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主目次

「読者の誤解」か?西鉄ATSの動作
解説文に不足と誤りか?

[西鉄津福駅誤出発事故]
日記#0212 西鉄誤出発事故、設定不適切か?
誤出発防止装置未設置か?
日記#0217 現地調査しました、西鉄津福駅誤出発
現地調査 誤出発防止装置
高加速2連には無効設定か?
軌道回路方式=:
 信号地上装置から左右のレールに信号電流を流して、そこに列車があると車軸で信号電流が短絡されてレールで1巻きコイルが形成され、その磁場を車上アンテナで検出する方式を「軌道回路方式」と呼ぶ。
 運転電流は「インピーダンスボンド」と呼ぶ信号電流分離トランスの中点から左右均等に供給して励磁を打ち消して信号電流との分離を図っている。
(重負荷区間でインピーダンスボンドに磁気飽和が起こりやすい場合は、信号電流専用トランスを別に設けることもある)

 西日本鉄道のATSの動作が判然としないため、大牟田線津福駅誤出発事故の詳細が今ひとつ詰められない。公開資料としては、鉄道ピクトリアル誌1999年4月臨時増刊#668号<特集>西日本鉄道p44「信号・通信設備の概要」(西鉄工務部電気課米津順一執筆)が不磨の大典・金科玉条秘伝の書扱いになっているが、この記事には具体的な信号伝達方法が述べられていないので理解が拡がらない。読み方次第はあるが信号コマンドを磁気式地上子から車上に直接送っている様に採れるが、そこに誤解の根源があるのではないだろうか。同書記事には「地上装置は信号機の外方に地上子(永久磁石)を設置して、列車がその地点を通過するとき信号機の現示条件に応じた速度情報を車上に送り、列車速度を照査する点制御方式をとっている」(p44右L3)という記述からは、検出・受信は車上側であり地上側は変化して居るようには取れない。ここで具体的動作が見えなくなってしまう。

 しかしながら磁気式地上子というのは普通は車輪を検出して地上装置を制御するもの。そこが直接車上にコマンドを送るATS-Sx/-Psなど変周式や、ATS-Pのトランスポンダ式地上子とは大きく構成が異なる処である。実在の典型例は新幹線終端駅で規定の過走余裕50mが取れない個所に車輪検出の磁気式地上子を配して数段階の速度照査を行い、過速度を検出すると添線軌道回路にATC絶対停止03信号を送って非常停止させる過走防止装置を構成している。See→新幹線時素式過走防止装置。この機能はデジタルATC化した今も有効である。
 すなわち、磁気式地上子で列車を検出した地上側が、信号現示に合わせて軌道回路など他の伝達系統でコマンドを送っている(RP記事が間違い、あるいは説明不足である)可能性がある。在来線で受信ハードを複数搭載しているATS方式は見かけない。JR西日本の「拠点P」はあくまでATS-PとATS-Swの併用で-P地上装置を減らしてコストダウンを図るものである。新幹線だけが軌道回路用ATC受信アンテナのほかに、列車位置検出の軌道コイルとか、P点の変周式検出器とか多種の受信装置を併用しているのはごくごく例外だ。

 別の情報源として、「電気鉄道ハンドブック」(洞編集委員会編著コロナ社07/2/28刊)p669表8.14最下段に略記があり「AF車上パターン・永久磁石速度照査式」項に「信号現示に対応した周波数のAF信号電流を軌道回路または添え線に流す。これを車上受電器で受電し、下位の速度情報に変化したときは車上パターンを生成させ、速度が超過していれば制動を掛ける。
永久磁石を使ったタイプでは、YまたはR現示の情報を受信したあと磁石の地点を通過すると、そこを制動開始点として制動が掛けられる。」「西武、相模、西日本鉄道などが使用している」
としている。

(3) 自動列車停止装置(ATS)
 ATS装置は当社独自のもので,永久磁石使用の磁束と高周波との組合せによる「磁気飽和型高周波多情報式の点制御による連続速度照査方式」と呼び,地上装置と車上装置の組合せにより構成されている.
 地上装置は信号機の外方に地上子(永久磁石)を設置して,列車がその地点を通過するとき信号機の現示条件に応じた速度情報を車上装置に送り,列車速度を照査する点制御方式をとっているが,車上装置は受電器・受信器・速度照査器などを備えて,地上装置から受けた照査速度を次の照査地点まで連続して記憶する連続速度照査方式としている。
 この装置の特徴は以下のとおりである.
  •  ATS動作の場合,必ず非常ブレーキが動作する.
  •  照査速度記憶装置を持っているので,照査速度を超えて運転すればいかなる場合もATSが動作する.
  •  停止信号までに必ず停止させるために乗車人員,勾配,天候等最悪の条件により信号機の配置,信号機の系統,地上子の位置を決定している.
  •  単線区間で逆方向の動作がないようになっている。
  •  乗務員が勝手に解放できないようになっている.
 以上のように西鉄型ATSは,運転速度と信号現示条件を照査する点制御によるATSである.地上子の設置位置および信号の現示に対応する速度照査の一例を図-1に示す.
西鉄ATS地上子配置図

西日本鉄道 天神−大牟田線
津福下り線駅ATS関連調査
相対
位置
位置
[m]
地上子 地 上 設 備 走行
距離m
備考
125.030.63 25km/h B1地上子
117.538.13 2両停目)出発点) 0.00 誤出発位置
97.558.13 3両停目20.00
58.197.50 5両停目 59.38
54.8101.25 誤出発地上子79.38誤出発ATS動作個所?
38.1117.50 15km/h B2地上子 6両停目63.13
19.4136.25 7両停目98.1319.5m5両=97.5m
17.5138.13地上子(直下)100.00
13.1142.50ホーム先端 104.38
0.0155.63出発信号線路絶縁 117.50閉塞境界
-8.8164.38(支障限界点) 128.13 =フログ−17.2m
西鉄ATS動作図

 この記述でも具体的構造が明確ではないが、ATSコマンドが軌道回路経由で送られることは判り、その構造の場合、磁石式地上子でブレーキを掛けるには、磁石式地上子自体は列車検出に使われ、低速化のコマンドは地上装置から軌道回路を通じて車上に送られると考える方が無理が無い。車上の「受信アンテナ」は1種類で済んでいる。磁石が接近した車輪に働いて地上で車輪を検出して速度制限コマンドを低速のものに切り換えるのなら構造としてスッキリする。AF軌道回路に緑100km/h,橙緑70km/h,橙45,赤B125km/h,赤B215 km/hに相当する周波数を信号現示と磁気地上子による列車検出で切り換えて送信。車上側で磁石を拾う装置は見あたらないし、軌道回路アンテナとは別に設けるのもなかなか面倒ではないか。

 西鉄ATS地上子配置図に、地上子B1、B2 の位置がそれぞれ130m、50mとなっていて、信号現示がR:停止の場合の速度照査値がそれぞれ25km/hと15km/hとなっている。15km/hというのは私鉄の場合停止信号の速度照査を意味することが多い。京成都営地下鉄京浜急行の1号型ATSも過速度からの停止は非常制動で一旦停止するが、再起動後は停止信号15km/h制限である。

 津福駅下り線では4つの下り方向地上子があり、出発信号の閉塞絶縁個所から手前にそれぞれ 17.5m、38.1m、54.8m、125.0m で125m地上子には25km/hという看板、38.1m地上子には15km/hという看板が貼付されているが、速度制限値と位置からしてこれらがB1、B2地上子に相当するのではないだろうか。当初、速度制限ラベルと左側部分で新しく見え、方式の異なる新設部かと思って解明できなかったが、単なる磁気式の地上子なら列車検出機能だけだから新旧は無関係だ。だが左側のケース部分に何が入ってるのだろか?
 残る地上子は、54.8mが誤出発防止即時停止地上子、17.5mが直下即時停止地上子という割当てで、そこに踏み込まれると即時停止信号か、それに相当する15km/h制限信号を軌道回路から送って非常停止させるという設定で、加えて駅進入検出後に一定時素経過して、直下地上子を踏まなければ停止したと見なして、誤出発防止モードに切り換えられ、停止時の25km/h、15km/h制限がなくなり、分岐の55km/h制限かG:進行現示の無制限になると考えれば、先の津福駅誤出発事故で起きたことと矛盾しない。
 逆に考えれば、誤出発防止モード時に停止現示制限25km/hが維持されていれば、誤出発しても支障限界(対向衝突限界)は越えないで済んでいた。誤出発防止装置の制御論理不適切ということになる。信号地上子はそのまま独立で維持していれば過走しないで済んだ。
 速照値の記憶は車上装置ではなく、地上装置で行われ、その速度は軌道回路を介して車上に伝えられる、西鉄ATSが磁気式地上子型ATSの標準的動作をしていると考えれば、総て矛盾無く説明できる。これは電気鉄道ハンドブックの記述内容に近く、RP誌#668号の解説が誤解を生みやすく不十分ということなのだ。
 検出・送信部分の動作に触れないATS/ATC解説というのは疑って掛かった方が良さそうだ。先の、日記#212、西鉄誤出発支障事故解析は、現実に良く合っていた様だ。

   →[2011年4月臨時増刊:西鉄特集p69] 西鉄ATS解説記事 (2013/11/08)追加

仮説:西鉄ATS基本構造はAF軌道回路伝達式
磁気式地上子で列車検出して信号手前停車制御   <NNR-ATS>

 以上の整理から、西鉄ATSの基本構造は、軌道回路を介して信号現示に応じたAF速度信号を車上に送り、その速度信号の選択は信号現示を基本にして、信号接近時には更に信号外方(手前側)130mにB1、50mにB2に2基設置した列車検知の磁気式地上子で、速度信号を切り換え、非停止現示ではB2に列車を検出すると次の閉塞の速度をAF軌道回路から送り、停止現示ではB1踏み込みで25km/h制限コード(YY現示相当)、B2踏み込みで15km/hコード≒停止コードを送って過走・冒進を防いでいる。列車が信号直前に来た場合の位置検出制御に磁気式地上子を使っている。信号50m手前から速度制御が行われるので運転士が誤認して非常制動が掛かっても原因である信号現示はが目の前に見えており、パニックが起こりにくい。

 駅では、更に誤出発地上子と、直下地上子を増設して、B1で列車検出後に一定時素を経過しても直下地上子を踏まなかった場合を停止と見なして、誤出発防止モードに切り換えて、速度制限信号を止める(=出発可のAF周波数に切り換える)。このとき誤出発地上子か直下地上子を踏むとAF軌道回路から即時停止(あるいは15km/h信号)が送られて非常停止する、という構造が最も矛盾無く動作を説明できる。
 先行列車の居る区間に冒進するとAF軌道回路の信号電流が無くなるから非常制動が掛かる。

 先の津福駅誤出発過走支障事故は2両編成用停目からでは加速性能が良すぎて2〜5両編成用誤出発防止地上子が働いたのに支障限界を越えてしまったということの様だ。6,7両編成は直下地上子が誤出発防御を行っている。
 しかし、出発信号が停止現示で、地上子B1が誤出発とは独立に働いていれば、25km/h制限が先に働いて支障限界を超えずに停められたはず。誤出発の論理構成を間違えたのだろうか?同じ地上装置を誤出発に使い回すことで信号現示と独立動作にならなかったのかもしれないが、2連でも高加速車でなければ微妙な論理不適切が顕在化しないで済んでいた。また、誤出発防止モードでも不動作待機時に停止現示制限25km/hを維持していても防御できた。(
日記#212に整理したとおり誤出発に25km/h制限は働いていない。設計ミスなのか?設定ミスなのか?やはり誤出発防止モードに切り替わっても出発信号の現示が反映する動作設定にするのが筋だろう)

 天神駅(西鉄福岡駅)の過走防止装置は、車軸検出装置で地上タイマーを起動して、次の車軸検出装置に設定時素内に検出されると過速度として軌道回路に非常制動コマンドを送り停止させて過走を防止する構造。

補足:「通説」との相違は

西鉄ATS:RP2011/04臨時増刊

 西鉄ATSハードを見て、構造解説情報を繋ぐ限り、電気鉄道ハンドブック記載の「AF軌道回路方式」というのはRP誌#668号にはない重要情報で、これに「磁気式地上子」を組み合わせた「AF軌道回路型磁気地上子式」「磁気飽和型高周波多情報式の点制御による連続速度照査方式」というのは、基本は信号現示に応じた速度制限AF軌道回路信号を送り、信号機手前50m〜130mの列車検出で、次閉塞制限AF周波数に切り換える動作が一番単純で自然な動作だ。単なる位置検出である車軸検出器(=磁気式地上子)から速度信号を車上に送るという動作説明には無理がある。
 「高周波」に引っ掛かるが、磁気式地上子の高速応答を保障するために、高周波を用いている可能性があり、多情報を送るための高周波では無いようだ。地上子2個で「多情報」とか。
 RP誌#668の動作説明は評価や呼称ばかりで構造に直接関連する具体的なものがなく、この記事の執筆者は電子回路や信号ATSの専門家ではないのかもしれない。様々の工夫の潜む制御信号の遣り取り部分の説明のない「解説」は、疑って掛かった方が良い。RP誌#668の記事に漏れや不適切があって正確ではないと解釈した方が真実に近いのではないか?

2009/11/11 00:55

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