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Geo日記
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[76].問題にフタをする幕引き儀式にならぬか?

  尼崎事故の原因と背景は既にハッキリしていて、直接には過速度進入と無防御、間接には実現不能なダイヤとそのメクラ判認可、日勤教育リンチパニックに象徴される強圧的な職場支配が主原因だろう。微妙な部分として過速度領域での転覆臨界速度の解明とか、ブレーキ立ち上がり遅れ時間の有無、詳細な転覆シミュレーションなどが残っている状態となっている。
  この事故後のアクションとしては、過速度防止装置を曲線に義務付け、ATS−P義務付け基準策定(JR欠陥ATS−Sx対象。まともなATSまで換装義務付けはいくら何でも事務方が止めるだろうが)、ダイヤに必要な余裕時分の徹底ということで収める様だが、幕引きパフォーマンスに隠れて対応不足項が3つ残る

1.速度照査機能のないATS-Sxの放置

  ATS-Sxの最大の弱点、それは信号冒進速度に物理的な制限が掛からないことだ。中央緩行線東中野事故88/12/05を承けてのSN/ST化改良は、駅出入口の絶対信号での非常停止地上子を導入したが、冒進速度は野放しのままだったので、本年05/03/02の土佐くろしお鉄道宿毛事故で120km/hでの場内信号突入という最も悲劇的な形で欠陥が顕在化した。ここが常時速度照査を義務付けた私鉄ATS通達(昭和42年鉄運第11号)との決定的な違いになっている。首相も通達廃止で国鉄に甘くしたことの反省を表明したことだしここを放置してはいけない。
  しかし国交省の見解は ×「赤信号の手前で停止させる点では違いない」 というのだ。一般国民を愚弄するにもほどがある。宿毛事故は何なのだ。停止コマンドを絶対信号手前で出す点は認めるが、その突入速度に物理的制限が無いから 最大600mも冒進するし、そもそも一般の閉塞信号には強制停止コマンドがない目覚まし時計仕様なのがATS-Sxの重大問題なのだろうが!私鉄ATS通達の仕様なら最悪の名鉄型65km/h冒進でも過走余裕で100m余だし、他社はほとんど冒進しないか、15km/h以下でしか抜けられないから事故規模が桁違いなのだ。50歩100歩は政治的には同じことの喩えだが、工学的には50m−600mは命に関わる事故かどうかで天と地の違いである。こんな不誠実な国会答弁をする人達に安全装置問題を扱って欲しくない。速度照査問題はこのまま、またも放置されてしまう。しかし-Sxに安価に速度照査を実現できる方法も存在する。

  「ATS-S型は警報だけ」が基本仕様だが、実運転上の慣行や、運転規則との関係でみると、安全確保に利用できる重要な情報を含んでいる。第1はロング地上子による警報を受ける地点(=停止信号手前約600m)は注意現示領域で、運転規則で45km/h〜55km/hの速度制限が掛かっていることである(例外箇所は対処法あり)。警報時にこの速度を超えていれば強制非常制動を掛けるのは簡単だ。更に、警報を受けて一旦停止後の信号直前への移動速度は25km/hに制限されているから、その列車の制動性能とATS-S動作待ち時間秒後に25km/hを越えていれば強制非常制動を掛けることで、冒進速度を私鉄ATS通達並に下げることは可能だ。位置の関係で若干上回る箇所も考えられるが、無制限よりは遙かにましだ。
  駅間1閉塞の様な場所なら、場内信号の中継信号や遠方信号で減速を指示していきなりの非常制動を防げるし、停止定位の出発信号手前で最大200m近い徐行運転25km/hを強いられる問題は、進行定位の運用に改めるなど工夫してもらって弱点をカバーする。それがダメなほど稠密運転の線区はATS-Pに換装してもらう。この程度なら無理な要求ではないだろう。今回の尼崎事故を承けてSN区間の危険カーブに過速度防止装置を完備するのと同等か安いかもしれない。
[参考資料]ATS-Sxへの速度照査付加案宿毛事故は関係地上子7基中4基に設置位置不適切=設置ミスがあり、この誤った設置位置では防げなかったケースだから、設置基準と異なる設定についての追及とATS-Sx地上子設置位置の全国調査が必要だ)

2.うそつき体質JR西日本

  事故報道内容でJR西日本の事実をねじ曲げての責任転嫁の姿勢には呆れた。日頃多くの犯罪者を扱う警察が信楽高原鉄道事故調査でのその隠蔽体質を怒るほどヒドイということだが、「置き石誘導」「正当な日勤教育」「ATS-P化後なら発生せず」、報道のP設置義務化論にあわてて「SWでも防御可能で17箇所設置済み」と、バレたらそれきりのシロート騙しの世論誘導を続けてJR西日本の言い分のどれが本当か素人目には分からなくしてしまった。結果がすぐ明らかになる技術的問題にさえ思惑絡みでこれだけデタラメを言い続ける会社が今後何をするかは一挙一動監視の目を緩めてはならない。後述、最高速度の低速改訂など安全の実質とは関係ない無益なパフォーマンスなど迎合的で尚更アヤシイ。最高速度を落としたら停車時間が食われて却って運転に無理を求めることになる。ウソも方便型体質は全く不動だということだ。

3.ほとぼり冷めれば変わらぬ地獄の日勤教育

  JR西日本が、当初「絶対に継続。従前から妥当な内容」と強弁していた日勤教育は世論の猛反撃に遭って当面実務的な内容に整理される様だが、「従前から正しい」という位置づけが変わらない限り、人の噂も75日で間違いなく復活する。宣伝するだけで処分の対象とすると脅迫する尼崎電車区日勤教育での運転士自殺事件についてのJR西日本の対応を見ればそれは明らかだ。あの自殺事件訴訟については、直ちに当事者・組合に出された脅迫状的警告書を撤回し、訴訟の認諾・和解の動きがないかぎり、本心は変わっていない証拠だし、多くのウソを重ねたJR西日本の言い分は信用できる根拠がない。3労組との日勤教育正常化の合意は疑いなく前進だが、脅迫状的警告書が撤回されない限りは幻の合意に陥る可能性が強く、4労組揃っての要求と交渉にするにはその撤回の件に触れる必要があるだろう。日勤教育自殺事件が西労だけの問題ではないとの意思表明が必要だ。ここに触れなければ教育の改善はいずれ霧消する。(職場での積年の経過もあるだろうし、具体的に何をやるか、やらないかは別物。西労組が不当な日勤教育に加担した問題は別枠だ。大会挨拶で「組合にも事故発生責任の一端はある」と述べた中味である。日勤教育自殺の労災認定署名拒否通達といった姑息なものではなく、大会挨拶同様の早急な態度表明で労働者の信頼を繋ぐのが労働組合としての筋だろう)

0.くだらないパフォーマンス

制限速度下げと、再開条件にATS-P換装

  過速度転覆対策には過速度防止装置が必要で、JRのATS-SW、ATS-P共それは変わらない。稠密運転路線で冒進のない安全装置ATS-Pへの換装は必須だが、公共輸送機関の最低限の再開条件としては過速度防止装置完備とATS-P換装計画の明示だろう。必要な停車時間の確保も入れた方が良い。それをATS-P換装を条件にするというのは「ATS-Pなら転覆しなかった」という誤報を鵜呑みにしたパフォーマンスに過ぎる。それなら本線系の拠点Pや湖西線は何故止めない。誤報を知悉するJR西日本がそれを訂正せず「6月からATS-P稼働予定だった」として世論の指弾の風除けにした「ウソツキ」責任はあるが、技術的な裏付けを必要とする規制を事務局にも相談せず誤解のままパフォーマンスでやられてはたまらない。後日「安全の象徴」などと弁解しているが、誤報を前提の大臣指示なのだから潔く撤回すべきだった。大臣を騙した会社として特別入念に可愛がるのは構わないが、多数の利用者の存在も忘れない様にしてもらいたい。

なぜ下げる?速度制限!ゆとり時間を奪い事故のもと

  福知山線運転再開にあたって、ATS-Pは整備され、並列動作のATS-SWの速度照査地上子も設置され、停車時間を保障した新ダイヤで再開するというのは分かるが、なぜ福知山線全域の最高速度を下げ、事故現場は直線側を125km/h→95km/h、R30070km/h→60km/hとするのか疑問だ。物理的制限を事故幕引きパフォーマンスでその線区だけ恣意的に変えるのは筋が通らない。習熟なり暫定を言うなら停車時間の確保であり、運転の自由度を奪っては手かせ足かせに鞭打ちの運転者泣かせにしかならない。安全度向上を言うなら、カーブ手前1km余から100km/h制限程度を掛けるのが実務的だし、何よりJR西日本管内全部に適用されなければならない。福知山線固有の問題ではないのだから。この最高速度引き下げでゆとり時間を奪い従前通りの綱渡り運転を強いられるが、無知なマスコミの追及は和らげられるパフォーマンスである。何のための措置なのか!

  更に、現場カーブ300Rカント97mm制限速度70km/hというのは運輸省令の均衡カント算出式から逆算した制限速度が74km/h台となり5km/h単位の丸めのため70km/h制限となっている箇所である。緩和曲線長をもっと採れてカント制限値105mmを実現していれば75km/h制限になるカーブである。国鉄時代の低カントなら確かに60km/h〜若干改良されて65km/hだが、高速特急を前提に限界近いカントを設定した箇所に事故のミソギや言い訳のために低速の制限を設定することは思惑ばかりが見えて全く意味がない。
2005/06/13 00:55

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