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Geo日記
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[97].大丈夫か?現行減速・抑止基準 (#96)

【 風力階級表の上限風速が1ノット違う! 】

  気象庁風力階級表(ビューフォート風力階級表)を調べていて、理科年表気象部の表記とWeb掲載の表が微妙に違うことに気付いた。良く見るとノット表示の上限表記が理科年表は「<」に対し、他は直上ランク下限風速−1ノットで「≦」のための差であることが分かった。流石に理科年表!未定義域を作らない数学的に妥当な表記だが、提唱者のビューフォート提督は1ノット単位で決めたのだろうとは思う。実用的には分解能を1ノット(40001/360/60×1000=1851.9m/h=0.51m/s)と考えればどちらでも良いが、風速計の計測単位が0.1m/sとなって理科年表の表記方式を必要とするようになった。普及度からみるとしばらくは切り替わらず合理的な理科年表方式が少数派で併存だろう.

【 大丈夫か?現行減速・抑止基準 】

  風力階級表を眺めていて、減速基準風速25m/s、抑止基準30m/sでは強すぎないかという疑問だ。昨年12/29報道などでは100km/h走行時の転倒限界速度が35m/s(読売)〜28m/s(赤旗、千葉動労声明)となっていることもあるが、各風力階級の目測基準を読むと

気象庁風力階級表(理科年表表記抜粋:近年版では削除済)
風力風速状況
ノットm/s
下限≦<上限下限≦<上限
126432.9 まれな巨大な台風
11566428.832.9 めったに起こらない.広い破壊を伴う
10485624.728.8 陸地の内部では珍しい.樹木が根こそぎ倒される
9414821.124.7 人家に僅かの損害が起こる.煙突倒れ屋根瓦が飛ぶ
8344117.521.1 小枝が折れて飛ぶ.風上に歩けない

風力−風速図
  抑止基準:風速30m/sは風力11、徐行基準:25m/sは風力10、警戒基準:20m/sは風力8に相当するが、その風力階級の状況を読むと、風力10で「陸地の内部では珍しい.樹木が根こそぎ倒される」とあり、こんな酷い風の中で徐行でも走らせて良いものか疑問を感じる。一部地点に適用されているもう1ランク下げた特別基準のほうが妥当なのではないだろうか?すなわち抑止基準:風速25m/s、徐行基準:20m/s、警戒基準:15m/s?に改められるのか?瞬間最大風速は10分間平均風速の1.5倍〜2倍とされているから、現行抑止基準は高速走行中の転倒防止に緩すぎる。
  羽越線転覆事故を承けてJR西日本は早速強風規制基準を従前の30m抑止25m減速運転、20m警戒から、25m抑止20m減速運転に改めた。突風対策とは若干違う「強風対策」だが、妥当な方向だろう。近いうちに「強風待避禁止区間」とか細かな指定がされて、気象情報を元にした強風地点を選んでの速度制限が導入されるのではないだろうか。

気象庁風速計:HPより

気象庁風速計

  気象庁の風速観測はプロペラ型の風向風速計2種に統一されている様で、0.25秒間隔で計測値を得ている。応答速度は当然時定数Tの逆数で決まるが、風速測定の場合、時定数と風速がほぼ反比例関係にあり、風速×時定数が一定値を示すことからこれを「距離定数」として応答特性を示す指標としている
  写真上側の測候所用仕様なら方向安定板の駆動力が大きく、質量も風向回転軸近くに集中しており風向変化による速度検出遅れは少ないだろうし、プロペラのイナーシャも小さいので長いアームの先に質量の大きい円椀の付く風杯型より高速応答が期待できるだろう。
  翻って鉄道の風速計は応答の遅い風杯型が主流で、瞬間風速を掴みにくいから、強風自動抑止装置を構成しても突風の危険を掴むには能力が落ちる。もっとも強風検出型の自動抑止装置では、列車が制動時間を必要とすることから原理的に防御できない死角を生ずることは変わらない。前項[96],[92]−[94]で採り上げた「予測管理」方式導入が解決策である。
  応答速度を下げる回転エネルギーの大きさは、慣性能率I×角速度ω2 であり、慣性能率は

Σ(mi・ri2)

で定義され、質点が回転軸からの距離の2乗に比例するから、回転半径の大きい風杯型はイナーシャ(慣性能率:回転慣性)が非常に大きくなり応答が遅いのだ。

  See→[ 慣性能率:イナーシャ ]=加速トルクと角加速度の比例定数

  イナーシャは回転軸からの距離の2乗に比例するから、半径の大きい部分に大きな質量を持つ風杯型は慣性能率が特に大きくなって応答が遅くなる。鉛の弾み車の形状が縁厚なのは少量の鉛でも大きなイナーシャを得て大エネルギーを蓄えるためである

  また、風速計が「時定数が風速に反比例する」特性ということは、低速時より高速時の方が応答が早いから、風速に早い変化が繰り返されると高速側の値を拾う結果になって、突風への応答が遅い距離定数の大きな風速計の方が逆に高めの値を示す様だ。

   参考: (「気象観測の手引き」=気象庁の気象観測マニュアルP21(PDF-p25))
  理科年表2003年版には風力階級表が無いことに気付いた!従前の気象の部が1994年版で227頁あったのが182頁と50頁近く削除され風向表や風力表など体感観測に係る部分がこの間に削除されて、更に観測条件解説部までが2002年版から簡略化されてしまっている。気象庁としてはアメダスの整備で機械計測中心になったことの反映だろうが、JR東日本が行った観測機器を減らして改良は怠りながら現場の観測表と報告制度をも無くした「合理化」は安全を配慮しない手抜きだろう。何等かの形で気象庁の気象情報を運転判断に反映させることは欠かせない。なお気象庁風力階級表自体は廃止されてはいない。中学・高校生も参照するデータブックとしては復活掲載して良い内容だ。(01/12追記)

2006/01/10 23:30
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