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岐阜羽島駅780m過走は豪雪中過走だった!
東急東横、名鉄新羽島、西武田無と共通事象

岐阜羽島駅780m過走事故

・・・・・・。冬も迫ってきた昭和42年12月9日のことである。この日は日曜日であった。 自宅の鉄道電話が鳴りひびいた。相手は運転司令長である。
 「報告します。ただいま名古屋発新大阪行『こだま201号』列車が岐阜羽島で停止位置で止まらず、通過する事故が発生。 長良川橋梁を過ぎ、760m先の地点で停止中。死傷者なし」
 「それでは至急、運転士は前から後ろの運転室に移り、列車を羽島駅に戻すこと。 決してバック運転をしてはならない。 客扱いを終わった後、直ちに発車してくれ。発車後、再度自宅に電話してくれ」
 「了解」
 10分後、電話がきた。
 「客扱いを終了し、8分の遅れで出発しました」
 「乗客は騒いでいるか。米原・京都・新大阪ともよく連絡しておいてくれ。 13時にこの件で協議をするから、関係者に集まるよう連絡を頼む」 ということで指示を与えた。
・・・・・・・・中略・・・・
 13時、車両課、保線課、列車課、旅客課の一同が会議室に集まった。 実情報告を列車課長が始めた。
 運転士からの報告によれば、当日は「名古屋出発時より吹雪となり、列車の前方はこの”伊吹おろし”のため確認が良くできない。 運転室の車内信号はノッチを入れると210信号を現示する。列車の速度は110km/h程度であった。 全くATCによる信号現示は狂ってしまって 危険この上ない。
ブレーキをかけると、今度は氷雪のため車輪とレールの粘着力が低く、滑走する。 この滑走と空転を繰り返し、運転を続けた。
吹雪はいよいよ激しく、ノッチを入れたり、ブレーキをかけたり、注意を重ね全力を尽くして運転したが、せっかくの車内信号が当てにならず、岐阜羽島駅の70信号もこのために減速せず、120km/hで副本線に突入した。
B点(30km/hで(確認ボタン)スイッチを押すとマニュアルブレーキとなる(停止コマンド))を80km/hで過ぎ、最後の要(ママ:砦?)である絶対停止区間長さ50m(これを03という)も過ぎ、本線に出てしまった。 そして、ようやく長良川橋梁を越えて停止した」
・・・・・・・・中略・・・・
速度計軸、制動力1/2→0→後部車両へ。 & 分岐の進行定位・・・・・・
・・・・・・・・中略・・・・実現した。
私(斎藤雅男氏)は直ちに本社に出掛けて関係幹部にこのことを説明した。 ところが

?(以下1行欠落か?:(本社関係幹部)「報告不要」)

(斎藤)「重大事故一歩手前だったのに、報告不要とは何事ですか」
   (本社関係幹部)「君、列車遅れが10分以内では報告の要なし、ということになってるよ」
(斎藤)「それは百も承知です。 しかし事故の内容から、一歩誤れば今頃は長良川に落下し、大事故になっていますよ」
と言い捨てて外に出た。 この件は、その後も一切の報告も記録もない。
「新幹線安全神話はこうして作られた」斉藤雅男著日刊工業新聞社2006/09/25刊p204L3
 新幹線の岐阜羽島駅での800m過走事故1967/12/09は、柳田邦男著「新幹線事故」などには取り上げられていても公式記録にはない様で、詳細はわからず、新幹線特有のブレーキシステム絡みの過走事故と思っていました。 ところが、そうではなく、豪雪中の空転・滑走がらみの過走事故だったことが、その事故処理を直接指揮した斉藤雅男氏の著書「新幹線安全神話はこうして作られた」p204に具体的に述べられていました。 規定通りの非報告案件(=10分未満の遅延)に留めたのも斉藤氏の裁量で、その結果、公式記録には載っていない事故になった模様です。 大きな過走事故はこのほかにも1965/05/04名古屋駅380m過走、1967/07/23岐阜羽島駅??m過走、などを繰り返し起こしています。

 正規停止位置に新幹線列車を止めるための「B点」は、場内側分岐制限速度の70km/h以下で突入して停止コマンドを受ける点を言い、30km/h以下で確認ボタンにより緩解して手動制動に切り替えるものですが、その記事に依れば、副本線(の分岐)に120km/hで突入、B点を80km/hで過ぎて、停止点を780m過ぎて停止したことになります。
 運転士の証言は、どうも未整理で、各事象に時間的な前後が感じられて、異常体験として「空転で加速できない」、「ブレーキが良く効かず区間内で減速しきれない」、「空転や滑走で、速度計表示が当てにならない」といった項目が混じり合って認識されているようで、このとき運行記録計のデータを取り出して保存していたら原因がはっきりしたはずものです。
 事故当時の信号現示としては、210→160→70(分岐制限)→ホーム区間(B点)0(確認扱い30)と変わったはずで、閉塞割りは判りませんが、駅間の本線区間では1.5km前後(=3kmの2分割)が標準のはず。
 当時、運転室では運行記録計により自動的に4秒ごとの印字記録がされており、これが保管されて公開されていれば、もっとはっきり異常原因に接近出来たでしょう。10分未満の遅れとして何も無かったことにした措置が重要なデータを埋もれさせてしまったようです。

【 減速定数 】(予備知識)  <1.1>

 等減速度の制動(=等加速度運動)の場合、制動距離Lは、初速度Vの2乗に比例します。
この比例定数の逆数K,(β)を減速定数と定義しています。すなわち式は、
   L=V2/K です。
この基本式から、V1→→V2 への減速距離Lを計算するには、V1、V2それぞれの停止距離の差で求めます。
すなわち L=L1−L2 =V12/K−V22/K =(V12−V22)/K
よって 減速定数K=(V12−V22)/L

 新幹線の走行特性は、高速になるほど滑走・空転しやすくなって、0系車両での試算の目安として、東海道開業からしばらくの間は
    μ=13.6/(85+V), μ;粘着係数,V;列車速度: See→新幹線制動問題(斉藤雅男)
を使うよう定められています。 日常は、加速も減速もこの粘着係数以下に抑えないと空転や滑走を起こしやすくなります。 これが降雪、降雨、汚損などで小さくなると思わぬ滑走や空転を起こします。
 μを加速度、減速度に換算しますと、
    α=9.8*μ [m/s2]=35.28*μ [km/h/s] (=254.016*μ [K:減速定数] となります。
新幹線の規定減速度βを70km/hと160km/hで試算しますと
  β(160)=35.28×(13.6/(85+160))=1.809 [km/h/s]  (=13.0 [K])
   β(70)=35.28×(13.6/(85+70)) =3.096 [km/h/s]  (=22.3 [K])
    β(0)=35.28×(13.6/(85+0)) =5.645 [km/h/s]  (=40.6 [K])
が、正常時の滑走限界基準値とみなすことになります。

 在来線では、低速運行で誤差範囲と見なすことで、粘着力の速度依存性は無視して減速度が規定されており、
JR西日本の通勤電車に搭載のATS-P車上装置の減速度設定は 3.2 [km/h/s]、(≦常用最大制動@55km/h以下:23.04 K)、
近年の電車、気動車の非常制動減速度が 4.0 [km/h/s]、(=28.8 K)
というのが標準的な値です。

 豪雪時の追突・過走事故データですと
K=8、β=1.1111・・・・[km/h/s]:80km/h→40km/h が、東急東横線元住吉駅追突事故(2014/02/15:TSC記録、一段制動ATCの改善?)
β≒1 km/h/s前後と推定が、名鉄羽島線新羽島駅特攻事故(2002/01/03:事故調推定、耐雪ブレーキ使用基準改定)
β≒1 km/h/s前後:60km/h→40km/h が、西武新宿線田無駅追突事故(1986/03/23:推定、耐雪ブレーキを装備)
であり、常時の減速度の1/3程度に落ちて、事故となっています。

【 岐阜羽島駅800m過走動作試算 】  <1.2>


【 新幹線追い抜き中間駅構造図 】

停目」を基準に「過走距離」と「B点位置」から状況推定
岐阜羽島駅は豪雪難所、関ヶ原関連のトラブルに備えて上下に通過線と島式ホーム2面4線、計6線を備えている。 上図上半分の2面2線より島式ホーム分駅が大きい。
 算出基準点をB点、停止標識、過走距離にとって、通常B点通過速度70km/h、過走車両B点通過速度80km/h、新幹線開業当時のB点位置を475m(=550ー50ー15ー10)として減速度比を算出しますと、
平常時の平均減速定数がK=702/475=10.315、(≒1.433km/h/s)に対して、
過走時はK=802/(475+780)=5.100 (≒0.7083km/h/s)となっており、
減速度が約半分に落ちただけで十分あり得る値です。
 後日、輸送力増強に列車密度を上げるため、B点を列車ごとの踏み込み送信としてホームへ高速侵入させて減速度を大きく採りましたが、それでも2.222km/h/s程度の減速度(:K=16前後)ですから、岐阜羽島駅過走事故では激しい降雪で約1/3の異常な値に落ちていることが判ります。

 駅接近の減速も算出してみます。新幹線の閉塞区間の標準的な長さは3000mとされていますが、それが2分割されていまして、駅付近では半分単位と考えました。
 210km/h→160km/hで1500m以内での減速は、
    K=(2102−1602)/1500=12.333 (=1.712km/h/s)
この減速度の値は高速領域ですから平時でもなかなか厳しく、降雪時に停まりきれなかったのは無理がありません。
 同様に160km/h→70km/hを1500m以内で減速するには、
    K=(1602−702)/1500=13.8 (=1.917km/h/s)、 です。
210km/h→→80km/h/s で、3000mの距離だった場合の平均減速定数・減速度としては、
    K=(2102−802)/3000=12.567 (=1.7453km/h/s)です。

 先の項での減速力の試算が、  β(70)=3.096 [km/h/s]、β(160)=1.809 [km/h/s] では規定の減速度限界を超えてしまいますので、以上の値は、1500mより長い減速区間長が必要なこと、新幹線の元々の減速度設定がギリギリで余裕の少ないことも示していて、降雪時の滑走の影響は出やすい条件であることが判ります。

 この減速度1/3という値は、豪雪中で起きた東急東横線元住吉駅追突事故、名鉄新羽島過走脱線事故、西武新宿線田無駅追突事故にほぼ共通した減少値で、豪雪に見舞われたらあり得る減速度ということになります。 0系車両のこだま210号も運転中、滑走と空転が著しく、ATC速度現示も当てにできないほどの状況ですから、滑走・空転しない軸からの速度信号取得と、滑走・空転を感じる場合の保安装置の減速度設定を、常時より緩やかな「降雪モード」に切り替える必要性のあることを示していました。

 東海道・山陽新幹線での近年の700系の滑走対策としては、速度計信号を16両編成列車中央軸から採り、先頭車、2両目、8−9両目、15−16両目の制動力を弱めることで対応。 制動力比で、1、8、9、16両目の4両を40%、2両目、15両目の2両を95%、残り3−7両目、10−14両目の10両を125%として平均100%とすることで滑走対策としています。 短編成の九州や秋田・山形では先頭軸を避けて速度計信号を採っているようですが詳細不詳です。 九州800系は0系と同じく全電動車なので空転しやすいでしょう。 新幹線ではしばらく過走事故を聞かなくなりましたが、これらで対応できているのでしょうか?
 1両〜16両と編成長の大きく変わる在来線では、速度計軸を後ろの車両にする方式は現実的ではないでしょう。

 また、処罰基準と、異常報告・記録基準は分けないと、重要な安全対策が遅れてしまいます。 「10分以内の遅れは報告無用」という単純基準では、無用の処罰回避には適切ですが、安全対策に穴を生じさせてしまいました。 運行記録計の印字データは本当に保存されてないのでしょうか?


最近の中国高速鉄道の『復興』
〜世界のリーダー的地位の確立?〜
     曽根悟教授トピックス講座聴講雑感  <2>

 一部で「日本を超えた」と言われる中国新幹線の概略説明を12/16午後の半日余、日本の鉄道界の大御所、曽根悟工学院大特任教授の社会人トピックス講座「最近の中国高速鉄道の『復興』/〜世界のリーダー的地位の確立?〜」講義で聴いてきました。
 概略で申しますと、
 路線長規模と、最高速度と、陣容と、国策助成で大きく中国に抜かれて、全世界の高速鉄道路線長の2/3が中国という状況になっているが、部品・コンポーネントは輸入が多くて日本の業界も潤うwin-winの相互依存関係があり、新幹線完成車両の輸出こそ絶えたが巷間云われるほど日本に不利な状況にはない。 技術開発力はまだ日本が優れている。 日中双方の長所を生かした協力関係に!技術開発力は日本、従事者陣容は中国で協力関係を。
というのが180分間の講義の背骨になって、主に数年前までの中国新幹線事情が話され、個々の中国新幹線事情の話としてはなかなか興味深く聴いてきました。 聴講は70数名+マスコミ取材5前後と「トピックス講座」としてはかなり盛況でした。 以下ランダムに雑情報と雑感。

代用閉塞ミス!: 事故車両を即座に田んぼに埋めて驚かれた問題の中国新幹線衝突事故は、信号故障発生で衝突したのではなく、故障対応の人為ミスで、「代用閉塞手続き」を誤ってしまい、「高速在来線」相当の区間で低速徐行進行の先行列車の走行中の区間に、次列車を90km/hほどで進入させて追突に至った。 すなわち信号故障区間に人力制御で列車を進入させる手順を誤って追突に至ったもの。
 先行列車はドイツ系、追突列車は日本系設計で、欧米系の衝突強度規格は丈夫だが、実際の衝突の結果は日本系も結構頑丈で、差は見られなかったが、なぜかそれを誰も指摘していない。

世界唯一350km/h運転: この事故の後、中国鉄道幹部が「腐敗発覚」として更迭された後、新幹部の就任方針として350km/h運転を中止し、最高300km/hとした状態がしばらく続いたが、それは事故対応として具体的根拠で定められたのでははなく「新幹部就任新方針」の色彩。 最近350km/h〜380km/hの高速運転を復活させて中国新幹線が世界一の運行速度となった。 高速運行で320km/h〜300km/hの日本は置いていかれつつある。 CRH-380Aは日(E2→CRH2)系、CRH-380Bは独(シーメンス:CRH3)系を中国が改良、CRH400は、従前のCRH380Aにほぼ同じで、400km/h運行に見合った開発運行試験はしていない。営業運転の最高速度は、経験則として10%増しの速度で走り込んでトラブルを出し切るものだが、そういう試験はしていないので380A相当のママ。 車両の信頼性で日本系(CRH380A、CRH2)が優位にある。

鉄道コンサルタント不存在!:育成急務 鉄道は、各国ローカルの環境・条件に適合したものが重要で、固定したパターンを押しつけるべきでない。現状、「新幹線型」「TGV型」など丸ごとの移植合戦で、現地状況が軽んじられていて、政権トップ合意で強行しても、その次に繋がらない危惧が大きくなっている。
 設計仕様ができあがるのを待って入札する姿勢ではなく、全体設計を行う鉄道コンサルタントが必要だが、日本ではこれが各鉄道事業者自社内部専門で、国外に向けては全く存在しないことが問題。 欧州系のボンバルディアがアジアでは現地の意見を集約する方向を強めていて、現状では持って行かれてしまう。
 たとえば、複線線路間隔や架線電圧の規格を考えても、固定した標準など有り得ず、山がちでトンネルの多い日本では4.2m〜4.3m間隔でトンネル断面積64m2として断面積比例で工事費を下げる代わりに、700系、E5系のような先頭車を特殊な形状にして客室を半減させるような形状が求められる。 中国では線路間隔5m、トンネル断面積105m2で、700系の様な特殊形状の車両は使ってない。 都市部など低速の一部を除いてトンネルの無いインド新幹線に日本規格の4.2m間隔を持ち込んではいけない。
 日本の標準、複線トンネルでは火災時の逃げ場がない。単線トンネル並列で逆線への避難路は世界の常識。
 同じく、独立の乗務員扉など無用。台湾T700では取り去っている。日本固有の無益な慣習。
 新幹線が荷物の多い観光客向きでなく、ビジネス客に特化で、さらに国外観光客向けパスがのぞみ除外で数少ないひかりに集中し京都などで乗り降りに障害を起こしてる。荷物置き場のない車両構造と、のぞみ除外パスに大問題。
 ヨーロッパ系の国際標準規格では±10%が架線電圧規格で、22.5kV〜27.5kVだが、日本の新幹線規格では22.5kV〜30kV(山形秋田18kV?〜30kV)で、実運用では国際標準規格よりも日本規格が優れている。
 ガラパゴス規格は弱点ではない。そういう各地に適合した仕様規格をまとめ上げるコンサルが日本にないことが問題なのだ。

どちらに転ぶだろう?
コピーから独自
i−phone現象

 曽根悟教授の話を聞いて、将来予測提言に関しては、i-phone型に企画・技術力で成功裏にいけるのか、一般大量生産品のように数多く作るところに技術開発の中心が持って行かれてしまうのか、可能性としては了だが、現実がどう転がるか、まだまだ判断が付かないと思ってしまった。 「鉄道産業」に限定しての話だから、iーphone開発のような自由度はなく、生産規模で大きく追い越され、理工科系軽視で真っ先にリストラ対象とされ優秀層がネットカフェ難民化に追い込まれてしまう日本の体制では開発力の維持などかなり困難ですから、多国籍化した企業だけが潤って、働く者はさらに貧困化を深めるのではないでしょうか? 竹中・小泉路線、中曽根路線以降一貫して国民福祉・労働条件の切り下げ、権利抑制路線:最低限の労働者保護規定を「岩盤規制」として破壊する安倍ノミクス攻撃で現状に至り、マスコミ支配で有効な反撃も出来ていないで、さらに極端な安倍ノミクスが繰り返し強行されている状況では、アメリカの繊維・鉄鋼産業や自動車産業・電機産業の衰退の跡を日本産業界も辿ってしまうのではないか、という思いを消せませんでした。

コピーから独自へが勝るのでは?
 もう死語と化した表現に「舶来」「舶来品」があり、かっては輸入物の超珍品、高級品の意味が込められていました。 戦後の混乱期の生産停止と、復興で購買力が上がっての輸入増で慢性的な外貨不足に悩まされていて、商用以外の海外旅行は禁止されていて、政府キャンペーンとして国産品愛用運動が呼びかけられ「良いから買います国産品」などと呼びかけていましたが、工業製品は事実上のコピー製品が跋扈して、その彼我の品質の差は如何ともしがたかったものです。
 たとえばトランシスターなど半導体の信頼度は一般向けでもアメリカ製が高くて高信頼品ではMIL規格(米陸軍調達規格)が伸していましたし、計測器、オシロスコープでも、電機各社が国産化していましたが、時間軸掃引のトリガーが一番安定していて、ジッター(時間軸揺らぎ)がオシロの内部不安定か信号源か判断に迷わなくて良い岩崎通信機製が実験室で取り合いになっていました。 しかしそれが故障すると、秋葉原へ出かけてアメリカのテクトロニクス社製品の回路図を買ってきて自家修理するのが当たり前でした。 回路的にはほとんどバラ部品で構成のコピー製品でしたから6ヶ月の保証期間を過ぎたら設計指向のユーザーなら先ずは自家修理で秋葉原などで売られていたオリジナル製品の回路図を入手したのです。
 それが日本での製造技術の改善で民生用の大量生産製品については本家欧米やMIL規格を凌ぐようになり、アメリカなど、新植民地主義的な「自由貿易」の建前をかなぐりすてた「貿易摩擦」を起こして政治的な輸入制限を繰り返し強行しましたが、国内産業維持にはほとんど失敗しています。(精密工作機械など熟練製品では長らく追いつけず、スウェーデン製、スイス製などには適いませんでした)。 繊維摩擦、カラーTVダンピング提訴、自動車摩擦、半導体摩擦で、アメリカ自身が世界に強要するお題目「自由貿易主義」を否定する輸入制限を、米政府の強烈な圧力で各国の「自主的な輸出制限」に転換させて偽装、米製は普及品ねらい、日本製は高級需要と棲み分け談合で短期的には延命となり、日本側も高級品輸出で潤ったけれど、いずれも産業としては回復はできませんでしたし、日米談合のうまみで日本の改善が遅れて東南アジアに抜かれる機会を作ってしまいました。
 日本の製造業界・電機業界の1960年代の状況は、近年の中国、台湾のコピー天国の状況に酷似していて、40年差50年差で日本をなぞっているようにも見えます。 さすがにコピー技術を自主開発と称して各国に特許申請して源製品を排除してしまうエゲツなさは日本にはありませんでしたが、反面、今も続く日本側の固有技術擁護方針の弱さの表れでもあります。
 ただ、大量生産品の改良された新技術開発は、源の国に留まれる理由はなく、生産量の多い国に生ずるのではないか?すなわち、アメリカから日本に移ったように、日本から中国・台湾・東南アジアに移っていくのではないだろうか?鉄道産業もこのカテゴリーでないと良いのだが、と思えます。
 むろん、中国、東南アジア側にも弱点はあり、それが日本からの技術流出・移転速度を緩和しています。 日本側では60歳定年で賃金を半減〜40%台の半失業状態にして、技術流出期待の東南アジアに「技術顧問」などとして人材流出させ、競合製品を作らせている愚策と、どちらが勝るのでしょうか?
 当面の中国、台湾、東南アジア工場の「現地技術者は、もっぱらデッドコピー指向で、自主開発の方向が弱いから、いくら開発思想や技術を教え込んでも身にならず、日本からの「技術顧問」需要は絶えない」というぼやきの声は聞こえ、そこが、まだまだ日本の技術的優位を保持できる背景でしょう。 しかしそれは1960年初頭までの日本の姿ではなかったか?80年代後半には逆転して、日米の激しい経済摩擦となったではないか?日本と東南アジアの関係も、それを遅れてなぞりかねないと思うのは杞憂に過ぎるのでしょうか? デッドコピーばかりのメーカー製品よりも、「ラジオ技術」誌に結集するアマチュア・セミプロ個人の試作機などの方が先端を追って優れていた時代が日本に20年近くあるのは、今思えば、オリジナル路線へ転換の兆しだったのでしょう。See→「真空管ラジオ製作数寄者本発見」:日記#134-5

i−phone現象
 そうした大量生産品生産地の流れとは異なり、コンセプトが席巻して、圧倒的付加価値を付けている例が、i−phone/i-pod、LSI-CPU、そして基本ソフトのWindows+Macで、それらの構成部品としては大変信頼度の高い日本製品が大量に輸出されているが、利幅は非常に少なく徐々に追い込まれており、しかも技術流出の海外工場製品に追われています。 たった今は、鉄道部品が中国に大量に輸出されていてwin-winの関係ではありますが、いずれは高信頼度部品の製造能力も付いてくるだろうし、開発設計ノーハウを中国に対して公開していて書籍などの形で広められているのに、却って日本国内の方が国鉄分割民営化で秘匿情報化が強まり、公開情報が少ない、技術開発&現場の従事者の絶対数が中国に遠く及ばないなど、現状の技術的優位を維持出来るのかどうか、かなり疑問に感じていて、日本の技術開発主導での日中協力関係という提案の実現性には疑問を感じたままでした。 中国は先端技術的には、自前開発の有人宇宙船を飛ばせる人口13.6億の国、その技術的底力は侮れないのに、「労働者保護の岩盤規制緩和」で日本の技術者のワーキング・プア化は著しくて人気のない職業となって技術的レベルダウンが始まっており、このままでは将来は明るくはないと思えるのです。

★同感!ガラパゴス規格は悪ではない
 「ガラパゴス規格」というのは元々は携帯電話を中心とする家電業界が、日本市場に特化した高機能製品ばかりを開発して、それぞれの家電本来の機能に限った安価製品を出さずにいて没落、崩壊の危機を迎えたことを揶揄して「ガラパゴス携帯」といったことが広まったもので、「国際標準規格ではない日本独自規格」という非難が込められていて、新幹線規格も同列に扱われていますが、その実質の意味は、それぞれローカルの要求する機能に適合しなかったことにあります。 通信手段確保だけが目的のところへ高価高機能携帯を売り込む状態で事実売れなかったのに、旺盛な国内需要で良しとしている間に他国製に席巻されたのが事実です。 ここを単純に「国際規格不適合」の重大弱点として単純化され「ガラパゴス携帯・規格」と揶揄・糾弾されているのですが、国々によって要求規格は異なる部分があり、特に鉄道はそれぞれの路線・地方・国に合わせた「ガラパガス規格」こそ必要なのだ、国粋主義発揚のような日本型規格貫徹にこだわった輸出はいけない、という指摘には全く同感でした。
 例に挙げられた架線電圧規格など、欧州系の狭い規格±10%ですと走れない条件が出やすくなり、日本規格の方が実運用上は安定です。 極端な実例でいいますと、公称架線電圧600Vの銚子電鉄は銚子駅近くの上り坂で加速したときの架線電圧計は半分以下の280Vを指していて、しぶとさに驚きました。近年のVVVFインバーター方式では概ね80%以下の電圧では走れないでしょう。 秋田・山形用の新幹線車両や青函在来線用機関車が18kV〜30kVで走れて、効率も下がらないというのは「ガラパゴス規格」の有利な点で、設備も楽になります。
 北海道新幹線での青函トンネルなど新幹線・在来線共用区間も、在来線側を無理矢理に新幹線対応25kV車両に取り替えさせるのではなく、新幹線側を20kV許容にすれば、信号ATCと3線化のほかは、架線系など僅かな改造で済んで、必要性能は十分得られて安上がりで、将来、新幹線専用化したときに25kV昇圧すればすんだことなのに、全体を見渡したコーディネータが居なかったので在来線側に複電圧用の新車を要求することになりました。 超重要貨物幹線と化した青函貨物を無くせない以上は、「在来線仮使用」の経過に捕らわれず実情に合わせた合理的決定をすべきでした。 新幹線側での複電圧対応なら、せいぜい低圧側補助電源のSIV(静止インバーター)を20/25kV両電圧で動作可能にするか、それ用の3次巻き線にタップを出して切り替える程度の非常に安価な対応ですむもので、走行用の主回路はそのままで電圧切替えはありません。 最大出力・最高速度が電圧比例で小さくなるだけですから256km/h(=320km/h×20/25)で、青函160km/h制限には全く支障ありませんし、整備新幹線の最高速度はほぼ満たせます。孤軍奮闘感が漂っていたものがようやく援軍を得た感じです(w。 See→「青函は20kV在来線規格で良いのでは?」2014/12/08日記#369-1
(2017/12/31追記)

2017/12/24 26:55

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