9/1 に決議されて9/6解禁で報道機関に配布されていた事故調査委員会の建議書と中間経過報告は刺客選挙中にも拘わらず各紙とも結構なスペースを割いて報道していたが、通り一遍というか当初の誤報・誤解を復活させたりして若干食い足りない感じが残った。
朝日、読売、毎日、日経、東京、赤旗各紙の当該記事(9/7朝刊)を読み比べると、
- ユニークさでは東京が「過走報告の列車無線に気を取られて上の空で転覆脱線」推定(これは大いに有り得る)。他紙とは違い、緩解可能な直通予備ブレーキの使用を異常扱いしていない。運転士個人責任論に矮小化させない妥当な報道だ。
- 居眠り、或いは逆噴射誘導が読売。
- 調査官の定員不足問題を指摘したのは朝日、
- その増員要求で毎日。
- 懲罰的日勤教育問題に触れているのは朝日、赤旗。
- JR西日本の「稼ぐ」優先の企業体質問題の指摘は赤旗。(これはスポンサーの怖い一般商業紙では言えないか?)
- JR化時の私鉄ATS通達廃止問題を採り上げて運輸省/国交省の指導監督責任を問うているのが赤旗1紙。'68年頃多発の過速度転覆対策を各事業者任せにして第2のATS通達を出さなかったことが今回惨事に直結したことに触れていたら「秀」評価だったが、こんな重要問題に他紙が及び腰なのは何故だろう?
速度照査機能義務化はまたも先送りの課題にされ、国交大臣の「ATS-P義務化路線指定」方針も有耶無耶にされつつあるが、過走制動距離比で
ATS-Sx:私鉄通達:ATS-P=36:1:0 (条件=120km/h:20km/h:0km/h)
実制動距離で云えば、減速度4km/h/sとして
500m:14m:0m という著しい安全度の差があるのだから速度照査機能義務化は実現まで追求され続ける必要がある。この劇的な数値比率を話題がホットなうちに大アピールすべきだった。具体的でないと拡がらないのだから、「常時速度照査機能の必要性」だけではまだ抽象的に過ぎたのだ。
超安価なATS-Sx速照機能付加試案はここ!。車上に簡単なボード1枚増設で全閉塞に亘り私鉄ATS通達仕様に準ずる安全度を実現できる。お勧めはATS−P/−Psなのは変わらないが、それが高価に過ぎるという非難へのよりましな代案である。
- 事故後一度もマスコミ側からは話題にならなかったから仕方ないが、ATC区間でも運転士が速度制限を守る地点が結構ありこの対応には何処も触れてない。ここは安全限界速度を想定して点検する必要がある。今回出された通達は安全限界より厳しい「乗り心地限界速度」(=一般の制限速度)だった。衝撃的な大事故で厳しい基準になったのは分かるが、後述の信号速度照査機能義務化との関係では均一リスクで全体の安全を守ることが妥当なのだから、安全限界に緩和するのと引き替えに調整すべきではなかろうか。ATCでの過速度運転を公表したJR東日本は結果的に上手に非難の芽を摘んだ。
- 派手なチョンボが毎日「記者の目」で、信号ATSであるATS-Pと過速度ATSとを「新型ATS」として混同したまま論議を進めてしまった。
過速度ATS設置基準制定と、信号ATSに速度照査機能義務付けが必要なことは分けて理解して欲しい。今回設置義務を課したのは-P/-SWを問わず曲線入り口の過速度ATSだけなのだ。
- これは赤旗の解説でも括弧内に「−P」2文字が入ったことで正確さの印象を大きく落としてしまっている。これが無く「自動列車停止装置(ATS)」表記であれば全く妥当な解説だ。党存亡を掛けた選挙戦中なのに水準のものが書けている。
- その「ライバル」日経は経済紙なのに解禁当日6日の夕刊にいち早く掲載。7日の社説で建議実行・事故原因の除去を強調。信号ATS速照義務化を言ってれば文句ないのだが残念ながらそれは入ってない。
日経は赤旗スクープのレスポンスが他紙に比べ非常に早く、その日経夕刊を他紙が翌朝追ったりして。日経は「階級的ライバル紙」を非常に良く読んでいる!ATS-P設置予算激減を示す年次毎支出推移などは日経がすぐ追いかけ、その後毎日が追ったが、毎日記事の予算推移グラフは丸ごとコピペみたいなものだった。営団地下鉄のガードレール設置基準が格段に緩いのを抜いたとき夕刊で追ったのは日経1紙で他紙は、全鉄道ガードレール設置基準(朝日)など翌朝の記事だった。他紙のスタンスは「弱小政党機関紙相手にせず」なのか?主たる側面は社会部ネタに政党機関誌が対等に割り込んで時に一般紙を抜いていることに驚くべきなのだろう。流石は共産党地下鉄委員会!現場・当事者が取材に噛んでるところは強い!また自分の仕事についての見解を持っている集団(労働組合、政党職場支部など)は信頼されやすい。極左暴力集団中核派に近く危ういと思われている千葉動労が従前から一貫して技術的見解を出し続けていて、今回の事故と鉄建公団訴訟支援でかなり見直されている。国労組合員たちの必死の頑張りで国労中央一部幹部の画策した鉄建公団訴訟提訴処分を押し止めて辞任に追い込み国鉄争議を吹き消させなかった訳だが、その功績評価は組織としては千葉動労が多くさらってしまったようである。
「速度抑制型ATS」という赤旗の表現は「速度照査型ATS」を意味する一般読者向けの造語だが、どうも抵抗感が取れないのは私が鉄ヲタ故なのか?ATS-SWの3機能をきちんと解説した記事はここだけだった様だし、一般読者に分かる記事という姿勢は支持するが、その抵抗感は私が慣れるしかないのかも知れない。阪神淡路大震災で死語に近かった「gal(=cm/s2)」が定着したように「速度照査」で一般世間に定着させて良いと思うのだけどそれは文系感覚には受け容れられない理工系感覚だろうか?他紙では「照査」も見掛けるが。
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