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Geo日記
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[127]. ATS概説記事並列2本!
        伏せたい事項が浮き彫りに

  今月号('06/09)鉄道ピクトリアル(RP)誌にATS概説記事が2本並んでいて面白い。1本は指導監督側の国土交通省鉄道局施設課電気技術係長M氏による「昨今のATS導入経緯及び各社の取り組み状況について」、もう1本は設計製造側の京三製作所、日本鉄道電気技術協会派遣勤務K氏による「ATSの概歴と各システム」であり、一般公開情報の少ない分野に直接の指導監督、設計製造両側からの解説記事は貴重で有り難い。
 加えて、両記事の総論部を比較することで、触れて欲しくない部分、誘導したい部分が自然に浮き彫りになるわけで、刑事物ドラマで双方の言い分の差を突いて「さぁ白状しろ!」というお定まりのパターンに直結する確たる材料を提供しているのだ。取材の縛りで自由な評論の許されない鉄ヲタ雑誌の中でもお堅いRP誌編集部にも刑事物ドラマファンのお人の悪い策士が居るのかもしれない。ジャーナリズムたるもの、取材や広告を止められる怖れなどのタブー項を放置せず、読者に漏れ伝わる必死の工夫は是非是非忘れないで貰いたい。万策尽きたと思うと変なしがらみのない某紙に裏でネタを提供する噂は昔からあるが、理工・技系の話題は理論解析・技術評価が絡むので、理解できる素地がないと漏らしても広がりようがないから、そうしたリークは効かず正攻法で啓蒙解説に努力して理解できる層を増やすしかない。
 現在は、労働省指導型労災防止策であるエラー前提の安全対策を「素人考え」と退けてしまうほど誇り高い鉄道業に対する「葵の印籠」役を得るのは難しいからまずは理解できる層に働き掛けるなかなか適切な仕掛けだ。往年の労働省指導労災防止策への抵抗は続発する死亡労災事故の前に何とか原則を貫けたが、鉄道事故防止でそれが定着するには残念ながら更に多数の乗客乗員の犠牲を必要とするのだろうか。

     両記事の比較から浮き彫りになるのは、先ず
  1. '67年私鉄ATS通達(昭和42年鉄運第11号通達:停止信号ATS)の適用範囲とその廃止の問題、
  2. '68年前後の過速度転覆事故の対応=分岐器速度制限警報装置(過速度ATS)設置を国鉄任せにして放置
  3. 1941年網干駅急行追突惨事と、それを承けての山陽東海道鹿児島線ATSが連続コード式常時速度照査仕様だったこと、
などが後者概歴(鉄電協)には一部ボカしながらも概ね述べられているが、前者経緯(国交省)では私鉄ATS通達を除き見事にスッポ抜けていることだ。ほとんど知られていない1912年汐留−品川間での磁気誘導式ATS試験にまで触れながら1945年に完成間近で米軍の爆撃と設置工事再開不許可で潰えた東海道山陽鹿児島線常時速照ATSを外すなどは意図があからさまに過ぎて笑いを誘うが、衆院国交委05/05/16〜中旬の不当な北側国交相答弁の縛りを受ける役人としては非常に書き辛い部分ではある。

 第1項私鉄ATS通達経緯・概歴両記事にも触れる通り39年後の今日も有効で大事故を防いでいる優れた通達だが、なぜか国鉄には適用されず民営JR化前夜をもって廃止されて重大事故を繰り返している。監督庁として「保安度の高い優れた通達」の廃止理由ぐらいは述べたらどうだと思う。子細にみれば通達を直接誉めずに「……この時の構造基準では,速度照査機能を有するものを指示したため,保安度の高いシステムが各社で採用され,40年近く経過した現在の高速・高密度運転においても高い安全性を確保している」と各社のシステムを称えるほど気を遣って及び腰で書いてる様では無理な注文ではあるが。

 第2項は、この時点1968年頃に過速度事故に対する第2次ATS指導通達としていれば、たとえ安全限界ギリギリの荒い基準だったとしても後の福知山線惨事05/04/25は概ね避けられているし、運輸省通達に一般基準として定められれば少なくとも55km/h以上で無効な国鉄ATS-S型過速度防止装置を放置することにはならなかったから西明石事故84/10は起こらなかったし、宿毛事故も防げていた可能性がある。

 第3項の東海道山陽鹿児島線ATS速度照査式決定の事実は、戦前の鉄道省には私鉄ATS通達の仕様が必要であることが既に分かっていたことを示すもので、米占領軍の工事申請拒否が無ければ同時申請で許可された上越線電化と共に国鉄にも'46年〜採用されていたはずの安全なATS方式であったことを示している。これを後の国鉄公社は目覚まし時計仕様に貶めて現在に至るまで重大事故を繰り返したのだ。'05/05/16国交省答弁と直後の北側国交相答弁はこれを全否定して「停止信号手前で停止させるから国鉄型ATSも私鉄と同等の安全性がある」と強弁する不当なものだ。冒進可能速度でみる破壊エネルギー:最大冒進距離比を見れば、ATS-Sx:私鉄ATS通達仕様:ATS-P=36〜42:1:0 の大差があるのを「安全性は同じだ」という政府&北側国交相虚偽答弁(ctrl-F検索-梅田政府参考人^2〜^3等)は放置できない!

 両者が触れなかった信号ATS絡みの事故としては、無閉塞運転(停止信号進入運転)中の誤加速による追突事故である東海道線片浜事故'97/08/12と鹿児島線宗像海老津事故'02/02/22があり、通達廃止により残った運転装置連動常時投入式未改造車が起こした中央線スーパーあずさ衝突転覆事故'97/10/12がある。また最高速度を想定しない誤ったATS設置基準で起こされた土佐くろしお鉄道宿毛事故05/03/02を「想定外」とする歪曲がある。この事故を機に手前の「最高速度100km/hを越える行き止まり駅進入」の場合のみ設置基準を改める通達(平成17年国鉄技第195号)が出された。100km/h超に限定などと、算出基準エラーを顕在化させない工夫を凝らした姑息な指導通達だ。事故現場の設定に照らして言えば最高速度52km/h〜99km/hは車止めを最大約46m突き抜けるが無防備のままで良いということになる。(事業者側はその辺の国鉄・運輸省のミス隠しの意図がすぐ分かるから設置するだろうとは思うが……)

  無閉塞運転中の事故をATS機能検討対象から外す鉄道専門家側の論理としては「信号の指示を無視する運転中に信号によるATSでの制御は整合性が無く無意味」という主旨のものだが、信号機故障を前提に停止信号区間に路面電車並の速度で進入する訳で、その前提を崩す高速運転に制限を掛けるのは安全装置の機能として何ら非難される謂われはない。現に1960/12供用の京成・都営1号・京浜急行用1号型ATSには無閉塞運転中の15km/h速度照査機能があり、速度照査と無閉塞運転は排他的なものではないから、対策しないための素人騙しの屁理屈だ。

  現行ATS車上装置の簡単な改修法としては、現行ATS-Pが無閉塞運転開始後は停止信号進入50m以降制限速度青天井という仕様なのを、地上子のIDを辿って次の直下地上子検出までは15km/h制限維持とソフト設定を若干改めれば解決する。ATS-Sxでもその警報維持装置に倣って、無閉塞運転状態記憶ボタンを押すと次の信号直下でリセットするまで持続警報と15km/h制限が続くなどの安価な対策は採れるのだ。前出1号式ATSや、かってのATS-Bでは信号電流の有無でこれを検出しているのでATS-SxでもATS-Pでも同様に採り入れることができる。私鉄ATSの取りこぼす低速域の事故は大した被害にはならないが、無閉塞運転中の誤加速を止められないから片浜事故では70km/h超、宗像事故では全車廃車の41km/h余での衝突になる。これは誤出発でも同様で対向側が高速だから国交省が補助金まで付けて零細私鉄にまで設置したことには大きな意味がある。
 現行では宗像海老津事故を機に輸送指令の許可が無閉塞運転開始の条件となったが、荒天などで指令からの指示が錯綜する事態では先日の豪雨でJR西日本の指令が臨時速度制限を伝えきれず30km/h制限を130km/hで通過するなどのトラブルを現に引き起こしており、安全装置の安価な修正で実現できる改善は採り入れた方が良い。ソフト改修で済めば新車にはコストゼロ、現用車はソフト載せ換え作業の人件費だけで済むではないか。

  • 以下工事中!

    [重箱の隅]

      2本の記事とも主に「流れ」を読みとるべき記事だが、筆者が監督庁国交省と信号名門京三製作所と来ては鉄ヲタの間には微細な記述内容までが葵の印籠・不磨の大典扱いに成りかねないので、一読して気付いた誤記は重箱の隅までも突いておこう。……といっても個人のWebページなど葵の印籠には到底敵うべくもないが、ここで指摘して置かないと記事の文字列理解だけでの誤解が広がるのを見過ごすことになってしまう。(動作まで正確に理解すれば迂闊な誤記に気付くのだが文字列丸飲み型読者だと信じてしまう)
    2006/07/24 22:00
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