いなほ14号突風脱線転覆事故  #96

  05/12/25 19:14 頃,羽越線第2最上川鉄橋南詰め付近の築堤上を走行中の特急いなほ14号485系6両編成が突風を受けて全車脱線,3両が転覆し,先頭車が農業小屋のコンクリートに衝突して直角に折れて,死者5名,負傷33名の大惨事となった.

  1. 事故経過

    1.   運転士に拠れば約100km/hで走行中に右側から雪混じりの突風を受けてフワッと左に傾いて転倒.車内販売員はこのときデッキ付近にいて幌から吹き込む烈風を体験している.
        転覆せず残った車両の右側の窓ガラスの損壊が多く見られ,これは突風による飛散物の衝突によるものと見られている.

    2.   JRでは風杯型(≒小型のロビンソン)風速計により常時風速を観測して通常20m/s超で警戒,25m/s超で25km/hの徐行運転,30m/s超で抑止となり,風が許容値に収まってから30分間運転再開を待つが,JR東日本の場合は更に「支社長判断」で早め規制区間として風速15m/sで警戒,20m/sで25km/h制限の徐行運転,25m/s以上で抑止の区間を定めているが,事故区間は通常の規制区間だった.
        風速計は設置基準がなく,現場の経験から風の強そうな場所に設置していたが設置数もJR東日本管内で220基と少なかった.
        餘部鉄橋転落事故(1986/12)以後,国鉄としては応答の早い風速計の整備を決めたが,87/04の民営化で棚上げになり,房総各線などではあべこべに風速計の設置数自体が減らされてしまった.
        「早め規制」の指定要件も不明だ.高速車両はその速度に応じて転覆速度が下がるから,早めに速度規制するのは合理的だが,そうではない様だ.
         気象庁天気図 05/12/25 18:00
      天気図12/25夕
           気象協会天気図 05/12/25 21:00
      天気図12/25夜
        上図の寒冷前線が時間以内で温暖前線に追いついて閉塞前線化!寒冷前線の速度は優に150km/hはあるから,逆算すると事故のあった17:14頃は事故現場通過中と思われる.
        波動や低気圧なら媒体をそのまま残して状態だけが移動できるが,不連続線(前線)の移動速度は温度の違う媒体そのものの移動を伴わないと移動できないから,40m/s余以上の平均移動速度があったと考えざるを得ない.暖気を吹き飛ばす寒気の速度としてはそれ以上になっているのかもしれない.
                 <tenkou>
    3.   現場付近の風速計は第2最上川橋梁北詰35m付近にあり,事故発生までに警戒値20m/sを1度だけ超えているが規制値25m/sには達していなかったため制限は掛かっていなかったが,通常は120km/hで通過する事故地点を運転士が100km/hに落として通過中に事故に遭ったものである.

    4. 事故当日の現場付近の天候
      • 当夜の酒田地方の予報では「終夜20m/sを超える暴風雪」としていて,
      • 最大限の注意を喚起する「暴風雪警報」が発令されていた.
      • 加えて事故の2時間前に特別に気象「情報」が出されて警戒が呼びかけられていた.   実際の観測では,
      • 通称「爆弾低気圧」と呼ばれる台風並みに発達した大型低気圧が
      • 深い気圧の谷の中で更に発達を続け,
      • 寒冷前線を伴いながら通過中で,
      • レーダー観測では新潟(弥彦山)・酒田両レーダーサイトで冬の通常の積乱雲高(3,000m前後)の2倍以上(6,000m〜8,000m高)もの稀な巨大積乱雲が海上から現場付近へ東に移動するのが観測されていたし,
      • 19時頃から約50分にわたり強い雷鳴が聞こえており(前線雷,鳴り始めが急変・突風部となりやすい),
      • 近隣住民の話では事故前後に希に見る激しい地吹雪を経験していたが,その中を当日だけは高速で通過していった..
      • JR自身でも事故前に1度20m/s以上の警戒水準の強風を観測したし,
      • また後の調査では海岸線の暴風柵が吹き倒され,
          そこから東方向に平坦な防雪林の中を幅約150m,長さ1.5kmに渉って風倒木が発生,木は北東方向に倒れていた(=南西方向の突風が発生した).
      • また風速40m/sに耐える設計の国道の暴風柵が吹き飛ばされており,
      • ビニールハウスや農業小屋の倒壊も起きており,
      • これらが12kmにわたり事故現場とほぼ一直線を成していた.

    5.   庄内平野は日本三大悪風と呼ばれる強風災害地域で,特に現場付近の旧立川町は風の街と呼ばれ被害の深刻な地域だったが,
      • これを逆手にとり真っ先に風力発電モデル地域となった.
      • 事故当日は風力発電設備全機が制限値(風速20m/s〜25m/s以上など)を超えて停止していた.
      • 道路には要所に防風柵を設置しているが
      • 鉄道には防風柵が無かった.
      • 羽越線は冬の強風による規制は毎年20回余もある強風路線.
        強風路線だからこそ,列車を頻繁には止めたくなくて「早め規制区間」の指定をしなかったことが疑われる.

  2. 周辺事実

    1.   国交省は,年末に気象専門家を事故調査委員会に加えることを決め,強風対策にも気象専門家を含めるよう求めた.年明けの対策会議では,気象専門家側から鉄道と気象台で気象情報をリアルタイムで共有して対応することが提案された.
        この国交省方針は,強風についても予測抑止方式の導入を誘導するものである.転覆特性値である風速を観測して抑止する帰還制御方式では観測から抑止までの間に高速で転倒するタイミングが残る原理的弱点があるから,可能な限り予測制御方式開発・導入が望ましい.尼崎事故では知らずに先走って的はずれなATS-P換装を再開条件にしてしまうなど散々だった国交大臣も,今回は変なマスコミ論調に乗らずにまともなリードをしている.

    2.   JR東日本は強風の増減予測の研究により,突風以外の風速の増減については,台風も季節風も高精度で予測できることがわかり,従前は強風が規定内に収まって30分後に抑止解除していたものを強風抑止の多い京葉線について,予測に基づき早期抑止解除することを発表した.
        台風の風や季節風は気圧傾度に函して(北半球では)等圧線に対して右45度方向に吹く風だからカルマン渦や中心値に対する分散で論じて予測がついたのだろうが,原因の掴めない竜巻とか,ダウンバースト=氷滴落下型では高度10,000m前後の上昇気流に浮かぶ氷片がいつバランスを崩して落下を始め周囲の空気を巻き込んで100kT〜150kT超(51m/s〜77m/s)もの落下速度で地表に衝突して突風になるとするとその発生予測は確かに不可能だ.
        だから特性値直の管理ではなく強い突風の発生しやすい条件=大量の氷滴が高空にある気象条件でその付近のリスクを下げる措置(=速度制限など)を取るのが実用可能な策だろうか.発生条件が判らないから今後もずっとそのまま運行するという横着な対応を許してはいけない.
        新方式採用により規制開始はほぼ現状のままだが,心持ち早めの規制が可能になる模様だ.解除側も念のためゲート条件として台風なら目の通過の確認,寒冷前線なら前線前縁の通過の確認を加え,その後の風速予測で規制解除して良さそうだ.

    3.   強風による転覆実験や理論解析は行われていて,停止状態の転覆限界(風上側輪重=0)が55m/s程度だが,100km/hでの転覆限界が35m/sに落ちるとの研究報告が鉄道総研から上げられており,カントを加味すれば100km/hで28m/sが限界という報道も充分根拠がある.
        速度制限をいきなり25km/hに落とすのではなく,営団地下鉄東西線高架部の強風規制のようにもっと低い風速から60km/h規制など中間値を設定してリスク均等化を図る方が良い.

    4. 人的判断のシステム組み入れ
        運転規制のシステム組み入れに際して,状態を論理数値化して主観が入らず判断出来るようにするのは望ましいが,到達水準からまだ数値化できない分野について,そのことをもって判断から除外するのは本末転倒である.数値だけで抑止・減速を決めるのであれば指令の判断は要らない.なかなか数値化できない永年の経験と勘も残っているのだが,最近のJRの「システム化」はどうもそれを全く否定する立場に居るようだ.数値化,客観化の努力は必須だが,未完のうちは人的判断に頼るほかないのだ.それを捨ててはならない.
        ただ,後述の刑事処分との関係で,必ず漏れの出るであろう判断項目を判断規定に含めると,警察検察の世論受けを狙った人身御供処分の口実とされかねず,判断漏れの存在は明文で規則に残すしかないだろう.事故発生ということは「まだ大丈夫だ」という判断が結果的に間違ったことは確かなのだが,その判断の導入で救われたケースが何倍も出ることにも注目して扱うべきだ.当事者が必然的に起こる規制漏れに対する刑事処罰を恐れて有効な改良策の採用を躊躇するような立件法は大変有害だ.

    5.   JR東日本は運転再開に当たっての当面の対策として
      1. 風速計の増設
      2. 徐行運転の実施
      3. 規制値の見直し(早め規制)
      4. 特殊信号発光器の新設(風速計連動)
      5. 気象情報の活用
      6. 防風柵の新設
      (山形新聞06/01/19他※は臨時的対策)を発表して運転を再開した.2項は再開直後を除き,やりすぎ.3項を永久対策にすれば済む.第5項気象情報の活用の具体化が緊急課題となる.予測管理のキーとなる第5項が多くの報道からは削除されていたのは,報道側が事態を良く判ってないことの現れだ.「天気予報!天気予報!天気予報!」と3ベン唱えると当たらない!と記者たちは確信していて気象情報を重視していない!(山形新聞など報じた社を除く).だが物理的にみれば降るか降らないかの判定は極めて微妙だが、荒れるかどうかやその強さの予測は今回も含め良く当たっている.
        気象の専門家でないと天気図だけから急に発生する酷い荒天を予測することはなかなか困難だ.予報官泣かせの「土佐沖低気圧の発生」とか,突然大型化する今回のような「爆弾低気圧」については気象専門家たちとデータ解釈を共有してその助言で判断することになるだろう.※

    6.   485系は鋼鉄車体で40トンもあるが,これが強風で転覆して,車体が大きく破損した.破損位置に乗車の乗客が犠牲になったが,6両編成の乗客乗員38人中5名の死亡というのは軽量車体7両編成の207系で約600名中107名の死亡となった尼崎事故と比率的に大差なく,自重を無視して鋼鉄車体だから強靱で軽合金軽量車体が脆弱だという感覚的論議を否定するものとなった.車体強度は自重+最大荷重に対しての強度で論じるべきである.相互の衝突の際に運動量保存則で質量に反比例した衝撃を受けるからその場合は軽い方が打撃が大きいが,橋脚や建物など地球と衝突する場合は違いがない.

  3. 何が問題か?!有効な突風対策は?<taisaku>

      前出,JR東日本の風速予測研究のデータでは台風・低気圧や季節風など通常の風の増減はかなり良く予測していても,突風自体の予測は不可能であることが示されていた.航空機用の突風レーダーでも発生した突風が判るだけである.
      だから取れる対策は,そうした突風が発生しやすい条件を抽出して,空振り覚悟で抑止・減速することだが,実用上許容できる空振りに収められるかどうかが採用の鍵である.

    帰還制御か,予測制御か!
      制御論的に考えたときに,現場の風速測定値から速度制限・抑止を決めるのは「帰還制御」,天気図と予報から強風を予測して制限・抑止を決めるのは「予測制御」に相当する.
      優れた方式ではある帰還制御方式の弱点はアクションの遅れ分で問題を起こす場合がある(すなわち抑止前に転覆の危険がある)ことで,本質的には「制御アルゴリズムの放棄」というべき弱点を抱えている.一方,予測制御は条件に対応する詳細の応答が判っている必要があり,それに応じて事前に準備した動作をさせるため遅れはない.

        最近は何度も激しい土砂災害に見舞われて路盤が丸ごと失われ高千穂線のように廃線の危機に瀕しているところもあるが,幸い土砂災害の事前予測で抑止しており運行中の列車の被害にはならずに済んでいる.。発生予測は直接的な地盤の移動量や含水量観測値ではなく主に間接特性の累積雨量を採って規制を行っていて,土砂災害という点では空振りが多いが問題なく運用されている.(注:'85/07/11に能登線で長雨による崩落事故、7名死亡。地質によって地下水位に着目し水抜きする対策を加える).それに倣って突風対策でも同様の予測抑止の導入は可能だろう.

        問題は突風発生条件を特定する精度であり,システムに乗せやすい機械観測に乗るかどうかだが,もし数値管理に乗せられなくても定性的判断は可能である.寒冷前線の突風はその場に居れば観天望気でなら充分抑止可能だ.
        だが問題は人員削減・無人駅化で戸外作業者が激減して,駅長とその代行者などの有資格者からの天候報告が不可能になり,それに合わせて風力観察表を廃止し制度としても現場からの異常天候報告義務を無くしてしまっているから現場のナマ情報が入らなくなっているのだ.高速走行中の乗務員から得るのは無理だ.これを気象専門家の力も借りてどう切り抜けるかが緊急の課題である.

        定性的にでも拾える要因を挙げると,それをポイント条項と考えるか,ゲート条項と考えるか,またその限界ポイント決定はどうするか,予測から排除する事象の決定,という検討課題はあるが
        竜巻などは荒天と関係なく起こり,現在の気象学の知見では予測の付かないものだから,これには減速・抑止という防御手段は使えない.目に見えたら地形を選んで停車する以外に手はない.
        しかし12/25夕の気象は前述の様に突風発生条件が何重にも重なっていて,稀に見る悪条件だったから,その程度は抽出し対応することは可能だろう.(前出天候状況参照)
        新聞の天気予報は天気図の他は地方版も晴雨だけで「警報」「注意報」すら載らない場合が多いが,天気予報電話とwebでは真っ先に警報が載り,加えて緊急の「情報」も追加して出されている.なるほど都会生活では洗濯指数と雨だけ予報すれば足りるのか!

        これだけの特別の異常気象が観測されていながら,それを突風などの急変の起きやすい寒冷前線前縁とか判断する制度も組織も人も無かったため「抑止30m,徐行25mの基準に達してない」として切り捨てて惨事に至った.運転規制の観点では誰も注目していなかったのだ.

        「突風自体の予測がつかない」ことをもっての対処不可能論は誤りである.確度の高い発生条件に空振り覚悟で対処することは可能だし,土砂災害対策としては現実に採用されている.土砂災害の管理値は,直の特性値ではなく累積雨量で災害発生の可能性有りとして抑止していて,当然空振りの方が遙かに多いが容認され定着している.この措置により土砂災害多発の昨年05年や大糸線南小谷以北を崩壊させた大災害でも運行中の列車の遭難は道床流出で1両転覆した他には出さずに済んでいるから予測管理が有効だったケースだ.この例外事故は土砂災害というより個々地点の排水容量不足の問題だろう.強風も季節風や台風など気圧傾度型の強風に対しては現行の時系列予測に高速走行の規制を導入することで足りそうだ.これにダウンバーストのような氷片落下型モデルでの突風発生予測方法を確立して加えるということだ.平穏時にも起こり発生条件の判っていない「竜巻」は予測不能だが,巨大積乱雲と寒冷前線の絡むものは現在の気象学の知見で危険性を予測できる可能性が強い.土砂災害発生危険性判断のための情報としては自前の降雨量計測に加え既に気象庁のアメダスから情報を得ている.これを風に広げるだけだから設備としてはあまり要らず,判断できる人を配しての情報の利用法の問題だ.

        もう1点は「停止しても転倒するのは変わらない」という乱暴な論議が一部でされているが誤り.鉄道総研のデータなどでは停止時の転倒風速が55mに対し100km/hでの転倒風速は35m/s〜28m/sに落ちるとされており,また100km/h〜108km/hでの激突というのは墜落高度に換算すれば40m〜46mからの垂直落下に等しいが,これが45km/hでは高度8m,25km/hでは高度2.5mに下がるから,速度制限は転倒被害抑制に大変有効なのだ.

        また,速度制限25km/h規制の風速25m/sは半端じゃない.気象庁風力表によればそれは風力10に相当して「陸地の内部では珍しい.樹木が根こそぎ倒される 」という強風.抑止基準である30m/sは更に強烈で風力11「めったに起こらない.広い破壊を伴う」となっている.「警戒」の20m/sでも風力8に相当し「小枝が折れて飛ぶ.風上に歩けない」という激しさだ.市街地では風が弱められるが吹きさらしに出たとたんに強風に見舞われる.
        事故後JR西が早速新たな抑止基準として風速が5m/s低い「早め規制」を標準に選んだのは妥当だ.20m/s観測で徐行措置を採っていたらその分被害は小さかった.

      改善を阻害する人身御供型刑事処分方針  <shobun>

        放置すれば救えなかったものをたとえ半分でも救済できれば実施する価値があるが,この措置で回避できたケースは良いが,微妙な条件で運悪く予測できない場合もあり ,残りの捕らえ損ねた異常に拠る事故を結果だけで責任追及する現刑事処罰体制の改善も是非とも必要だ.
        善意のアクションで捕らえきれずに事故に至った残りの部分に対し,警察・検察が現場労働者に対し人身御供の刑事罰をもって介入するのでは,鉄道事業者・担当者にとって救済のアイディアを出さない方が無用な処罰を避けられて安全ということになってしまう.警察・検察の方針が安全追究にブレーキを掛けかねないのだ.

      酷かった北陸トンネル急行きたぐに火災惨事での起訴

        鉄道事故での典型的な酷い扱いの例は,北陸トンネル急行きたぐに火災惨事(1972/11/06)での生き残った乗務員の起訴.この事故の丁度3年前の北陸トンネル寝台特急日本海火災事故(1969/12/06)時に機関士・乗務員の機転で火災時の即時停車という運転規則を無視して危険なトンネル内停車を避けて走り抜け,トンネル外で消防署の協力を得て消火作業に当たり火元の電源車の全焼被害だけに留めたが,国鉄はこれを運転規則違反として処分を強行し,以後トンネル内火災でも無条件で停まるほかなくなっていた.

        国鉄というのは軍隊や警察に準じた命令一下の世界だ.高速走行のため停まりきれない先の状況を信号や通票の指示を頼りにフルスピードで走り抜けなければならないのが鉄道だ.それは緻密な規則遵守で安全が確保されている前提で機能する.駅長や車掌に警察権があり強制力もあった.だから規則を疑うのはいわば鉄道運行の根幹を疑うことになり,これが殊勲の特急日本海乗務員の不当処分を強行する国鉄側の理屈になっている.
        それに重ねて起こった急行きたぐにの列車火災で,乗務員にはその危険回避の処分権が与えられていなかったのだ.それを無理矢理起訴して長期に刑事被告人として仕事を奪って晒した.幸い無罪で決着したが,どうしても刑事処罰するのであれば,命令・規則を拒否できない乗務員ではなく,危険なトンネル内停車を処分で強制した者こそ処罰の対象とすべきだろう.惨事後,トンネル内火災でも停車を義務づける不当な規則が改められて特急日本海乗務員の処分も撤回されたが,大々的に表彰して規定の欠陥を洗う機会にして良かった事件だ.

      日比谷線中目黒脱線事故でも見当外れの送検

        同様に,営団地下鉄日比谷線中目黒駅脱線衝突惨事でも,線路の狂いを発見して次の整備で修正する予定だったものを,過失・怠慢にでっち上げて保線関係者5名を送検している.そればかりか警察は事故現場のレールを直ちに押収してしまい事故調査検討会がその専門家としての立場からの再現実験をできなくしてしまった!
        そもそも管理限界と安全限界は全く性格が違い,管理限界超過では一定期間内に修正すれば安全限界に収められるから経験的にその狂いの程度によって補修期限を設けて時に経過観察をしながら延ばすこともあるのだが,それを犯罪として立件する権力の乱用をした訳だ.これは事故調査検討会の結論が事実上,輪重バランス管理不適切とガードレール設置基準の過剰緩和となって,管理値を超える軌道の狂いは脱線の原因とはならず不起訴で終わったが,これも職場からの輪重管理・輪重計設置要求に応じていれば防げたはずの事故で,現場ではなく,何度も拒否したものこそ責任を問われるべきだった.現にうるさ型の揃う半蔵門線車両だけは要求に従い輪重調整を行っていて,他線区で実施をサボって日比谷線事故に至っている.

        捜査機関はどちらの事故でも決定権のない現場の人身御供処分に走り,安全追求を阻害した者たちを放置する不公平な捜査を行った.この反省は捜査機関からは一切聞かれない.これでは事故防止の検討範囲を広げようとはしなくなる.
        こうした公共輸送機関の自然災害がらみの事故では西欧式に刑事免責を保証して真相追究・再発防止に努める様制度を改めるとか,少なくとも無過失の現場に対する無理矢理の刑事処罰は避けるべきだろう.

  4. 参考事項

      天気図12/24夕
    1. NNNドキュメント06 06/03/13 00:55〜
      震える鉄路・追跡いなほ14号脱線事故
    2. 当日05/12/25頃の天気図
    3. 一般人には天気図だけでは分からない.解析・判断に気象専門家が必要.   前日24日夜の天気図(右図)には気圧の谷は見られるが大きな低気圧はない!また高層天気図も,一般人が等圧線だけから気圧の谷を見つけることはなかなか困難で,説明的に書き込まれた気圧の谷の移動から海山での激しい荒天を推測するほかない.
        これが急速に発達し爆弾低気圧になるのを予測できるのは気象の蓄積データが不可欠だ.
        この日25日夜の酒田地方の天気予報は「終夜20m以上の暴風雪が吹き荒れる」とあり更に17時頃に注意喚起の気象情報を出しており適切に予報している
        これを鉄道用に翻訳する制度や能力が輸送指令に無かったということだ.

    4. 気象庁の風速計が風杯型から応答の早いプロペラ型に切り替えたのは1975年(理科年表2001年版気象の部P2風),瞬間最大風速は0.25秒間の平均風速,風速は,ロビンソン風速計の時代から10分間の平均風速を言う.現在JRが多く使っている3椀風杯型はロビンソン型よりは小型で慣性能率(イナーシャ)距離定数が小さいが,応答速度はプロペラ型よりかなり遅い.だから突風対策に当たっては応答の早い風速計を選ぶ必要はあるが,しかし抑止手配までの時間遅れがあるから,風速観測値で抑止する方式ではどんなに応答を良くしても原理的に止めきれないタイミングが残る.

    5. 距離定数                            <L-const>
        風速計の応答速度は当然時定数Tの逆数で決まるが,風速測定の場合,時定数と風速がほぼ反比例関係にあり,風速×時定数が一定値を示すことからこれを「距離定数」として応答特性を示す指標としている.
        風速が早い方がそれに比例して応答速度が早いから,風速に波があれば計測値が高い方に偏る.

    6. 強風抑止基準は妥当か?      <fu_ryoku>
      気象庁風力階級表( 理科年表表記抜粋:近年版では削除済)
      風力風速 状  況

      kT=
      緯度分/時=40,001/360/60=1.8519km/h
      ノットm/s
      下限
      上限
      下限
      上限
      126432.9 まれな巨大な台風
      11566428.832.9 めったに起こらない.広い破壊を伴う
      10485624.728.8 陸地の内部では珍しい.樹木が根こそぎ倒される
      9414821.124.7 人家に僅かの損害が起こる.煙突倒れ屋根瓦が飛ぶ
      8344117.521.1 小枝が折れて飛ぶ.風上に歩けない


      速度−高度換算
      速度
      km/h
      高度
      150.9
      252.5
      458.0
      6516.6
      9031.9
      10039.4
      12056.7
      14077.1
    7. 危険度評価指標に速度−位置ポテンシャル換算法は?
        走っていても停まっても橋梁上で転覆すれば変わらないというのは間違い.低速での転覆なら被害が小さいが,高速で転倒すると車体が割けるなどして重大な結果になりやすい.その客観指標として速度エネルギーを位置エネルギーに換算して高度で表してはどうだろう.
        ポテンシャル算出方法は速度エネルギーが位置エネルギーに転換すると考えればよいから
        ∫f dx=(1/2) mV2 =mgH となる.すなわち
        H=V2/(2g)  となる.(但し,H:高度,V:速度,g:重力加速度,m:質量,f:力,x:移動距離とする)
        試算結果を右の表に示すが,100km/hでの激突は39m高からの落下に相当することが判る.それに落下高度を加えることで速度の危険性が数値化できる.100km/hでの激突は橋梁から10m落下するより遙かに撃力が大きい.

      飽和水蒸気量
      1m3
      当り重量g
      気温
      飽和量
      g
      -5(3.4
      04.8
      56.8
      109.3
      1512.8
      2017.2
      2522.8
      3030.4
      3539.2
      40(51.2
    8. 水蒸気含有限界,高度−温度
        冬の積乱雲は到達高度が3000m程度が普通だが,事故当日は6,000m〜8,000mに達する夏並みの巨大積乱雲が現場付近を通過中だったと報じられている.夏だと10,000mを超えるものも珍しくない.この違いは空気中に含める水蒸気量が温度で大きく違い,供給できる水蒸気の凝縮エネルギーが違うために起こる.1気圧で1m3中に含めることのできる水蒸気量は25℃で22.8g,0℃で4.8g とされており,これが高空で気圧も温度も下がって,仮に飽和水蒸気量が1gになれば,現実に含まれていた水蒸気量との差が水滴,氷滴として析出して雲・雨・雪・氷となる.析出量が21.8gと3.8gという差になるが,同時に1g当たり解放されるエネルギーは,凝縮熱(気化熱)で539cal,冷却熱100cal,固化熱(融解熱)80cal(ジュールJ換算でそれぞれ2,256J/g,418.5J/g,334.8J/g)だから,地表が低温の冬のエネルギーが大変小さいことが判る.そのため冬の積乱雲は小型なのだが,逆に言えばその条件下で唯でさえ荒れる寒冷前線に夏季並の高さの巨大積乱雲が発生するというのは希に見る荒天ということで,特別の対処が求められるのではないか.

    9. ?はなはだ疑問!道床なし構造は吹き上げられて転覆しやすい?
        多くのマスコミが道床なし構造だと転覆しやすいと報道しているが,これは眉にツバを付けて聞き置いた方が良い.ベルヌーイの定理で高速流の減圧が起こるのは確かだが,道床がないと上下の圧力差が増えるようなモデルは考えられない.却って下側を吹き抜けて圧力差を減らすとされても反論できない.これは見た目の不安定感からくる伝説ではないだろうか.確かに高所での転倒は怖い.
        築堤上のように斜面で気流が絞られて増速する様な地形なら,その風速で転倒力を増すが,それは風速計で捉えることができる.


2006/01/31 23:30

関連内容   (下記「日記」のまとめ)

[92]. いなほ14号突風横転事故!  天候予測に突風も加えて! 2005/12/26 23:00
[93]. (続)強風についても予測管理導入を 2005/12/30 16:00
[94]. 国交相,気象関係者含めた強風運行規定検討指示
   強風対策も土砂災害対応同様予測管理型へ改善
2005/12/31 12:30
[96]. 「気象庁情報生かされず」ようやく報道!
   「現場上空大型積乱雲とらえ警報」
2006/01/05 00:30
[96.2].円腕型(ロビンソン)風速計の弱点報道
[97].大丈夫か?現行の減速・抑止基準 2006/01/10 23:30
[107].強風転覆被害抑制は可能か? 2006/04/09 00:35
[234].指令の送検は妥当か? 2009/12/25 23:35

[JR東日本見解等]  ('08/12/03現在)

 寒冷前線と積乱雲の状況から運転規制を試行するという方針がJR東日本'07/12/18付け報告[別紙3]に述べられている。冬季の試行で以降今年'08/11〜'09/03も実施されている。事故直後'05/12/26〜'06/01/31にこのサイトで述べた方法だが、事故から2年掛けて具体的気象特性をまとめて気象会社からの勧告情報を元に規制を発動するというのは積極的で妥当な方法であり、他JRにも拡がるべき方向だ。     ('08/12/21追記)
●羽越本線列車事故に伴う対策の実施状況について (08/12/03現在)[PDF/74KB]
●同上  (2007年12月18日現在)[PDF/139KB] [別紙3] 寒冷前線運転規制導入
●羽越線事故における対応及び対策の実施状況と今後の取り組み等について

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