ATS-ST車上時素式過走防止装置

【 問題提起 】

 2地上子による地点速度照査は、本来、分岐過速度防止装置として開発され、各分岐毎に3対余設置されました。これを端頭駅などの過走防止装置としても採用しました。それが、どの様な原理で配置されるのかはテキストに記述がありません。そこでいくつかの試算で推定を試みます。
(-ST/-SF過走防止装置につき資料リンクは
実地調査結果
最良性能設営法(案)
S地上子
概説)

時素型速照対群による過走防止装置比較

位置均等割、過走限度調整


速度均等割、過走限度調整



  地上子設置位置について、位置均等割(上)と速度均等割(下)を比較すると、一見して位置均等割の方が過走距離が揃っていて、#0(直下非常制動地上子)から1径間以内に停車することが分かる。すなわち直下地上子を閉塞端から1径間以上手前に設置すればY現示制限を守った列車は総て閉塞手前に停止させることが出来る。しかしながら、最終照査速度が高くなる。

  一方、速度均等割では、高速側ほど過走位置が伸びて余裕を大きく採る必要がある。

  しかしながら、その分のオフセットとして照査速度設定値を一径間ずつ手前にズラして設定すると、停止点の差は進行手前側に吸収されて問題なくなり、高速側に余裕度を取りながら低速側の照査速度が均等割で低くできる。高速側は限界速度より低めでも時間損失はさほど大きくならない。

  この図から見ると、過走を厳密に管理したい端頭駅過走防止では、速度均等割、位置1径間手前オフセット式を採用したい。

  過走余裕の採れる出発信号併設過走防止では(富士駅事故の過走距離と設定位置からみて)オフセット設定は無かったのではないか。


 <fig>
OER式過走防止

  この点、小田急連続式は照査速度設定に制限があるので、過走先端を合わせるのは難しいだろう。径間数を2倍に採れるので過走差を小さくは出来る。小田急新宿駅では12径間ほどあった様に見受ける。OER ATSの最低照査速度が18km/hだから、1径間当たりの減速設定が1.5km/hとなり、その問題を許容誤差として吸収しているのだろう。京王の7対14基+直下より2基少ないが、時素型で厳密な過走防御を行うには設定自由度が少ない分照査点を増やす他なく、パターン式が理想だから当然といえば当然の結果である。

  端頭駅小田急新宿&京王新宿の過走防止設定の推定図は以下の通り。

OER新宿過走防止



KTR新宿過走防止




貨物:速度均等割、過走限度調整



【 解析&試算 】

  強制停止の考え方として、
(1).フルスピードからの停止
(2).Y現示制限速度からの停止
があり、安全装置としては当然(1).フルスピードからの停止が本来で、私鉄ATS通達(s42年鉄運11号'67/01)の2段〜100km/h超で3段階速度照査はこれに当たります。ところが過走防止となると、設置位置から推定してJRはY現示速度を前提に設置でY現示制限を守らなければ無効、私鉄は速度照査付のYY現示など最低照査速度を前提に設置していると思われます。
 Y現示速度以上、フルスピードを防御しないATS−Sx系の欠陥放置の当否はさておき、JRも私鉄もATS時素型地点速照で構成する「過走防止装置」としては、Y現示速度など中間制限速度を分割して過走を制限する方式になっています。
  空走時間のある場合の停止距離計算はATS-Sx地上子設営基準を引用します。ここで、
初速r[km/h]
分割数
空走時間[秒]
減速度 β[km/h/s]、 減速定数 K=7.2*β、 α=β/3.6 [m/s2]
各点減速距離 [m]
各点空走距離 [m]
各点停止距離 [m]
とするときに、以下の関係が成立、その式の平方を完成させると函数形が見えてきます。
=L+F=V^2/K+V/3.6*T
K*S=V^2+V*K*T/3.6
=V^2+V*K*T/3.6+(K*T/7.2)^2−(K*T/7.2)^2
=(V+K*T/7.2)^2−(K*T/7.2)^2
∴ S =(V+K*T/7.2)^2/KK*(T/7.2)^2 ……… (1)
この式は横に凸の放物線です
∴S=0の場合、
(V+K*T/7.2)^2=(K*T/7.2)^2 となるから
V+K*T/7.2=±K*T/7.2
=−K*T/7.2±K*T/7.2
0 or (−K*T/3.6)
また、放物線頂点(=中心軸座標)は、V0=−K*T/7.2 となり
その時のS0=−K*(T/7.2)^2となる。
すなわち、
軸の方程式 V=−K*T/7.2    (一定) ……… (2)
頂点(V0,S0=(−K*T/7.2,−K*(T/7.2)^2) ……… (3)
通過点(V,S)=(0,0) & (−K*T/3.6,0) ……… (4)
V自乗項係数が=1/K の横に凸の放物線となる ……… (5)
 以上より、突入速度をn分割するに際して、【 停止距離均等割 】【 速度均等割 】が考えられ、それぞれ算出します。

【 停止距離均等割 】

Sy=Vy^2/K+Vy/3.6*T
Si=(i/n)*Sy=(i/n)*(Vy^2/K+Vy/3.6*T)
=(Vi+K*T/7.2)^2/K−K*(T/7.2)^2
 からViを求めると
Vi+K*T/7.2=±sqrt{(K*T/7.2)^2+(i/n)*(Vy^2+KVy/3.6*T)}
Vi =−K*T/7.2±sqrt{(K*T/7.2)^2+(i/n)*(Vy^2+K*T*Vy/3.6)}
 …(上記中の正根)………… (6)


【 速度均等割 】

Vi=(i/n)Vy
Si=Vi^2/K+Vi/3.6*T
   (i/n)^2*Vy^2/K+(i/n)*Vy*T/3.6 ……… (7)


【 設定値試算 】

 距離、速度それぞれ均等割の試算条件として、Y現示旅客&貨物、YY現示、最高速G現示、5分割〜、を想定
現示&条件速度
km/h
空走
減速度
km/h/s
分割
n
備考
G現示1200.53.4308最高速
Y現示旅客650.54.05(私鉄)
Y現示旅客550.54.05
Y現示貨物454.52.05
YY現示250.54.05(私鉄)

地上子位置iは下図(表)の通り。
初速Vr km/h45 55 65120備考
分割数55 58
空走時間T [秒]4.50.5 0.50.5
減速度β km/h/s2.083 4.0004.0003.430
(減速定数K  )15.00 28.8028.8024.70
最大減速距離L [m]135.00 105.03146.70583.09
最大空走距離F [m]56.25 7.649.0316.67
初速 Vr45 5565120km/h
等間隔分割方式位置
照査
km/h
位置m照査
km/h
位置m照査
km/h
位置m照査
km/h
√00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00直下
√1138.2516.3522.5323.5531.1528.0274.9741.35
√2276.5025.7745.0734.0862.2940.40149.9459.16
√33114.7533.1667.6042.1793.4449.91224.9172.83
√44153.0039.4490.1448.99124.5857.93299.8884.36
√55191.2545.00112.6755.00155.7365.00374.8594.51
√66449.82103.70
√77524.79112.14
√88599.76120.00
最大過走距離38.2522.53 31.1574.97
等減速度分割方式位置
照査
km/h
位置m照査
km/h
位置m照査
km/h
位置m照査
km/h
0 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00直下
116.659.005.7311.007.6713.0011.1915.00
244.1018.0019.8622.0027.0826.0040.6130.00
382.3527.0042.4033.0058.2339.0088.2545.00
4131.4036.0073.3344.00101.1152.00154.1160.00
5191.2545.00112.6755.00155.7365.00238.1975.00
6340.4990.00
7461.01105.00
8599.76120.00
最大過走距離59.8539.33 54.62138.75
  1. 等間隔分割方式は、どの速照対で非常制動が働いても過走距離がほとんど変わらない
  2. 等減速度分割方式は、高速の速照対ほど過走距離が増える。
  3. その分手前に速照対を設置して、過走距離を合わせることは可能だが、想定減速パターンは低減速度となる。
  4. 低速で当たる確立の方が高いことで、低速側を密に照査するという考え方と、高速側の方が危険度が高いので、少なくとも平等な過走距離で地上子を設定するという考え方を採り得るが、等間隔方式の方が過走余裕を小さく出来る。
  5. Y現示速度からの過走防御が基本の様だ。ATS−Sxでは最高速度の防御は行われていない。
  6. ATS−ST過走防止5段は、速度照査のある私鉄ATSでの過走防止4段と等価か、過速可能分防御が薄い。

(過走防御=Y現示速度防御、信号全速防御=不使用)


mail to: adrs
前頁 戻る LIST
Last Upload:    Last Update: 2004/04/02