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今月号('06/09)鉄道ピクトリアル(RP)誌にATS概説記事が2本並んでいて面白い。1本は指導監督側の
国土交通省鉄道局施設課電気技術係長M氏による「昨今のATS導入
経緯及び各社の取り組み状況について」、もう1本は設計製造側の
京三製作所、日本鉄道電気技術協会派遣勤務K氏による「ATSの
概歴と各システム」であり、一般公開情報の少ない分野に直接の指導監督、設計製造両側からの解説記事は貴重で有り難い。
加えて、
両記事の総論部を比較することで、触れて欲しくない部分、誘導したい部分が自然に浮き彫りになるわけで、刑事物ドラマで双方の言い分の差を突いて「さぁ白状しろ!」というお定まりのパターンに直結する確たる材料を提供しているのだ。取材の縛りで自由な評論の許されない鉄ヲタ雑誌の中でもお堅いRP誌編集部にも刑事物ドラマファンのお人の悪い策士が居るのかもしれない。ジャーナリズムたるもの、取材や広告を止められる怖れなどのタブー項を放置せず、読者に漏れ伝わる必死の工夫は是非是非忘れないで貰いたい。万策尽きたと思うと変なしがらみのない某紙に裏でネタを提供する噂は昔からあるが、理工・技系の話題は理論解析・技術評価が絡むので、理解できる素地がないと漏らしても広がりようがないから、そうしたリークは効かず正攻法で啓蒙解説に努力して理解できる層を増やすしかない。
現在は、労働省指導型労災防止策であるエラー前提の安全対策を「素人考え」と退けてしまうほど誇り高い鉄道業に対する「葵の印籠」役を得るのは難しいからまずは理解できる層に働き掛けるなかなか適切な仕掛けだ。往年の労働省指導労災防止策への抵抗は続発する死亡労災事故の前に何とか原則を貫けたが、鉄道事故防止でそれが定着するには残念ながら更に多数の乗客乗員の犠牲を必要とするのだろうか。
両記事の比較から浮き彫りになるのは、先ず
- '67年私鉄ATS通達(昭和42年鉄運第11号通達:停止信号ATS)の適用範囲とその廃止の問題、
- '68年前後の過速度転覆事故の対応=分岐器速度制限警報装置(過速度ATS)設置を国鉄任せにして放置
- 1941年網干駅急行追突惨事と、それを承けての山陽東海道鹿児島線ATSが連続コード式常時速度照査仕様だったこと、
などが後者
概歴(鉄電協)には一部ボカしながらも概ね述べられているが、前者
経緯(国交省)では私鉄ATS通達を除き見事にスッポ抜けていることだ。ほとんど知られていない1912年汐留−品川間での磁気誘導式ATS試験にまで触れながら1945年に完成間近で米軍の爆撃と設置工事再開不許可で潰えた東海道山陽鹿児島線常時速照ATSを外すなどは意図があからさまに過ぎて笑いを誘うが、衆院国交委05/05/16〜中旬の不当な北側国交相答弁の縛りを受ける役人としては非常に書き辛い部分ではある。
第1項、
私鉄ATS通達は
経緯・概歴両記事にも触れる通り39年後の今日も有効で大事故を防いでいる優れた通達だが、なぜか国鉄には適用されず民営JR化前夜をもって廃止されて重大事故を繰り返している。監督庁として「保安度の高い優れた通達」の廃止理由ぐらいは述べたらどうだと思う。子細にみれば通達を直接誉めずに「……この時の構造基準では,速度照査機能を有するものを指示したため,保安度の高いシステムが各社で採用され,40年近く経過した現在の高速・高密度運転においても高い安全性を確保している」と各社のシステムを称えるほど気を遣って及び腰で書いてる様では無理な注文ではあるが。
第2項は、この時点1968年頃に過速度事故に対する第2次ATS指導通達としていれば、たとえ安全限界ギリギリの荒い基準だったとしても後の福知山線惨事05/04/25は概ね避けられているし、運輸省通達に一般基準として定められれば少なくとも55km/h以上で無効な国鉄ATS-S型過速度防止装置を放置することにはならなかったから西明石事故84/10は起こらなかったし、宿毛事故も防げていた可能性がある。
第3項の東海道山陽鹿児島線ATS速度照査式決定の事実は、戦前の鉄道省には私鉄ATS通達の仕様が必要であることが既に分かっていたことを示すもので、米占領軍の工事申請拒否が無ければ同時申請で許可された上越線電化と共に国鉄にも'46年〜採用されていたはずの安全なATS方式であったことを示している。これを後の国鉄公社は目覚まし時計仕様に貶めて現在に至るまで重大事故を繰り返したのだ。'05/05/16国交省答弁と直後の北側国交相答弁はこれを全否定して「停止信号手前で停止させるから国鉄型ATSも私鉄と同等の安全性がある」と強弁する不当なものだ。冒進可能速度でみる破壊エネルギー:最大冒進距離比を見れば、
ATS-Sx:私鉄ATS通達仕様:ATS-P=36〜42:1:0 の大差があるのを
「安全性は同じだ」という政府&北側国交相虚偽答弁(ctrl-F検索-梅田政府参考人^2〜^3等)は放置できない!
両者が触れなかった信号ATS絡みの事故としては、無閉塞運転(停止信号進入運転)中の誤加速による追突事故である東海道線片浜事故'97/08/12と鹿児島線宗像海老津事故'02/02/22があり、通達廃止により残った運転装置連動常時投入式未改造車が起こした中央線スーパーあずさ衝突転覆事故'97/10/12がある。また最高速度を想定しない誤ったATS設置基準で起こされた土佐くろしお鉄道宿毛事故05/03/02を「想定外」とする歪曲がある。この事故を機に手前の「最高速度100km/hを越える行き止まり駅進入」の場合のみ設置基準を改める
通達(平成17年国鉄技第195号)が出された。100km/h超に限定などと、算出基準エラーを顕在化させない工夫を凝らした姑息な指導通達だ。事故現場の設定に照らして言えば最高速度52km/h〜99km/hは車止めを最大約46m突き抜けるが無防備のままで良いということになる。(事業者側はその辺の国鉄・運輸省のミス隠しの意図がすぐ分かるから設置するだろうとは思うが……)
無閉塞運転中の事故をATS機能検討対象から外す鉄道専門家側の論理としては「信号の指示を無視する運転中に信号によるATSでの制御は整合性が無く無意味」という主旨のものだが、信号機故障を前提に停止信号区間に路面電車並の速度で進入する訳で、その前提を崩す高速運転に制限を掛けるのは安全装置の機能として何ら非難される謂われはない。現に1960/12供用の京成・都営1号・京浜急行用1号型ATSには無閉塞運転中の15km/h速度照査機能があり、速度照査と無閉塞運転は排他的なものではないから、対策しないための素人騙しの屁理屈だ。
現行ATS車上装置の簡単な改修法としては、現行ATS-Pが無閉塞運転開始後は停止信号進入50m以降制限速度青天井という仕様なのを、地上子のIDを辿って次の直下地上子検出までは15km/h制限維持とソフト設定を若干改めれば解決する。ATS-Sxでもその警報維持装置に倣って、無閉塞運転状態記憶ボタンを押すと次の信号直下でリセットするまで持続警報と15km/h制限が続くなどの安価な対策は採れるのだ。前出1号式ATSや、かってのATS-Bでは信号電流の有無でこれを検出しているのでATS-SxでもATS-Pでも同様に採り入れることができる。私鉄ATSの取りこぼす低速域の事故は大した被害にはならないが、無閉塞運転中の誤加速を止められないから片浜事故では70km/h超、宗像事故では全車廃車の41km/h余での衝突になる。これは誤出発でも同様で対向側が高速だから国交省が補助金まで付けて零細私鉄にまで設置したことには大きな意味がある。
現行では宗像海老津事故を機に輸送指令の許可が無閉塞運転開始の条件となったが、荒天などで指令からの指示が錯綜する事態では先日の豪雨でJR西日本の指令が臨時速度制限を伝えきれず30km/h制限を130km/hで通過するなどのトラブルを現に引き起こしており、安全装置の安価な修正で実現できる改善は採り入れた方が良い。ソフト改修で済めば新車にはコストゼロ、現用車はソフト載せ換え作業の人件費だけで済むではないか。
以下工事中!
[重箱の隅]
2本の記事とも主に「流れ」を読みとるべき記事だが、筆者が監督庁国交省と信号名門京三製作所と来ては鉄ヲタの間には微細な記述内容までが葵の印籠・不磨の大典扱いに成りかねないので、一読して気付いた誤記は重箱の隅までも突いておこう。……といっても個人のWebページなど葵の印籠には到底敵うべくもないが、ここで指摘して置かないと記事の文字列理解だけでの誤解が広がるのを見過ごすことになってしまう。(動作まで正確に理解すれば迂闊な誤記に気付くのだが文字列丸飲み型読者だと信じてしまう)
- まず読者としての要望だが、「概歴」は構造説明を含むものなので、稿を改めても紹介されてない構造や、変周式の新分類:×多変周→○多情報:などを解説して貰いたい。
変周式は一応の説明があるが、軸検知式とか磁気飽和型検知器、軌道コイル式などの基本構造の説明抜きに信号ATS門外漢に理解を求めるのには無理がある。これがないことで、ATS-SNとその他ATS-Sxが全く同じに解説されたり、信号現示を多変周地上子に割り付けた常時速度照査と時素速照過走防止を併用する京王小田急などの実体が伝えられなくなっている。先出の解説エラーは主に構造解説項が無いことでうまく整理しきれずに生じている。
ましてATSについては売れっ子鉄道ライター川島某氏などが良く理解しないままかなりデタラメな解説を広めていて一部訳が分からなくなっているから信号独占技術者の葵の印籠をかざして広汎に撒き散らされた誤謬を一掃して頂きたいものだ。信号ATS関係はここ4〜5年で急速に関心を持たれて来ており、数年前ならBBS2ちゃんねるにスレッドを建てても数週間保たずに落ちてしまったものが今は数本がまともな内容で落ちずに転がっており関心が広まっているから編集部にとっても採り上げて損はない状況になっているから近いうちにこの願いは叶うと思う。
- 安全確保の基本姿勢として、操作者の誤操作を大前提にするかどうかの検討が必要。当面の状況から難しいかもしれないが、ここには直接言及して欲しかった。
JR東日本は、信号ATS系についてはATS-PもATS-Psも最高速度からのパターンを生成して、基本的に冒進なしに停止するが、JR東日本以外のJR各社ではJR東海ATS-ST型を採用しY現示速度45km/h以下しか防御しないし、それも支障限界までは冒進過走する設定で、危険な高速側は「想定外」と称して放置だ。
そのため東海道線富士駅事故'01/04/18ではY現示には減速したものの、出発順を後回しにされたことを知らなかった貨物運転士が赤信号を見落として冒進し、その先の進行信号を見て誤出発してそれに気付いた出発列車からの防御無線を受けて非常停止したが合流するポイントを割り込み出発列車の進路を支障して停止した。衝突タイミングに紙一重の危ない事故だった。
危険な高速側を放置すれば最高速度で冒進して大事故になることは宿毛事故05/03/02が実証したが、それに対し「想定外」というJR東海の弁明は成り立たない。ATS-Pのコード制定・改訂協議には加わっていて、その仕様が最高速度からの防御であることを良く知った上で不採用を決めているではないか。
JR各社にはびこる今の理屈のままでは、閉塞信号に強制停止の設置を求めるのは素人の論理で「全線P採用やPなど保安設備の2重化を進めるJR東日本は素人」というアベコベの結論になってしまう。実際は抽象的なコストを枕詞にほとんどの安全対策を排除する東日本信号ATS系以外の鉄道専門家こそ安全対策には素人なのだが。
従前「鉄道専門家」の金看板で具体的判断基準の無い妄言を振りまいて曲線速照を否定していたのだから、尼崎過速度転覆惨事とその後の速照義務付けに一言あってしかるべきだ。その根拠のない論理で世論を誤導するのは反省して貰いたい。
曲線速照義務化については省令改正のための「技術基準検討委員会」を設置しその報告'05/11により'06/03に技術基準省令の改正を行い'06/07/01施行となったという部分(P100左下−右上)=「信号の現示及び線路の条件に応じ,自動的に列車を減速させ,又は停止させることができる装置を設けなければならない(太線が加入部)」と変えたが、これが閉塞信号での強制停止を含むものになるよう追及していかなければならない。(現行解釈は当然に閉塞信号への即停止地上子設置を除外して最高速度での冒進の危険性を放置している)。
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進行現示ではリレー接点が入で2つのコンデンサーが並列接続となり共振周波数は103kHzとなる。この地上子の応答を観測すると地上子コイルと2つのコンデンサの良否が判定できる。 信号が落ちたり停電するとリレー接点は断で共振周波数は129.3kHz=停止現示となる。
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「点制御(多情報式)」という新分類法は妥当だから支持するが、従前広く使われた「単変周式」「多変周式」という区分けとの関係は明記して貰いたい。地上子定期試験を電気検測車に拠る車上測定に変えるに当たり、単変周地上子の通り側を直接短絡ではなくコンデンサーを介しての短絡として共振周波数を持たせて国鉄JRなら130kHz−103kHzの2周波共振に改めたことで電気的には「単変周」はなくなってきている。論理で見たときに有効/無効で1共振周波数とは言えるが、これも強制振り子の位置マーカとして利用する様になって「単変周」という呼び方に固執する意味がなくなった。
すなわち総て多変周方式であり、それぞれの周波数に信号現示や制動パターン発生機能を割り当てて地上子に達するとその地点だけで様々な制御情報を伝えるから機能呼称として「点制御多情報式」は妥当なのだ。共振周波数に対し京王・小田急などは信号現示とその制限速度を割り当てているし、東武はそれに加えてパターン発生を割り当てているが、多変周地上子であることには変わりがない。この辺りも構造説明章を設けて重複項を整理していれば小見出し「点制御(多情報式)」が連続して現れることもなくなり説明が分かりやすくなった。
- 関西線で試験の変周型ATS-Pと、'86年末にH-ATSとして西明石など4駅に供用され1988年頃に名乗りが決まった現行トランスポンダ地上子式ATS-P(いわゆるATS-P')とは別物で「経緯P98右下L12」にその混同記載がある。
- ATS-SNと、それ以外のATS-Sxの違いについて総論的解説(P104右上L7)では正しく述べているが、JR各社ATSの項目を小見出しに建てた解説(P105右下L7〜)では全く同一視されて、ATS-SNにはATS-STで追加された車上時素速照専用機能が存在しないことには触れてない。構造的解説段を抜いたために生じた記述エラーだろう。
- ATS-Pの解説(P106左L2)では符号処理器(エンコーダ)と中継器(レピータ)を用いることを条件の様に述べているが、正しくはその制御コードで見るべきであり、この表現では無電源地上子のみを用いたATS-PNがATS-P地上装置の構造名とは理解されず、ATS-Pとは別物との誤解が確信を持って広がり、ATS-PN型とエンコーダ式の折衷型地上装置と推測されているJR東海ATS-PTなどはますます訳が分からなくなってしまう。
- ATS-Psは小見出しだけで、具体的説明はない(P106左L2)。ATS-Pのパターン動作の説明で共用したかったのだろうが、先にエンコーダ&レピータ式と限定したことでPsの解説は無くなっている。
- 宿毛事故の原因として「……想定を越える速度で列車が進入したようであり(P100左L4)」と述べているのは当たらない。手前区間で最高速度120km/hで走行しておりその間速度照査が無い以上何等かの原因で120km/hで突入してくることは有り得ることなのに、51km/hでの進入で停まれる位置にのみ警報地上子を置いたのだから、想定そのものが間違っている。
JR東海のATS-ST型過走防止装置装置も45km/h以下にのみ有効な設定だが、同じ理由で最高速度からの防御が必要だから想定外ではなく想定の誤りだ。この過走防止装置は分岐器過速度防止装置と本線・側線とも連動させる必要がある。最低限ならリレー論理の組み替えで済むし、速度切替で直線側の速照地上子を1個ずつ増やせば済むから自社改造なら大した金額にはならないはず。設計計算を標準化してEXCELにでも放り込んで信通の新人に任せ、ベテラン勢はその点検と表計算には乗らなかったネック部分を担当すれば処理能力はかなり向上するだろう。JR西日本が設計者不足でATS-Pを設置できなかったなどと、にわかには信じがたい。設計部門までがそんな簡単な提案も出来ないほど上意下達だったのか?!それとも人減らしが過ぎて誰も居なくなったのか?誰もソフト汎用化のリスクを負いたく無かったのか?ノーハウを隠したがるギルドの職人ではあるまいし技術屋というのは我が金にならなくても皆が使うようなツールは競って作りたがるものなのだが、JR西日本技術は未だストラディバリウス工房か?真相は上層部の虚構の言い訳だろう。
- 鉄道省が国鉄と運輸省鉄道局に分かれて、国鉄は自前監督、鉄道局は私鉄監督と別れたのだろうか?私鉄ATS通達内容の異常な扱いを見ていると、鉄道局には国鉄を監督する権限がほとんど無かったような印象を受ける。それが国鉄解体で力関係が逆転し指導対象にはなったが、規制緩和としてやはり口を挟めなくなって、手抜きを擁護する様になる!この辺りの裏情報は、とうに退官した人達が匿名で2チャンネルにでもバラせば良いものをと思ってしまう。あの優れた私鉄ATS通達を作った人達が、直後に立て続けに発生した過速度事故に対して速度照査ATS通達を検討しない訳がなく、それがどういう背景で潰れていって尼崎事故に至ったのかは情報公開される必要があるだろう。
- 最後に「経緯」は、従前の国交省答弁の制約の中、後続の「概歴」と併せて成果と問題点を明確にする上で良く表現されている。紛らわしい余計な言い訳を書かないことで問題点が浮き彫りになるのだから。
不足を埋める続編に大いに期待する。
- See→国交省令鉄道技術基準改定06/03/24発
速度照査設置基準、運行記録器、デッドマン相当機器、など設置義務化。
「曲線、分岐器、線路終端、その他重大な事故を起こすおそれのある箇所への速度を制限するための装置の設置を義務化」
(下線部には解釈の余地もあり、採否は各鉄道事業者の判断に委ねる=国交省に責任は無い、の意になりかねない。拠点Pの閉塞信号放置は事業者責任として許容され、事故になれば取捨の判断をした事業者自身の責任で、国交省には責任がないと読める)
See→過走防止、速度照査通達05/03/29
2006/07/24 22:00
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