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点検ミスか?!設計ミスか?中央道笹子トンネル落下事故判決

 トンネル上部風洞板が140mに渡って連続落下して高速道通行中の車を潰して9名が亡くなった「中央道笹子トンネル落下事故」の民事賠償責任を問う判決が明日22日に出されるが、点検ミスかどうかだけが争点になっているようだ。それでは設計自体の持つ多重の問題を逃してしまう。
 そもそも点検・検査というのは一定割合で見過ごしを起こすもので、供用開始後のメンテ作業で異常を発見しやすいかどうか、リスクに見合った点検をしていて誰が見ても明らかな異常を漫然と見過ごしたエラーが有ったか、という実務問題も絡んではくるが、運悪く異常を見逃したときに発生する事態が致命的にはならないことが設計側に求められる基本条件だろう。予測不能な大規模自然災害ならまだしも、安全に通行できるはずの高速道路で、その主要構造物の落下で人身事故になって「責任なし」はあり得ない判断だ。組織は改編されても開発者の道路公団を丸ごと継承したはずの中日本高速道路に責任もそのまま引き継がれているはず。個人個人の刑事責任とはやや観点が違うだろう。

 事故現場の構造は風洞仕切り板を天井から接着剤固定のボルトで吊っていて、接着剤の経年劣化で強度不足に陥る前に使用停止・定期交換などのメンテナンスが必要なことに加えて、損壊しても致命的にはならない構造とすべきところを現実はどうだったのか?破損が起こるとそれを加速する構造はなかったか?破損の拡大を抑える措置はあったのか?が問題になるだろう。

 まず問題はトンネル構造ではないか?笹子トンネルは風洞仕切り板を上から吊っていたが、東京湾横断道は逆に路面下に風洞と緊急通路を置いているから、接着剤劣化は関係なく、路盤が落下することはない。
 加えて、1ブロックを2本の埋め込みボルト止めにしていたことで、1本が壊れると残る一本の強度が足らずに140m連続落下を起こしている。 さらに、埋め込みボルトの方向が垂直では、接着剤が劣化するとそのまま抜けてしまう!せめて打ち込み方向をチドリにして3本以上なら、コンクリート地に引っかかって助かった可能性はある。 更に加えて、吊りボルトが必要ならトンネル本体の鉄筋に熔接するなどして一緒に埋め込まなかったのは何故か?一体構造なら抜けることはない。ここが重大問題だ。接着剤と言っているが、厳密には接着と言うより樹脂が硬化して体積を増すことで打ち込みボルトとなる構造で、工事当時は樹脂の経年劣化など全く考えてなかった!そういう部材を使ってしまった設計上のミスがあるのだ。 すなわち中央道笹子トンネル、小仏トンネルのそもそもの構造に問題があるということだ。 現に、小仏トンネルの風洞仕切り板は笹子トンネル事故前に撤去済みであったが、同構造の笹子トンネルだけ放置されて案の定の事故に到った。
 無論、路盤には通行車両の重量を支える強度は必要だが、それは通風口が天井釣りだろうが路面下だろうが変わりはない。路盤が風洞仕切り兼用になるだけだから、劣化破損した場合に致命的事態になる前に容易に発見できて対策できるのかどうかの違いだ。 天井から釣ってなければ、接着が破損したところで路盤は下側のコンクリート板に支えられて落下しないのだ。

 メンテナンスでの点検といっても、天井板から更に5m以上高いところの埋め込みボルトの目に見えない接着剤部分など、目視程度では強度の点検など出来るはずがなく、抜け出しや緩みを発見する前に先に落下してしまう構造では、劣化前の事前交換計画が求められるもので、会社としての責任には変わりはないが、点検者の責任など問いようがない。しかし樹脂の経年劣化現象は公知の事実であり、それを前提にした破壊調査と寿命前の交換計画策定義務はあった。
 そういう状況で、破損に対する粘りのない何重にも脆い設計の責任追及をしないで、点検だけを争点にしたら、「点検して発見できなかったのはやむを得ない不可抗力の事故」にされてしまいかねないではないか!基本問題は、劣化点検困難も含めて何重にも重なる設計ミスである。


 大昔だが、八丈島航路にデハビランド・ヘロンという4発旅客機が就航していて、悪天候で八丈富士に激突し乗員乗客全員が亡くなる事故を起こした。この機体はエンジンパワーが少なくて4発中1発でも故障すると、離陸できなくなり、飛行高度を維持できなくなって、タイミング次第では事故になる恐ろしい機体だった。
 パワー不足だと非難された日の丸YS-11機では双発中の1発突然停止の片肺状態で離陸でき、飛行高度も維持できたからトラブル耐性はしっかりしていた。同機の型式証明取得試験でFAAの検査官は離陸滑走中の離陸と同時にイキナリ片側のエンジンを停止させて上昇を試みて成功させたというエピソードが公表されている。軽負荷での試験というのはあるが思い切った試験だった。

笹子トンネル事故、約4億4000万円賠償命じる判決

 2012年12月に山梨県で起きた中央道笹子トンネル天井板崩落事故をめぐる民事裁判で、初めて判決が出ました。横浜地裁は遺族の主張を全面的に認め、中日本高速道路と子会社に対し、連帯しておよそ4億4000万円の損害賠償を遺族に支払うよう命じました。

 この裁判は2012年12月、山梨県の中央道・笹子トンネルで天井板が崩落した事故をめぐり、犠牲者9人のうち5人の遺族が中日本高速道路と子会社に対しおよそ9億円の損害賠償を求めたものです。

 事故から3年が経った今月2日には追悼慰霊式が行われ、遺族は中日本高速に対して、悲痛な思いを述べました。  「あなたたちがもっとプロ意識を持って、仕事をしていれば防げた事故と思っています」(原告である遺族〔今月2日〕)

 遺族が訴えたこの裁判で争点となったのは過失責任です。これまでの裁判で中日本高速は、「事故原因は複合的で、3か月前の点検でハンマーでボルトをたたく打音検査をしたとしても事故は防げず過失はなかった」と主張していました。

 22日の判決理由で横浜地裁の市村弘裁判長は、天井板を支えるボルトについて「適切な点検をし、対策をしていれば事故は防げた」と判断し、「触診はもとより打音検査を採用せず、双眼鏡による目視のみという方法を採用した過失があった」と中日本高速の過失責任を認めました。その上で中日本側に対し、およそ4億4000万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。

 この事故は、トンネルや橋など交通インフラの保守点検のあり方を見直すきっかけとなりましたが、判決に対し遺族は・・・
 「日本のインフラの老朽化には、万全な配慮が必要ということを非常に具体的な指摘をいただいた」(遺族の松本邦夫さん)

 一方、判決を受け、中日本高速道路は・・・
 「このような判決に至ったことを重く受け止めている。9名もの命を奪ってしまった非常に凄惨な事故。高速道路を管理する人間として、責任の重みを感じている。本当に申し訳なく思う」(中日本高速道路・宮池克人社長)

 会見で宮池社長はこのように謝罪し、今後、一層の安全確保を目指すと話しました。また、会社側の過失が認められたことについては判決内容を精査して対応したいとしています。

 この事件をめぐっては、警察が中日本側の点検が不十分だった疑いがあるとみて、業務上過失致死傷の疑いでの立件に向け捜査を続けています。(12月22日18:03 TBS News)

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2664480.html
 ボーイング747ジャンボジェット機では機体外板にひび割れを発見すると、ヒビの両側にドリル穴を開けて拡大を防ぐ応急措置で機体強度も保障している。小さな傷からドミノ倒し式に全体が壊れるようなことのない設計をしている訳だが、後部気密隔壁の修理ミス部分だけは日常点検ではひび割れを発見できずに金属疲労が進んで破裂、墜落させてしまったとされている。
 中央高速道笹子トンネル、小仏トンネルでは2本のボルトで吊っていて、1本抜けると残り一本では耐えられずに抜け落ちてしまい、次々と140m(70ブロック?)も纏めて抜けてしまったという。これが設計ミスでなかったら、道路公団が作った道は怖くて通れない。

 過日の某展示会で、問題の樹脂固定型埋め込みボルトを作ったメーカーがブースを出して技術者たちがその優秀性をアピールしていたので、笹子トンネル事故について図々しく突撃取材!「経年劣化や、万一強度不足があった場合に、不具合発見前に落ちてしまうようなものは妥当なのか?!」と聞くと、「ああいう使い方じゃ困ります。緩んだのが分かって、事故発生前に事前に手を打てる使い方をして貰わないと。接着埋め込みボルトの差し込み方向に負荷を掛けられては万一の防護がダメです。せめて角度を付けてくれないと。その上、笹子トンネルの当時は樹脂の経年劣化なんて考えてませんでした。」という。我々技術者側から見たら、まさに多重の設計ミスそのものということだ。
 なぜ、こんなに何重にも設計ミス、管理計画ミスを重ねたのだろうか?

See→日記#340 2013/07/07 24:55
     設計の問題か?メンテナンスの問題か? 中央道笹子トンネル天井板崩落事故

2015/12/21 23:55

遺族勝訴は是!設計ミスに触れないと勝敗は僅差

 22日午後の横浜地裁判決では、事故の根源と云うべき元々の設計ミス問題には触れず、 『天井板を支えるボルトについて「適切な点検をし、対策をしていれば事故は防げた」と判断し、「触診はもとより打音検査を採用せず、双眼鏡による目視のみという方法を採用した過失があった」』と、点検ミスによる責任を認めた。(右枠記事→)
 これは、触診、打音検査で明確に検出できる前に落下してしまうかも知れない、設計ミスと云うべき非常に脆弱な構造に触れて居らず、紙一重で、「触診や打音検査では損傷は分からなかった」とされかねない、「紙一重の勝訴」だろう。設計上の具体的な弱点を明らかにしてこそ、その後のメンテナンス計画や、廃用方針が決められるので、真実とは異なる「妥当な設計」を前提に対応策が決められて大事故化することは是非とも避けたい。
 現実の対応としては、現場の吊り天井構造は総て撤去され、他の類似構造箇所も国交省から撤去か補強が指示されて、5年ごとの点検が義務付けられたから、実質結論としては「設計ミス」なのだが、口が裂けてもそうは云わない様だ!
 結局、管理事業者である道路公団・中日本高速の責任を前提に、後から理屈を見繕った感のある不安定な判決に思える。会社に損害賠償を命じる民事判決にはギリギリ使えるが、個々人の刑事処罰を求める理屈としては、そうはならない可能性を含む判断として適用困難なのではないだろうか。尼崎事故の処理でも感じたのだが、会社組織としての刑事責任というのも考える必要が有るのではないか?経済事犯では会社処罰もあるのだから。

2015/12/23 01:55

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