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Geo日記
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[92]. またも突風横転死傷事故か?
   羽越線485系特急いなほ14号
  天候予測判断に雨だけでなく突風も加えて!
 (#96)

  報道に拠れば、
  25日19時14分頃羽越線第2最上川鉄橋南詰め築堤〜250m付近で秋田発新潟行特急いなほ14号が突風で脱線転覆、死者5、負傷者30余の惨事となった。転覆事故で負傷した運転士の説明に依ると、約100km/hで走行中に雪混じりの突風を右から受けて左に転覆し消灯、姿勢が判らなくなるが、這い出して事故を連絡し乗客救助に当たった。雪による遅延で酒田駅を68分遅れで19:08に発車、現場は120km/h制限の橋詰め250m前後の築堤上。先頭車は脱線転覆後鉄骨建築の小屋に衝突して車体が直角に折れて、これに転覆の2両目が重なって一部押しつぶし、やはり転覆の3両目がその先に出て、4両目が直角に上下線を塞ぎ5両目が全軸脱線、最後尾6両目後部が1〜2両目と面一で線路上に停止。死者は車体が折れ曲がった1両目に集中。瞬間風速は一度も25m/sを超えていないため徐行や抑止は掛かっていなかった。
  遭難乗客の談話としては、ドア封止を突き抜ける強風で転覆としている。速度については割れ「そんな出てなかった」というのと「強風下では出し過ぎと思っていた」とある。120km/h制限を100km/hで走行していたのならどちらの評価も当たっている。
  TV画面からは車種は485系の内装リニューアル車の模様だから、鉄製の40トン前後の重い車体で、ボルスター付き台車で、この点は尼崎事故後の一部の論議を事実を以て否定した。
  当日の天気図をみると大型低気圧が日本海を抜けて突風や竜巻の起こりやすい寒冷前線が通過中の事故と思われる。(事故直前18時天気図:気象庁WebPage)
当日18時天気図   周囲の庄内平野は風の道で風力発電設備が林立している。
  類似事故としては先ず1978/02の営団地下鉄東西線中川放水路鉄橋上の転覆事故がある。この時も周囲の風速は20m/sくらいで、抑止の水準に至らず、大型低気圧通過中であったことから竜巻の直撃が疑われているから発生状況としては酷似している。
  また、山陰線餘部鉄橋でのみやび転落事故1986/12は常時強い季節風が両側の地形で増強されたもので、橋に設置された風速計は永らく故障のまま放置されてみやびを転落させた強風は全く観測していないから比較検討対象にならない。
  毎日夕刊が3つの専門家識者談話記事を載せているが、例によって匿名氏が「突風説に疑問」として柱見出しだが、運転歴35年の斉藤雅男元国鉄運転車両部長は「現場付近を走行したことがあるが、冬の横殴りの風は印象深い。おそらく鉄橋上で瞬間的な大きな風を受けたのではないか。風速計では測れない突風にどう対処するかが問題だ。」として突風説を肯定。交通安全環境研究所松本陽交通システム研究領域長談話も「きめ細かく風速を測って制限を強化することが当面の対策になるだろう」として突風説に否定的ではない。後の2者の見解が妥当だろう。

  JR東日本は、外から見える責任事故の要因については慎重で、乗客の多い首都圏大都市近郊はほとんどATS-P化-Ps化を完了しているし、ほとんどが埋め立て海岸沿いの吹きさらし高架を走る京葉線などは強風抑止がさほど珍しくない。もっとも乗客自己責任の触車事故にはかなり冷たく、飲み会シーズンの夜には駅員の居ないホームでの人身事故での遅れが連日の様だが、これ以上止めるとオオカミ少年的非難を受けそうなほど良く停まる。その辺の相反する要求の調整には、単に風速だけで管理せず、地形から来る風の道を調べ上げておき、また平均風速を大幅に超える突風の吹きやすい気象条件があるから、それを元にダイナミックに制限を決めるべきだろう。去る22日(木)午前の強風で営団地下鉄東西線は転覆事故現場の中川放水路鉄橋から西船橋まで高架区間全線で60km/h制限で運転していた。こういう措置が強風地点毎に必要だ。

  強い低気圧に伴う寒冷前線はしばしば突風と雷を伴うから、この前線付近の幅10数km〜は減速運転するといった対策が採られれば、転覆に至らなかったり、被害を抑制することが可能だ。昼間で雲を見ていられるのなら寒冷前線の天候急変は素人でも突風直前に判る。夜間は雲が見えないから制限範囲を拡げる必要があるが、昼間なら天候激変の境は結構見える。漁師が天候急変前に陸に待避できるのと同じことだ。
  また、その判断は遠隔の指令が行うよりも直接現場を見られる現場の駅の方が実情に即した判断をし易いので、人員配置をした方が良いのは遠隔地の指令が抑止措置を採らないことで発生した餘部鉄橋惨事の教訓でもある。(気象レーダー画像の得られる地域なら局地予報会社と契約して指令判断としても良い。予測判断になるから手遅れにはならない。)

  現場付近には風力発電機が林立している。ここは風力発電実験草分けの地域だそうだ。この風力発電機試験設置は全国各地の地上20m以上の年間風速を調べ上げて竜飛崎など発電用の風が得られやすい地域を選んで某役所が多額の補助金を出して建設しているものである。すなわち、現場付近の吹きさらし地点は強風に見舞われ易いことは判っていたし、その全国データを持っている役所があるはずなのだ。そこに雷雨を伴う切迫した暴風警報(注意報より激甚)が出ていて強力な寒冷前線が南下して来たらその先端付近で突風に見舞われることが多い。見晴らしの良い=強風突風危険地点を持つ路線ではそうした突風発生条件で速度制限や地点抑止をすれば惨事を防ぐことができる。現地に暴風雪波浪警報は出ていたのだし、そこで天気図を見れば強力な寒冷前線が迫っており、「雷鳴も聞こえた」というのだから、せめて強風予想箇所の速度制限と、運転士が状況を読んでの停止判断の指示をしていれば、被害をかなり小さくできたと思う。この辺の判断は航空機運航では日常的に行われているし、雨と台風では鉄道自身が判断して自然災害巻き込まれ事故を防いでいるではないか。それを強風予測に拡げるだけの話である。

[補足]
(1).帰還制御か、予測制御か!
  制御論的に考えたときに、現場の風速測定値から速度制限・抑止を決めるのは「帰還制御」、天気図と予報から強風を予測して制限・抑止を決めるのは「予測制御」に相当する。
  帰還制御方式の弱点はアクションの遅れ分で問題を起こす場合がある(すなわち抑止前に転覆の危険がある)ことで、本質的には「制御アルゴリズムの放棄」というべき弱点を抱えている。一方、予測制御は条件に対応する詳細の応答が判っている必要があり、それに応じて事前に準備した動作をさせるため遅れはない。
  積算雨量や1時間雨量で土砂災害や洪水を予測したり、天気図の突風発生条件を読み取ったり観天望気で突風を予測して事前に対応を取るのは予測制御に相当する。
  この考え方の違いを意識しないと、風速測定だけに頼って、それでは把握できないダウンバーストとか竜巻だのの被害回避は出来なくなってしまう。各紙記事を読む限りこの予測制御の観点を突いたものはなかったが、帰還制御型管理では手遅れを防ぎきれない。自動制御の理論解析分野では数学的に面白い帰還制御のみが脚光を浴びてしまい、個々の物理現象の特性を細かく調べて、その特性に合う制御内容を与えることを否定的に見る風潮が根深く改めきれないでいるが、製品設計など応用の現場では対応表を内蔵するなどで応答の高速化が図られている。
  理論的言及としては、電気学会通信教育会著作編集の「自動制御理論」70年1月初版に軽視されがちだが重要な予測制御について序論総論部できちんと触れていて、正当な理解が出来るようになっている。しかし残念ながら各大学の講座テキストには帰還制御のみを述べた各教授・講師の著書が使われる様で、折角の良書は絶版状態になっている。(無論、帰還制御部の記述は双方基本的に変わらないが、電気学会本の多入力変量−多出力を扱う状態変数論の解説も非常に興味深かった。これも他書には見掛けない記述内容だ。)

(2).風速計は高速応答型を最高風速点に設置が筋!
 風速観測点は最も風の激しい地点が選ばれるべきで、鉄橋上とか、狭い風の道を鉄道が横切る場所とかを選ぶ必要があるが、橋詰めから35m陸側というのは土手と植物や構造物で風速が弱まっている可能性が強い場所だから、安全監視のための設置位置としては最適ではないだろう。
  またロビンソン風速計のように慣性能率が極めて大きく気流に即応できないうえ長時間の累積で風速を算出する計器では突風の瞬時値を計測できないから使用目的にそぐわない。高速応答型のせめて小型軽量プロペラか、慣性能率のない超音波式の瞬時値風速計が望ましい。

(3).誤× 「鉄製車体は丈夫で、アルミ、ステン車体は弱いから尼崎惨事を深刻にした」
  485系は首都圏で言えば往年の在来線特急電車とき、あずさ、房総特急などの運用に就いた183、185系に相当する交直両用全周波数対応の特急電車であり1両40トン前後の重量があるが、車体強度はその重量に見合うもので特別強いわけではない。返って衝突に備えた「クラッシャブルゾーン」を組み込んでいる新型軽量車体のほうが被害が少ないことも有り得る。尼崎事故でも多く語られたこの命題は感覚的な誤謬だろう。
  唯一、風の横転力が同じで軽量だと横転し易くなる。その水準としては軽量客車ナハ10シリーズでの風力横転実験などを基に制限・抑止基準を定めた経過がある。

(4).?はなはだ疑問!道床なし構造は吹き上げられて転覆しやすい?
  多くのマスコミが道床なし構造だと転覆しやすいと報道しているが、これは眉にツバを付けて聞き置いた方が良い。ベルヌーイの定理で高速流の減圧が起こるのは確かだが、道床がないと上下の圧力差が増えるようなモデルは考えられない。却って下側を吹き抜けて圧力差を減らすとされても反論できない。これは見た目の不安定感からくる伝説ではないだろうか。
  築堤上のように斜面で気流が絞られて増速する様な地形なら、その風速で転倒力を増すが、それは風速計で捉えることができる。

2005/12/26 23:00
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