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鉄道旅行地図帳北信越版p15に北陸トンネル付近の新旧勾配図が掲載されていて、その大部分が上り方向の敦賀に向かっての下り勾配11.5/1000であることが示されている。青函トンネルの12/1000とほとんど同じ勾配である。
これだけの勾配があればブレーキ緩解だけで転動を始めて脱出できたのではないだろうか?あるいは、切り離してそのままトンネル外へ「移動」すれば助かったはず、と思って例により試算。
See→北陸トンネル縦断面図推算
子細にみると残念ながら下り線=登坂方向で発生の事故だったので停電されるとアウトだが、それでも切り離し成功後停電まで18分もあるから運転規則の呪縛から離れて走り出せ坂を登り切って脱出可能だった。運転規則は不合理な一旦停止は強要していても、その後の「移動」は禁止していなかったから無理にトンネル内で2度目の切り離しをしなくても、そのままトンネル外まで移動すれば良かったのだ。無論、運転規則の前提はトンネル火災を全く想定しておらず「すぐに切り離せ」という危険なものであったからトンネル外まで8,500.m余もの移動は「無用の長距離を移動した」と不当処分を受ける可能性はあったが、少なくとも文面上は運転規則違反を回避できた。
これが上り列車で勾配を下る方向だったらブレーキ用のエアーさえ十分残っていたら停電後でも十分脱出可能なことが分かる(後述試算)。
1972/11/06 大阪発青森行き下り急行きたぐに 01:04 | 敦賀駅発車
| 01:09 | 火災発生、
| 01:14
| 直ちに非常制動、敦賀側入口5300m付近に停止、列車防護に上り線に軌道短絡器設置、消火作業 | 01:24 | 火災車両より後部を切り離して60m移動、 | 01:29
| 今庄・敦賀両駅に救援要請し、火災車両よ近に停止り前部の切り離し作業開始 | 01:40 | 上りたてやま3号木の芽信号場7300m付近で停止信号により停車
| 01:52 | 火災により漏水誘導樋落下架線地絡により近に停止敦賀変電所の高速遮断機が動作し当該事故区間停電(上り線は通電) | 02:02 | 上りたてやま3号進行信号により徐行出発
| 02:03 | たてやま3号7000m付近で避難客を発見、停車、救助開始
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であり、走行抵抗dを勾配換算で仮に1.5/1000とすると
(∵瀬野八300Rでの曲線抵抗を3/1000=25/1000−22/1000と規定しているので、その半分と仮定)
(2)式より
v2=2αy=[2{g (tanθ−d)}y]
v=sqrt[2・9.8・(11.5−1.5)/1000・y]=sqrt{0.196・y}
……………………(4)
(1)式に(3)式を代入し両辺の平方根を採る
t=sqrt[2y/α]=sqrt[2y/{g(tanθ−d)}]=sqrt(200y/9.8)
……(5)
事故地点位置は、y=5300m だから、これを(4)(5)式に代入して
v(5300)=sqrt(0.196×5300)≒32.2m/s=116km/h の脱出速度で
t(5300)=sqrt(200×5300/9.8)≒328.9秒≒5分29秒後に脱出できたはず。
すぐに非常制動を掛けて30秒弱で停止して特急日本海と同様、安全に消火活動ができたはず。
予め、あの手この手のピンチ脱出策を検討し準備していれば、きたぐに火災惨事の場合でも物理的にはまだ時間的余裕があったことを示している。「想定外」という穴を持つ運転規則でその想定外の事態への対処を処分で縛ったことが惨事を引き寄せた決定的な間違いであった。
事故発生直後の乗務員に常にこんな判断を求めるのは無茶だが、「火災時のトンネル内停車は危険だ」と判断してトンネル外まで引き出してから消火活動を行って出火車両の焼損に留めた乗務員たちは処罰ではなく表彰されるべきだったし、日頃からのサバイバル法検討には含まれていて良い方法ではないだろうか。
急行きたぐに惨事の刑事処分は停車を処分を持って強制された乗務員たちではなく、無謀な停車を強制した側に対して行わないと著しく正義に反するが、警察、検察はその不正義を強行したのだった。
様々な状況を想定した事故対応のマニュアル化と繰り返しの実地訓練は必要だが、現実にはしばしば想定外の事態が生ずる。それに対して臨機応変の措置を禁止して処分を以て強制する運転規則の妥当性がひとつ。
その一方で、乗務員などオペレータに事故回避処理の自由度が与えられた場合、とっさに最適の回避方法を思いつかなかったことで刑事責任を負わされるのであれば、規則遵守強制の方が処罰を回避できる。従前の見せしめ人身御供型刑事処分では余計なことはしない方が処罰を免れる。羽越線での突風列車脱線転覆事故を承けて山形県警が「多数の死傷者がでているのに送検無しは考えられない」と必死の犯人捜しをしていた。典型的な人身御供幕引き型の刑事処分の追求である。未完成の様々な試行は何度も外しながら改良していくことも多いのにそれを処罰の理由とされては手を触れずに予見可能性無しで済ましたほうが楽だ。これでは改善を妨げてしまう。警察・検察の現場オペレータを生け贄とする刑事処分が安全性追求を妨げかねないのだ。
かって3度目の月着陸を目指したアポロ13号が宇宙空間航行中にいくつかのトラブル連鎖で主たるエネルギー源である液体酸素タンクを爆発させてしまい正規の方法では地球に帰還できなくなってしまったが、着陸船を生命維持シェルターに使い、可能な帰還軌道を検討、月重力を利用したスウィングバイ加速に残った僅かな燃料とエネルギー源を注入、普段は考えられない異常な方法で薄氷の帰還を果たした。
ところが国鉄JRに関しては、事故寸前の想定外の事態に対しても特急寝台日本海火災事故69/12処分のように運転規則に抵触する臨機応変の措置を処罰を以て禁じている。
特急寝台日本海トンネル火災事故処分が最も劇的な逸脱事例であるが、線路支障の連絡が輸送指令に届いた時には緊急停止を伝える通常の手段が無くなっていて5分後に負傷事故となった紀勢線冷水浦駅先事故04/06は、輸送指令が停止を伝えるつもりであれば物理的には信号用高圧線を停電させればATS-Sと信号消灯で停止を伝えて事故防止することは可能な時間があった。それは無停電の方針と、正規操作では無いことで支持が得られないが、これがもし増水した濁流への転落の危惧だったらどうだろう。規則通りの操作だから水没してもらうと云うのだろうか。輸送指令から電力指令への依頼を含むので、使うことの先ず無い例外操作としてでもあり得る操作であることを現場に通しておくことは必要だと思うが。
ここは欧米の様に公共交通機関の現業従業員に対しては、故意でない限り刑事免責を保証して正確な原因追求と防止策を求める方向に切り替える必要があるのだろう。検討時間が十分あるはずのデスク側の免責は現業とは別扱いだろう。輪重調整や計測装置設置など必要な対処を却下し、あるいは事故後のアリバイ工作などのあれこれがあって、現業と同列には扱えない。
例えば、鶴見事故でワラ1型の実地試験を省略したことで軽負荷時の走行特性不良を見逃してしまった手落ちを「競合脱線」説で事実上の原因不明として隠蔽して、更に事故発生から5年近く後に開始した北海道狩勝峠旧線を実験線としての大規模な脱線実験で技術的成果は大きかったが大局的には「予見可能性なし」のパフォーマンス化するとか、トンネル火災の危険性を予測して脱出消火した殊勲の機関士を処分してトンネル内停止を強要して惨事化したのを、先の狩勝峠実験線など各所での大規模な実車火災実験を重ねて「惨事化の予見可能性がなかった」というアリバイ・パフォーマンスとして責任回避し、火災発生に責任のないきたぐに乗務員を生け贄的に起訴させるだけで責任追及を回避した。処分された特急日本海乗務員たちは的確に危険性を予見してトンネル外で消火し物損に留めたではないか。それを国鉄は問答無用に処分した。鉄道省・運輸省が1941年の山陽線網干駅急行追突事故以来冒進速度規制を云って、アメリカ占領軍に却下されてもなおその後も一貫して速度照査の採用・指導し優れた'67年私鉄ATS仕様通達を出しているのに、国鉄JRに対しては事実上の監督対象外として国鉄民営JR化に際して私鉄ATS通達の方を廃止してしまい、未だに欠陥ATS-Sを許容して事故を繰り返しているとか、この辺のあれやこれやのジタバタ振りをみると、様々な処分権を持ち対策費用執行も可能なデスク側に対しては免責前提の捜査では逆に真相が隠されかねない危惧が感じられ、直接の現場とは別扱いの検討が必要と思われる。
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