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Geo日記
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[107]. 強風転覆被害抑制は可能か?

↓事故発生時刻19:14直前
  3/12 24:55〜「NNNドキュメント'06 追跡:いなほ14号脱線事故」をようやくHDRから取り出して視聴した.様々に食い足りないのは仕方ないが、
 第1に、右のレーダー図が映し出され、そこにはハッキリ寒冷前線の巨大積乱雲帯が映し出されており、その高さが通常の2倍〜2倍半というのがリアルタイムで分かっていたのなら、積乱雲帯だけ25km/h規制、強風地点抑止を掛けていたら死亡事故は避けられた可能性が高いのではないかと思った.こんなにピンポイントで危険区域が分かれば運行規制に充分採り入れられる.台風の積乱雲群はもっと規模が大きいが、徐々に風力が強まるので従前方式で規制出来ている.

  第2に、危険度の判断を客観化させるために様々の計測値を組み合わせた指標を導入するのは妥当な方向であり、それで抑止の可否を決定するのは合理性があるのだが、そのことでJR東日本が数値化できない(人の判断の入る)管理項目を否定するのは大きな間違いだ.番組では「運転士の判断で停めても良い」とも解釈できる範囲で留めていて「禁止」まで突っ込んでいないから安全上重要な争点がよく見えて来ないのだ.
  加えてJR東日本は2002年3月に目視による風力観測規則を廃止した.無人駅の増加で意味をなさない場所ができ風速計データに一本化したものの様だが,風速計がJR東日本で220個所しか設置されていない状況で目視観測点を全廃した措置は結局観測点の激減で局地気象情報を遮断する危ない措置になりかねない.それなのに観測点廃止分の補填を行っていない様だ.とりわけ今回の強風転覆事故は1km離れた北詰の風速計では捉えきれなかった局地気象が絡んでいる.
  羽越線転覆事故を受けて気象庁(技官)側からは気象情報の共有を提案されているが,今のJR東日本の「数値化判断できない限り採用しない」という行きすぎた方針がある限り、具体的な抑止基準に採り入れられることはなく気象庁の善意の協力は徒労になるだろう.番組はJR東日本のそうした極端な方針をもっと明確にする報道をして欲しかった.
  JR東日本がこのように極端な方針を取る理由として思いつくのは2点ある.ひとつは遵法闘争対策.当面は千葉動労との関係だろう.もう一つは事故を防げなかった際の刑事責任追及の回避だ.極論すれば異常時に全部止めれば人身御供的処罰は防げるが,公共輸送機関としての役割を果たせない.それなら人的判断を必要として難癖処罰をされるような規則を全廃することが身を守る方法になってしまう.


現場判断の停止は許さない! vs 運転士が危険の判断をして止める必要がある
JR東日本当局 vs 元羽越線特急運転士
JR東は現象を数値化して判断基準を定め、 それ以外の判断を許さない方向を徹底追求中

  人に依存する判断で被害を半分救えれば効果大だが、救えなかった残りの半分をもって刑事処罰を受けかねない危なかしい基準は導入しないということだ.結果は無罪とはいえ北陸トンネル火災惨事での事故発生に責任のない被災乗務員の起訴や日比谷線中目黒事故での保線関係者の送検やレールの押収といった無茶苦茶な処罰方針を目の当たりにしては無理からぬことだが、判断漏れのリスクのあることを明示した権威あるマニュアルを事前に作成しておいて現場労働者を生け贄にして幕引きを図る安易な刑事処罰に対処するなど工夫が求められるだろう.また郵便車火災事故の発火原因と推定された暖房用過熱蒸気による木材の炭化低温発火現象を知らなかった検修担当については予見可能性の追及は困難だと不起訴処分になっている.こうした扱いが出来るのなら急行きたぐにの生存乗務員3名も不起訴で良かったし,どうしても処罰対象を求めるにしても,その3年前1969年12月6日の特急日本海北陸トンネル火災で,火災発生時の運転規則を無視してトンネル外まで列車を引き出して消火作業を行い物損で済ませた乗務員を規則違反だと処分して誤った運転規則を改めず急行きたぐにに危険なトンネル内停車を強いて惨事を招いた上層の責任こそ追及されるべきであったが,これが生存乗務員の立件と裁判でどう扱われたを知らない.個人追及の規定しかない刑法に社団の責任条項を加えるか,西欧並みの刑事免責条項を設ける時期ではないだろうか.

  第3に、盛り土区間で風速が増速される件は、見通しの良い地点だと上下を風が抜ける鉄橋上よりも両端盛り土区間の方が転覆し易いことを示している.北海道石勝本線転覆事故の場合には風速で1.35倍としているから、転倒力に換算するとその2乗倍=1.82倍以上と考えられる訳で番組はここを落として欲しくなかった.これは1994/02/22石勝本線特急おおぞら16号転覆事故や同日の三陸鉄道転覆事故(検索:1994年2月22日)対応同様に防風林、防風壁の必要性を示している.

  第4には、これ等の事故の教訓と対策がなぜ同業他社には伝わらず、同様の事故を繰り返すのかという問題がある.中目黒事故以降は国交省事故調勧告を発する様にはなったが、それ以前の事故の教訓・対策については放置のままである.危険個所への防風壁設置は1994/02/22の2つの転覆事故の教訓だったし、竜巻と思われる強風で転覆した営団地下鉄東西線は地上区間でこまめに減速・抑止・再開を行って減速運転ダイヤの存在を予想させる運行を行っている.最近JR東日本が強風抑止の多い京葉線に試験採用した抑止時間短縮法は検討期間を早めて他線区にも広げ,抑止を掛けやすくして貰いたいものだ.最低30分以上は全面停止の規則だから通常は遅延回復正常化を旨とする輸送指令が一瞬の風速超過は見逃したい気持ちになるのは無理からぬところがあるのだ.お座敷列車みやびは強風抑止遅れで餘部鉄橋から転落している.

羽越線いなほ14号転覆事故強風被害地図と狭い強風帯

同上被害詳細図、山形新聞記事、同紙webより

  羽越線事故発生状況を示す略図も放映された.この被害図と先の積乱雲観測データがピタリ一致しているのだ.特大の寒冷前線積乱雲については制限・抑止風速に達してなくても突風発生の虞のある領域10数km幅を25km/h制限にするなどの手は打てそうではないか.
  (写真は右図を除き総て番組からキャプチャーした)
2006/04/09 00:35
[05/12/25 羽越線転覆事故概要]
 
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