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神戸電鉄:「緊急停止」公表せず
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[写真]:ATSが作動した神戸電鉄の急カーブ=神戸市北区長尾町で2008年5月16日午後5時13分、本社ヘリから幾島健太郎撮影 |
右の記事は尼崎事故を機に設置した曲線過速度防止装置に当たって非常停止したことをかなり非難がましい文脈の4段見出しで報じているのだが、どうも釈然としない。事故の2ヶ月後に対策として設置した安全装置が有効に働いて非常停止したのだから、それは安全対策が有効・適切だったことの具体的証明だろう。それを抜きに叩く一方の報道はおかしい。
トラブルの実態を検討する上で、記事の「200R、75キロの制限速度を5キロ超過、ATSが作動した。」という数値はおかしい。尼崎事故の現場が「304R、98C、70キロ(〜75、本則60km/h)の制限速度を116km/hで進入(46キロ超過)、転覆脱線。」だから、そこより急カーブの200Rで75km/h制限の筈がない。横G=V2/R基準からの比例計算でも57〜61(本則49)=70〜75(60)×√(200R/300R) だから、本則なら45km/h制限で、許容不足カントから制限値を定義する高速設定だとしても目一杯105mmのカントを設定して、普通車で55km/h〜60km/hの制限になるはずだ。尼崎事故の報道データや事故調報告主部を洗っていたら必ず気付いた異常値だ。報道する側もかって自らの報道数値と比較して疑問点はきちんと突っ込むべきである。
どうやらこれは点速照型の過速度防止装置の中間段階速照が75km/hで、これに80km/hで当たったことを無解説で発表して、結果として速度超過の印象緩和を図ったものではないだろうか。3段階速照とすれば、制限55km/hに対してカーブ入口から手前方向に65km/h、75km/h、85km/h等と3組が設置されていたのではないだろうか。(5km/h単位の端数丸めをしてない社も多い)
しかも発表通り5km/h超過での動作なら、安全装置のために設けられた余裕部に当たっての動作で、運転士の名人芸で安全に減速している範囲内なのに速度照査に当たった可能性も残されている。無論、違反領域に食い込んだ運転で、乗り心地限界は超えていた可能性もあるがその場合でも5km/h超過なら安全限界には入っていたのだろう。従前の無管理状態ではそのまま何事もなく高速通過していたケースではないか。
非常停止で転倒するのが重大問題だと言うのなら、常用制動で減速するATS-Pの様な1段上の安全装置を要求になり、それは「被害をたんこぶ程度に留める」コンセプトで点速照を用いて構成する現行装置より高度の要求である。JR西日本が導入するというリスクマネージメントの考え方から言えば、閉塞信号の停止現示に最高速度で突入できる危険なATS-Sxに速度照査を義務付ける方が先決だろう。簡易にはロング地上子でY現示速度照査を行い、一定の時素後にYY現示速度照査を行う(例えば20〜25秒後)だけで衝突事故のエネルギーが1/25に減少するから、少なくとも衝突による死者は出なくて済む様になるから、そちらが優先事項だ。
とどの詰まりは「情報公開」要求として「細かなトラブルも公開せよ」という主張なら分かるが、神戸電鉄の今回の対応は部内に対してはきちんと行われており、悪意での意図的な情報隠蔽とは取れないのだが………。他紙はとみると、手許の日経と東京の17日夕刊続報記事では非常停止の事実のみ報じていて、非難部分は無い。
毎日記事の叩き方は有効な対策により発見された誤表示・誤設定を叩いた報道と同類で、従前足らなかった部分を補強して発見したエラーは旧方針の瑕疵であると同時に改善の成果だろう。正当に努力してその成果が非難されるばかりでは、暴風が静まるのを待って放置した方が得だということになり、公述の場でも頑迷に「懲罰的日勤教育有用論」を主張し続けたJR西日本丸尾副社長に象徴される精神論派を煽り、まっとうな実務派を叩くという「社会の木鐸」としてはおかしなものになってしまう。丸尾副社長のあの言い分なら「努力して改善して逆に非難が強まるのなら、やるふりだけして止めてしまえ!」となりかねないではないか。今回は見出しを付ける整理部が原稿の持つ弱点を大きく増幅したということだ。
制限速度55キロを75キロと誤発表 ATS急停車
神戸市北区の神戸電鉄三田線で急行電車(4両)が制限速度を超えてカーブに進入し、自動列車停止装置(ATS)が作動して急停止したトラブルで、現場カーブの制限速度が時速55キロだったことが国土交通省の調査でわかった。電車は制限速度を約25キロ上回る約80キロでカーブに差しかかったが、同社はカーブの制限速度を75キロと発表、速度超過は5キロだったとしていた。同社は誤って発表した理由を明らかにしていない。 |
右下枠5/21付けasahi.comに拠ると、200R曲線部の制限速度は先の試算通り55km/hであることが判明。先の「誤報」の文脈からして、制限速度80km/hで走行中の当該電車が過速度防止装置の速照値75km/hに当たって非常停止したというのを拡大解釈で「曲線の制限速度自体が75km/h」と勘違いして報じたものだろう。鉄道側は曲線制限55km/hについては触れなかったから「誤解」が一人歩きしたということか。「制限速度の誤発表については説明しなかった」って、速照値を曲線制限速度と勘違いしたのはマスコミ側だから「誤発表じゃなく、誤解だ」なんて言わずもがなの指摘をしなかったのだと思うが。その記事中でも「誤解を与える説明をしてしまったようだ」(末尾〜2節)としていて神戸電鉄としては「誤発表」とは思っていない。曲線制限値に触れなかったのは親切さを欠いた説明ではあり、過速度防止装置の設置図を示して説明していたらマスコミの誤解は避けられた。記者が過速度防止装置の構造・動作を知らずに抽象化した言葉だけで記事を書いている。
予め大枠を決めた予定稿を準備しては真実に逃げられる某珊瑚KY新聞も風の息新聞やK機長説新聞同様褒められたものではないが、「75km/h制限」の誤りに第1報で気付いた社が見られなかったのは残念。
(08/05/21 13:00追記)
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