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Geo日記
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[142]. 尼崎事故最終調査報告書案公表

 尼崎転覆事故鉄道事故調査委員会が12/20付けで事実調査報告書案を報道解禁して各紙一斉報道となったが、その報じる流れとしては安全軽視のJR西日本の企業体質が運転士を追い込んで過速、過走、パニック同然にエラーを繰り返し、その無線報告に気を取られてブレーキ操作を失念、転覆脱線に到る経過をリアルに推認させるものとなっている。報告書原文をまだ読んでいないが、報道内容ではその点で優れた事実調査報告になっている。

 人を人とも思わない侮蔑懲罰的日勤教育に象徴される強権支配が安全を吹き飛ばしている。「同社は03年10月、事故予兆を集めようとした動きに『不問に付すのは時期尚早』『中身によっては指導必要』として片付けていた」(毎日1面、赤旗15面)として指導・教育と侮蔑的懲罰の違いも分からない会社であることをさらけ出している。だから事故後も対外的には「反省」を口にしながら継続して行われている可能性を示している。尼崎電車区日勤教育自殺事件に触れるだけで処分すると脅迫する対応にもそれは現れている。裁判は自殺との因果関係を採ってもらえず敗訴が続いているが、不当な日勤教育への慰謝料請求なら通る可能性は充分残っている。

 事実関係で気になった点があり、直接危険に繋がる悪影響はないが、誤導ないしは説明不足があると思う。

信号ATSと過速度ATSの混同

第1:は「ATS-P化で過速度転覆が防げた」という誤解をそのままにしてATS-P化の遅れを指摘していること。各紙がこれに引きずられ毎日などは社説に「カーブで速度超過を防ぐ新型ATSを事故前の05年2月から順次………」とそのまま引いてしまった。ATSには衝突防止の「信号ATS」と、速度超過防止の「過速度ATS」=「速度照査」があり、過速度ATSは旧型ATS-SWにもあり、これをJR西日本が事故現場に対し物理的に誤った基準で適用除外にしていたことでATS-P化後でも防げなかった事故である。JR東海ではこの過速度速照ATSの設置基準を「減速速度差40km/h」としていたから、この基準なら120km/h→70km/hの尼崎事故現場には設置されているが、JR西日本の規準は「最高速度130km/h以上の路線の半径600R以下のカーブ」という物理的に誤った基準を設けて本線系17箇所以外の設置を除外していたことで今回の事故になった。物理特性だけから設置を規定した東海方式が妥当である。この曲線速照は事故後全事業者に義務付けられてマスコミ報道が間違ったままでも差し支えなくなったが、報道内容の継続性・正確性でかなり恥ずかしい事態ではある。まるで評論者が正確な理解をしているかどうかの篩い分け試験の様な記述である。

宝塚過速度進入非常停止の真相は?

宝塚駅手前の速度照査装置風不詳地上子対
(写真は尼崎事故調中間報告書付図10下側中央掲載を引用)
真相:事故後設置の分岐速照&6両編成用誤出発防止地上子動作!(06/12/25)
不明地上子対

第2:に、直前の宝塚駅回送折返し時の2度の非常停止について、中間報告では「ロング地上子警報後の放置と、過走」になっていたが、今度の最終報告案の朝日記事では40km/h制限のポイントに65km/hで突入したことを指摘、資料写真の速照が働いた可能性を示し、また「誤出発防止装置」の動作に触れている。これは日記#88の見落とし指摘とおりであるが、毎日の記事では「………ATSから確認要求情報を受信しブレーキを作動させたが確認扱いが完了せず、、非常ブレーキが作動し、宝塚駅ホームの手前端付近に停止した」「再発進後に再び非常ブレーキが作動し、所定停止位置付近に停止した。」(20面報告書要旨)となっていて、ロング警報前提を示唆、速照作動とは捉えていないが、2度目の非常停止は「過走」が事実上撤回されていて「(1両分手前の)6両編成用の誤出発地上子に当たった」推定とおりである。これは最初の停止位置でタイマーがスタートして誤出発防止装置が有効になって2度目の非常停止になったことを伺わせている。 (報告書案記事:閉塞区間踏み込み後の時素設定44秒で即時停止起動に対し96秒掛かって誤出発防止地上子に到達していた:推測通り)。マスコミ・国民といった素人相手の発表文書なのだから、事故調も訂正は明確にして欲しいものだ。
 (なお、7両編成用の誤出発防止地上子が存在しない理由は、おそらく7両が最長編成だから出発信号直下地上子が即時停止コマンドを発して設置対象外だからである。7両編成停止目標よりもっと先に停止目標があれば7両編成用の誤出発防止地上子が設置される)

 このことで宝塚駅進入での高見運転士のエラーはS警報無視と過走を含む3ではなく過速度進入と確認扱い遅れの1〜2点になり、読売憶測記事などの言う日航K機長型の「故意」ではないこいとが分かる。2度目の非常停止は一旦停止後の誤出発防止装置タイマー起動タイミング上ほとんど避けられないのだ。

転覆危険速度の職場認識

第3:に、 当該電車区運転士へのアンケートで、転覆危険速度の認識について過半数が120km/h以上と認識し、140km/h説さえあったことを報じている。これは事故直後にも東京新聞が報じていたが、事故調の改めての計算では、静的バランスでの限界速度が133km/hでこれは必ず転倒する速度、走行振動を考慮しての転覆限界速度が106km/hとなっており、事故直後のJR西日本による「133km/h以上で転倒」という言い分と、ベストセラーライター川島氏ら一部マスコミの「133km/hまでは転倒しない」「だから過速度の他に原因がある」という宣伝が全く根拠がなかったことを示した。
 遠心力計算と簡単な静止ベクトルの計算だから、運転士教育時の必修計算レポート課題にでもしていれば、そんなことにはなっていない。諸函数付きの表計算ソフトは常識化しているから様々な条件で速度限界一覧表を計算できる。が、実際に計算可能かどうかに一抹の不安はある。高校物理が近年そうした計算を避けて暗記物化されている状況で、若手の当事者にとってJR西の日勤教育以上の負担になりかねないという危惧である。そこはどうしたものか?まともに学べば大したことではないのだが、論理深度が深く計算過程が長いから途中で迷子になりやすく、そこでJR西日本などの様に侮蔑と罵声の下で「教育」が実施されるとまたも人死にが出かねない。

直通予備ブレーキの使用

 どういうブレーキ操作が最も効くかという設問で、回答がバラついていることと、緩解が早く使い勝手が良い上、使用にペナルティーのない直通予備ブレーキをかなりの運転士が利用していることが判明。これは車種によって常用最大と非常制動が同じ規格だったり、直通予備を同時使用するとブレーキ力を増したり様々な特性があり、しかもそれが正式規格になっていないから、曖昧な情報の当然の結果で各人が入手の情報で福知山事故項で記したとおり使い勝手もよく良く効く操作として選ばれていて、常用禁止の規定違反ではあるが読売憶測記事などの言う「日航K機長」型操作ではなかった。

安全担当が知らなかった?ATS-Pの過速度防止速照機能!

 まさか!ご冗談を!と言いたいのがATS-P換装を推進する安全推進部長が「ATS-Pに過速度防止機能があるのを知らなかった」と発言したとの記述。もし本当なら安全推進担当を外れてもらうべき不祥事といってよい。 (注:「分岐過速度防止は知っていたが曲線過速度防止機能は知らなかった」が原文趣旨。それでも???それなら同じ速照対を全部に使い回す-SW/-Sxはどうなんだ?!)
 JR西日本の本線系では「拠点ATS-P」として、双方向通信地上子を1個に集約した統合型ATS-Pを採用して現示アップ機能を残し、詰まりやすい駅周辺で列車間隔を詰め、線路容量を増やし、閉塞信号を放置のATS-SWを意識的に残して安全投資を抑えているのはそのATS-Pの特性を熟知しているからこそ可能なこと。JR西日本は速度制限コマンドを許容不足カント規格毎に加算する独自の拡張までしている。そのATS-Pの基本機能を知らなかったなんてご謙遜に過ぎます。いくら何でもUSOでしょうが!(許容不足カント量 110mm=+35km/h振り子、70mm=+35km/h特急高速車両、60mm=+15km/h普通、50mm=+15km/h非該当。当事故後はJR東日本も拡張部を採用しJR全社共通化)

 事故直後には「ATS-Pなら防げた」という誤報に乗って「直後の6月からATS-P稼働の予定だった」と不運を装って風当たりを回避しながら、世論が「だったら全部ATS-Pにしろ!」と激しく燃え上がったらあわてて「従前のATS-SWでも過速度防止は可能で、現に17箇所で既に実施している」と修正して全面ATS-P化回避を策す不誠実振りには皆あきれ「133km/h以上で脱線する」(=過速度の他にも原因がある)というごまかしや置き石脱線強調、侮蔑懲罰的日勤教育擁護と併せ「JR西日本は嘘つきで信用できない」という雰囲気を極限まで拡げ、運転士自殺事件や信楽高原鉄道惨事への不当非情な対応もあっていまだに強烈に残っている。

 職場により大きく違うが「自分の職掌以外は知りたくもない、知る必要はない」という傾向を乗り越えての相互協力の重要性を新幹線幹部OB齋藤雅男氏が繰り返し例を挙げて述べている。真似する先のない新幹線ではそうして衆知を結集する以外に運行技術を確立する方法がなかった訳だ。これは在来線にも持ち込んで、畑違いのお互いの業務の様子は知っているように改めたらどうだろう。「レールが危ない」に絡む損傷対応が進んでいることを労使双方が知らずに処分事件になっているらしいとか、JR職場の風通しが悪すぎるように思う。

取りあえず報告書原文= http://araic.assistmicro.co.jp/araic/commission/hearing.html を入手し読んでみよう。
尼崎事故最終報告書
参照ページ=福知山線尼崎転覆事故

2006/12/21 23:55
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