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[168].もう少し頑張って!宿毛事故調報告

 先の土佐くろしお鉄道宿毛駅突入事故の調査報告書は、「最高速度を防御する機能がなかった」点では事故当初からの解析通りで異論はないのですが、その詳細にちょっと踏み込むと手抜きが見えて、残念ながら事故調査委員会に期待される水準には足りない様です。乗客に死者がない事故で内容をギリギリとは詰めないのかも知れませんが、一般国民、マスコミはその解析手法で自ら分析して検証するわけで、被害の結果論に囚われず理解しやすい模範解答を示して貰いたいものです。それが明確だと読者が事故調として言えずに手加減した部分、触れられなかった背景の問題点に到達し易くなり、報告書の有用性を増すことになります。
 未曾有の暑さの夏も過ぎまして、若干粘着気味の点検もしておきましょう。

● 手始めに、日記166で事故時の制動がEB動作に拠るものか、25km/h過速度速照に拠るものかを補足計算して示しましたが、このあたりは報告書解析部としては突っ込んで欲しかった部分です。それを「………場内信号機を本件列車の先頭部が通過)したときに既にEB装置による非常ブレーキが作動していた可能性について検討すると(報告書p46L-2)、………信号装置の動作記録装置の補正後の記録と大きな乖離はない………既にEB装置による非常ブレーキが作動していた可能性が考えられる(同p46L7〜L10)」というのは軟弱に過ぎるでしょう。場内信号以降の2区間の距離と通過時刻データがあり、25km/h速照の位置と応答時間のデータがあるのですから両者を満たすブレーキ動作開始点(グラフの下に凸の赤色細線)は力尽くでも計算可能です。このうち、25km/h速照動作点時刻は進入速度で決まる直角双曲線上にあり、そこから空走時間分経過した直角双曲線上(グラフの青色太線)でブレーキが有効になるので、両者の条件を満たすグラフの交点で非常ブレーキが掛かったことを示します。この点を通る減速直線の傾き=減速度6.64km/h/sが現実に実現できるのかどうか?事故調による従前の試算値では常に4.0km/h/sを採用していたわけで「減速度6.64km/h/sは滑走により実現が極めて困難」というのが順当な推論でしょう。それだと場内信号進入速度は約123km/hになります。報告書3.3.3非常ブレーキと各種記録との整合性項で「………ATS-SS型25km/h速度照査用地上子)の位置で非常ブレーキが作動して本件列車が減速したと推定されることには、相互に矛盾がない」(p46L-6)という記述はできないということです。これは事故を防げなかった最終結論には影響しませんが、EBの動作解析(3.6項p51L18)に影響してその有効性の論議にはなり、「模範解答」としてここまでは結論を追って欲しかった。

● EB動作を前提に場内信号を123km/h進入として聖ヶ丘トンネル最高水準位置4,641m、場内信号位置が228m(共に起点基準)、EB動作時間61秒、警報から非常制動までの時間を5秒、警報反応時間を0.5秒〜5.0秒、ノッチ1〜2でほぼ速度維持としてEB動作位置を逆算すると、最高水準点で下り8/1000勾配になってノッチを戻し、そこからEB設定時間(実測61秒)後に警報を受けて確認扱いして宿毛に進入し場内信号に対して
P=4,641−228−123/3.6×(61×2+5.0+0.5〜5.0)=56.75m〜−97m
という範囲でEB非常制動となり、トンネル内でのEB警報確認ボタン応答時間が2.16秒の場合に丁度場内信号位置でEBによる非常制動が動作した計算になりますから、EB動作は合理的推論の範囲だと分かります。

● もっと重要な基本は、過走防止速照装置の有効性と、Sロング警報地上子設置位置決定法の当否についても触れる必要があると思います。これは運輸省令と指導の内容に直接絡みます。
 現場に設置されていた25km/h速照装置+22km/h速照装置+絶対停止地上子は、1段目25km/hは分岐過速度防止装置としてはその設置位置から全く無効で過走防止としては25km/hを超え63.8km/hまでを防御するものですし、25km/h以下での突入は防御していません。2段目の22km/h速照は35.9km/h以上と10.7km/h〜22km/hの間での突入は防御していませんが、その制限値は1段目を分岐過速度防止速照と想定して、直線側無効を前提としていた可能性があります。報告書はこの中途半端で穴だらけの過走防御には全く触れていません。過走防止装置の設置は各鉄道事業者に任されていたとはいえ、簡単な標準設置計算式ぐらいは制定しておくべきだったでしょう。→(計算結果表参照)

 Sロングの設置位置を定める基準速度も規則で「閉塞区間の運転速度の最高値」(鉄道社員教育用鉄テキスト「ATS・ATC」p16L-4)と省令で定められていて、これが駅間の最高速度120km/hではなく、推定51.7km/hと場内信号進入速度を基準に取り最高速度からの防御ではなかったため防げませんでした。
 この基準速度決定法では閉塞毎に最高速度が変わる場合、必ず低速度の閉塞ではそれより前の高速度に対応しないので、宿毛事故はその穴を突いて発生しているわけですが、ATS-Sの警報方式ではさらに無意識のリセットの問題は残ります。
 この点は事故直後に発せられて翌2006年3月の技術基準改訂で事実上失効した通達H17年国鉄技第195号構造要件(2)ATS-SN向け対策項(=添付プレスリリースの「終端防護用自動列車停止装置の機能向上『』」←「等」1文字!wはこれを指します)で100km/h以上路線の行き止まり駅対策には採り入れられたものです。
 宿毛線は先ず鉄建公団が設計して運輸省の事前認可を得て設置工事を行い、運輸省立ち会いの完工検査をして第3セクター土佐くろしお鉄道に引き渡された訳で、この手落ちに運輸省が関係しているのは明白です。

 事故調報告書は信号・過走防止両ATS装置の詳細設定には全く立ち入らず「列車運転の最高速度が120km/hであるにもかかわらず、………接近する列車の速度について設計上の想定速度以下とする担保手段を講じないまま、………線路終端に対する自動列車停止装置が設置されていたものと考えられる。従ってこのような設計等を行うべきではなかったと考えられる」(報告書p43L16)として両方とも触れていません(細かに言えば巻末にくろしお鉄道の事故後の措置として無解説で改良結果を掲載)。早い話が「最高速度120km/hに対応した過走防止装置ではなかった=最高速度想定にミスがあった」というのを柔らか〜く柔らか〜く述べている訳です。新聞記者も気付けない「等」1字でお茶を濁すお役人さんも大概にして欲しいですが、頼りの事故調が鉄道やお役所に対しこんな超低姿勢で良いんでしょうか?やはり監督指導機関と事故調査委員会は分けた方が率直で分かり易い結論が得られるのではないでしょうか。

 事故調報告にまだどうも身内庇いの臭いが消えず、事故解析内容も鹿児島線宗像海老津事故調査報告書の付表Eではかなり外していたので個々の話題の断片記述だったこのページをまとめて立ち上げたのですが、今回の宿毛事故報告書は、付表Eの解析より大いに改善されたとはいえ、乗客の死者のなかったためか尼崎事故報告や中目黒事故報告に比べて上記の様な手抜きが見られます。せめて高校卒業レベルでの一般人が読んでその事故解析をなぞれて、他の事例にも適用できるような解析にして貰いたい。(遙か昔に忘却の彼方というのは当然読者各自の努力に帰すものです(w が、昔取った杵柄とか言い、若き日の学習の痕跡は蘇るものであります。

 また地方紙が各事故報道で中央諸紙を抜いて奮闘しており、宿毛事故05/03/02では高知新聞がいち早く事故原因に直接掛かる基本データを報じて(下図'05/3/5=事故から丸2日後出稿)最終報告書結論と一致しましたし、羽越線北上第2橋梁南転覆事故05/12/25での山形新聞、尼崎事故05/04/25での神戸新聞、日比谷線中目黒事故00/03/08で原因関連事項を再三スクープの赤旗新聞など、足と熱意とで中央諸紙を抜く記事を提供しています。記者のレベルでいえば著名大新卒者の上澄みを集めたはずの中央紙に追い掛けられない内容ではありませんが、ごろつき会見を放映されて非難を浴びた後根拠なく羽田沖K機長説を喚き続けて案の定転けた某Y新聞の様な体たらくで、零細紙でも真面目に追求したところが実質的スクープをモノにしています。赤旗新聞は政党機関紙ながら日比谷線中目黒事故のキーだった2点、営団ガードレール設置基準の極端な緩さと、輪重計設置要求拒否と、尼崎事故では懲罰的日勤教育で自殺者まで出しているのを「仇敵!∠○」(wが機関を占拠しているとされる当事者組合執行部の声明さえ出し抜いて共にスクープしました。日勤教育自殺事件は見出しも立てずわずか1節でしたが、その夜からTVはニュースにワイドショウにと大騒ぎで、取材攻勢に晒された当該組合も自殺者まで出した懲罰的日勤教育の重要関連性に気付いてそれを追いました。調査報道は足が基本ですがその解析法の基本は報告書が示すのが好ましいでしょう。web上の個人ページである当ページから算出法を読み取っても権威付けの点でなかなか記事にはならないでしょうから。
   See→[衝突解析計算を誰もが可能に]
<FIG-1> 3/5高知新聞報道(補正済み)
宿毛駅信号ATS設備図
  源=高知新聞'05/3/5図 '05/3/9出発信号、場内信号位置、突入速度。
     赤旗新聞05/4/8(4)過走防止速照位置、算出:速照地上子対間隔
     尚、マル5速度照査位置は4/5に38m位置15km/hに移設設定された。

2007/09/07 23:55
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