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長周期地震動:超高層ビルで実験

[関連項目]
日記#155サンデー毎日記事
長周期地震 震度と加速度推測
共振の 無限級数振動増倍

 初期の超高層建築が関東大震災の地震波を想定して「柔構造」の共振周期を長くして対応したから、その後判明した長周期地震では共振現象を起こす可能性を否定できないことを指摘していたが、毎日新聞1/12付夕刊は右枠内の様に公的機関である独立行政法人「防災科学技術研究所」が実物大規模の模擬実験を行うとトップ記事で報じている。問題化からみればかなり遅ればせではあるが、現実の被害になるまえに公的研究機関が採り上げることになってひとまず良かった。

 長周期地震動:
  超高層ビルで初の実験
   防災科学研3月に

http://mainichi.jp/select/weathernews/news/
20080112k0000e040056000c.html

 長周期地震動の概念図 東海地震などの巨大地震で発生するゆっくりした揺れ「長周期地震動」が、比較的古い超高層ビルに与える影響を人工地震で調べる実験が3月に行われる。計画したのは独立行政法人「防災科学技術研究所」で、兵庫県三木市の実験施設内で行う。部分的に実物大規模に再現した世界初の試みで、5年計画で実施し、建物被害を防ぐ工法開発を目指す。

 長周期地震動は震源域から離れた場所まで伝わり、首都圏など堆積層(たいせきそう)の地盤で増幅する。低い建物は短周期で揺れやすいためほとんど影響しないが、高い建物は長周期で揺れやすい。

 03年の十勝沖地震で震源から約200キロ離れた北海道苫小牧市の石油タンク群でスロッシング(液面揺動)を起こし、タンク火災が長時間続き注目を集めた。昨年7月の新潟県中越沖地震でも、東京都内で揺れが3分以上続き、港区の六本木ヒルズ森タワー(54階建て、高さ238メートル)などのエレベーターが緊急停止した。

 実験では、80年以前に多く造られた高さ約80メートル(約20階建て)のビルを想定。4階建ての上に、ゴムを挟んだ特殊構造のコンクリート板(約600トン)を載せて高さ21メートルで超高層ビルの下部を再現し、揺らす。揺れの規模は、東海地震発生時に、川崎市の人工島「東扇島」と、愛知県庁(名古屋市中区)付近が見舞われる大きさを想定した。両地区では地震動に対する研究が蓄積されてきた。実験には大林組や清水建設など大手ゼネコン5社も参加し、既存建築物への制震技術開発などに生かす。

 超高層ビルは60年代後半から建設が始まったが、設計に使える揺れデータが乏しく、長周期地震動はあまり考慮されてこなかった。

 同研究所の長江拓也研究員(33)は「近い将来の巨大地震による被害を軽減したい」と話す。

 【野田武】
毎日新聞 2008年1月12日 15時00分

 振動増倍のメカニズムとして記事では振動伝播速度の遅い地層を挙げているが、それは長周期波に限らず通常の地震波も増倍させる。長周期波の方が伝播による減衰が少ないから距離が長くなると強調されて超高層ビルのみが大きく揺れる現象を経験した。
 超高層ビル固有の問題はその共振波長が長周期波に一致している可能性があり、想定外で未対策ということだ。
変周式地上子
(共振式地上子)
変周式地上子

 共振(同調)現象は、振動エネルギーを吸収する部分がないとすぐ原振動の10倍、100倍に達するもので、電気振動系ではその倍率をと呼んでいる。

 鉄道関係で多用されている共振回路が「変周式地上子」であるがこれは車上子コイルに電磁結合する地上子コイルと固定コンデンサーで共振回路を構成して信号現示や位置などの情報を車上に送るためのものだが、この地上子のは大型停止70〜小型110以上などと定められていて大変大きな値である。共振により概ね100倍以上に振幅が大きくなる。
 このLC共振回路では、共振時にLの電圧とCの電圧が逆極性で等しくなり、それが直列接続だから合計ゼロになって、コイルの誘起電圧は総て等価的な直流抵抗に掛かることになる。この時の1周回路の電流は変わらないから、各電圧比はインピーダンス比となる。この比の値がである。すなわち
  Q=ωL/R=1/ωCR
    ………但しω:角周波数=2πf
 変周型地上子ではこの共振による電圧倍率が100倍前後と定められている。

 建造物の場合は素材の内部吸収抵抗が大きかったり、一部潰れて振動エネルギーを吸収したりで共振が抑制されて電子回路よりはが少なくなるかも知れないが、たとえ数倍に収まってもその破壊力は大きい。
閉端-解放端共振
See→[定在波の生成]Click↑

 更に、柔構造である超高層ビルの場合には、振動波伝播に依る「分布定数型共振」、それも地面に固定され上は解放の片端解放共振(=定在波生成)を考える必要があり、その場合に設計時の想定強度で足りるかどうかの確認と対処法の資料を得ることが今回の「防災科学技術研究所」の試みである。

 振動の被害を抑えるためには振動エネルギーが繰り返しで蓄積される前に適宜吸収することが必要で、材質内部で吸収できなければ振動の腹の部分に制振装置を置いたり、変形する結節点(変形の腹)に筋交いのようにオイルダンパーを置いて振動エネルギーを吸収してを下げて振動が増倍されるのを防ぐものだが、何処が振動や変形の腹になるかは上下両端を除いてはなかなか分からない。制振装置は振動の腹に置けば有効だが節に置いても全く効かないのだ。
 「想定外」の大きな被害を出す前に有効な結論をみつけて対応してもらいたいものだ。

 なお、地盤破断部(断層露出部)直近など撃力に依る破壊は蓄積振動(=共振)とは異なり直の衝撃強度が問題になるが、震源から何波長離れているかで振動が支配的か、撃力が支配的か様相が変わるはずだ。S波の伝播速度は4km/h前後とされていて周期10秒では1波長が40kmにも達する。そうした直下型地震では別のモデルも検討する必要があるだろう。

2008/01/13 14:25

震災対策:補足

 建造物の地震対応には2通りの考え方があり、建物を頑丈にして破損を防ぎ、壊れても生存空間を確保するというのが現在の主流だが、それとは違い超高層ビルは「柔構造」によって地震の震動変形も壊れず許容する方式で、当初は関東大震災の地震波波形が試験に用いられ、その当時の地震計では長周期振動は検出できなかったので検討対象外で未対応になったものだが、後日長周期振動が確認され更に十勝沖地震被害として顕在化して問題化したものである。
 その超高層ビルの制振は、振動エネルギーを吸収することが必要で、1点を固定してもそこから反射波が発生して共振状態が変わるだけなのであまり有効ではない。屋上にワイヤーを繋ぎ大地に止めると振動モードとしては両端固定で共振周波数が2倍余となるが、振動エネルギーは吸収していない。
 振動吸収には速度に応じた抵抗力が必要で、オイルダンパーの片側をビル本体、反対側を固定部に繋いで吸収させるとか、梁が菱形構造になる対角線にオイルダンパーを設けるとかの構造が必要である。
 水の慣性と水流抵抗壁に依る制振装置というのはこうしたエネルギー吸収機構の一つである。鉄道車両の枕バネや車のバネなどにオイルダンパ(ショックアブゾーバ)が併設されるのは基本的には振動エネルギーを吸収させて共振による振動増加を最小にするためのものである。

2008/01/23 19:00
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