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問題は何か?非常停止は速照設置の成果では?

毎日新聞'08/05/17朝刊社会面(26)13版

神戸電鉄:「緊急停止」公表せず
 ATS作動で乗客転倒

 神戸市北区の神戸電鉄三田線神鉄(道場どうじょう)−横山間で15日朝、通勤通学客でほぼ満員の普通電車(4両)が制限速度を超えてカーブに入り「ATS(自動列車停止装置)」が作動、急停止していたことが16日分かった。電車は当時80キロで走行しており、多数の乗客が転倒する極めてまれなトラブルだったが、同社は「けが人がいなかった」などとして公表していなかった。

 同社によると、電車は新開地発三田行きで、ワンマン運転。15日午前7時51分ごろ、横山駅手前数百メートルの右カーブで75キロの制限速度を5キロ超過、ATSが作動した。ブレーキ操作の遅れが原因という。電車は当時、ほぼ定時で運行していた。

 乗客は約400人で、運転士は緊急停止後、運転指令所の指示で、「急停車しました。おわびいたします」などと放送したが、速度超過の理由は説明しなかった。約1分後に運転を再開したという。

 現場のカーブは半径200メートルで、ATSはJR脱線事故の2カ月後に設置。運転士は乗務経験約2年で、同社は口頭で安全指導した。

 国土交通省近畿運輸局鉄道部安全指導課によると、速度超過によるATS作動は、けが人などが出た重大事故の場合、報告義務がある。同社は「厳粛に受け止めている。今後も安全運転の教育を続けたい」としている。

 神戸電鉄は神戸市と兵庫県三田、小野両市を結ぶ。06年1月と2月には、有馬口駅構内で脱線事故が相次いだ。【竹内良和、米山淳】

[写真]:ATSが作動した神戸電鉄の急カーブ=神戸市北区長尾町で2008年5月16日午後5時13分、本社ヘリから幾島健太郎撮影

 右の記事は尼崎事故を機に設置した曲線過速度防止装置に当たって非常停止したことをかなり非難がましい文脈の4段見出しで報じているのだが、どうも釈然としない。事故の2ヶ月後に対策として設置した安全装置が有効に働いて非常停止したのだから、それは安全対策が有効・適切だったことの具体的証明だろう。それを抜きに叩く一方の報道はおかしい。

報道数値の検証:曲線制限は55km/h前後では?

 トラブルの実態を検討する上で、記事の「200R、75キロの制限速度を5キロ超過、ATSが作動した。」という数値はおかしい。尼崎事故の現場が「304R、98C、70キロ(〜75、本則60km/h)の制限速度を116km/hで進入(46キロ超過)、転覆脱線。」だから、そこより急カーブの200Rで75km/h制限の筈がない。横G=V2/R基準からの比例計算でも57〜61(本則49)=70〜75(60)×√(200R/300R) だから、本則なら45km/h制限で、許容不足カントから制限値を定義する高速設定だとしても目一杯105mmのカントを設定して、普通車で55km/h〜60km/hの制限になるはずだ。尼崎事故の報道データや事故調報告主部を洗っていたら必ず気付いた異常値だ。報道する側もかって自らの報道数値と比較して疑問点はきちんと突っ込むべきである。

風当たり緩和措置か

 どうやらこれは点速照型の過速度防止装置の中間段階速照が75km/hで、これに80km/hで当たったことを無解説で発表して、結果として速度超過の印象緩和を図ったものではないだろうか。3段階速照とすれば、制限55km/hに対してカーブ入口から手前方向に65km/h、75km/h、85km/h等と3組が設置されていたのではないだろうか。(5km/h単位の端数丸めをしてない社も多い)

 しかも発表通り5km/h超過での動作なら、安全装置のために設けられた余裕部に当たっての動作で、運転士の名人芸で安全に減速している範囲内なのに速度照査に当たった可能性も残されている。無論、違反領域に食い込んだ運転で、乗り心地限界は超えていた可能性もあるがその場合でも5km/h超過なら安全限界には入っていたのだろう。従前の無管理状態ではそのまま何事もなく高速通過していたケースではないか。

 非常停止で転倒するのが重大問題だと言うのなら、常用制動で減速するATS-Pの様な1段上の安全装置を要求になり、それは「被害をたんこぶ程度に留める」コンセプトで点速照を用いて構成する現行装置より高度の要求である。JR西日本が導入するというリスクマネージメントの考え方から言えば、閉塞信号の停止現示に最高速度で突入できる危険なATS-Sxに速度照査を義務付ける方が先決だろう。簡易にはロング地上子でY現示速度照査を行い、一定の時素後にYY現示速度照査を行う(例えば20〜25秒後)だけで衝突事故のエネルギーが1/25に減少するから、少なくとも衝突による死者は出なくて済む様になるから、そちらが優先事項だ。

情報公開要求か
 「鉄道の毎日」は何処へ?

 とどの詰まりは「情報公開」要求として「細かなトラブルも公開せよ」という主張なら分かるが、神戸電鉄の今回の対応は部内に対してはきちんと行われており、悪意での意図的な情報隠蔽とは取れないのだが………。他紙はとみると、手許の日経と東京の17日夕刊続報記事では非常停止の事実のみ報じていて、非難部分は無い。
 毎日記事の叩き方は有効な対策により発見された誤表示・誤設定を叩いた報道と同類で、従前足らなかった部分を補強して発見したエラーは旧方針の瑕疵であると同時に改善の成果だろう。正当に努力してその成果が非難されるばかりでは、暴風が静まるのを待って放置した方が得だということになり、公述の場でも頑迷に「懲罰的日勤教育有用論」を主張し続けたJR西日本丸尾副社長に象徴される精神論派を煽り、まっとうな実務派を叩くという「社会の木鐸」としてはおかしなものになってしまう。丸尾副社長のあの言い分なら「努力して改善して逆に非難が強まるのなら、やるふりだけして止めてしまえ!」となりかねないではないか。今回は見出しを付ける整理部が原稿の持つ弱点を大きく増幅したということだ。

朝日新聞 2008年05月21日   http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200805200086.html

制限速度55キロを75キロと誤発表 ATS急停車

 神戸市北区の神戸電鉄三田線で急行電車(4両)が制限速度を超えてカーブに進入し、自動列車停止装置(ATS)が作動して急停止したトラブルで、現場カーブの制限速度が時速55キロだったことが国土交通省の調査でわかった。電車は制限速度を約25キロ上回る約80キロでカーブに差しかかったが、同社はカーブの制限速度を75キロと発表、速度超過は5キロだったとしていた。同社は誤って発表した理由を明らかにしていない。

 神戸電鉄によると、15日午前7時50分ごろ、男性運転士が時速約80キロでカーブに進入してATSが作動、非常ブレーキがかかり緊急停車した。車内は約400人の客でほぼ満員の状態だったが、負傷者はいなかったという。

 近畿運輸局安全指導課などによると、現場は横山駅近くの半径200メートルの急な右カーブ。カーブ手前の直線の制限速度は時速80キロで、ATSはカーブ入り口の86メートル手前に設置されていた。運転士はカーブに入るまでに55キロまで減速しなければならなかった。

 同課に対し、神戸電鉄側は「(報道機関に)誤解を与える説明をしてしまったようだ」と話し、同課は「誤解を与えないように説明するべきだ」と注意したという。

 神戸電鉄は20日、朝日新聞の取材に対し「お騒がせしたことをおわびいたします。安全教育を徹底することにより、お客様に安心してご乗車頂けるよう努めて参ります」とのみ答え、制限速度の誤発表については説明しなかった。

 内容を正確に分析して見解を付さないと、羽越線特急転覆事故での「風の息社説」対応のように、自然を相手の安全確保に欠かせない観天望気そのものを否定して撤退するような愚を犯してしまう。あの社説の誤りは、高速走行中で判断困難な乗務員に風の息を読んで回避するのがプロだと論難したことであり、従前通り地上職や乗務員が風の息を読んで列車を止めることをJR東日本が制度として禁止してしまったことの危うさを言ったのなら全く問題のない指摘だった。安易に叩けば売れる!で良く吟味せず吹いてしまったのだろう。
 風の息は正式な気象用語として使われている。出漁可否判断の観天望気は漁師自身の命をかけた帰納法であり科学の方法論そのものだ。観天望気、風の息全面非科学論はネット世論多数派の無知な思い込みである。かっての定評ある「鉄道の毎日」は近年何処へ行ってしまったのだ?(大月スーパーあずさ事故97/10で欠陥ATS-Snを「最新式ATS」と報じたのはたしか毎日だったはず。あの辺りから衰退が始まっている様に思える。日比谷線事故00/03では主要原因が左右輪重狂いなのを前後軸重狂いと勘違いしてスクープを誤報にするし、東中野事故88/12報道では事故発生経過を具体的に推定させる諸データを記した良い記事を書いてたのに、重なる見当外れはどうしたことか?東海道線富士駅割り出し事故01/04/18を1社報じたのが最後の輝きでないと良いが……)

やはり55km/h制限!速照値75km/hか?

 右下枠5/21付けasahi.comに拠ると、200R曲線部の制限速度は先の試算通り55km/hであることが判明。先の「誤報」の文脈からして、制限速度80km/hで走行中の当該電車が過速度防止装置の速照値75km/hに当たって非常停止したというのを拡大解釈で「曲線の制限速度自体が75km/h」と勘違いして報じたものだろう。鉄道側は曲線制限55km/hについては触れなかったから「誤解」が一人歩きしたということか。「制限速度の誤発表については説明しなかった」って、速照値を曲線制限速度と勘違いしたのはマスコミ側だから「誤発表じゃなく、誤解だ」なんて言わずもがなの指摘をしなかったのだと思うが。その記事中でも「誤解を与える説明をしてしまったようだ」(末尾〜2節)としていて神戸電鉄としては「誤発表」とは思っていない。曲線制限値に触れなかったのは親切さを欠いた説明ではあり、過速度防止装置の設置図を示して説明していたらマスコミの誤解は避けられた。記者が過速度防止装置の構造・動作を知らずに抽象化した言葉だけで記事を書いている。
 予め大枠を決めた予定稿を準備しては真実に逃げられる某珊瑚KY新聞も風の息新聞やK機長説新聞同様褒められたものではないが、「75km/h制限」の誤りに第1報で気付いた社が見られなかったのは残念。
(08/05/21 13:00追記)

2008/05/20 22:00
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