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根深い誤解か?「高圧タップ式」制御構造

 初期の交流電気機関車の電圧制御方式である「高圧タップ式」の構造について、「変圧器の一次側巻線を切り換える制御」という誤解を呼ぶ表現が、本職教育用副読本と思われる「運転理論(直流交流電気機関車)」(1959/03交友社刊2改訂'88/09延べ21版)の解説文にも在って、「変圧器の1次側あるいは2次側に電圧の異なるタップを設けて、タップを切り換えることにより主電動機の端子電圧を任意に制御」(p57L−6)、「主変圧器の1次側からタップをとり出して」(p58L-8)となっていた。正確には「特別高圧側単巻変圧器出力巻線を切り換えて電圧を制御しそこに降圧整流用変圧器の1次側を接続する2トランス方式」だ。回路図としては正しく電圧調整単巻変圧器と降圧センタータップ整流の2トランス式で描かれている(p58第16図ED71:右図に等価)が、電気系ではない人たちに回路図を読み飛ばして文章解説だけで理解されては間違いが強力に根付いてしまう。

 同書の回路図を眺めて定数設計上に生ずる若干の疑問は、単巻変圧器の最大出力電圧を1/1に採れば定格出力の1/4の最小容量で済む訳だが、同図では降圧している様に見え、仮に1/2降圧では1/2の容量、電圧比の平方根=sqrt{1200Vdc/(2√2/π)/20000Vac}=1/4なら定格の3/4の容量となり、その場合、特別高圧より絶縁が楽になることから重量増を承知で単巻変圧器での1/2降圧程度は現実に採用していたかも知れないということである。2つのトランスを共通帰線磁路方式で機械構造的には一体化した場合には、共通磁路分が軽量化できて単巻トランス重量が2/3前後になるのだから。しかしこればかりは内部構成部品の仕様が分からないと確定できないし、基本構造理解でこれだけ荒れていてはそれどころではなさそうだ。

 正しい構造は「電気鉄道ハンドブック」(電気学会編集委員会著2007/02コロナ社刊:右図等価)や「制御方式入門2」P110回路図10.11高圧タップ切替式(QDAT99/12/26発行E-mail:qdat@qdat.noborito.org)に示されている通りで、日記#153などで述べた通りの2トランス方式であるが、一般的には高い信頼性のある鉄道総研Webページの鉄道技術用語事典や同名で刊行した鉄道技術用語事典2版にまで「高圧タップ制御=主変圧器のタップを高圧側に設けたもの」とあって、誤解を広めている。(初版本には正しく「単巻変圧器で電圧を調整……主変圧器で降圧……」と記載されている。第2版出版時の編集ミスの様である08/01/05追記

 高圧タップ式が賞用されたのは、陰極部温度管理など微妙な扱いを要する水銀整流器を用いた整流回路に複数の陰極電位を共通にできるセンタータップ式が用いられ、これを低圧側で電圧制御すると2組の電圧切り替え機構が必要になることから小型簡略化のため単巻変圧器での電圧制御が導入されたものと思われ、実機としては既に存在していない。陰極に様々な付属部の要らないシリコン整流器が導入されると遷移期の2機種(EF70、ED74)と水銀整流器換装機種だけが高圧タップ式だった以外は、低圧側でのタップ切替と磁気増幅器やサイリスタを用いた方式に変わり、更に低圧側でコンバータ+インバータを用いた交直両用VVVF方式となった訳である。

高圧タップ式関連ページ
日記#151 交流車両制御方式」補足/鉄道DATAFILE訂正2
日記#153 一部共通磁路で一体化構造を誤解か!高圧タップ切替式の構造
日記#158 高圧タップ単巻変圧器容量計算(主変圧器の1/4)
TDF補正 高圧タップ式構造
電気鉄道HB 磁路共通部型一体トランス

 大変な権威のある鉄道総研技術用語事典や運転理論副読本は記述内容をより正確・厳密にして頂きたいものだ。単純ミスでも御威光に押されて訂正できなくなってしまう。工科系が主の機関士は正しく理解するだろうが、文系編集者、執筆者はアウトということが高圧タップ式構造の間違い解説普及の原因か?現状では執筆者に電気技術者の居ない趣味誌は従前の誤った解説を訂正できないのかもしれない。だが鉄道業はあくまで末端ユーザーであり、かなり詳しい業界ではあるが開発・製造や学会など解析の中心ではない………などの深いレベルの話ではないが(w。「弱界磁率」の様に、実際には「弱界磁電流率」であっても界磁の分流回路計算の定数として業界内で閉鎖的に使われる概念ならその定義さえ明確にすれば支障はなく、動作特性解析に必要なら別に「弱磁束率」を導入すれば良いのだが、一般向けの構造説明ではそうは行かないのだ。

2007/11/19 23:55
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