[参照:津福誤出発]   日記#230  日記#217  日記#212  鉄道事故リスト  日記リスト  目次

西鉄津福駅誤出発事故現地見学
誤出発防止装置
高加速2連には無効設定か?

(誤出発防止モード時に25km/h制限を解除か?)

津福駅ATS関連
[西鉄ATS地上子]
津福駅待避線

1.信号ATS p5750(花畑駅下り待避線出発)

2.信号ATS p5785(花畑駅)

3. 25km/h照査過速度ATS(津福下り線)
(手前逆方向信号ATS) p5767

4. 15km/h速度照査地上子(p5777)

5.過走防止装置の設定看板と
速度照査地上子(天神駅 p5824)

6.時素速照地上子対(車軸検出コイルp5829)
点速照3〜4対で過走防止装置を構成

7.津福下り第1場内

8.津福第2場内YY現示=25km/h制限

9.踏切

10.ホーム進入端

11. 2両編成停止目標

12.ホーム中央

13.出発信号(下り)

14.出発方ポイント

15.ホーム後端天神方

16.上り方面分岐器

17. 25km/h制限は
出発列車に不適用

西日本鉄道 天神−大牟田線
津福下り線駅ATS関連調査
津福駅位置=天神起点41.4km
枕木本数 40.00本/25.00m
車上子取付位置=0? 5.00m?不詳
枕木 位置
[m]
地上子 地 上 設 備 走行
距離m
備考
分岐先端
分岐フログ
-31 -19.38 上り出発信号絶縁 ≡第2場内絶縁
-3 -1.88 ◎↑ 地上子↑(直下)
0 0.00 上り7,2停目
3 1.88 上り停目(全)
25 15.63 ▽↑ 15km/h速照
39 24.38 曲線標左580R始,C=20,S=0,TCL=15.0,CCL=25.0m
46 28.75 ◎↑T2地上子↑
49 30.63 ▽ 25km/h速照
61 38.13 2両停目)出発点) 0.00 誤出発位置
80 50.00 左580R終 11.88
93 58.13 3両停目 20.00
123 76.88 4両停目 38.75
156 97.50 5両停目 59.38
162 101.25 T2地上子 63.13ATS動作個所?
166 103.75 ▽↑25km/h速照 65.63
188 117.50 ▽ 15km/h速照/6両停目 79.38
218 136.25 7両停目 98.13 19.5m5両=97.5m
221 138.13 地上子(直下) 100.00
224 140.00 右470R始 101.88
228 142.50 ホーム先端 104.38
右470R終
249 155.63 出発信号線路絶縁 117.50
263 164.38 (支障限界点) 128.13 =フログ−17.2m
288 180.00 (レール1本25m長) 141.88
291 181.88 (クロッシング部) 143.75 分岐交差部
293 183.13 非常停止点 145.00 145m地点で停止
312 195.00 踏切道 156.88
316 197.50 #11番分岐?中心 159.38 45km/h制限分岐
339 211.88 分岐先端 173.75
341 213.13 分岐基準点 175.00
津福駅は1線スルーで上り線側が上下通過線、下り線側が待避線

[西鉄ATS概要]

 西鉄ATSの構造については様々に異なって矛盾する断片的「解説」が流布されているけれど、公式サイトでも具体的な解説が無いので、形状、配置などの断片から確らしい情報を取捨選択して推定するしかない。他にはあまり見かけない独自方式なのだから、せめて京王サイトにかって掲載された過走防止装置1〜2型解説程度の概略解説を公式サイトに是非置いて欲しいと思う。
 西鉄式ATSは、固定磁石も使った磁気式地上子といわれていたが、変周式併用かと思われる記事や、阪神同様の軌道回路式とする記事もあり、詳細は不明だが、現地を見れば、3種類ある地上子形状からは「磁気式」動作があり、それが主であることは間違いない様だ。(右写真左列1.〜6.参照)
 写真左列1,2が信号機手前に30m余間隔で2基設置している信号用地上子。(手前側:信号機に遠い側は4〜5両編成用誤出発防止地上子の可能性あり)、
3,4が速度照査用で25km/hと15km/h設定があり、
5,6が過走防止装置と、その構成要素である時素速照地上子対であり、天神駅に設置されている。左看板の赤色数値は照査速度設定値(速照値)である。
 このうち、過走防止速照用の5,6は、車軸などを検出する磁気式(=車軸検知装置センサー)とみられ
信号用の1,2地上子は形状から見て進行左側が「磁気式」で矛盾無く、右側の配線のない塊がコイル+αなのか?単なる重しなのかは判断付きかねる。
 速度照査用の3,4は、汚れ方から見て1,2型より設置が新しい様で、磁気式で複数の速度設定を得るのは難しいから右側の塊に変周地上子等が組み込まれている可能性が強い。
 もし速照地上子の右側の塊に何等かの機能があるのなら、信号地上子の右側の塊にも2種を判別させる何等かの機能が配されている可能性が出てくる。
 だが、仮に「変周式地上子」だとすると磁気地上子部が重複になって無用となってしまう。ここは信号用地上子は磁気式、後日追加の速照地上子には変周用LCが付加されたと想像するのが無理がないかも知れない。が、それなら、速照地上子3,4の左側「磁気部分」が余分になってしまう。
 軌道回路から何等かのコマンドを得ているかどうかは判断付きかねるが、先の誤出発冒進事故からみると、速照が記憶式ではなく点照査と思われ、どうも信号ATSに軌道回路説は採用しがたい。磁気地上子検出による地上演算で絶対停止を軌道回路から伝えることを「軌道回路方式」と言っているのだろうか?。新幹線の過走余裕不足の行き止まり駅に設置の過走防止装置の様に、車軸検出による速照と添線軌道回路を使った03信号による過走防止装置同様の構成を、レールそのものを使って実現しているのかも知れない。西鉄福岡の過走防止装置では添線軌道回路には気付かなかったが、改めて写真5などを見ても、レールに添ってのケーブルは存在しないから、磁気検出式ならレールそのものを軌道回路のワンターンコイルとして使って非常停止コマンドを伝えている可能性は強い。
See→ 公式サイトのATS解説
    http://www.nishitetsu.co.jp/n_news/backnumber/n0712/history_main.htm
   阪神同様の軌道回路式:
    http://homepage3.nifty.com/kiha/SP/sp-ATS-05.html
 結局、詳細は西鉄の資料公表に待つしかないが、外形的には「点制御」「点照査」を示唆しており、それを前提に、実測位置から冒進事故の状況推定は行えそうである。

[計測と一計算]

 西鉄津福(つぶく)駅は、駅全体がカーブしている単線1線スルー構造の交換駅で、上り線西鉄福岡駅(天神駅)方面行きが上下兼用の通過線で駅カーブ入口に105km/h制限標識がある。天神側の分岐が45km/h制限曲線内方分岐、大牟田側分岐が45km/h制限の片側分岐となっている。天神から、津福1駅手前の試験場前駅までは複線で、試験場前駅先ダブルクロス(本線入替設備?)を過ぎると上り線に合流して単線となり、津福駅となる。
 津福駅分岐を過ぎた折返し出発信号の絶縁が第2場内信号と兼用で、待避線入線時にはYY現示が表示されるが25km/h照査はホームにかなり進入した位置(絶縁から約50m)で行われて分岐制限45km/hの高速進入を許容している。
 天神始発の列車は終点大牟田のほか、久留米以南の花畑、試験場前、津福で途中折返し設備がある。久留米以北が交通量が多いので直近での折返しなのだろう。久留米、花畑は2面4線の標準的な複線追い抜き駅である。

 津福駅の地上設備位置計測にあたっての計測基準は、各位置の枕木の本数を数えて比例関係での位置を掴み、レール1本25m当たりの枕木の本数を副基準に、それより正確な基準が得られれば補正する。車両長と連結面間距離で補正できるとかなり精度が上がる。
 レール1本25m当たりの枕木数は、上り線で39本、下り線出発信号先で40本だったから、精度±1.25%。その補正は、停車位置目標が「折返し7,2両」尻合わせ位置と7両編成停車位置間の距離が7両×19.5m=136.5m〜連結器長0.5mを考慮すると、136mの筈。
 2両目停止目標と7両目停止目標の距離は尻合わせ停車前提として、19.5m×(7-2)両=97.5m
 「折返し7,2両」と2両停目では19.5m×2両=39m〜38.5mとなるはず。
 分岐器は軌間1,435mmで45km/h制限というのは#11番分岐に相当。車体幅3,000mmとして、
フログ尖端からの支障限界距離=17.215m(=(3.0−1.435)×#11)
フログ−分岐先端=31.6m (=Rθ)
分岐先端からの支障限界距離=48.815m
See→日記#212、西鉄誤出発過走冒進事故
 以上を表計算で算出すれば「右表」の通りである。分岐や逆方向出発直下地上子位置など計測していない部分は推定値。

[誤出発支障事故の推定と試算]

 先ず、停止位置145mは、支障限界126.53mを18.47mも突破して、対向列車との衝突位置で停車した重大エラーである。クロッシング部も突破して踏み切り付近で停車しているから、正面衝突に近く、また踏切あたりで停止だから踏切の遮断が間に合っていたかどうかも問題になるだろう。今回は運良く誤出発が検知されて対向急行列車は抑止されたが、1線スルーの津福駅に接近しているタイミングで誤出発すると通過線の速度制限標識は105km/hでありその通過速度(現認は急行で70km/h前後か?)で衝突することになるから、西鉄公式発表の「危険はない」は適切な判断ではない。

 停止位置から逆算したATS非常制動コマンド受信位置と速度を求める。
算出条件として、空走2秒、減速度4km/h/s、2両停目位置0m、第2地上子位置63.13m、15km/h速照地上子位置79.38m、直下地上子位置100.0m、から最高到達速度を求める。
空走距離L2=Vm/3.6×T2
制動距離L3=Vm2/β
制動定数β=減速度×7.2
最高到達速度Vm=未知数、として
L2+L3=Vm・T2/3.6+Vm2/βであるから,    (L2:空走距離)
Vm=[−T2/3.6±sqrt{(T2/3.6)2+4L/β}]/(2/β)
◎先ず15km/h速照地上子が動作した場合、〜停止位置65.62m(=145.0−79.38)m、2両停目−15km/h速照地上子79.38mだから、
Vm(15)=[−2/3.6±sqrt{(2/3.6)2+4*65.62/(4*7.2)}]/{2/(4*7.2)}
   =36.2km/h
直下地上子T1動作ではL=45m (=145-100)mで、
Vm(T1)=[−2/3.6±sqrt{(2/3.6)2+4*45.0/28.8}]/{2/(28.8)}
   =28.9km/h
第2地上子T2動作ではL=81.87m (=145-63.13)mで、
Vm(T2)=[−2/3.6±sqrt{(2/3.6)2+4*81.87/28.8}]/{2/(28.8)}
   =41.2km/h
◎その場合の加速度αは、L1=V2/α  (α=7.2*A)
 A=V2/(L+Ls)/7.2 、ATS感応時間1秒、制動応答時間1秒だから、加速はATSで即遮断として
A(T1)=28.92/(100.0+28.9/3.6)/7.2=1.07km/h/s
A(15)=36.22/(79.38+36.2/3.6)/7.22.04km/h/s
A(T2)=41.22/(63.13+41.2/3.6)/7.23.16km/h/s
 2両編成でワンマンカーは、西鉄公式サイトに拠れば7050系で170kW×3モータとあり、10両編成で4Mで95kW×16モータのE231が約2.8 km/h/sの加速度であることを考えると、1両当たり出力で255kWと、152kWだから、JR東日本特有の低めの定格の決め方はあるが、この加速度からすれば、誤出発の列車に非常制動を掛けたのは第2地上子T2か15km/h速度照査地上子であることが分かる。(公式サイト7000系の仕様表に「Tc車のモータ出力165kW」が記入されているなど信用性はイマイチの処もある)。T1地上子では北海道の711系並で加速度が低すぎ、体感加速度も普通で、217系の加速度実測値が2.22 km/h/s程度とか、京王などもこの値に近くて、実際の加速度として妥当なものはT2地上子か、従前車に合わせた加速度調整をしていた場合に、15km/h速照地上子によるものとなる。
 そして、(2両編成については)正面衝突防止の誤出発防止装置が未設置であるから、'89/04北殿駅正面衝突事故が再現される可能性を持って放置されている。あるいは「誤出発防止モード時に25km/h制限が解除される論理を組んだことで2両編成が防御対象外となった」。北海道での誤出発冒進事故を承けての事故調報告での設置勧告で、頑迷なJR東海やJR西日本でさえあの尼崎惨事発生前に設置を始めているというのに、「安全対策を誇る」西鉄が放置とは解せない対応だ。うっかりミスだろうか?

[津福駅下り線ATS地上子位置と過走事故]
津福駅

[誤出発事故瞬時速度推定] 7050系VVVF車、加速度3.16km/h/sか?      [通過線側105km/h標識] 写真18.
誤出発 105km/h標識

誤出発防御範囲は?

<cal1>
誤出発防護範囲
 上記演算の「停止点」を、「支障限界」に置き換えて考えれば2両編成から7両編成停止目標位置の何処までを支障限界内で止められる設定かが分かる。ATS地上子T2の動作が不詳であるが、上記の通りここで停止コマンドを発しているのならそれより手前の5両目、4両目、3両目停目からの誤出発に対しても非常制動コマンドを発する「誤出発防止装置」になっているはず。また6両目停目からの誤出発の場合T1直下地上子で非常制動コマンドを受けて止まりきれるかどうかの試算が必要だ。
 非常制動減速度は一律4.0km/h/sとして、加速度は7000系〜7050系の3.16km/h/sのほか、特急・急行用・旧型を想定した2.5km/h/sの両条件での試算、ATS応答時間T1は1秒、空走時間T2も1秒、加速時間をt、として、誤出発強制停止位置から非常制動動作位置をL3、空走開始位置−非常制動位置をL2、非常制動動作位置−誤出発位置をL1、同空走開始位置−コマンドを受けた地上子間距離をL4、地上子−支障限界をL0とし、加速定数α、減速定数βとすれば、………
誤出発防御範囲試算←(IEでは、カーソルを置くと計算部を表示)
(誤出発防御範囲試算)
α=3.6×7.2×A(MKSA)→A(MKSA)=α/(3.6×7.2) だから、
L0=L2+L3+L4 …………………………(1)
L4=(1/2)A(t)2−(1/2)A(t−T1)2
 =A・T1・t−(1/2)A・T12
 =α{T1・t−(1/2)T12}/3.6/7.2 …(2)
L3=V2/β …………………………… (3)
L2=V/3.6×T2 …………………………(4)
L1=V2/α=(1/2)A・t2 ………………………… (5)
t2=(2/Aα)V2=(7.222)V2 =(7.2V/α)2
t=7.2V/α ………………………………………  (5)'
∴(5)'→(2)t
L4=α{T1・t−(1/2)T12}/3.6/7.2
 =α{T1・(7.2V/α)−(1/2)T12}/3.6/7.2
 =T1/3.6・V−αT12/7.22 …………(2)’
(2)'(3)(4)→(1)
T1/3.6・V−αT12/7.22+V2/β+V/3.6×T2=L0
V2/β+T2/3.6・V+T1/3.6・V−αT12/7.22−L0=0
V2+2(T2+T1)・Vβ/7.2−β(αT12/7.22+L0)=0
∴V=−(T2+T1)・β/7.2+sqrt[{(T2+T1)・β/7.2}2 +β(αT12/7.22+L0)] ………(6)
 この到達最高速度Vの値から各位置を算出すればよい。但し、L0は車上子取付オフセット分を調整する。車軸検出型と仮定すれば地上子位置を実際より2m信号寄りとして計算。L0=65−2=63m、α=3.16*7.2 or 2.5*7.2、T1=T2=1秒、として
V(3.16)=−(1+1)4*7.2/7.2+sqrt[(2*4)2+{(1+1)4}2+4*7.2*(3.16*1^2/7.2^2+63)]
   =−8+sqrt{8^2+4*7.2*(3.16/7.2^2+63)}=35.360km/h/s or
V(2.50)=−(1+1)4*7.2/7.2+sqrt[(2*4)2+{(1+1)4}2+4*7.2*(2.50*1^2/7.2^2+63)]
   =−8+sqrt{8^2+4*7.2*(2.50/7.2^2+63)}=35.357km/h/s  (誤出発防御速度)

誤出発防御速度Vに達する出発点とT2地上子の距離Ld=加速速度L1−ATS処理速度L4 であるから(5)(2)'より、
Ld=V2/α−T1/3.6・V+αT12/7.22 ◎Ld(3.16)=35.360^2/(3.16*7.2)−1*35.360/3.6+3.16*7.2*1^2/7.2^2=45.571m
T2地上子位置が誤出発位置:2両停目(停止目標)から63.1+2mだから、誤出発防護限界位置(α=3.16km/h/s)=19.5m(=65.1−45.6)
2両編成停目から19.5m先からしか防御していないことが判る。3両4両5両編成停目は誤出発防御限界内に入っているから、支障限界は突破しない。
◎Ld(2.50,35.357,1)=35.357^2/(2.50*7.2)−1*35.357/3.6+2.50/7.2=59.977m<65.1m
◎Ld(2.30,35.36,1)=35.36^2/(2.30*7.2)−1*35.36/3.6+2.30/7.2=66.0m>65.1m (α=2.3km/h/sなら防御範囲)
T2地上子位置が誤出発位置:2両停目(停止目標)から63.1+2mだから、誤出発防護限界位置(α=2.3km/h/s)=−0.9m(=65.1−66.0)

 以上の試算と略図が示すのは、新型VVVF車の7000系7050系の2両編成のみ誤出発防御が不足で、3両〜5両編成は地上子T2の非常制動コマンドで、6両〜7両編成は直下地上子T1の非常制動コマンドで防御されていることである。加速度の低い旧型車であれば2両編成も2.3km/h/s程度までは支障限界までに停止できる。………ということは、事故発生原因は高加速車を導入したのに誤出発防止装置の設定の点検を忘れたのではないだろうか。具体的修正法としては、もう1基誤出発防止地上子を増設し2両〜3両編成に対応させればよい。配置寸法からしてT2地上子の移設ではカバーできない様である。

 こうしたエラーの防止策としては、設置基準として、停目標識毎に誤出発防止地上子を設置する例が多いが、1基増設毎に\10万台の費用を減らしたい経済的要求に、何を管理基準にすればエラー発生を確実に防げるかとなると、なかなか難しい。車両の加速性能向上は、誤出発地上子T2設置当初は想定外だったろうから。この事故は国交省が全国総点検を指示すべき内容である。
(この誤出発防御範囲の項目は09/06/19記)

Google Earth との取得DATA比較

津福駅相対位置点検:Google Earth
X=地球半径Rθ=40001km×緯度差/360
Y=40001km×経度差/360×cos緯度
#番号は経緯参照点、略図FIG.参照
#位置緯度座標N 経度座標E 相対座標m
X北Y東
0屋根端33゚17'49.59" 130゚29'54.25" 0.000.000.00仮基準
1ホーム先33゚17'45.65" 130゚29'50.70" −121.61−91.58152.24(ホーム長
2踏 切33゚17'44.45" 130゚29'49.67" −37.04−26.5745.58
0屋根端33゚17'50.64" 130゚29'56.21" 0.000.000.00確認
再計測
0ホーム端33゚17'49.55" 130゚29'54.15" −33.64−63.5871.93

19.津福駅ホーム北端の屋根付きスロープと構内踏切
対向下り列車とミラーに映る上り列車が共に7050系2連ワンマンカー


初推定計算(日記#212)
空走1秒、起動加速度3km/h/sで修正計算すると現地調査にほぼ一致
 ホーム長が枕木基準142.5m対 Google Earth 150m(上表)と7.5m違う原因はホーム博多寄りのスロープと駅舎への構内踏切の踊り場にホームから続く屋根があって区別できずホームとして読み取ったためその分長く算出されたものと思われる。写真19.で、柵6ピッチと構内踏切幅2.5mで8.5mとすれば、誤差7.5mにほぼ一致する。ホームから続く屋根がスロープを被っているので航空写真からの判別は無理だ。これは読み取り判断の問題である。ホーム先端から分岐までの距離が現地調査で推定52.5mに対し、Google Earthでは45.6mで約7m短いので、Google Earthで再計測を試みた処、Google Earthそのものの分解能に問題があることを発見。構内踏切付近で経緯表示が72mもジャンプする。
 そんなこととは知らずGoogle Earthのアプデート作業をしてしまったから再現実験が出来ない。踏切までは47.6mで誤差5mに変わる。ホーム先端側には屋根が無く位置取得が難しい。Google Earthの位置精度は起動毎に変わり2〜3mは異なることがあるから、比較データは同一画面で得てしかも周囲にジャンプが無いことを確認して相対誤差を少なくする必要がある。システム精度の問題であり、計算精度ではない様だ。Google Earthを精査すると、構内踏切付近を丁度通る写真の継ぎ目がある。(画像ボケを厭わず精一杯に拡大して位置データを読み取れば水平位置誤差を小さくすることができる)

初推定状況との誤差は

 日記#212で記した誤出発状況推定では、報道内容の具体的数値としては「2両編成各駅停車が145m走行して停止」だけである。西鉄公式サイトからは最長編成が7両編成で、列車全長は不詳で、仮に連結面間20m(真値19.5m)とし、BBSからは、当該駅が下りの尻合わせ停車で、通過線分岐を直線側にする1線スルー構造、速度制限値は乱れて55km/h、35km/h、等。固有の特性として、非常制動減速度4.0km/h/sは事故調が報告書で標準的に採用する値。
 西鉄ATS関係は公開資料がなく、国鉄JRのATS-Sの標準規定を援用し、応答速度は1秒、それを承けてのブレーキ応答時間を1秒として計2秒の空走時間として当初は試算した。
 しかしATS反応時間中は状態が変わらないからこれは加速時間と考えるべきだろう。加速断が即時で0秒なのか、ブレーキ有効と同じ1秒なのかが詰められないが、このページでは電気系の応答を0秒と仮定して空走1秒とした。
 電車の起動加速度は定格が見つからず、他車両の値を参考に一般的な値として2.5km/h/sと仮定して算出したが、後に当該車がVVVF制御170kw(135kW)×3基の強力車7000〜7050系らしいことに気づき、それだと加速度3.0km/h/sもあり得るので、このページでは2通り試算した。3.0km/h余の方が現場に良く適合する。右に示す先の図と比較して、加速1秒の差がかなり効いていることが分かる。
 See→当初試算
 See→(実測加速度:E231=2.8km/h/s、E217=2.2km/h/s、京王6000=2.2km/h/sなど)
 原式 (1/α+1/β)v2+T2/3.6×v−L=0  ……日記#212#<cal>

☆算出条件1として、空走1秒、ATS検知1秒(力行)、加速度3.0km/h/s(VVVF)、減速度4.0km/h/s、全走行距離145m、加速・制動定数=加速度・減速度km/h/s×7.2とした結果が、津福駅現地調査報告に示すとおり、出発点を基準に、65.541m(=76.409−10.868)に地上子、76.409mでATSコマンド有効となり加速中断、87.694m(=76.409+11.285)から非常制動、145mで停止となる。

☆算出条件2として、加速度を2.5km/h/s(旧型車両)に変更した試算では
(1/2.5/7.2+1/4.0/7.2)v2+1/3.6×v−145=0 ………×72
6.5v2+2×10v−10440=0
v={−10±sqrt(102+6.5×10440)}/6.5=38.568km/h (or −41.645km/h)
加速距離L1=v2/α=38.568^2/(2.5*7.2)=82.638m
減速距離L3=v2/β=38.568^2/(4.0*7.2)=51.649m
空走距離L2=v/3.6×T2=38.568/3.6*1=10.713m  (=全距離145.0m)
ATSコマンド検出の1秒前に地上子に達している場合の地上子位置補正をL4とすれば、日記212#calより
=sqrt(2L1/A)であることを下記に代入して
L4=(1/2)At2−(1/2)A(t−T)2
=(1/2)A(2Tt−T2)
=T・sqrt(2AL1)−(1/2)AT2
=1sqrt(2*2.5/3.6*82.638)−(1/2)2.5/3.6*1^2=10.366m
(A=αMKSA。この位置に地上子か?常時速照は除く)
 出発点を基準に、72.272m(=82.638−10.366)に地上子、82.638mでATSコマンド有効となり加速中断、93.351m(=82.638+10.713)から非常制動、145mで停止となる。

 これと、地上子などの設置位置を比較すると、T2地上子63.13m、15km/h地上子79.38m、直下地上子100.00m、分岐交差部143.75m、停止位置145mとなるから、高加速3.0km/h余の試算と配置が良く一致することが分かる。T2地上子が推算より約2m手前なのは、センサー取付位置2m(磁気式では車軸位置)と考えると全く一致と言える。

 加速度、減速度、空走時間、全走行距離のデータが揃えば、ATS地上子位置が不詳のままでも誤出発の状況をかなり正確に推定できることを示した。今回の推算では7000〜7050系の加速度が不詳で、現地調査データでその高加速度3.16km/h/sに気付くこととなった。
(この項'09/06/14追記)

逆算:2両停目とT2地上子位置と加速度から走行距離を求む

<cal2>
 基本となる公式発表データを疑っては推定どころではなくなるので、通常は検討対象外だが、発表通りではどうしても物理的に矛盾してしまう場合、発表データの吟味も必要になってしまう。
 このケースの場合、T2地上子が誤出発防止を受け持っていると考えるのがもっとも無理のない動作推測だが、そうすると出発加速度が3.16km/h/sとなって、2両8軸中3軸をVVVF制御で駆動する7050系7000系で実現できる加速度かどうかが問題になってしまう。
 最大粘着力を基準に考えて、E231系4M6Tの実測加速度2.8km/h/sを換算するとα7050=2.8×(3/8)/(4/10)=2.625km/h/s であるから、7050系の公称加速度が2.6km/hというのは根拠ある妥当な数値である。3.16km/h/sでは空転を起こしかねない値だ。
 そこで、2両停目から加速定数αで加速し、T2地上子での非常停止コマンドを受け、T1秒後に受信して加速中断、T2秒空走、減速度βの非常制動で停止した場合の全走行距離を試算する。
【誤出発走行距離試算】:←(IEでは、マウスカーソルをここに置くと試算表示'none')
[動作しないブラウザが多数あるため、一時解除し全表示]
(誤出発走行距離試算)
L1:2両停目−T2地上子間距離+車上子オフセット
α:加速定数、AMKSA=α/7.2/3.6 [m/s^2]
T1:ATS応答時間
L4:T1中の走行距離
t:加速時間
Vm:到達速度 T2:ブレーキ応答時間=空走時間
L2:空走距離=Vm/3.6×T2 …………………………………(a)
β:制動定数
L3:制動距離=Vm^2/β …………………………………… (b)
La:全走行距離=L1+L2+L3+L4 …………………………(c)
L1+L4=Vm^2/α=(1/2)(α/7.2/3.6)t^2=α/7.2^2×t^2 ………(1)
L1=α/7.2^2×(t−T1)^2  ……………………………………………(2)
Vm=α/7.2×t、t=7.2/α×Vm ………………………………………(3)
(3)→{(1)右−(2)}
L4=α/7.2^2×{t^2−(t−T1)^2}=α/7.2^2×T1(2t−T1)
 =α/7.2^2×T1{2(7.2/α×Vm)−T1}
 =1/7.2×T1×2×Vm−α/7.2^2×T1^2
 =Vm/3.6×T1−α(T1/7.2)^2  ……………………………………(4)
(1)中(5)より
Vm^2/α=L1+Vm/3.6×T1−α(T1/7.2)^2
Vm^2−2αT1/7.2×Vm−L1α+(α×T1/7.2)^2=0
Vm=αT1/7.2+sqrt[+L1×α]
 =αT1/7.2+sqrt(L1×α) …………………………………………(5)

【別解】 (5)式は、L1区間で加速し、更にT1秒間加速した値が最高到達速度になるという単純な事実を示している。そこに早く気付いていればかなり遠回りの複雑な計算は無用で2行で済んだ。すなわち、
V1=sqrt(L1×α)
Vm=V1+AMKSAT1=sqrt(L1×α)+{α/(7.2×3.6)}*T1×3.6
 =αT1/7.2+sqrt(L1×α) …………………………………………(5)

※(5)に実値を当てはめれば
α=2.6×7.2、L1=63+2、T1=1、、
Vm(2.6×7.2,65,1)=2.6+sqrt{65×2.6×7.2}=37.4827km/h …(6)
L4=Vm/3.6×T1−α(T1/7.2)^2=10.0507m、又は、
(L1+L4)=Vm^2/α=37.4827^2/(2.6*7.2)=75.0507m (=65m+10.05071mで一致)
L2=37.483/3.6×1=10.508m
L3=37.483^2/(4×7.2)=48.784m
∴La=75.0507+10.508+48.784=134.343m<145m、約10.7m短かった?!


西鉄ATS
[西鉄ATS]:1999年。現地調査では、駅に付き地上子が4基あり、更に2基多い。 追加機能は不詳だが、私鉄ATS通達に欠けていた即時停止機能や誤出発防止等の機能追加の可能性はある。たとえば、
T125m:25km/h(=B1?)、 T55m:(?誤出発防止?)、
T38m:15km/h(=B2?)、 T17.5m:直下?
   (鉄道ピクトリアル#668、99年4月臨時増刊p44より)

 この試算程度の発表誤差:145mよりも約10.7m短い134.3m走行はあり得るかもしれない。
 それだと支障限界を突破した距離は6.21m(=134.34−128.13)で、やはり対向列車の最高105km/hとのオフセット正面衝突の可能性は消えないということだ。
(この追記項'09/06/28 00:10 upload予定'09/06/23)

情報の信頼性吟味に課題

 また分岐制限は両側に45km/h制限標識があり、55km/hとか30km/h制限というBBS情報は誤り。'02年宗像海老津追突事故でも現場勾配が−15/1000というBBS情報が流れたが真相は国鉄平坦地本線基準の−10/1000だった。'05年宿毛事故では最大7分遅延を1分近い早着にした驚異の回復運転という現場情報風の書き込みがあって、当サイトも引用試算するなどかなり広まったが、そのためか事故調報告では時刻認定根拠を示し「遅延は無かった」と敢えて述べている。
 結果として具体的挙動についての推定値に大きな影響は無かったし、試算には何等かのもっともらしい数値を当てはめるのだから誤情報誤差混入はやむを得ないが、BBSでは直読数値など単純情報でも予想以上に間違いがあり、もっと信頼できるソースを追求する努力は欠かせない。しっかりしたコテハン以外の情報は保留にして他のソースで確認する必要があるようだ。

   →日記#347 西鉄ATS解説 [2011年4月臨時増刊:西鉄特集p69] (2013/11/08)追加
[参照]   #230:構造推定   #217:現地調査   #212:誤出発不動作   列車制動衝突解析法   解析ヲタ入門:日記#213   鉄道事故リスト

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