再加速非対応設定が原因か!
京王井の頭線吉祥寺駅過走防止装置突破事故 #97
JR東海ST/Sx型など点速照型過走防止装置共通の危惧!「過走余裕距離不足」
'06/04/21 10:05ころ,京王井の頭線吉祥寺駅で渋谷発同駅行き急行電車が過走防止装置を構成する
5km/h時素速度照査装置で非常停止し,停止目標に向けて発車してブレーキを掛けたところ過走し,約
6m先にある枕木3本を積んだ車輪止めに前部スカートが当たって停止した.(新聞によっては「ブレーキが効かなかった」と報じている.)
この事故で乗客3名が転倒するなどして負傷した.
吉祥寺駅事故地点
車止枕木,停目,過走防止速照
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現場は,両渡り線手前の場内信号が警戒(橙橙
:YY)現示で
ATSによる
25km/hの常時速度照査を受けて駅に進入し,過走防止装置として4対の時素速度照査地上子対が設置され,その設置位置により公称
20km/h,15km/h,10km/h,5km/hに設定されてその表示看板が設置され,更に停止目標の先には無条件非常停止の絶対停止地上子が設置され,衝突した車止め枕木の先に鋼製車止めがある.京王電鉄は事故後取り敢えず停止目標を6mほど手前に移設した.これは最後尾の運転室ドアが柵外で乗客ドア端に柵の来るギリギリの位置である.
それらの設置位置から計算すると定速度進入に対しては適切な防御がされているが,手前に
一旦停止後に加速した場合には最大10m前後過走余裕が不足することが分かった.(事故調採用
ATS-Sx算出標準:減速度
K=20/0.7、応答2秒。京王線加速度
2.4km/h/sで試算)
停止目標6m移設
階段下に移設されている
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事故後の停止目標の
6m移設で過走余裕は増やされて,駅進入減速もかなり慎重になっているから過走事故発生の確率は減ったが,地上子群には移設の痕跡はなく,それだと防御の穴は全く変わっていない.
現場を見ると柵外にもまだ
5m余もホームはあり,過走の心配のない
P型ATC換装までの間,
9個の地上子とホーム柵を移設し,枕木車止めを外して過走制動距離を増やしてはどうだろう.
著名な繁華街で中央線乗り換え駅として乗降客の多さや深夜帯の酔っぱらいの転落事故もあり前方の改札口に少しでも近い位置に止めたいのは重々理解し,国鉄
JR各社の
ATS-Sxより格段に安全性の高いことは充分わかるが,既に停目を
6m下げている以上,少なくともこれに合わせての移設は必然だろうし,無益な車止め枕木を撤去,柵をホーム端に移設して有効長いっぱいに使える様にしてはどうか.
事故自体はスカートに若干傷ついた程度で停止しているから,ブレーキ応答遅れの有無には言及し難いが,ブレーキは動作しており効いたことは疑いないし,枕木車止めがなければ残る
1m余で事故にはならずに済んだろう.黄色と黒の縞模様の警戒塗装板は車止め位置に置くべきだった
ATS速照地上子
地上子 | 設定
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場内YY | 25km/h
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#4 | 20km/h
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#3 | 15km/h
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#2 | 10km/h
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#1 | 5km/h
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#0 | 絶対停止
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- 上図では,左に凸の放物線が加速曲線で京王線の標準的加速度2.4km/h/sとして作図.
- これが5km/h速照#1をすり抜けて,絶対停止地上子#0で非常停止コマンドを受け,2秒後に非常制動が有効になって,減速・停止する.
- 右に凸の放物線は総て制動曲線で,右端青色2本が制動定数K=20/0.7=減速度β:3.968km/h/s=1.1023m/s2,
- そのうち左側が停止限界線,
- 右側がフル加速後ATS非常制動が掛かった場合を示している.
- 青線に速度ゼロで交差する赤線は,左側が定速走行で青線の2秒手前の位置,すなわち停止コマンド発行限界位置曲線,
- 右側が絶対停止速照で非常停止を受けた場合の制動曲線推定のための図で,定速進入であれば速度ゼロとの交点から立ち上がる制動曲線でその交点に停止するが,
- 加速している分それより先に出ることになる.右端の青線が加速後に非常制動が掛かった場合の停止曲線で,この速度ゼロ点までは過走することになり,図で見る限り10m余分に制動距離が必要だ.
- 現場には,車止め手前約1.5mに枕木の車止めがあり,車上子設置位置が台車の後側で先頭から約5.5mの位置だから,定速度進入の場合の過走停止位置から約2.5m先に枕木の車止め,4m先に鋼製の車止めがある訳で,現状のままでは7.5mの不足,枕木を撤去して6mの不足になる.
- 結論としては,地上子9個を,停目移動に合わせて6m以上渋谷寄りに移動すれば足りることになる.余裕はホーム渋谷寄りの柵をホーム端に移設することで停止位置を更に下げた分だけ得ることができる.
加速による過走の心配はJR東海ST型など点速照式過走防止装置全般に当てはまる.
- 過走防止装置の速度照査動作としては,定速度進入と考えて,
- 制動特性として非常制動減速度(K=20/0.7)と応答時間(2秒)を想定し,
- 過走限界点位置と,衝突余裕距離(2.5m→10m)を定め.車上子取付位置〜5.5mを補正
- YY現示25km/hで冒頭の20km/h制限に突入して過走限界点に止まる位置が#4設置位置,
- 20km/hで15km/h制限に突入して過走限界点に止まる位置が#3設置位置,
- 15km/hで10km/h制限に突入して過走限界点に止まる位置が#2設置位置,
- 10km/hで5km/h制限に突入して過走限界点に止まる位置が#1設置位置,
- 5km/hで0km/h制限=絶対停止地上子に突入して過走限界点に止まる位置が#0設置位置,
- 車上子が絶対停止地上子に対し若干の余裕を持つ位置での車両先端位置が停止目標.従前2.5m程度で枕木車輪止め,4mで鋼製車輪止めだったのを,5月連休前後に約6m移設して5/10現在8.5m〜10mとなっている.
- 左側の2本の右に凸の緑色曲線は,2.4km/hが標準的な常用減速だが,それを保証するための過走防止装置の設定は進入減速度で1.33km/h程度になっている.これは非常制動で必ず過走限界内に止める上で必須の設定だ.
京王吉祥寺駅過走防止装置
線路右数値は速照設定km/h
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「点速度照査型過走防止装置」ではこうした低減速度化は過走余裕距離が少ないほど極端になるので進入時間を要して井の頭線や京王・小田急新宿駅の様な超稠密ダイヤでは非常なネックになってしまう.折り返し線が新宿は4〜5本あり乗降別ホームも有って列車を振り分けられるが吉祥寺・渋谷は2本であり軽業的高技能運転を要求する原因となっている.
東京駅
#1〜#2番線は井の頭線吉祥寺駅と同構造ながら頭端駅ではなくて過走余裕距離を取れ両渡り線を高速対応の配置として,
ATS-Pの「位置基準速度照査方式」の利点をフルに活かした高速進入確保で乗客をさばいている.すなわちホーム中程のゼロ号信号を車種選別の「現示アップ」によりYY現示
25km/h制限からY現示
45km/h制限に緩めて安全速度制限を
ATS-Pの停止パターンに委ね,更に停止パターンの直前に緩解可能な速度制限機能を
0km/hにセットして,その速度制限パターンに当たっても一旦停止せずにそのまま正規の停止位置まで走行できるようにしている.
また新幹線で所定の過走余裕距離を取れないホームには時素式の過走防止装置が設置されていて、これは加速しても車止めまでに停止できる設定になっていることが判明した。
See(06/05/31)→新幹線過走防止装置
吉祥寺駅にこの設備が有ればもっと高速進入可能で軽微とはいえ事故にもならずに済んだ.
まぁ,車両の壊れ方からみれば車止め手前の枕木車止めがなければ事故にはならず単なる過走で済んでいた模様だが,却って見た目に気休めの余計なものを付けて安全を阻害してしまった.
頭端駅でなければ過走余裕をもっと取れて急減速を許容できるし,
ATS−P型速度照査であれば頭端駅でも標準的な常用制動には抑えられるが過走余裕を極限まで小さくできる.出発信号の「進行定位」はその極限であり,「停止定位」は行き止まり駅のもの(だけではない)であるが,「停止定位」であっても信号が停止位置の
5m先にある場合と,京葉線の様に
180mも先にある場合とでは制限曲線からの余裕の違いで実運転の制動曲線がまるで違うものになる.
2006/05/19 23:30記
mail to:
adrs
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Last Update=2006/05/31
(2006/05/19 /02)
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[資料1] <DOC1>
[資料2]東京新聞06/4/21夕刊社会面3段,調布市配達分
<DOC2>
21日午前10時5分ごろ,東京都武蔵野市吉祥寺南町2の京王電鉄井の頭線吉祥寺駅1番線で,渋谷発吉祥寺駅行き下り急行電車(5両編成)がオーバーランし,
枕木3本を重ねた車両止めに接触して止まった.
この事故で乗客約200人のうち先頭車両に乗っていた多摩市の女性(48)が転倒,首の痛みを訴えて病院に運ばれるなど,3人が軽いけがをした.
車両は,前部にあるスカートと呼ばれる線路の障害物よけが一部損傷したという.警視庁武蔵野署で原因を調べている.
同署や,京王電鉄(多摩市)によると,同電車は終点の同駅ホームに入ってからの速度が制限を超えていたため非常ブレーキがかかり、通常の停止位置の手前でいったん止まった。運転士(43)が手動に切り替えて本来の停止位置に合わせようと前方に動きだしたが、この際,停止位置から約5m先に設置されている車両止めに接触したという.
[資料3]日本経済新聞06/04/21夕刊4版23面1段
<DOC3>
京王井の頭線オーバーラン吉祥寺駅,一人軽傷
21日午前10時過ぎ,京王井の頭線吉祥寺駅で,渋谷発吉祥寺駅行き急行電車がホームの停車位置を超え,先頭車両が行き止まりの車両止めに衝突した.この事故で乗客の女性(48)が首に軽いけがを負った.直前に自動列車停止装置(ATS)が作動しており,警視庁武蔵野署が事故原因を調べている.
同署などによると,電車がホームに進入する際,規定速度の5km/hをオーバーしていたためATSが作動し,
ホームの手前で停車.直後に,男性運転士(43)が徐行で運行を再開したところ,ブレーキが作動せず,停車位置を超えて約5m先の車両止めにぶつかったという.
京王渋谷駅過走防止装置
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[資料4]読売新聞06/4/21夕刊4版22面3段,調布市配達分 <DOC4>
21日午前10時ごろ,東京都武蔵野市吉祥寺南町の京王電鉄井の頭線吉祥寺駅で,渋谷発吉祥寺駅行きの急行電車(5両編成)がオーバーランし,車輪止めの枕木に衝突して止まった.警視庁武蔵野署によると,先頭車両に乗っていた女性(48)が転倒し,首に軽傷を負った.
京王電鉄の説明では,電車は制限速度(時速5キロ)を超えて駅に進入したため,自動的に非常ブレーキがかかり,ホームの途中で止まった.運転士が再び動かしたところ,停止位置より4.6m越えたという.同社は,事故対策本部を設置して原因を調べている.
(読売web記事)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060421i306.htm
> 京王電鉄の説明では、電車は制限速度(時速5キロ)を超えて駅に進入したため、自動的に非常ブレーキがかかり、
ホームの途中で止まった.
[資料5] <DOC5>
(千葉市での他紙報道は,東京に負傷の事実だけ報じられた他は,当該読売,朝日,毎日,赤旗,産経とも記事になっていない.従前ならその程度の軽微な事故だ.
調布配達分では読売・東京・日経が詳細を報じ朝日・毎日が負傷事故発生を報じており,サンケイ・赤旗には記事が見あたらない)
[資料6] <DOC6>
[資料7] 制動距離計算式 <(ページ移動予定:暫定掲載)>
鉄道の制動距離計算は,制動距離が概ね速度の2乗に比例することから,近似的に等加速度運動と見なして,
車種別制動定数定義
L=V2/K+V・T/3.6
種別 |
| 制動定数 K | 空走時間 T[秒]
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電車 | | 20/0.7 | 2
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旅客 | 20 | 3
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貨物 | 15 | 6
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比例定数として「制動定数
K」を定義,
車種毎に標準的制動定数と空走時間を右表の様に定めて信号及び
ATS位置計算を行っている.
ATS-Sxロング地上子位置計算では,その警報後待ち時間5秒を空走時間に加える.空走時間の内訳は
ATS応答時間1秒、残りがブレーキ立ち上がり時間としている.
但し速度単位
:V[km/h],位置
:L[m],空走時間
T[s]=3.6Bである.
L=V2/K+V・T/3.6 …………………………(1)定義
V=−TK/7.2+sqrt{(TK/7.2)2+LK} ……(2)
ΔK=G・sinθ×3.6×7.2≒254.016・tanθ ……(3)下り勾配補正
(
tanθは下り勾配,下り勾配区間では制動定数
Kから勾配補正分を減じて計算する.
この算式と定数は
ATS-S,ATS-B,ATS-A,ATS-P/-Psとも変わっていない.最近事故調査委員会が公表した
土佐くろしお鉄道宿毛駅突入事故中間報告書でも事故車
2000系ディーゼル特急の制動定数を
K=20/0.7,T=2秒(=電車相当)とした土佐くろしお鉄道の資料を採用して地上子位置を算出している.資料1,6計算表の限界速度も上記(2)式を表計算ソフトに函数として埋め込んで算出している.
(
→位置計算法)