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JR西日本がコペ転的安全綱領
「ヒューマンエラーは結果であり原因ではない」
本気か?悪質4/1?かは同社の今後の行動が実証

 JR西日本は昨年6月の鉄道事故調査委員会最終報告と9月に構成の有識者会議の勧告を承けて去る4月1日付けで「安全基本計画」を発表した。報道では「鉄道では初めての『リスクアセスメント』の導入」という触れ込みで、その評価は2分されたということであり、取り敢えずはNETを検索して原文を読むことにした。(下記URL.全A4版30枚)
   JR西日本[新安全基本計画]→

http://www.westjr.co.jp/anzen_kihonkeikaku/pdf/kihonkeikaku_00.pdf

 内容をひと言で言えば、総論部についてはコペルニクス的発想転換であり、これが風除けの目眩ましではなく本気で追求されれば安全問題が大きく前進する。事故の位置づけとして「ヒューマンエラーは結果であり原因ではない」(p5)という宣言は、従前のJR西日本の精神主義的個人責任論の全面否定であり、労働災害予防では40年ほど前から追求された「人為エラー発生を前提に被害発生を抑止する」方針へようやく踏み込んだことになる画期的なものだ。事故直後に制定の「安全性向上計画」では、この人為エラー必然認識を、安全対応全般ではなく、トラブルの報告に限定して「報告者を処罰しない」だけだったから今回の安全基本計画には総論的には下記記事の指摘を取り入れた質的な前進があるのだ。
See関連→
[日記122] JR西日本安全性向上計画
  「安全基本理念」に欠ける「人為エラー必然認識」

    (06/06/23記,旧安全計画05/05/31付)
[日記115] JRはエラー前提の安全対策へ切換を  (06/04/28記)

 報道で強調されたJR西日本の「リスクマネジメント」の導入というのは、一般的には危険性を定量的に見積もり、優先順位を決めて対策を講じることを言い、更に保守基準の規制緩和変更などに際して、内在するリスクを予め評価する「あり得ることは起こる」という視点で臨み、これを「計画リスクアセスメント」と呼ぶ。………「労災の世界では定着しつつありますが、鉄道運転事故への適用は初めての試みであります(p5L13)」などと記している。実に40年遅れではあるが、労災対策の基本を今般鉄道でも追い掛け始めるという価値ある宣言だ。

 では、それを実施・展開する「各論部」はどうかと読み込むと、これが説得力ある具体的実例が全くない。これでは社内の運動にならないからお飾りの作文化しかねない。本気で実施のつもりなら、例えばトヨタカンバン方式(JIT:Just In Time方式)導入を見れば工程・製法の合理化にナルホドの具体的導入ストーリーが示されて引き込んでいくが、単に工程・製法の合理化だけでなく、思考方向を自らの立場を捨てて奉仕する滅私奉公に組み入れてしまう猛毒も仕込まれていて、人員合理化、下請けへの負荷押し付けまで飲ませてしまう邪教になるのだが、今度の安全基本計画にはその入口になる皆を酔わせ踊らせる説教がないのだ。
 JIT教の初級ストーリーでは、ファミレスチェーンの冷凍工場建設問題を取り上げ、食材加工法を工夫して「必要なときに必要なだけ供給すれば、安価な冷蔵設備だけで済み、多額の資金を要する冷凍工場建設が無用になった例を引いて、各職場への具体的適用案作成を求めJIT教に引き込んでいく。その手の導入部がないから実施の意思にマユツバを感じてしまう。現場に必要な予算執行権も与えなければ動けないが一切言及がない。
 更に従前の嘘つきJR西日本の実績がある。ちょっと並べれば、尼崎事故発生直後の数々の責任逃れ捏造対応。信楽高原鉄道事故での会社ぐるみの方向優先てこ無断設置隠蔽と捜査協力拒否。尼崎電車区運転士懲罰的日勤教育自殺事件の対応と、どれをとっても本気を感じさせる実践が無いから、世間の非難に対する風よけのサプライズ文書の疑いが先に立つ。事故調最終報告書の4ヶ月前の事故調意見聴取会では副社長がまだ懲罰的日勤教育必要論をぶって「まだ分かってない!」と大顰蹙を買い、最終報告書で故高見運転士がどのように懲罰に追いつめられ過走報告に聞き入って制動操作を忘れてこの大惨事になったかを詳細に描写されることになったのに、それからわずかでコペ転的認識転換など出来るのか?という強い疑問が沸いて、消すことが出来ない。
肝心の従業員だってこれでは半信半疑で斜にに構えてしまうだろう。

★ この信じがたい画期的方針と、従前のJR西日本の頑迷な姿勢とが無理なく結びつくのは唯一、手抜き安全装置=拠点Pの正当化理論だけではないだろうか?このつまみ食いだけでないと良いが。
 すなわちJR西日本はATS-P3+ATS-Sw2を同一筐体に収納した新車上装置を採用したが、これが拠点P方式永久継続前提の装置で、錯綜区間の場内信号ではATS-Pの現示アップ機能で列車間隔を安全に詰めて、駅間の閉塞信号では従前通り、運転操作に拠らず無条件の赤信号警報を出して確認扱いを求め、最高速度で冒進可能のままにする。事故調最終報告の資料部に拠れば、JR西日本はATS-Pを導入する路線はほぼ輸送量順に選ばれ、1995年頃を境に新規設置路線は総て「拠点P」方式で、絶対信号+現示アップ制御分のみをATS-Pとしている。その採用根拠としては、事故の約80%が絶対信号周辺で発生するので当面そこにATS-Pを設置すれば足りるというもので、残り20%の事故が発生する閉塞信号は複数あるから、一基当たりでは更に設置数分の一になって、これを交通量を乗じた量で順位付けして優先順位を決める、として「拠点P」を固定化する理論的根拠とするが、他へはほとんど適用しない、というご都合主義的結末だ。システム中に応答の違うものを混ぜているのは錯誤の原因になりうるのに………。この点は全面Pで一貫して、更にそのバックアップまで取り入れているJR東日本の判断を支持する。拠点Pが許容されるのは、全面設置の途中経過として先ず発生確率の高い地点から設置することだけである。固定化はいけない。
 「あり得ることは起こること」という積極的位置付けであれば、無閉塞運転開始で50m進入以降速度制限が青天井になって先行列車への進行現示を取り込んで鹿児島線宗像海老津型の事故(02/02/22)を起こすATS-Pの穴を、次の直下地上子検出まで15km/h制限を掛ける車上ソフト微調整くらいはやってくれるのだろうか?異常事態でパニックを起こせば指令の許可という条件が飛ぶことはあり得るのだから。
 JR西日本がこれから具体的に何をやるかでその真意を判断するしか無いのだが。4月1日付文書だからエイプリルフールだった、というのは無しにしよう。数年前だったと思うが「シマウマ競馬開催決定」の新聞記事を途中何の疑問も持たず読み下していた。それと同類でなければよいが。(シマウマ競馬記事は無論4月馬鹿ページだったが、かなり後でそれに気付いた(w)

 ほとんど具体性のない各論部でも、若干気になった細目では、
★「小集団活動」とかQC活動導入には警戒が必要だ。具体性のない抽象論の中のかすかな具体的言及が、各職場単位の業務としての取り組みではなく、敢えて「小集団活動」というのは異常だ。
 安全問題は、労働組合も同一見解を出せる内容でないと職場にはなかなか浸透しない。個々労働者の保守性もあって国鉄でATS全国設置に当たっては乗務員たちから「俺たちを信用しないのか」との強い反発も出てきて、これを口実に戦前から開発設置して実地試験段階で米占領軍に止められ保留してきた速度照査型ATSを捨て、現行ATS-Sの目覚まし時計型にされた。この選定に労働組合が噛んで見解を出して妥当な職場世論を形成していたら違ったものになっていた。
 そういう大きな影響力を持つ職場の労働組合としてこの「小集団活動」にどう介入するのかの具体的意思統一をして取り組まないと、安全確保に名を借りた滅私奉公強要と組合御用化介入だったかってのマル生推進組織にされてしまう危険がある。1960年代後半に導入されたアメリカ式労務管理の一手法として、ZD運動、QC運動、ST(標準作業時間)制定などに実運営の中で日本的改良を加え、小集団活動や、Just In Time生産方式として導入してきたもので、不良低減、無駄の削減、製造工程の合理化・省力化などに留まらず、業務遂行・利潤追求には労働者犠牲、弱者切り捨て、ただ働き、下請け業者犠牲が当然だという頭の改造が行われてしまう。
 小集団活動の重要な到達指標として残業手当なしの無給の活動になっているかどうかがあり、全員参加を目指して、最初は業務命令の効く就業時間内開催からはじめて次第に時間外に移行、それは無給にするという労働者思想滅私奉公改造プログラムが組み込まれているのだ。
 これを本来の目的通り安全確保の検討・実践の場にするには職場での具体的な方針と意思統一が欠かせない。安全絡みだから放置できずスローガン的な「滅私奉公小集団活動参加拒否」で済ますことは、主導権を全部取られてしまう自殺方針になりかねず、労働者側からの対案実施が不可欠なのだ。
 会社側は職場での組合の発言を断固拒否し徹底的に潰しに掛かるだろうが、従業員・社員としての意見を求めている訳で、その発言内容の参謀役が職場の労働組合のはずなのだ。この辺りは「リストラ対抗法10箇条」などを普及して首を取られない対応法を伝授する超少数派グループの方がうまい。多数慣れしてきた国労などの話を聞くと、職場役員と会社の交渉が不当に拒否されていることのみ強調され、個々の組合員=従業員が仕事の一環として主張する中味を組合員同士相談しながら提起し対抗するのが弱いように思う。職場の組合員と話をすることを「職場団交」と称して一律拒否を命じているが、個々の社員の意見を聞くのは排除出来ない訳だから、主張の場の確保として柔軟に対応すればいい。第三マル生組織にさせては安全性向上どころではなくなってしまう。
 安全対策や安全装置の徹底というのは難物で、たとえ組合から呼びかけていても、作業性が悪いと四肢を落とすような危険のある機器でも往々にして安全装置を外してしまう。その考え方そのものを変えて貰う思想闘争としての側面を持っている。(とはいえ労働省基準で「脚立作業禁止。移動式作業台」とか云われるとやりすぎだと思ってしまうのだが(苦笑)。また作業性を害しない安全装置というのも重要で、ATS-Pはその点でも他の様々のATSに比べて非常に優れている。その高信頼度に頼りすぎて、関空特急はるか事故のように積雪等想定制御条件を外れる環境でもそのまま走ってATS-P制御下の場内信号で260mもの冒進事故を起こしているから、そういう適用基準の問題も顕在化した。

★社員の死亡事故ゼロか、外注業者を含む従業員の死亡事故ゼロか、は観点として重要な違いだ。40年前、労災撲滅、公害撲滅が叫ばれたとき、かなりの企業で、労災の外注化、公害輸出で誤魔化されてしまった。現場の直接作業担当を外注にすれば、少なくとも社員の死亡事故はなくなる。従業者とすべき所を、不注意で社員にしたのか、それとも労災・公害の外注化なのか?戦後すぐに結成された企業内労働組合がその組合員以外に目を向けない弱点はあって、そこを突かれて国鉄攻撃に始まる労働運動解体に平行して労働者派遣法→一般業務への派遣解禁→偽装請負派遣・製造現場への派遣解禁→ワーキングプア化という20年掛かりの労働環境改悪が強行された訳で、あの束労革マル松崎明元委員長へのインタビューで臨時職員の酷い扱いに怒り「国労に入れてくれ」といったら「臨時職員は入れられない」と断られたと非難している(別冊宝島、左翼はどこへ行ったのかp34(主に反日共系あのひとは今本))が、たしかに日本の労働組合は企業毎の結成がほとんどで、共通してそういう弱点がある。下手に組合員以外の救済に手を出すと「賃上げなど組合員のことも不十分なくせに、外部救済どころではない」と手厳しく追及されて、その説得に大変な苦労をすることになったのだ。それでも「全労働者の利益を護る組合」という観点の方針を貫いて説得を続ける必要があるのだが。この辺は、真の改善だろうか?労災の外注化だろうか?経験則的には「社員」という対象区分は、公害労災外注化方針と一体であったが、真の改善であることを望む。

 新基準で検討されるべき課題としては、先ず国鉄JR方式ATS-Sxへの冒進速度規制導入(=国鉄民営化に合わせて廃止された私鉄ATS通達(s42年鉄運11号通達)仕様実質復活)で、これは拠点P方式でそのまま残される閉塞信号のATS-S対策でもある。

 先出、降雪下の速度、減速度基準を考えると、チンベル警報と警告灯のみのATS-Pの対人伝達方式より、具体的に制限値が表示されるATS-Psの表示装置が導入された方が良いとか、JR東日本が運転士から停止判断権限を奪ったが、危険を感じたら減速・停止できるように戻すとか(あれは見せしめ的刑事処分を回避するための表向きの措置で、処分で強制している訳ではないというのなら了解するが、無人駅化、機械化、ワンマン化などで地上観測点を減らしすぎている。事実120km/h走行区間で転覆時速度は100km/hとされて若干徐行しているが問題にされた形跡はない)。これらの提起が職場から上がり専門的にリスク解析が行われ、納得のいく形で返されることが必要だ。非難の風除けに言わせるだけ言わせて後は放置では何の効果もない。

2008/04/19 23:55
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