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[122]. 総括(現状認識部)のない作文!
   JR西日本安全性向上計画

  鉄道ジャーナル誌2006/08号(#P28〜31)に西日本旅客鉄道株式会社名で事故後(05/05/31)にまとめた「安全性向上計画」についての説明記事が掲載されている。

  記事を一読して驚くのが、「現状認識」節が全くないこと、従って従前の例に新方針を適用してどう変わるかが分からない文書になっていることだ。会社全体が一丸で推進する様に変わる「運動論」がまるでない作文なのだ。これでは激しい指弾を避ける風よけアリバイ文書としてとられて、現状を変えようとする意志など職場には伝わらないし、「職場は変わらない」という評価が職場の多数になるのは当然だ。

  また序論節に3行だけある抽象的な反省項目は「安全に対する取り組みや、事故後の社員の行動が不十分」と一般社員にのみ問題があるかの記述になっていて、事故後の記者会見での不誠実な対応でJR西日本が嘘つき集団であることを天下に晒した会社幹部たちの重大な責任には全く触れていない。記者会見での会社の言い分を辿ると一貫して他者責任転嫁論に終始して、真摯な対応がなかったことで信頼感を決定的に叩き落としたのだが、それに触れずに社員に説教では何の説得性があるのか。

欠けてる安全理念

  冒頭の「基本理念」を眺めてみよう。これで人が本気で動くかどうか……。
○安全性向上に向けての基本理念
 ……当社としては,安全性向上に向けての基本理念を「安全を最優先する企業風土の構築」と定め,経営陣が先頭に立ち,以下の基本的な考え方に基づき推進するものとします.
  1. 安全が何よりも優先すべきで有ることを,会社として徹底する.
  2. 現場と本社の一体感を強化すべく,トップ自らが現場に出向き,双方向のコミュニケーションに努め,風通しの良い職場作りに努める.
  3. 安全を支える職場において,上司・部下のコミュニケーションにより,信頼関係を構築する.
  4. 安全対策・事故防止策の推進にあたっては,原因並びに背景を根本に遡って分析した上で,対策を確立していく.
  5. ハード面における安全対策について,全力を挙げて推進する.
       (……以上全項……)
  経営側の認識として、「従前は安全そっちのけで、部下の言い分など聞く耳持たなかった」とは読めてそれが職場で話を聞くミーティング重視に現れ若干の成果を上げていることは判るが、ここにこそ「
  • 0.安全対策は、ヒューマンエラー発生を前提として、それが致命的事態に至らない手だてを講じるものとする。
    」 と、JR方式に欠けている安全基準を書き込まなければならない。

    「安全基本理念」に欠ける「人為エラー必然認識」

      だから、安全認識の重大な誤りとしては、「報告に対する対応方の是正」の項に「……ヒューマンエラーについては,起こり得るものであることを前提とし,これを隠さず報告した上で,事故防止を図る体制を構築」として報告対応に留め、冒頭の「安全性向上に向けての基本理念」からはしっかり排除していることだ。しかしこれは40年以上昔から労働基準監督署(労働省)が、労働災害防止策として工場や建設現場に対して繰り返し指導している安全対策の根本思想であり、エラーがあっても致命的事態にならない安全装置設置などの対応を求めるものだ。それが、なぜか鉄道業界には未だに浸透して居らず大惨事後の今度も「安全理念」から外されているのだ。労働省と運輸省の縄張り争いでもあったのか?

      その安全基準に照らせば、下部組織としてやるべきことが見えて、続いて起こった保線作業員の死亡事故や、その前の救急隊員死亡事故は作業基準が変わって防げた可能性もあるし、欠陥ATS-SW擁護・危険な高速域放置のST型過走防止装置容認や、手抜き拠点P拡大=輸送力増強といった誤った方向は出て来ない。
      末項の「ハード面における安全対策」も上記の前提がないと欠陥ATS-SW擁護の不十分なものに留まってしまう。その前4項は絶対的基準がなく、やり方次第でどうにでもなる作文条項であり、人の噂も75日で世論の追及がなくなれば流してしまえる風避けに過ぎず、上層の直接の指示命令を離れて自ら転がる全社的方針:「運動」にはなり得ない。

      安全対策の基本を報告の対応のみに限る位置付けの誤りがあるから、事故を繰り返す欠陥ATS-Sxの頑なな擁護方針継続になるし、最も危険な高速側の保安を放置して45km/h以下にのみ有効なST東海型過走防止装置となって尼崎事故直前の宿毛事故に至り、国鉄民営化時の私鉄ATS通達廃止となっている。ハードに関する改良計画だけは総括がなくても具体的に何を意図しているかが見えやすいが、JR西日本が「拠点Pで足りる」としてATS-P設置を絶対信号だけに留めて拠点P化で輸送力増は図るが閉塞信号をATS-SWのまま放置する大きな手抜きをする背景思想ともなっている。早晩これはATS-P路線での初の追突事故としてその手抜き設置が顕在化する危険性の大きいものだ。少なくとも全速力で赤信号突破が可能な欠陥ATSを通達まで廃止して永久固定化させてはいけない。

    事故前後の状況は

      客観基準の見易いハードの改善方針に較べ、ソフトの改善、思想の改善は、行動と共に身近な具体例をどう扱うかを示さなければ弾除けの作文に留まる。
      そういう比較対照基準となる事故前後の周辺事実を挙げてみよう。
    (「職場の声を聞く」具体的行動は、直通予備制動にATS-SWが効かないという埋もれていた設計ミス指摘を生き返らせて対策に持ち込んだ。マスコミはそれを非難的に報道したが、実際は安全対策の具体的行動が埋もれてしまった欠陥情報を掘り起こした成果といえる。ミスやミス隠しが困るのは勿論だが、新方針でそれを発見・修正する機能が働いたのは前進で有効な新方針だ。「職場の声を直接聞く」という抽象方針は具体化されることで成果を挙げた。)

      事故直後の記者会見を振り返ると、白い車による踏切事故、置き石の可能性、と不確実情報での対応があり、報道陣から「転覆限界速度は何キロだ!」と問いつめられて、研究機関ではない運行現場がそんなものの具体的情報を持ち合わせるはずもなく、遠心力の静的な釣り合いGを単純に速度換算して、しかも「133km/h以上になると脱線する虞がある。鉄道総研に依頼して算出した理論値」とやってしまった。これが「133km/hまでは脱線しない」との解釈を生み「過速度だけではない別の原因あり」とか,結果として会社側の責任を回避し異常運転をした運転士のみの責任に誘導する主張となった。走行振動Gと遠心力による重心移動を考慮したら静的均衡点よりはるか低速で転覆に至るし、限界点を越えたら「虞」ではなく転倒だから、JR西の説明が間違いだし、脱線限界速度の質問に対する回答としては「理論値」などではなく誤りを拡げるものだった。
      報道が誤って「ATS-Pなら過速転覆は起こさなかった」というガセ情報で埋まるとJR西日本はそれを正すのではなく更に「(1ヶ月半後の)6月からATS-P化する予定で工事中だった」と述べてタイミングの悪い「不運な事故」を装ったが、実際はJR西日本の過速度防止装置設置基準として「最高速度130km/hの路線」と限定していて最高速度120km/hの福知山線の現場にATS-P曲線過速度防止装置など設置されるはずもなかった。非難避け風よけを策した嘘である。ところがそれを聞いた世論が「ATS-P設置義務付け」に大きく傾くとあわてて「従前のATS-SWでも速度制限は可能で、現に本線関係17個所に設置済み」とようやく真相の一部を明らかにして、ATS-P全線義務づけ回避を図ったが、事故現場にATS-P曲線速度照査地上子設置計画が全くなかったことは今に至っても認めていない。某TV番組で「設置計画が有ったのなら、6月稼働で工事中だから、当然該当設備の予算書なり設計書、発註書が有るはずだから見せて欲しい」と突っ込まれてまるきりしどろもどろで訂正のないままである。こういう上層部の一貫した誤魔化し素人だまし姿勢を続けたことの反省がない限り、真相を知っている社の下々は上の嘘を暴露する訳にはいかず、同じ誤魔化しを続けざるを得ない。それは安全性向上計画は風よけの作文だと社内に下知しているのに等しい所業だ。

      更に事故翌朝の尼崎電車区運転士日勤教育自殺事件のスクープ(赤旗新聞)で夕刊紙やワイドショーは研修テープ暴露など後追い報道で連日沸き返えり、右派サンケイの夕刊紙フジまでが背面監視体制を「ゲシュタポ」と厳しく糾弾するなどで、その報道に当該労組として対応したJR西労役員氏は一躍有名人になったが、晒し者懲罰としての日勤教育の不当性をいくら追及されても会社側は認めようとしなかった。そればかりか、組合がこの自殺問題を公表追及することに対して処分をほのめかした脅迫状を出したままにしている。(西労主流極左派の「仇敵」共産党機関紙の赤旗新聞のスクープということはJR西労の持ち込み情報ではない。西労として事故当日には運転士自殺事件との強い関連には思い至らなかったということか。赤旗新聞の感度が良かったのだ。その点で繰り返しネットに流されるJR西労謀略説には無理があり、先の脱線限界速度誤導の問題と併せ却って会社側の裏世論工作の一環を疑わせてしまう)
      「安全性向上計画」中の「乗務員全般」−「事故再発防止教育」項で「これまでの再教育では、机上教育が中心であることや教育期間が長期に及ぶことなど,一部に教育効果に疑義のある内容も含まれていること……」と述べていることの具体的な対応が、犠牲者家族との裁判の継続と、宣伝行動参加の組合員への脅迫状となっている訳だ。日常希な動作への疑問を口実にいびり抜いて自殺にまで追い込む酷いやり方が「正当」だと云うなら、「教育効果に疑義」もクソもないだろう。
      「誤りを改める」というのはこういう分かりやすい例を社員の納得のいく形で解決してその改革の本気を具体的態度で示さなければならない。現状はこの逆だから当然信じない社員が多くなる。
     事故直後の対応として「情報収集中で精査もされて居らず分からない」「現時点で信頼できる情報は……」で一貫するのなら分かるが、繰り返し責任転嫁を重ねてそれが崩されることと、逆アクションの継続で決定的に信頼をなくしている。これは一般社員の不十分な行動に拠るものではなく、マスコミに対応した幹部に拠るものだ。
     「計画」序文の指摘する「社員の不十分な行動」とは、事故に遭遇しながら救出活動に参加せず出勤したことや、ボーリング大会・飲み会の予定通りの実施を非難するものと思われるが、片や上司の指示による事故現場からの出勤でそういう風土を作った会社の責任だし、現場とはかなりの距離がある職場でなら直接必要な救出・復旧要員や責任者を派遣すれば後は取り組みを実施して差し支えないだろう。交代勤務者を集める(=必ず代替者を配置してからでないと集まれない)面倒な取り組みで、私的として集めているのにキャンセル料だのややこしい問題をどう処理するのかを考えても、事態が判明した午後の段階での完全中止はかなり困難で、事故処理に必要な特別要員以外は集合先での「緊急状況報告会」に参集することになるのではないか。これは宴会好きのマスコミ関係者に照らして考えれば、当時大不祥事で叩かれていたNHKなどのマスコミ関係だって番組毎の打ち上げは従前と変わらずやってるだろう。予定外の2次会3次会は控えれば良いものをとは思うし、被害者が怒りたい気持ちは分かるから、控えめの配慮は必要だが……

    モニターの
    ATS-P速度制限表示
    HP:垂水運転所テクニカルセンタ
    06/04/15閉鎖,11/春廃止済
     (速度照査設定値エラーの発見は事故調の指摘がきっかけだったからJR西日本独自の取り組みの成果という訳ではないが、設置以来15年も誤設定が放置されたのだから根本数値からの点検というのも必要なことを示している。モニター(右写真)に現れるATS-P数値異常に最長15年間も誰も気付かなかったというのが本当かどうか、大いに疑問を感じて居るが真相はどうだろう?運転士として疑問を生ずれば便乗時に制限数値を確かめているだろうに。ATS-Pランプの日常とは違う動きを車掌に指摘されてそれを確かめて1分遅れただけで見せしめ的扱いに晒されて自殺に追い込まれた奴隷的懲罰的日勤教育の支配がそこまで運転士をスポイルしてしまうのだろうか!?)

     ついでに言えば、JR西日本擁護の言説として、「記者会見での『読売新聞記者の傲慢な言い様』で事実がねじ曲げられた」との主張も繰り返されている。しかしそれはTV中継中にJR西日本側の繰り返しの発言を遮って品悪く「責任者をだせ〜〜っ!」と喚いただけで、長時間にわたり新情報が出ないまま根拠のない責任逃れの発言が繰り返される中、JR西日本から本音を引き出すハッタリとしてはあの程度の品の悪さは見合うものではないだろうか。TVカメラが入った場面というのを意識しなかったことで逆に足を取られたのは不用意だし、取材すべき中味が当事者から語られている時にあれをやったら取材者として馬鹿としか言い様がないが、とうに話題は尽きて、根拠のない責任転嫁に腐心する取材相手にぶつける挑発としてはそれ程外れたことは言ってないし、なにより事実が曲げられたことはないではないか。政治的プロパガンダで売る自民党ご推薦サンケイ新聞や、繰り返し存在しない事実を作って報道してしまう朝日新聞とは違うのだ。
     (伊藤律架空会見に始まり、珊瑚落書き事件、田中長野知事架空インタビューと続き、一定の結論枠に即した事実だけを拾って記事を作るような取材姿勢に遭うと、これは作文か?取材か?との疑念を持ちながら読むことになるが、そうした疑念の湧く「報道機関」は願い下げにしてもらいたい。論説は早くから右翼改憲派なのにそれを否定する逆方向の事実も枠に捕らわれず面白ければ平気で報道してしまう読売新聞よりジャーナリズムとして劣ることに気付いて貰いたい。(読売が繰り返すK機長憶測報道はいい加減にしろ!と言いたいが)。「呼びつけられた」と報じましたが「自ら出向いて注文を聞いた」との抗議訂正要求を受けましたことを報告します。NHK報道現場の認識とは異なりますが、ご用聞きよろしく自ら政権党幹部の政治介入を求めて訪問したことと、それを明らかにすることが政治介入の肯定ではなく「反論」だと考えている方がもっと深刻な事態ではあります。くらいは噛ましてやれば読者はグッと増えるだろうものを、朝日の幹部たちは何を考えてるのだろうか!!)。

      加えて、記事として見ると、編集部やライターの取材や見解は全くなく、内容としてはJR西日本がページを買い取って記事風PRとする形式のものだ。欄外に<PR><広告>とあるのではないかと捜してしまったくらいだ。会社のPRを無批判、無償で垂れ流すだけなんて、これは雑誌側の問題であるが決して鉄道「ジャーナル」などではない。編集長の主観的な「朝鮮人強制連行不存在」論固執に次ぐ不見識だ。

    2006/06/23 23:00

    [補足]「アーバンネットワークの現状」部は


    ATS-SW曲線速照    <ATS-SW>

      同誌P33にATS-SW曲線速度照査地上子対の写真がある。ATS-ST速照地上子は2個1対で、そのうちのりの通過時間が車上時素、標準0.5秒より短いと非常制動を掛けるものだから、うちのり距離が分かれば速度制限値が分かる。写真のレール締結金具を見ると、スラブ当たり8本〜7本で地上子間では26本あるように見える。JR電車区間の枕木ピッチは25mレールに41本前後、地上子有効幅が公称規格で0.5mだから
     地上子設置間隔=26本/41本×25m
            =15.85m
     設定速度=(15.85−0.5)m/0.5秒×3.6
         ≒110km/h となる。
     ということは、最高速度130km/h路線の曲線速照の初段で、3段等差速度方式だと最終速照値70km/h制限に対するものか?JR方式は+10km/h余裕の模様だから、その場合速度制限は60km/h。

     過走防止装置を含めた時素速照装置設置標準が定められていれば、突入事故前の宿毛駅の様な全く効かない速照装置を2基設置で放置という事態にはならなかった。これは運輸省・国交省の怠慢と言うほかない。Sロング地上子の設営算式は国鉄時代から運輸省に承認されている。

      JR西日本は上記記事の続章の形で「アーバンネットワークの現状」として安全強化ダイヤを解説している。方針が曖昧でも物理相の対策はまだ取りやすい。
      列車運行の乱れを余裕時間と車両運用で吸収できる様にするため、車両新造増備と共通化を行い、折り返し時間は長くし、混雑駅手前区間の運航時分を長く取り、支線からの合流点での待ち時間を増やして遅れの連鎖を断てる機会を多くするという当たり前の内容ではある。何処かで遅れの発生しやすい長距離路線では総武横須賀線東京折り返しの様な「細切れ運行にする」というのは願い下げにして貰って、折り返し時間を充分取ってここで遅れを吸収する訳で、ホームさえ空いていれば列車間隔寸前までは折り返し時間を取った方が弾力性が上がるのは当然だ。

      しかし、それまではなぜ余裕時分ゼロなどという無茶なダイヤにしていたのかの究明は全くないし、最高速度を下げて余裕時分を費消しては逆に安全度が下がることの指摘もない。高速が危険なのではなく、地点毎の制限値を越えることや、高速路線に踏切が残ることが危険なのだ。事故現場の福知山線は乗客の気持ち優先の観点で当面減速維持は是としても、曲線速照が完備した今、設計通りの運行の方が余裕時間を確保できて安全なことはプロの見解として触れた方が良いのではないか。ATS-SW速照地上子写真については右カコミ欄。130km/h以上の路線にのみ設置という馬鹿な限定を付けなければ現場手前にこれが設置されて事故にならずに済んでいた。
    2006/06/26 02:00

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