【整流波形と周波数成分】
交流を直流に変換(=整流)するに際して、直流分(平均値)と共に、阻止すべき変動分の周波数成分が必要である。この分析はフーリエ級数展開に拠るが、波形の位相角から算出する方式と、電気通信など時間軸基準から算出する方法があり、結局は同結果ではあるが、「整流波形」ということから先ず角度基準で算出する。
鉄道での実用方式としては、単相全波(2相)整流、三相全波(6相)整流、3相Y−Δ組合せ(12相)を考えれば足り、3相Y−Δ組合せは、1/2電圧の三相全波整流の位相をπ/6(≡30度)ずらしたものと考えれば3相の変形でピーク値が2種の1/2電圧がπ/6ずれたベクトル和として解析できる。
函数が周期函数の場合:f(x)=f(x+2π):以下の級数で表せる
f(x)=ΣAnsin(nx)+B0+ΣBncos(nx)
………(1)
この係数An、Bnを算出するにはsin(mx)、或いはcos(mx)を乗じて1周期(0〜2π)の間を積分すると、m=nでのみ0以外の値を持て、m≠nでは総て0となって、各係数は以下の値となる。
An=(1/π)∫02π f(x)・sin(nx)dx
| …………(2)
|
B0=(1/2π)∫02π f(x)dx
| …………(3)
|
Bn=(1/π)∫02π f(x)・cos(nx)dx
| …………(4)
|
更に、Y軸対称(偶函数)であることと、1周期中の繰返し函数の省略演算を利用するなどして計算量を減らせばよい。
[単相全波:2相整流波形]
V2(x)/Vm= |
| sinx
| …… 0≦x≦π
| …………(5)
|
---|
−sinx
| …… π≦x≦2π
|
---|
V2(x)=V2(−x) :Y軸対称函数
∴正弦項An=0、直流分と余弦項中の偶数項のみ算出。
∴1/2周期=0〜πまでの積分値を2倍すれば可
|
B0/Vm
| =(1/π)∫0π・sin(x)dx=2/π
| ……(直流分)
|
|
Bn/Vm
| =(2/π)∫0π・sin(x)cos(nx)dx
| =(−4/π)Σ{cos(2mx)/(2m−1)(2m+1)}
| …m=1,2,3,4 …∞
|
∴
V2(x)=
|
(2/π)Vm−(4/π)Vm[cos(2x)/(1・3)
+cos(4x)/(3・5) +cos(6x)/(5・7)+
………+cos(2mx)/{(2m−1)(2m+1)}+……] ……(6)
| |
リップル率R=交流実効値/直流値=各周波2乗平均根/直流値 だから、
R=2・sqrt{(1/1・3√2)2+(1/3・5√2)2+(1/5・7√2)2+(1/7・9√2)2+……}
=sqrt{(1/1・3)2+(1/3・5)2+(1/5・7)2+(1/7・9)2+……}≒0.341651672 ……(7)
[3相全波:6相整流波形]
V6(x)/Vm= |
| sin(x+π/3)
| …… 0≦x≦π/3
| ………(8)
|
---|
sin(x)
| …… π/3≦x≦2π/3
|
---|
sin(x−π/3)
| …… 2π/3≦x≦3π/3
|
---|
sin(x−2π/3)
| …… 3π/3≦x≦4π/3
|
---|
sin(x−3π/3)
| …… 4π/3≦x≦5π/3
|
---|
sin(x−4π/3)
| …… 5π/3≦x≦6π/3
|
---|
V6(x)=V6(−x) :Y軸対称函数(偶函数)
∴正弦項=0、直流分と、余弦項のみ算出。
V6(x)=V6(x−nπ/3)
:π/3毎の繰り返し函数:6周期
∴1/6周期=π/3までの積分値を6倍すれば可。余弦項は6・m倍のみ。
|
B0/Vm
| ={1/(π/3)}∫0π/3・
sin(x+π/3)dx=3/π
| ……(直流分)
|
|
Bn/Vm
| =(6/π)∫0π/3・sin(x)cos(6mx)dx
| =−(6/π)Σ{cos(6mx)/(6m−1)(6m+1)}
| …m=1,2,3,4 …∞
|
∴
V6(x)=
|
(3/π)Vm−(6/π)Vm[cos(6x)/(5・7)+cos(12x)/(11・13)
+cos(18x)/(17・19)+cos(24x)/(23・25)+cos(30x)/(29・31)+
……+cos(6mx)/{(6m−1)(6m+1)}+…] ……(9)
| |
リップル率R=各周波2乗平均根/直流値 だから、
R=2・sqrt{(1/5・7√2)2+(1/11・13√2)2+(1/17・19√2)2+(1/23・25√2)2+……}
=sqrt{(1/5・7)2+(1/11・13)2+(1/17・19)2+(1/23・25)2+……}≒0.0296593 ……(10)
[3相Y−Δ重畳:12相整流波形]
1/2電圧で相互にπ/6(=30度)位相のずれた6相整流波を加算する方式すなわち
V12(x)/Vm=(1/2Vm){V6(x)+V6(x−π/6)} という接続である。
先ず位相がπ/6遅れの整流波 V6(x−π/6)/Vm は
周波数成分は基本波の6n倍のみだから、(π/6)×6n=nπで、nが偶数だと2πの整数倍で同一極性、奇数だと同一極性2πの整数倍から逆極性となるπだけずれるので、移相しないものと丁度打ち消し合って、偶数次成分のみが残る。
すなわち12・m倍の周波数のみが残り、6(2m−1)倍の周波数は総て打ち消されて0になることを示す.
V6(x−π/6)=
(3/π)Vm−(6/π)Vm[−cos(6x)/(5・7)+cos(12x)/(11・13)
−cos(18x)/(17・19)+cos(24x)/(23・25)−cos(30x)/(29・31)+
……+(−1)mcos(6mx)/{(6m−1)(6m+1)}+…] ……(10)
{(9)+(10)}/2
∴
V12(x)
| =(1/2){V6(x)+V6(x−π/6)}
=
(3/π)Vm−(6/π)Vm[cos(12x)/(11・13)+cos(24x)/(23・25)+
……+cos(12mx)/{(12m−1)(12m+1)}+…] ……………(11)
|
リップル率R=各周波2乗平均根/直流値 だから、
R=2・sqrt{(1/11・13√2)2+(1/23・25√2)2+……}
=sqrt{(1/11・13)2+(1/23・25)2+(1/35・37)2+……}≒0.007260272 ……(12)
位相差π/6=30度の1/2Vm電圧をそれぞれ全波整流して加算したとした場合の、最大値を求めておく。
一方を基準Sとして、もう一方は、
S・cos(π/6)+jS・sin(π/6)=S√3/2+jS(1/2) だから
この合成値はVm'={(1+√3/2)+j(1/2)}S、
絶対値|Vm'|=sqrt[(1+√3/2)2+(1/2)2]・S
=sqrt(2+√3)・S=Vm・sqrt(2+√3)/2≒0.965925826
この最大値に対し、平均値は 最大値×(12/π)×sin(π/12)
=(12/π)・(√3−1)/(√8) だから,
元々の最大値Vmに対しての平均値は両係数の積になる.すなわち
平均値
| =Vm・sqrt(2+√3)/2・(12/π)・(√3−1)/(√8)
| =Vm・12・sqrt(2+√3)・(√3−1)/{(2√2)・2・π}
| =Vm・3・sqrt{(2+√3)・(√3−1)2}/(π√2)
| =Vm・3・sqrt{(2+√3)・(4−2√3)}/(π√2)
| =Vm・3・sqrt{(2+√3)・(2−√3)}/π
=(3/π)・Vm となって(11)式と同値である.
| |
[平均値,リップル比較]
上記計算により各方式の交流最大値に対する平均値と,リップル周波数比,リップルP−P電圧比,リップル実効値電圧比を示す。
- 比較対照の単相全波ブリッジは,(最大値を中心に流通角180度:π)
平均値が最大値×(2/π)・sin(π/2)=(2/π)≒0.6440、
リップル周波数比2、
最大値1に対し最小値がcos(π/2)=0だから
リップルP−P電圧比1。
リップル率≒0.342
- 3相6パルス整流(3相ブリッジ結線,2重星形結線)の場合は,(〃流通角60度:π/3)
平均値が(6/π)・sin(π/6)=3/π≒0.95493、
リップル周波数比6,
最小値がcos(π/6)=(√3)/2=0.8660だから
P−P値比=(2−√3)/2≒0.13397。
リップル率≒0.0297
- 3相12パルス整流(三相Y−Δブリッジ縦続結線)では,
(先の計算はVm/2 と、位相がπ/6ずれたもののベクトル和で計算。ここではその合成値をVmとしている。結局同値。)
平均値が(12/π)・sin(π/12)≒0.98861、
リップル周波数比12,
最小値がcos(π/12)≒0.96593 だから
P−P値比=1−cos(π/12)≒0.03407。
リップル率≒0.00726
- 平均値を基準にP−Pと実効値のリップル率を計算すると、12パルス型は6パルス型の1/4.4〜1/4.0909(=実効値)に下がり、しかもリップル周波数が2倍になって除去し易くなることが分かる。
- それぞれの整流波形を周波数成分に分けて角周波数ωtで表すと
- 単相全波整流
V2(t)/Vm=2/π−4/π*{cos(2ωt)/(1*3)+cos(4ωt)/(3*5)
+cos(6ωt)/(5*7)+cos(8ωt)/(7*9)+……
+cos(2nωt)/((2n−1)*(2n+1))+……}
- 3相全波整流
V6(t)/Vm=3/π−6/π*{cos(6ωt)/(5*7)+cos(12ωt)/(11*13)
+cos(18ωt)/(17*19)+cos(24ωt)/(23*25)+……
+cos(6nω)/((6n−1)*(6n+1))+……}
- 3相全波整流Y−Δ縦続接続
ピーク値をVmとするとき
V12(t)/Vm=12/π*sin(π/12)−24/π*sin(π/12)*{
cos(12ωt)/(11*13)+cos(24ωt)/(23*25)
+cos(36ωt)/(35*37)+cos(48ωt)/(47*49)+……
+cos(12nωt)/((12n−1)*(12n+1))+…}
- 上記3式の初項が直流成分で、第2項以下との比率がリップル率(実効値/直流値)である。平滑度(リップル率)は、周波数により平滑フィルターで大きく変わるので、ナマ波形のリップル率を算出してもあまり意味がなく、下表の様な周波数成分毎の振幅/直流値の方が実際的だろう。2相→6相→12相と、相数が増えるに従って打ち消されて無くなる周波数成分があることが分かる。
単相全波整流リップル振幅比 周波数成分別ピーク電圧比
f比 | | 2f | 4f | 6f | 8f | 10f | 12f | 14f | 16f | 18f
|
---|
| | | | | | | | |
|
---|
2相 | | 2/(1*3) 0.66667
| 2/(3*5) 0.13333 | 2/(5*7)
0.05714
| 2/(7*9) 0.03175 | 2/(9*11) 0.02020
| 2/(11*13)
0.01399 | 2/(13*15) 0.01026
| 2/(15*17) 0.00784 | 2/(17*19)
0.00619
6相 | | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0
|
---|
|
---|
リップル振幅比 周波数成分別ピーク電圧比
f比 | | 6f | 12f | 18f | 24f | 30f | 36f | 42f | | 備考
|
---|
| | | | | | | | |
|
---|
6相 | | 2/(5*7) 0.05714
| 2/(11*13)
0.01399 | 2/(17*19) 0.00619
| 2/(23*25)
0.00348 | 2/(29*31) 0.00222
| 2/(35*37)
0.00154
| 2/(41*43) 0.00113 | | 3相全波
|
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12相 | | 0 | 0 | 0 | 0 | | Y−Δ縦続
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2006/06/30 23:55
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