さん達を待ちかまえるバーではない。今風に言えば「バスライン」のローマ字読み。変電所の「共通母線」だが、大電流のため太いので「バー」とした名称が電力・強電業界に拡がり、鉄道の変電所にも伝わったもの。爆撃機bomber:ボーマーがローマ字読みのボンバーで拡がっているのと同じローマ字由来の日本なまり読みである。
- [「交流回路の複素数計算」]
交流回路の定常状態を計算する方法として、インピーダンスの表記に虚数単位、複素数を導入して、コイル成分:リアクタンスに+虚数単位を乗じ、コンデンサ成分には−虚数単位を乗じて計算すると位相関係まで算出できるので交流回路計算の現場に重用されることになった。直列接続として
インピーダンスZ=直列抵抗R
+虚数単位j{角周波数ω・インダクタンスL−1/(角周波数ω・静電容量C)}
電圧降下V=インピーダンスZ・電流I ………(インピーダンス=比例定数:交流抵抗)
Z=R+jωL−j1/(ωC)、 V=Z・I
で現して、交流回路のオームの法則としている。
電力計算についてのみは共役(きょうやく)複素数を乗じることで、有効電力Pr(実消費)と、無効電力Pi(虚消費)、皮相電力(見かけの電力)を計算できる。すなわち電力P計算は
P=V・I=Z・I・I
=Pr+jPi となる。
なお虚数単位は数学では「i」で表すが、電気工学では「i」が瞬時電流の略号として広く使われているので代わりに「j」を使っている。i2=j2=−1 が虚数単位の定義である。
しかし当初はなぜ正しい計算方法なのかの厳密な証明ができなかった。それまでは微分方程式を解いて過渡現象解と定常解を求めるのが正統な解法だった。
この交流回路の計算方法は高校物理や一般教養課程の物理では取り扱っていないが、工業高校以降の理工系で教えていて、実用上ではいちいち微分方程式を解かずに定常解を得られて大変便利である。過渡解については、次項「演算子法」関連の「ラプラス変換」参照。詳細は「電気理論」テキスト、交流回路のオームの法則、複素数計算などを参照。
- [「演算子法」]
微分方程式の簡単な解法で、現在では「ラプラス変換」として整理定式化されているが、その正当性が数学的に証明される前に解析設計現場で使われていた方法。電力関係などの古い専門書には記述がある。
|
先出雑情報の交流回路複素数計算、演算子法などの厳密証明未了の算出方法が広く現場計算に先に使われていたのは驚きである。理論が実使用を後追いしたのだ。経験工学たる鉄道についても同様の歴史的蓄積があるだろう。そういう世界に向かって、分かりやすく正確な解説を目指した記事を提起するに留まらず、不確実な後知恵で「正しくは」「本当は」「正式には」などと否定的に斬りつけたら自爆してしまうのは当然ではないか。編集者の売らんかなの煽りが有ったのかも知れないが、掲げる意図に反し本全体の信用性をかなり崩してしまった。
2008/11/19 23:55