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不公平な従属的技系幹部だけの起訴
懲罰的日勤教育こそ重要な事故誘因

 一昨7月8日午後、尼崎事故関連で事故当時は子会社に出向していた山崎現社長のみが8年前の鉄道本部長時代の手落ちを理由に起訴され、他は不起訴処分となったことが9日朝刊各紙で報じられた。従前の現場従業員を生け贄に幕引きだけ図るお座なりな起訴ではなく、事故防止システムに基本的責任を持つべき経営幹部の刑事責任を大きな鉄道事故としては初めて問うた画期的な対応であることは確かで、せいぜい罰金か微罪執行猶予に留まる刑事処分自体には異論はないのだが、同時に、事故誘因としては理不尽な「懲罰的日勤教育」の寄与が極めて大きいのに、それを免罪・合法宣言して、「天皇」とまで呼ばれて独裁的権限を振るった社長・会長・相談役(井手正敬、垣内剛、南谷昌二郎)ら真の責任者を不当に免罪してしまい、当時の「鉄道業界の(誤った)常識」を越えて、一部でようやく設置が始まった曲線過速度転覆防止措置の未実施・不備だけを捉えて立件、「天皇」に従属する技術幹部にのみ罪を押しつけた強い不公平感は否めない。

 更に信楽事故処理での自社の重大なミスを隠して滋賀県と甲賀市への責任転嫁など旧態依然の勢力が巻き返して新安全方針の浸透が難しい中で、主犯の観念論悪弊側を擁護して、曲がりなりにもまともな安全政策遂行の旗振りとなった304R付け替え当時の鉄道本部長山崎現社長を処罰するのでは逆方向のメッセージを発して、旧弊派が今以上に盛り返してJR西日本の安全政策が短期的には後退しかねない危惧がある。

 70km/h制限、105km/h転覆限界のカーブ手前に、最高速度120km/hの列車を走らせれば、何等かの事情で制動操作が10数秒遅れれば転覆に至ることは理の当然で、純理論的には明白な転覆事故の予見可能性があったことは(経験主義的な現場世論ならともかく)東大工学部出身のきちんとした解析力のある技術系幹部として否定すること自体おかしい。技術的には事故の予見可能性があり、せいぜい罰金程度の責任追及自体には異議はない。
 それはそうなのだが、主犯が免罪・合法宣言されて、社内の技術軽視に驚き、それを抑える側のみを処罰することで、旧国鉄以来の野蛮な精神主義を煽るメッセージを発するのは到底納得されない。起訴された山崎社長自身もそんな馬鹿な話はないと立腹し、裁判を争うことになるだろう。
この件はきっと検察審査会に上がって起訴相当とされて再捜査を求められる。

起訴状の論旨

 新聞各紙の報道によると、起訴状の論旨としては、

という4点総てを知って、事故を予見できたのは山崎鉄道本部長だけだったのに、経費増大を危惧するなどして(速度制限)ATSを優先的に設置するよう指示せず、8年後に事故がおきたとしており、これに対して社長は「事故は予見できなかった。運転士が制限速度を超過してカーブに入るとは思わなかった」「函館本線転覆事故は貨物列車で乗客の負傷はなく重大視していなかった」「ATSは線区単位で設置するものであり一点設置は有り得ない」(毎日1面ほか)などと抗弁しているが、はたしてそうなのか?

起訴状報道の間違い!「ATS-P化」

[時系列比較]
時期事項
66/04/01ATS-S/-B/-A国鉄全国展開完了
76/10/02函館本線300R過速度転覆事故
84/10/19西明石寝台特急富士過速度大破
86/12 H-ATS(ATS-P)使用開始
87/04/01分割民営化JR7社発足
87/夏 JR東、ATS-P換装方針決定
88/12/01京葉線開業、初の全面ATS-P
88/12/05中央緩行線東中野駅追突事故
88/12/13函館本線姫川事故300R過速度転覆
89/04/13飯田線北殿駅正面衝突事故
89/開発 JR東+東海でJR全ATS-S即時停止化

[ATS-SN即時停止地上子] 123kHz(/103kHz)
89/11/ ATS-SN東日本から順次使用開始
/FIG/310st/sc-0.jpg
[ATS-ST速度照査地上子対]=
[過速度防止装置] 108.5kHz*2(/103kHz)
90/12/ ATS-ST東海で使用開始
91/02/ ATS-Sw西日本で使用開始
91/03/ 宝塚線最高速度100km/h→120km/h
91/04/ ATS-SF車上装置ST準拠貨物で採用00年頃に装備完了
91/05/14信楽高原鉄道事故、JR西がCTC領域外制御を行い現場にパニック生ず
93/03/ ATS-SS四国で使用開始
93/05/ ATS-Sw西日本全線で供用
94/04/ ATS-SK九州で使用開始
95/ JR西日本新設Pを原則拠点P方式とす
96/12/04函館本線300R過速度転覆事故
96/12/20尼崎事故現場線R変更600R→304R(速照不設置:起訴状)
97/02/07JR北海道、速度制限ATS設置報道発表
97/03/ 東西線開通福知山線と直通
97/ JR東海、40km/h以上減速全8個所に速度制限ATS設置
97/08/12東海道線片浜駅付近追突脱線転覆事故。無閉塞運転中の誤認と違反
97/10/13スーパーあずさ大月衝突転覆事故。ATS連動投入化中
00/03/08日比谷線中目黒駅脱線大破事故
01/04/18東海道線富士駅冒進誤出発支障事故
01/09/06難癖の 侮蔑的懲罰的日勤教育により尼崎電車区運転士H氏自殺
01/ ATS-Ps新潟で稼働開始、JR東日本
02/02/22鹿児島線宗像海老津追突事故、無閉塞運転時の誤認と違反。指令許可を条件に
02/03 最高速度130km/h以上路線の600R以下に速度制限ATS設置、 -Sw125km/h以下危険個所を無視
02/ JR東日本主要線にATS-P設置完了
05/03/02土佐くろしお鉄道宿毛駅突入事故、速度照査で過走防止装置構成不全
05/04/25尼崎事故発生、速度制限ATS不設置で転覆

[ATS-P速度制限地上子]コマンド,
速度制限値,開始位置,長さ等を送信

[ATS-S過速度警報装置]130kHz警報地上子
手前に向かって設置。パイプが検知コイル。
 各紙の記事本文で「新型ATS」としているのは文脈からみてATS-Pを指していて、ATS-P化が遅れたことで事故を防げなかったという論旨になるが、これは2重に間違えていて、それだけで無罪判断になりかねない不正確な表現だ。これは事故調最終報告書にもそう取れる記述があり、詳細解説と矛盾しているから、万一刑事裁判化した場合の救済トラップかと訝ってしまったが、下記「起訴状要旨」を読む限り「新型ATS設置」云々はマスコミ各紙側の勘違い誤報だ。起訴状は、あくまで過速度防止装置の未設置の責任を突いていて起訴状の論旨として正しいが、その具体的内容でATS-P路線の基準である450R以下に速度制限ATS設置延期とも取れる指摘をしているから、この混同が各紙誤解の原因だろう。各紙解説による誤報である。本文執筆で記者の誤解が表面化したのだろう。囲み記事の起訴状要旨は間違っていない。また「ATSの不設置」という表現は、「信号ATS」も存在しないかの意になり不適切だ。「速度制限ATS」の不設置などの表現にして貰いたい。
   参照→「起訴状要旨」(共同通信配信)

 先ずATSの新旧で云えば、これが曖昧で不適切だ。そして旧型Swか新型Pかではなく、そのどちらだったにせよ過速度防止装置の設置の有無が論点だ。起訴状要旨はきちんとそうなっている。また「急カーブ」は適切ではなく、国鉄山間地や大都市部での標準的半径であり、先出函館本線の3件の転覆事故も、鹿児島線の583系特急脱線事故もこの300R上の事故だし、山手線内はほとんど300Rの連続であってことさらの急カーブではない。中央線で云えば神田-お茶の水間のほとんど、飯田橋駅付近、四谷トンネル前後、千駄ヶ谷駅先の代々木駅に掛かる転進部などほとんどが300Rであり、大半径カーブになるのは新宿駅以降であるし、総武線も両国駅先までは300Rが基準である。広島東方新広島空港手前の瀬野-八本松間の片峠の難所も300Rの連続だ。
   See→Google Earthで曲線半径を [日記#167]

 ATS-P供用開始は'86年12月のH-ATSで、'84年10月の寝台特急富士分岐器過速度突入大破事故を承けて開発されて東海道線西明石、大阪、京都、草津の4駅に設置され通称「ATS-P'」から正式に「ATS-P」と名付けられて、88年夏にJR東日本として主要路線ATS-P換装方針が決まり88/12/01に新木場まで開通の京葉線(の東京駅開通'90年?)に全面採用されたが、その直後の88/12/05に中央緩行線東中野追突事故が発生、その対応策としてATS-B設置区間全線(関東関西の旧国電区間)を含む錯綜線を早急にATS-P化することになったが、行政指導を受けた国電ATS-B区間とJR東日本以外はATS-Pが高価すぎ設置できないとして拒否・躊躇するうちに89/04飯田線北殿駅で正面衝突事故が発生した。

 この緊急対策として、従前の停止信号警報動作のみの変周式ATS-S(動作時共振周波数130kHz)の改良を図ることとなり、JR東日本とJR東海が担当して即時停止ATS-SN(動作時共振周波数123kHz)を開発、全JRが89年末11月頃から順次この即時停止機能をATS-S車上装置に追加し、場内信号機と出発信号機直下に設置する直下地上子をこの即時停止地上子に換装した。(表写真上。ATS-Sでは一般の閉塞信号機には直下地上子は設置しない。信号機の約600mほど手前に停止信号を警報するだけの通称「ロング地上子」のみを設置する)。ここまではJR全7社共通である。

 JR東海は更に、速度制限用に車上時素式速度照査機能を開発し90/12から使用開始、共振周波数108.5kHzの地上子2基の通過時間が車上設定時素(標準0.5秒、機関車列車0.55秒、九州の振り子式特急0.45秒)以下の場合に非常制動を掛ける機能などを追加してATS-STとした。JR西日本はこのATS-ST車上装置(受信機)をMPU(マイクロプロセッサーIC)を使って再設計してATS-Swとして91/02から使用開始、これをJR四国がATS-SSとして採用して93/03から使用開始、JR九州がATS-SKとして採用し94/04使用開始して現在に至っている。(表写真中30km/h速度照査看板付)
 JR東海以西の各社の採用したATS-Sxは総て完全互換で108.5kHz地上子2基を使った速度照査専用の機能が有り、どこでも地上子2基を設置するだけで速度照査を行える状態になっている。滑らかな運転を保証するために3対設置して3段階の速度制限にして過速度防御しても外注製作で180万円前後であることは、尼崎事故05/04/25直前の土佐くろしお鉄道宿毛駅突入事故05/03/02時にも報じられている。

 従って、新旧だけで云えば、86/12供用のATS-Pよりも89/11以降供用のATS-SN、ATS-Sw、ATS-Sxの方が後発で新しく、97/10のスーパーあずさ大月事故でATS-SNが衝突を防げなかったことに対しM新聞Y新聞の見出しは「『最新式ATS』『最新鋭ATS』で事故」となっていた。このように新型旧型新鋭ATSという呼び方は混乱と誤解を生むだけなので使わない方が良い。
 最も基本的な間違いは、曲線過速度転覆である尼崎事故を防ぐためには、ATS-P換装は全く関係なく、ATS-P、ATS-Swのいずれであっても、現場に速度照査コマンドを発する地上子を設置するかどうかに掛かっているから、ATS-Pを導入しても、その速度照査地上子を設置しなければ過速度事故は防げなかったし、逆に、ATS-Swのままでも108.5kHz速度照査地上子を最低1対〜3対現場に設置することで 転覆事故は防げたのである。
 加えてATS-Pに換装した路線でも貨物などATS-Sx装備の列車のために従前のSxはそのまま残すから、ATS-P換装を待たずにSxの速度制限ATSを設置しても全く無駄にはならないのだ。Sを完全撤去したのは貨物線から旅客転換した京葉線と、Pしか搭載していない車両ばかりが走る総武中央緩行線くらいのものだろう。(緩行線にも所々S地上子が残っているし、貨物輸送復活西船橋以東区間にはATS-SFを改めて設置したが)。

 「ATS-P地上装置設置で過速度が防げた」というのは、ATS-P設置計画の現場がたまたま、曲線過速度防止装置設置基準として450R以下を定めていたので、その基準通りに設置されていたら304Rの事故現場には過速度ATSが設置されて事故にはならないで済んだということで、事故直後に繰り返された記者会見時には出席幹部たちは全く知らなかったことなのだ。

 なお、ATS-SNを採用して専用速度照査機能を追加しなかったJR北海道とJR東日本では、列車検出コイル地上子で車上装置の発信信号を受けると、地上装置でタイマーが起動して速度照査用地上子を即時停止123kHz、警報130kHz、不動作(103kHz等)と切り替える過速度防止装置を用意している。3度目の転覆事故後の97年に函館線大沼前後の急勾配に設置された速度制限装置はこれ。90年代に行ったATS-SN化により実現できたが、88/12の2度目の転覆事故(姫川事故)で設置を決めて欲しかったが重視されず放置だった。JRでは確かに貨物事故は軽視されている。警報のみの130kHz地上子も同様の地上タイマー装置で過速度警報装置を構成し一部に設置していた。(表写真下)

真のエラーは、130km/h以上の600R未満に設置」、
   「ATS-Pでは450R以下」
という2つの失当な限定!

 逆に言えば、ATS-Swの過速度防止速照の設置基準を「最高速度130km/h以上の路線の600R未満のカーブ」として、合理的根拠なく危険な事故現場への設置を除外したミスと、「ATS-P路線について450R以下に速度制限ATS(過速度防止速照)を設置する」という基準でATS-Swの危険箇所を除外したことが尼崎事故を防げなかった原因だ。尼崎事故現場は危険度ではトップクラスなのに、ATS-Sw路線だから最高速度130km/h未満で除外、ATS-P区間ではないため450R以下なのに除外されて、無防備で放置されて大惨事に至った。「転覆脱線限界」の防御基準にATSがPかSwかは全く関係ない卓越した上位規準なのにそういう扱いにならず、その制定手続きをSw、Pどちら側からも行って居ないのだ!
 この点ではJR東海が「40km/h以上減速する個所」として8個所全部に過速度防止装置を設置しており、JR西日本設置基準での2つの危険個所除外エラーが際だっている。このミスが無ければ現場の福知山線も防御されていた。'91/02のATS-Sw導入の直後、福知山線は現場付近の最高速度を100km/hから120km/hに引き上げている。このときに300Rでの電車の転覆限界とされる105km/h〜108kmを超えて、具体的な過速度転覆事故の可能性が生まれたのに、過速度防止装置設置基準を点検・整備しなかった。それが遅ればせながら02年3月に制定したが、過速度転覆防止に根拠のない余計な条件を付けて事故現場への設置を排除してしまった。JR東海が同時期に制定の「40km/h以上減速箇所」だったら120km/hから70km/hへと50km/hも減速する現場には当然設置されていた。JR東日本もボチボチ曲線過速度防止速照の設置を進めていたから、函館本線での3度目の転覆事故の教訓として業界全体が曲線速照の必要性に気付いて、折から改良設置したATS-SN/Sxの速度照査機能で簡単に対処できるようになった時期である。会社としてのエラーは確かだが、誰の責任なのだろう。「130km/h以上の路線」と限定を付けた人物か、「ATS-P路線」という限定を付けた鉄道本部長(山崎前社長)なのか?諸規定整理統合一元化をさぼってきた歴代幹部なのか?

 なお、現場適用の個々の設計では予め定められた基準を満たせば足り、根本原理にまで遡らないことが多いから、そのことで刑事責任は問いがたく、技術的に見たら尼崎事故発生に関する重要エラーはこちらだろう。現場データと計算式の入ったソフトを与えられて諸元を算出するだけの現場施工設計は解析などしない単純作業で表計算ソフトなどに布数して結果を得るだけ(※例)なので責任はなく、諸条件を考慮して算出手順と式を作る開発部門が責任を問われるのだろうが、個人特定はなかなか難しい。

起訴状報道訂正が必要

 まず記事の「新型ATS」がATS-Pを意味するものらしいから、それは極めて不正確で、事故区間で動作しているATS-Swであっても、速度照査地上子対108.5kHz×2基設置により過速度を検知して非常制動を掛け転覆脱線を防止できるから、事情を良く判った人たちの「線区単位導入だから1点設置不可能だ」というの逃げを許容するものになっている。これは無罪で終わらせる出来レースではないかと疑いたくなるほどの不用意な主張である。だが起訴状要旨の内容からすると検察側に論破されて撤回しているか、マスコミ側が作りあげた反論である可能性がある。

当たらない社長抗弁

 また「貨物の居眠り事故だから」という社長の抗弁も通らない。旅客だってあちこちで繰り返し居眠り事故を起こしているし、300R過速度脱線事故としては1974/04/21鹿児島線西鹿児島−上伊集院間で2034M特急583系12両編成(寝台特急電車)が300R65km/h制限を大きく超える速度(当時の推定95km/h超)で走行、1,2両目の先頭1軸が脱線し78人負傷という事故を起こしている。
 さらに96/12/04函館本線転覆事故では翌年2月7日、現地に速度制限装置を設置するというJR北海道(保坂副社長)の発表が報道されており、会議や資料など繰り返しの内部情報伝達と併せ他の役員が知らないとは考えられないではないか。
 第一、函館本線大沼前後の急勾配中での300R過速度脱線転覆事故は、88/12/13の姫川事故、76/10/02の第1姫川事故と3度目で、いずれの事故でもほとんど全車両が転覆脱線していて姫川事故についてはJR貨物が社員教育用VTRまで作成して周知徹底を図っているが、これらを国鉄JR関係者が全く知らないとは考えられないだろう。しらばくれられて「知ってる」ことを立証できなかったから、起訴を免れた様なものだ。

 この様に、JR各社が曲線での過速度転覆を予見して安全策を講じ始めていたことを示すし、同時に、JR西日本が設置基準を転覆危険度から制定するのではなく、路線の最高速度とか、ATS方式とかの直接関係ない条件を適用するミスを冒していたことで、JR西日本で最も危険度の高い(新聞によっては2番目に危険度の高い)カーブを8年間も無防備に置いて尼崎事故に至ったことを示すものだ。
 だから、純粋に技術的な側面からは、JR西日本幹部は責任追及されて当然だ。乗務員など現場関係者の起訴では禁固や懲役などの極めて重い刑罰だから、公共交通機関の事故の免罰規定とか司法取引の導入が論議される訳だが、報道される会社幹部の起訴内容は在宅起訴で、最も重い判決で罰金刑か軽微処罰の執行猶予判決が予想され、罰金程度ならかっては交通違反でも適用していた軽微な処罰であり、外した起訴状内容からは最初から無罪判決を仕掛けているかの怪しげな内容ではないか!

 但し、運転関係の「職場世論」としては、「はずがない!」の精神論がまだまだ強くて、「有り得ることは起こることとして対策を!」とか、「オペレータエラー発生を前提に、致命的事態に陥らない対策を!」という方向は受け容れられていない。当初のATS導入時に「俺たちを信用しないのか!」という反発を受けて難渋した雰囲気がまだ消えてない様だ。一般製造業界なら40年ほど昔の高度成長期から多数の労災発生をみて、そうした職場の雰囲気と断固対決して説得を続け、相次ぐ犠牲もあってようやく乗り越えて広めた原則だが、国鉄JRについてはそれがまだ通らず、個人責任として懲罰的日勤教育でなぶり貶めることで防げるかの誤った方針が根強くはびこっている。JR東日本をみていると地上作業は線路閉鎖などを原則とする安全重視の作業に変わりつつあるが、運転系はそうではないのだ。この労災対策空白区に何故労働省が噛んでこないのか大変不思議に思っている。

 会社としてミスを冒しているのは間違いないが、その処罰規定が無く、総て個人に還元されるという方式に基本的な無理があるのだろう。

雑念に思考を全面占拠されるような、懲罰的日勤教育の免罪は大問題

 しかしながら、運転士が転覆の危険のあるカーブでの減速を失念するほど注意力を奪われる原因となった非人間的な懲罰的日勤教育に合法のお墨付きを与えて、免罪するのは頂けない。普通の注意力で運転していたら急カーブ前にほとんど反射的に減速しているものを、直前の伊丹駅での70m過走をどう報告されるかに気を取られて減速操作を失念して大事故に至った!このなぶるような「懲罰的日勤教育」と恣意的で厳しい処分は事故発生の最も重大な誘因である。これは事故調最終報告の指摘を大いに支持する。

 起訴報道にはなかったが、送検報道では、同業他社の日勤教育を調べて、同等の酷いものだったことから、訴追できないとの判断に傾いたとあって、全くあべこべの判断で免罪されている。JR東海もK社も、本来やってはならない犯罪的な懲罰的日勤教育をやっているということであり、それが直接惨事に繋がったJR西日本関係者の責任追及をきちんと行って、他社も改めさせるというのが本来だろう。ここで判断を誤ってアベコベにしてしまったから、主犯を取り逃がして真逆のメッセージを発する大変好ましくない形となった。


2009/07/12 02:55

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計算の単純作業で規準ミスは問えない

歴代役員

 一般に「設計」というと、原理原則に遡って解析して、動作条件を満たすようにすると思われがちだが、量産物、繰り返し作業についてはそうとは限らない。それは開発設計の作業であり、実用化後の日常作業は、計算手順書の数式に基づいて諸数値を決定するだけであり、特別の専門知識は要しない。たとえば電子部品の設計など、開発済みでユーザー仕様に合わせるだけの「設計」には、試作係である普通高校出の女性に教えて設計一任でサンプル出荷していた。複雑な製品ではなかなか難しいが、要求特性が得られないなどのトラブルでも起こらない限り、開発設計者が直接手を出すことはなくしたが、この場合、異常の責任は直接計算した女性にはなく、添付データと共に製品に承認を与え、設計式を定めた開発者にある。

 JR西日本の大阪支社でATS-Pの速度制限値を70%以上も間違えていたが、これは「規則の一元管理」が行われていないため、基本になる規則を当たることなく算出ソフトを使い、JR西日本用としてJR7社協議で承認を得て制定した車種別速度加算項があるのに支社担当者はそれを知らず、JR東日本と同じJR共通方式で車種別+α’を全て0として設定計算したものが件数としては主なエラーだった。(無論、危険な間違いも混じっていたが、+α分不適用が安全側エラーとはいえ、制定された規則が適用されなかったことは重大)。こんな場合、間違えた支社担当の責任か、規則を関係箇所に周知徹底しなかったところの責任か、一元管理を追及して基規則を辿って改訂を確かめてから作業を行う方式にしていないマネジメント側の責任か?論議はあっても末端設計作業者の責任ではない。

 開発的設計と、そのユーザ対応設計が同一部局・同一人で行われることも多いが、ここでも解析・開発が得意でリードしていくタイプが少数居て、その結果を敷衍適用する日常業務派とで仕事が回るけど(鉄道なら更に公式の規則化があって本来ならチェックされるが)、その基本式に欠陥があって事故になった場合、原設計法を作った人の責任なのか、それを利用して設計した人の責任なのか、また東大工学部出身者には当然の解析的技術的知見として責任を問うとして、読売新聞報じるところの小学校の分数計算が出来なかった新入生が半数の理工系大学出身者だったらどうか?採用試験で選り分けて配置してなければ問題にならないが、旧帝大国立に6大学水準等に準ずる落第再履修多発の実力主義で有名だったT大クラスがボーダーか?とか、いわゆる国立駅弁大より優れた私大もかなり有って悩ましい(w。

 高卒者を「教習所」で養成、OJT育成する場合には公式丸覚えが良くやられて、原理原則に遡っての理解など求めないことも多くそれでは絶対規準がないから経験主義に陥りやすい。そんな場合、現場と学士様型になり、開発設計絡みでは現場責任は問えない。
 被害者感情としてはよく判るのだが、責任を問いうる学歴水準、免責水準の選定というのもかなり難しい。世論を煽るには「東大工学部卒の………」とか「工科系では東大より優れているとされる東工大応用物理学科出身の………」とやれば大いに受けるのだが、中にはど〜しようもない御仁も稀には居て、刑事罰の基準として一律で言われてはたまらないのが実態だ。これはエラーの具体的内容で判断するしかない様だ。
 これら技術系の基準を統括する立場として検察は「鉄道本部長」を選んだのだろう。それなりの妥当性はあるが、会社組織としてのエラーという側面が大きいことと、最も効いた誘因は稼ぐ優先方針の中での懲罰的日勤教育にあり、これを放置しての事故以前の技術幹部だけの起訴は納得しかねる。100km/h→120km/h化時に具体的な過速度転覆の危険が生じていてその検討不足から放置されて事故に至ったわけで、再検討の契機は函館線仁山事故だけではなかったのだ。


JR西・山崎社長起訴状要旨 (2009/07/08 22:27 共同通信web配信)

 JR西日本山崎正夫社長の起訴状要旨は次の通り。

 【被告の立場】
 山崎被告は1993年4月から、同社安全対策室長として事故防止や運転保安設備の整備計画に関する業務を担当。96年6月から約2年間、安全問題に関する業務の権限を委ねられた取締役鉄道本部長などとして、安全対策の実質的な最高責任者を務めた。

 【被告の過失】
 JR西日本は、東西線開業に伴い、福知山線の本数を大幅に増加。乗り入れを円滑にするため、兵庫県尼崎市の事故現場を、半径600メートルから304メートルの急カーブに付け替えさせるなど、他に例のない変更を実施した。

 国内では運転士による居眠りやブレーキ操作の遅れなど、人為的ミスによる事故が多発。カーブでの速度オーバーによる脱線事故も発生していた。鉄道業界では、危険性が高いカーブで自動的に減速、停止させる機能を持った自動列車停止装置(ATS)を整備する必要性が認識されていた。

 同社でも、脱線転覆事故の発生を想定し、高密度輸送路線を対象に半径450メートル未満のカーブでATSを順次整備。被告が主導していた。

 同社は(1)カーブ半径を半減させる異例の変更工事(2)加速性の高い新型車両の導入(3)被告の主導でカーブ手前の直線を制限速度の時速120キロやそれに近い速度で走行する快速電車の本数を1日当たり34本から94本に増加させる大規模なダイヤ改正−を実施。このため運転士が適切な制動措置をとらないまま急カーブに進入した場合、脱線転覆する可能性が格段に高まった。

 工事の完成を控えた96年12月、JR北海道管内の函館線の半径300メートルのカーブで、貨物列車が速度オーバーで脱線、転覆する事故が発生。被告が出席する部内の会議でも、ATSが整備されていれば防止できた事故例として紹介された。

 ATSを個別に整備するのは容易で、安価な工事で可能だった。被告はATSを整備すれば、容易に事故を回避できることを認識しており、工事やダイヤ改正に当たり、自分が統括する安全対策室などの職員に、ATSの整備を指示すべき業務上の注意義務があったが、これを怠った。

 被告はATSを個別に整備すれば、今後ほかの危険個所にも応じざるを得なくなり経費増大につながることを危惧した。また現場カーブの制限速度を従来の時速95キロから70キロに変更し、運転士に制限速度を守るよう指導すれば事故防止措置として十分と安易に考えた。

 【本件事故】
 ATSを整備しないまま、限界速度を上回る速度でカーブ手前の直線を運行させた被告の過失により、2005年4月25日午前9時18分ごろ、当該電車は運転士が適切な制動措置をとらないまま時速約115キロでカーブに進入。脱線転覆して線路脇のマンションの外壁などに衝突し、乗客106人が死亡、485人(兵庫県警発表は562人)が負傷した。

2009/07/08 22:27 【共同通信】