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実に深刻だった新幹線とき325号!
巨大地震と高速鉄道
新潟中越地震を振り返って」
を読んで

 営業運転中の新幹線が初の脱線事故を起こした新潟県中越地震の鉄道被害と復旧作業を述べた「巨大地震と高速鉄道」(久保村圭助・町田冨士夫編著、仁杉巌監修'06/11/20山海堂刊)を通読。報道ではとき325号の脱線事故のみが大きく取り上げられて印象に残っていたし、鉄道事故調査委員会の調査報告書も脱線事故関連が扱われていたからだが、この本を読んで実際はそれよりもっと深刻な状況で、トンネル内に巻いたコンクリートが破砕・崩落して魚沼トンネル内では最大5トンものコンクリート塊となって線路上に落下しており、地震が数分早く発生していたらとき325号はトンネル内でこれに激突し、大惨事だったかもしれない危うい状況だったことが分かった。
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新幹線の間一髪セーフ!集

  • 始発15分前発生の阪神淡路大震災で、多くの落橋があっても犠牲ゼロで済んだのは良く知られているが、
  • 東海道新幹線浜松手前での車軸折損、
  • 東京駅回送車誤出発脱線事故(全出発に絶対停止3設置、全ATS出発信号に直下地上子設置)
  • 鳥飼電車基地回送出場での本線冒進脱線事故で、営業車が衝突寸前に迫り停止、
  • 岐阜羽島駅での〜1km過走事故、
  • ブレーキディスクボルト飛散事故、
  • ブレーキディスク折損飛散事故、(空転過速度)
  • ATCシステムの穴を露呈して全国標準2周波数変調方式(ATC-1D)への全面改良を促した品川信号事故と新大阪信号事故、
  • 東海道新幹線開業直前の'64/06新潟地震被害を受けて全変電所に地震計連動遮断器設置で非常制動
  • 開通前の東北新幹線橋脚が仙台地震で致命的に破損し、新幹線全線の耐震設計の見直しと、海岸近くに地震センサー設置(ユレダス)
  • 新潟中越地震でとき325号が200km/h走行中に脱線し軌道を破損して1.6km走行し傾いて停車して、トンネル破損、橋梁破損も起こり5トンものコンクリート塊が落下したが、運良く激突せず人身事故には到らずに済んだ。

 日本の新幹線はつくづく幸運続きである。幸運な例を右表に示すが、総て紙一重のタイミングで乗客の犠牲が回避されてきている。このほかにも保守検査態勢の工夫と努力で押さえ込んだ部分も大きいのだろうが、そのSKSの幸運続きが、脱線事故は茶飯事のTGVや車輪構造の欠陥で100名を超える犠牲を出してしまったICEとは大きく違うのだ。

 台湾新幹線では国際競争入札にまつわる政治主導の混乱でTGV/ICE方式とSKS方式の併用で実運営側が自ら方針を決めきれずに振り回されていて、震災に対しては電源供給系から即座に非常停止をする地震国日本式ではなく、欧州提案方式で押されて信号ATC系から制御して適切な位置に停める方式に決めたものの、営業運転開始後1年を経て未だに未稼働という事態にある。基本的制御原理の選択を間違えて着地できないということだ。これは運行の安全確保に直結する問題なのだから、現場技術の判断を尊重した自主判断として、一刻も早く速度エネルギーを放出して危険度を下げる新幹線方式採用を決定すれば良いものを!と思う。開発中の速度向上型の量産車では不採用になったらしいが「ネコ耳式空制フラップ」は300km/h超の運行には必要なのではないか?日本同様の地震国台湾で最初の人的震災被害が出かねないのだ。変電所のGメータ連動遮断くらいは入ってるだろうが、海岸線のP波予測でS波到達前に制動を開始するユレダス改良システムの導入は台湾には必須要件だ。
 欧州方式の大義名分である「適切な停止点の選択」は脱線しても被害の少ない45km/h〜15km/h以下になってからの確認扱い緩解を許容して以降運転士に委ねるなどの方法で解決するもの。地震に際しては300km/h以上の高速度が極めて危険だからそれを解消する減速が最優先で、停止位置の適不適は許容被害範囲に減速後の課題だ。このあたりは地震経験に乏しい欧州勢のシステム設計ミスであり、最終的には台湾の実運営側が行うべき自主判断が利権絡みの政治屋の要求など他の事情で行えないミスである。どちらが受注するかは別として、大地震検知即減速方式採用は譲れない原則だ。
 実例で言えば、同じ485系の転覆事故でも100km/hで転覆の羽越線いなほ14号事故('05/12/25)では車体が折れて死者5名、重軽傷33名の惨事となったが、九州日豊本線南延岡駅付近での竜巻による特急にちりん9号転覆事故('06/09/17)では強風による運転打ち切りを決めて25km/h程度に抑えて走っていて人的被害は軽傷6名で済んでいる。まして200km/h〜300km/h走行となれば危険懸念時の減速は最優先なのだ。

インパルス波形

 表面波が特別に大きく地中の数倍に達し、S波一般としては考えられないという指摘はナルホドの思いだが、地震波の波長深度でみると震幅が1/2になるのが水平震動で1/10波長、垂直震動で1/2波長となっている。S波伝播速度4km/sとして1Hzで400m、2Hzで200mだ。加えて廻りの地盤と一緒に動くから一部に力が集中しない。この違いで地下は地震に強く、トンネルも入口付近と断層など異常部分に被害が集中するらしい。
表面波深さ分布
p81図2-15
表面波の震幅分布
新潟中越地震資料
地震動波形
川口の変位記録p68図2-13
抜けた大根
p69写真2-4
北西方向に飛んだ大根群
橋脚破断
p69写真2-5
橋脚破断


 p68-70に新潟中越地震の生々しい資料がある。変位記録はE-W方向が主(「N-W」は誤植と思われる。∵東西E-W、南北N-S)で、それはほとんどインパルスで、約10cm降下した後、一瞬40cmも下がって元に戻っているが、別の記述では60cm前後の標高変化があったと述べられていて、その分はどうしたのだろう?変位が残るのならステップ応答だが、波形記録には変位は残っていない。
 大きな石が飛び上がって裏返っていたり、100本近い大根が畑から揃って抜けて同方向に並んでいたり、飯山線では橋脚が途中で切り離されて10cm前後水平に飛んでいたりと、震源直上特有の珍しい現象が紹介されている。海洋型なら連続振動が支配的だろう。

 丹那トンネル掘進中に遭遇した北伊豆地震による断層移動でトンネルが断層面で遮られたが、その移動距離は水平8フィート垂直2フィートもあり、これを1000Rの曲線で繋いでいるという。約2.5mも動いている。丹那トンネルでかぶりついてこのズレが分かるだろうか?何度か通ったがその大差に気付けなかった。「1000年に1度の動きだから当面は大丈夫」ということは、新幹線もいずれはどこかの断層移動に衝突して「1000年目の大惨事」になることは織り込んで270km/h〜300km/h運転をしていることになるが、地震毎に移動の見込まれる断層を貫くトンネルをピックアップして断層貫通部を単線並列化して断層移動1回分の余裕構造で繋ぐ工夫は今後要るのではないだろうか。濃尾地震の尾根谷断層のように8mも動かれては救い様はないが直角に動くとは限らず、伊豆急トンネル断層のように進行方向に近い動きなら脱線・逸脱防止でかなり犠牲を抑えられる可能性がある。

 興味深く印象に残る項目としては
地震計のP波初動増加率より震央距離推定を行い、震央と規模を算出して高速遮断判定と適切遮断範囲を選定して遮断時期を早めるのと、遮断範囲を局限して復旧を早めていること。しかも地震計は線路を離れて海岸にも置いていてその分早く減速を開始できる様に「ユレダス」を更に改良している。これは予め特性を知っていて先回りに制御する「予測制御」あるいは「Feed Forward制御」の試みとみることができる。

 また、JR東日本の信濃川水力発電所がJR東日本首都圏電車の75%をまかなう、とあるが、これは従前は全体の半分前後としていたから分母の違いだろう。JR東日本信濃川水力発電所というのは、日本9位の千手発電所5.15万kW+12位の小千谷(おぢや)発電所4.64万kW+4位の新小千谷発電所7.30万kWの水路式発電所3ヶ所をまとめて呼び、総計44.9万kW出力、17.8億kWH/年の自家用発電所である。これが中越地震で放水路と河川護岸に深刻な被害を受けて長期に運転停止することになったが、総合評価としては「丁寧な工事が被害を最小限に(p183)」したとのことである。堰堤・フィルダムなどの被害は沈下が大変に大きく、またひび割れが出現して避難勧告を出したりしたが、その到達が浅く、軽度だったとしている。

 この本全体としては、一部に専門知識層のみ対象の節はあって、そこは読み切れないが、同書の後書き氏も気付いていて「読み飛ばして欲しい」とあり、新幹線に限らず鉄道の地震被害と復旧・対応を知るには大変興味深い本である。

2008/03/25 23:55
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