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Geo日記
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主目次

[117]. 再加速か?設計ミスか?京王吉祥寺駅事故
まとめ       過走余裕距離内に車止め枕木誤設置? 再加速非対応?
      優れた設備も正確な設定でないと防御に穴を生ずる!

京王吉祥寺駅過走防止装置
過走防止装置
  4/21の京王井の頭線吉祥寺駅過走事故を承けて(井の頭公園の三多摩メーデー帰りに)同駅のATS設置状況を見てきた.
  吉祥寺駅には場内信号YY現示25km/h制限記憶式ATSで進入して4段の時素速度照査地上子対で構成する過走防止装置と絶対停止地上子が設置されており,順に 20,15,10,5,−の小看板はその設定速度と思われ,信号ATSにより最高速度から防御されており,JR東海型(ATS-ST/-Sx)の様な高速側放置の杜撰な過走防止装置ではない.(但し,速度照査値看板の取付位置は現行前側よりも実動作の後側が適切と思われる.渋谷駅も同じ.JR東日本の-SF時素速照看板位置も前後中あり必ずしも一定ではないが)
  下記報道内容は,停止位置が「ホームの途中」「ホーム手前」とありながら「制限速度5km/h」とあって矛盾がある.5km/hなら停止目標寸前に停止だし,ホーム途中なら信号の進入制限速度YY現示25km/hに当たって停止したことになる.

     日経06/04/21夕刊4版23面1段

京王井の頭線オーバーラン 吉祥寺駅,一人軽傷

  21日午前10時過ぎ,京王井の頭線吉祥寺駅で,渋谷発吉祥寺駅行き急行電車がホームの停車位置を超え,先頭車両が行き止まりの車両止めに衝突した.この事故で乗客の女性(48)が首に軽いけがを負った.直前に自動列車停止装置(ATS)が作動しており,警視庁武蔵野署が事故原因を調べている.
  同署などによると,電車がホームに進入する際,規定速度の5km/hをオーバーしていたためATSが作動し,ホームの手前で停車.直後に,男性運転士(43)が徐行で運行を再開したところ,ブレーキが作動せず,停車位置を超えて約5m先の車両止めにぶつかったという.

(読売web記事)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060421i306.htm
> 京王電鉄の説明では、電車は制限速度(時速5キロ)を超えて駅に進入したため、自動的に非常ブレーキがかかり、ホームの途中で止まった

オーバーラン 乗客けが 井の頭線非常ブレーキ,再発進後

 21日午前10時ごろ,東京都武蔵野市吉祥寺南町の京王電鉄井の頭線吉祥寺駅で,渋谷発吉祥寺駅行きの急行電車(5両編成)がオーバーランし,車輪止めの枕木に衝突して止まった.警視庁武蔵野署によると,先頭車両に乗っていた女性(48)が転倒し,首に軽傷を負った.
 京王電鉄の説明では,電車は制限速度(時速5キロ)を超えて駅に進入したため,自動的に非常ブレーキがかかり,ホームの途中で止まった.運転士が再び動かしたところ,停止位置より4.6m越えたという.同社は,事故対策本部を設置して原因を調べている.(06/4/21読売夕4版22面3段,調布市配達分)

(千葉市での他紙報道は,東京に負傷の事実だけ報じられた他は,当該読売,朝日,毎日,赤旗,産経とも記事になっていない.従前ならその程度の軽微な事故だ.調布配達分では朝日・毎日・読売・東京・日経が報じている)



  YY現示25km/hで初段速照値20km/h地上子に突っ込んだ場合は停止距離が35.8m=252/20×0.7+25/3.6×2,Y現示−YY現示の中間:45km/h25km/h制限に突入した場合は約96m=452/20×0.7+45/3.6×2 だから,どの地点で非常制動が動作したかに拠るが,20km/h地上子は終点近くだから「ホーム途中に停止」するのはこれではなく,先ずYY現示25km/h制限に当たってホーム中程に非常停止した可能性が強い.(5km/hなら停止目標直前に停車だ)
>
停止距離[m]
減速定数:20/0.7
=3.968km/h/s
=1.102m/s2
速度
km/h
空走時間
2秒1秒
53.72.3
109.16.3
1516.212.0
2025.119.6
2535.828.8
4595.983.4
  その後の停車位置修正で加速して,制動タイミングを逸して,5km/h制限か絶対停止地上子に掛かって非常制動が掛かったが,過走余裕距離が足りずに車止め枕木に当たった!

変周式車上子

ケーブルの接続された
水平板が発振コイル部
車上子
  京王の車上子位置は台車の後側で先端連結面から5m余だが,絶対停止地上子は車止めから5〜7m余程度に見え,この差と過走制動余裕分不足でぶつかったのではないだろうか.必要な制動距離は5km/h速照から14.1m=102/20×0.7+10/3.6×2+車上子取付位置5,絶対停止地上子からは8.7m=52/20×0.7+5/3.6×2+5(右表+5m)だが,現場はどうみても5m余程しかないから過走余裕が2〜4m足らない.私の目測狂いだろうか?ガーダー上でピッチが違うので,精度の良い簡易計測法を考えなければならない(終電でも混んでる駅で巻き尺で測る訳にはいかない,広角で撮って樽型歪み補正と台形補正を施しホイルベース長で比例計算とか……).別の車上子が台車の前にあるのだろうか?
  (可能性としてはあまり高くはないが,過走防止装置の速度照査制限値で考えているとこのエラーを冒してしまう.制限値に引っ掛かる速度はその手前の速度制限値であることを忘れて,そこの制限値で考えてしまう勘違いは結構起こしやすいのだが,絶対停止地上子の設置を一緒にやればその矛盾に気付く.速照とは独立に設置したのだろうか?)
吉祥寺過走防止

吉祥寺駅車止枕木
車止め枕木
  吉祥寺のような頭端駅で過走制動余裕不足(:車止め1.5〜2m手前の線路上の枕木はきちんと設定された過走防止装置制御下では実制動距離を減らすだけの愚挙.これが無ければ制動距離としては6.5km/h〜7.6km/hから停まれた!この線路上の枕木(右写真奥の黄色と黒の斜線模様)が過走余裕を奪って事故の真因かもしれない!),あるいは車上子取付位置分約5m余の補正を行わなかった設定エラーに加え,過走防止装置が点速照だから加速運転を想定していない誤差ということだ.

停止目標6m移設
移設停止目標
  (後日5/10計測の上表では,一定速度前提ならギリギリで問題はなく、後者の
停目移設で後部
柵外へはみ出し
加速が影響か?前記距離不足論は取り消し.目測は思った以上に当てにならない!.   事故後に停目を6mほど手前にして停めやすくしているから発生確率は減るが,抜けて事故になる条件は変わっていない.そのため渋谷寄りの運転室が柵の外に出てしまい,乗務員は柵と車体の狭い隙間を通って出入りしている.太めの乗務員は通れなさそう).
これは名鉄新岐阜でのワンハンドル逆方向操作突入事故と同じパターンであり,点速照型では絶対停止地上子設置と制動余裕距離が必要であり私鉄ATS通達仕様では避けがたい死角だ.これは停止限界を超えないパターン型速度照査が有効な部分だ.乗車位置が今より若干遠くなっても余裕を置くかどうかは微妙な判断だ.井の頭線明大前上りホームの停目はホームの柵と同じ位置で余裕ゼロ(実質2m?)だがJRと較べ設定が実にタイトだ.

再加速で約10m延びる停止位置!
      速照加速突入シミュレーション <kasoku>

  先の計測結果を基に2.4km/h/sで加速して5km/h照査地上子を抜けて絶対停止に当たり、空走2秒で非常制動20/0.7/7.2km/h/s(ATS-S電車基準)で停止した場合を下記に図示すると、停止位置が約10m先になることが分かる.この図を見る限り4/21過走事故の原因は加速で過走防止速度照査を抜けて過走余裕が不足したことに拠るものだ.新宿・渋谷にしろ八王子にしろそんなに過走余裕を採れない駅が多いから冒進の起こらない位置基準のATS-P型,あるいはその速度照査方式を採り入れたATCへの切替方針は妥当である.京王の標準的加速度は2.2km/h〜2.8km/h程度だが,再加速時の加速度はどの程度だったのだろう?(下図と共に06/05/18追記)

吉祥寺過走防止設営
京王渋谷駅過走防止装置
渋谷15連過走防止装置

   ATS-Sx系はずっと危ない!

  しかしながら,私鉄ATS通達準拠で25km/h以下進入を強制し最終照査速度が5km/hだったことで元々の進入速度が低く抑えられて非常に軽微な事故で済んでいる.JR東海型ならもっと高速進入だからもっと派手な事故になっていた.その最も極端な例が100km/h超で突入した土佐くろしお鉄道宿毛駅突入事故(05/03/02)だ.低速とは言え停まりきれないことは私鉄ATS通達仕様の弱点ではあるが,昨年の3大惨事が無ければおそらく報道されなかった,たんこぶ程度の軽傷事故で済んでおり,JR系のATS-Sxの改良こそ緊急の課題であることも重ねて示している.

   タイトな渋谷駅15連過走防止装置

  ついでに京王井の頭線渋谷駅の過走防止装置も見てきたがこちらは京王新宿駅と同様に15地上子を配して順次列車検知コイルで地上タイマーと停止ステータスを起動し,不動作だと次の地上子対を検知コイルと停止コイルとして順次速度照査を行う方式だった.進入側から見ると要所に速照値看板23,20,15,10,5,が設置されていた.
  車上子の取付位置が台車の後側で先頭から約5.5m後にあるため,位置補正計算可能なATS-Pなどとは違い実質の過走余裕がわずか60cmほどになって,ちょっとした条件の違いで停まりきれず超低速とは言え衝突に至る.停目が車止めから約9.6m手前にあり,これが絶対的な過走余裕だが,車上子取付位置を考慮した絶対停止地上子からの過走余裕が0.6m〜1mしかないことが若干バランスを欠くのだろう.これを2m余にすれば,加速があっても防御できる.もう少し過走余裕距離を採った方が安心だろう.新宿駅にも同様の速照値看板は設置済みだ.
過走防止装置設定計算
   (写真から枕木位置を頼りに設置距離諸元を推定)
2006/05/02 22:00
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