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[163].観測値と制御値の選択
      安全装置&制御システム構築法からATSを考える

 ATS(自動列車停止装置)とは衝突防止と、過速度防止の安全装置であり、その制御は減速一方で片効きの自動制御装置である。

  1. 安全装置というのは、オペレータのエラーを前提にして致命的事態に陥らない様、様々な動作や操作を制限する装置。
    これは労働省の産業界への労災防止指導基準でもある。
  2. 自動制御系構築では、期待する結果を得るための適切な観測値と制御値の選択が鍵になる。

典型的誤解例
 

そういや、保安装置関連でこんなサイトみっけました。(注:当サイト)
………
 拠点の駅だけATS-Pを入れて、あたかも全線にATS-Pを入れたと言い張っているケースを「キセルP」って命名してるのは笑えるわな。PとSWを同時に動作させる理由がようやく分かったよw

………
 保安装置って完成形が見えてると思うんだわ。ただ、その完成形は鉄道事業者にとって必要なモノなのかどうかは疑問だけどね。

 事業者は保安装置に究極を求めて商売してるんじゃないんでね。
所詮そんなものは保安装置マニアの自己満足に過ぎないんだよ。

[原ブログ#282話:ctrl-f:保安装置]

 この基準を国鉄JRATS=ATS-Sx に当てはめると、どちらも満たさず、その安全機能にあれがないこれがない以前にその基本設計そのものに問題がある欠陥設計であることが分かる。この基準を基本的に満たす国鉄開発ATS-Pとの比較で見てみよう。

最高速度からの過走防止装置は?19:1

 ATS-STで最高速度130km/hからの過走防止装置を構成する場合、現状では運転士が信号現示に従って注意現示制限速度(Y現示速度)に減速するのを前提に、5対の速度照査地上子と絶対停止地上子1基で構成している。
 Y(注意)現示制限速度は機関車列車で45km/h、軌道改良区間の電車・気動車で55km/hに定められているが、何等かの原因で運転士が減速操作を行わないと最高速度まで放置だから土佐くろしお鉄道宿毛駅突入事故発生で第I項不適合を実証した。ATS-Sx過走防止装置は危険度の大きい高速側で無防備である。
 Y現示速度を超える高速度領域に対しては従前、分岐器過速度防止装置として3〜4対の速度照査地上子を設置、分岐側についてのみ動作させている。
 このリレー論理を組み換えて直線側の停止信号:過走防止装置と連動させれば簡単に最高速度からの過走防止装置が構成できる。
 従って、その方式でATS-Sxで最高速度からの過走防止装置を構成すると概ね19地上子が必要である。
 一方ATS-Pで過走防止装置を構成するにはどうか!?それは最低限1基の地上子に停止限界距離を設定するだけで済む。実際の設置は更に、車上パターン消去時を考慮して絶対停止地上子2基を過走位置に設置しているが念のためである。折返し線でATS-P単独設置だとホームに面した線路には折返し出発地上子の他は地上子がが全くない。それは総武線千葉駅#2番線、京葉線南船橋駅#2,#3番線などで見られる。
 最低限の設置で済ますならATS-PATS-Sxでコストが逆転する。その原因は管理値の選択にある。ATS-Pが本来の位置基準なので、一旦地上子から位置を確定させると停止・過走も誤出発も一本化されてしまい、別機能の装置を増やす必要がないのである。必要な機能を加える毎に設備費が必要だというのはシステムの管理値が適切ではないATS-Sx故のものである。カコミ記事のブログ論評は実質現象面を追って対策したATS-Sx前提のものでその点で誤解している。

モグラ叩きの ATS-Sx

 ATS-Sxの改良経過を辿ってみよう。現象面だけ追って対策したために完全にモグラ叩き化していて安全機能付加改良回数を増やし、それでも必要十分な安全装置になっていないことが分かる。

  1. 速度照査連続コード式ATS工事、米軍爆撃で受信機を被災し中断。戦後試験設置するも占領軍命令で中止。(山陽線網干駅急行追突)。この時点ではATSで管理すべき特性値が鉄道省=国鉄に理解されていた。
  2. 停止現示警報:車内警報装置A、B、C型。約600m手前と出発信号直下で警報。(参宮線惨事)
  3. 自動列車停止装置:車内警報装置に5秒タイマーを付し、確認扱いを求む。ATS-S、ATS-B、ATS-A型。1966/4/1全国完備。(三河島事故)
    (実際の停止扱いには不介入)
  4. ATS未投入警報装置追加。(草津折返しで衝突)
  5. 分岐器過速度警報装置開発(55km/h制限まで有効。分岐器で過速度転覆続発)
  6. 警報持続装置追加(お茶の水、日暮里追突)
  7. 場内信号に警報直下地上子設置。即時停止地上子と広報す。(新宿駅タンク車衝突炎上事故)
  8. JR東日本が東中野駅追突事故対策として公約したATS-P換装を他社はATS-B区間を除き投資額を理由に不採用。
  9. 直下地上子を警報130kHzから即時停止123kHzに変更。全JRに設置。ATS-Sn/-SN/-SF。(東中野追突+北殿正面衝突事故)
  10. 速度照査専用機能108.5kHz対追加:ATS-ST/-Sw/-SK/-SS/-SF
  11. ATSを運転装置と連動投入方式を導入。改造中に未対応車で大月スーパーあずさ事故発生。
  12. 完全上位コンパチの車上演算型ATSとしてJR東日本が低価格を狙ったATS-Psを開発設置。(使用制限が多くコードが複雑で他社には広まらず)
  13. 最高速度100km/hを超える路線の行き止まり駅に、最高速度から対応する過走防止装置を設置するか、-Sn区間ではATS-S警報地上子を最高速度対応位置に移設通達(土佐くろしお鉄道宿毛事故対応。H17.03.29国交省国鉄技第195号通達。最高速度100km/h以下と行き止まりではない追い抜き・合流駅を放置。)   [ATS-Sx地上子設置法]
  14. 技術基準改定としてATS-SN系やST系100km/h以下を含めて危険の予想される地点への過走防止装置設置を義務化、先の通達の全面改定

ATS-Pは20年間で1改良

 対比でATS-Pの変遷を見ると、20年間の電子部品の変遷とコストダウンのための変更、mini新幹線など新機構対応を除くと制御コードが基本的に変わっていないこと、特に安全性不足に関わる改良が全くないことが特徴である。最初から必要十分な管理値を選んでシステム設計しているということだ。
 僅かな違いは、プロトタイプである国鉄H-ATSを全JRの正式規格として採用し、東中野事故対応として設置する際に、JR西日本で車種別の速度制限として許容不足カント毎の加算速度を割り付けたことだけであり、これは尼崎事故対応としてJR東日本も導入を決定した。これは安全確保の問題ではなく、制限速度一杯一杯を許容してスピードアップを図る改良である。
 JR東日本では更に重要線区で装置の2重化を図って信頼性を高めている。  残る欠点として貨物列車独自の速度制限の割付けが落ちているし、無閉塞運転中の速度制限15km/hが設定されず、前列車に対する情報を受信してしまう弱点が現車上装置に残っているが、後者はソフトの微調整で済む問題であり、ATS-P方式として原理的に生じているのではない。貨物用の速度制限もコード割付に若干空きがありソフトと設定の部分変更だけだから不可能ではない。

  結局、国鉄ATS-S系は検討不足による最初のボタンの掛け違いで、本質的特性値を押さえてないから不都合な現象毎に安全性付加対応が必要になりモグラ叩き型のATS-Sx改良狂想曲となっているのだ。

危険度比較 36〜42:1:0 とその対策

 衝突防止装置としての危険度比較は、それぞれ最大冒進エネルギー、或いは最大冒進距離を比較すれば明確な数値比較が行える。
 最高冒進可能速度で見れば、ATS-Sxは宿毛事故で示したとおり120km/h〜130km/h、私鉄ATS通達では停止信号直近の照査速度が20km/hATS-Pでは冒進が起こらず0km/hで、冒進エネルギー、冒進距離に換算すれば速度の2乗比例であるから、衝突危険度の相対比率は
  ATS-Sx:私鉄ATS通達仕様:ATS-P = 36〜42:1:0
 という劇的な違いになる。停止信号すっぽ抜け条件もあり完璧ではないが完璧に大事故を防いでいる私鉄ATS通達で最も効いているのが冒進速度の制限だ。裏返せばこれがATS-Sxに不足し対応を迫られている致命的欠陥である。(ヲタの趣味どころではない重大欠点だw)
 この最も簡単な対策としては、車上装置に対し、ロング地上子位置でのY現示速度照査と、それから減速時間+5秒経過後のYY現示速度=25km/h照査を行い、確認扱いでクリアする簡単な改造で大きく改善される。警報5秒後から照査速度を25km/hに向けて下げる制御も含めて簡単なボード1枚増設で済み安価に実現可能だ。改造に経済的困難は全くないのだ。欠点として重複を生ずる場内信号でY現示照査位置が重複分手前になり過ぎることである。

補足:ATS-P地上子配置法

 ATS-Pによる停止信号停止で最低限必要な地上子は3種。

 尚、鉄道総研が全JRでの採用を目指してATS-Pの安価型を狙ったATS-Xを発表しているが、その特徴は
●パターン取消コマンドを軌道回路から得ることで、現示アップ即時対応とコストダウンを図り、
●Sロング共通地上子でケーブル更新費用を図ったもので、地上子は鉄道総研が開発した共振変周式とデジタル伝送併設地上子に換装するもの
だから、開発設計時に現ATS-Pとの単純比較では当然比較対象になってどちらの方式も採用の可能性は有ったのだろうが、一旦現方式がATS-Pとして選ばれて大幅にコストダウンし実績を重ねている状況で各社相互乗り入れを考えれば、採用はかなり微妙だ。却って独立路線の方が採用しやすいだろう。九州が旅客運行は独立だが貨物の運行はあり、直通列車の歴史も長くて観光列車復活の可能性も完全には否定できず、判断に迷うところだろう。軌道回路伝送付加はOKだが、全ロング地上子換装では魅力が残るだろうか?鉄道が過密で走る地域、すなわち台湾、韓国、中国などアジア圏の通勤輸送の安全装置なら適す。日本の私鉄は優れたATS仕様通達のおかげで、今換装するなら実質線増を求めてもっと高機能のD-ATCなどが検討対象になり、JR相互乗り入れの会社ならATS-Pコンパチだろうし、ATS-X採用の必要性が薄い。

2007/06/18 23:55
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